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46.取り戻しつつある記憶
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「え、何か言いました?」
少し離れたからか、美波さんは俺の呟きが聞こえなかったらしく聞き返してくる。いや、しかしまだ確証がない。残念なことに俺は通っていた幼稚園の名前を完全に覚えていない。門に書かれた白幡幼稚園という名前を見てもピンとこない。
「まだ園児がいるね。少し入るのには勇気がいるけど……」
延長保育だろうか。先生と数人の園児が園庭で遊んでいる。園庭には滑り台と砂場があるだけであまり広くはない。しかし花が多く植えられており、オレンジ色の花を咲かせた木のようなものも植わっている。風が吹くとその香りが鼻に……
「この香り……」
香りが鼻の奥に届いたとき。まるで過去にタイムスリップしたかのように明瞭な映像が脳裏を過ぎった。あのオレンジ色の花の木の下で誰かと手を繋いで遊んでいる姿が……
「え、ああ。金木犀ですか。病院の裏にも植わっていたので知ってます」
「もしかして昨日学校に来る前に美波さんはその金木犀のそばに?」
「え、はい。綺麗だったので少し頂戴して鞄に入れていました」
だからだったのか。だから昨日美波さんと会った時に懐かしく感じたのか。俺はこの幼稚園で金木犀の香りを覚えていた。誰か……誰か女の子と遊んでいた……。もしかして……
「入ってみよう。多分……俺もこの幼稚園の卒園生だ」
「え、ちょっと、待ってください。どういうことですか?」
俺は力を入れて門を開けて中に入ると、園児をみていた若い女の先生に声をかけた。いざ動き始めると止まらなかった。先生が警戒している様子もお構いなしだった。
「すみません。ここの卒園生なんですが、少しだけ見て回って良いですか? 懐かしくなっちゃって」
普通の思い出に浸る高校生の演技。懐かしみながら建物を見たりして軽く微笑む。突然の行動を除けば普通のどこにでもいる高校生。俺が長年演じてきた普通。それを全力で表現する。警戒を解くには普通が一番だ。
「一応園長先生に確認とってもらって良い? あの外階段のぼって入ったところが事務所だから」
若い女の先生の表情から警戒は無くなっているが、単純に判断がつかなかったのだろう。そう言って園長先生のいる事務所を教えてくれた。事務所の場所までは覚えてなかったのでありがたい。
「分かりました。ありがとうございます。行こう美波さん」
「え、あ、はい」
俺と美波さんは先生に会釈をすると真っ直ぐに事務所に向かう。本当は走りたいほどに気がはやっているが、早歩き程度に抑えて急ぐ。この全てが繋がっていくような感覚。早く真実を知りたい。早く思い出せそうな記憶を全て確かめたい。早くフラッシュバックした記憶に出てきた女の子が誰なのかを知りたい。
少し離れたからか、美波さんは俺の呟きが聞こえなかったらしく聞き返してくる。いや、しかしまだ確証がない。残念なことに俺は通っていた幼稚園の名前を完全に覚えていない。門に書かれた白幡幼稚園という名前を見てもピンとこない。
「まだ園児がいるね。少し入るのには勇気がいるけど……」
延長保育だろうか。先生と数人の園児が園庭で遊んでいる。園庭には滑り台と砂場があるだけであまり広くはない。しかし花が多く植えられており、オレンジ色の花を咲かせた木のようなものも植わっている。風が吹くとその香りが鼻に……
「この香り……」
香りが鼻の奥に届いたとき。まるで過去にタイムスリップしたかのように明瞭な映像が脳裏を過ぎった。あのオレンジ色の花の木の下で誰かと手を繋いで遊んでいる姿が……
「え、ああ。金木犀ですか。病院の裏にも植わっていたので知ってます」
「もしかして昨日学校に来る前に美波さんはその金木犀のそばに?」
「え、はい。綺麗だったので少し頂戴して鞄に入れていました」
だからだったのか。だから昨日美波さんと会った時に懐かしく感じたのか。俺はこの幼稚園で金木犀の香りを覚えていた。誰か……誰か女の子と遊んでいた……。もしかして……
「入ってみよう。多分……俺もこの幼稚園の卒園生だ」
「え、ちょっと、待ってください。どういうことですか?」
俺は力を入れて門を開けて中に入ると、園児をみていた若い女の先生に声をかけた。いざ動き始めると止まらなかった。先生が警戒している様子もお構いなしだった。
「すみません。ここの卒園生なんですが、少しだけ見て回って良いですか? 懐かしくなっちゃって」
普通の思い出に浸る高校生の演技。懐かしみながら建物を見たりして軽く微笑む。突然の行動を除けば普通のどこにでもいる高校生。俺が長年演じてきた普通。それを全力で表現する。警戒を解くには普通が一番だ。
「一応園長先生に確認とってもらって良い? あの外階段のぼって入ったところが事務所だから」
若い女の先生の表情から警戒は無くなっているが、単純に判断がつかなかったのだろう。そう言って園長先生のいる事務所を教えてくれた。事務所の場所までは覚えてなかったのでありがたい。
「分かりました。ありがとうございます。行こう美波さん」
「え、あ、はい」
俺と美波さんは先生に会釈をすると真っ直ぐに事務所に向かう。本当は走りたいほどに気がはやっているが、早歩き程度に抑えて急ぐ。この全てが繋がっていくような感覚。早く真実を知りたい。早く思い出せそうな記憶を全て確かめたい。早くフラッシュバックした記憶に出てきた女の子が誰なのかを知りたい。
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