49 / 65
48.幼馴染
しおりを挟む
「自分がどれか分からないって顔ね」
「まさしくその通りです。この歳だと自分の顔も分からないもんですね」
そう答えながらも合計四十人の園児を端から一人ずつ見ていく。全く分からないというのは流石に悔しい。
「二人の名前、聞いてなかったわね」
完全に名乗るのを忘れていた。自己紹介といえば真壁鏡平とまで言われていたのに不覚だ。
「俺は真壁鏡平って言います。それでこっちは……」
俺は美波さんの方を見る。すると、ばっと立ち上がって頭を下げると名乗った。
「私は美波聖奈と言います!」
「あれ? もしかして鏡ちゃん聖ちゃん?」
「鏡ちゃん聖ちゃん?」
何か聞き覚えのあるような呼び方に俺は首を傾げた。美波さんの方を見ると、俺と同じように不思議そうな顔をしている。記憶喪失の彼女に助けを求めるのは酷というもの。まだ頭の片隅に引っかかっているような記憶のかけらがある俺が思い出す方が早いだろう。先ほどより少しだけ記憶が戻ってきている気がする。
「ほら、この二人」
園長先生が指差した場所を見ると集合写真の端で手を繋いで座る二人の園児がいた。結局自分の顔は分からなかったが、片方の女の子は間違いなく美波さんだった。小さいながらも整った顔立ちとサラサラな黒髪も変わらない。妙に緊張した様子でカメラを睨んでいるようにも見え、隣の男の子の手を力一杯握っているであろうことも分かる。
「美波さんは変わらないね」
「真壁君こそ変わりませんよ」
「そうか?」
美波さんにしてみれば俺も変わらないとのことだが、いまいち納得できなかった。呑気にヘラヘラ笑うこの園児が今の自分と変わらないというのか。
「鏡ちゃん聖ちゃんって呼び合うのはもう卒業したのかしら?」
園長先生は俺と美波さんが名字で呼び合ったことを笑うと指摘する。
「あら、恥ずかしくなって呼び方を変えたってわけじゃなさそうね」
「えっと……美波さんは小学校に上がるタイミングで引っ越して、たまたま高校で再会したんです。なので、同じ幼稚園というのは覚えていてもお互いのことは覚えてなくて」
俺は虚実織り交ぜて説明すると園長先生は納得してくれた様子でファイリングされた写真をめくった。
「多分幼稚園での思い出は二人で過ごしたものばかりなんじゃないかしら。私は年少さんと年長さんのときに受けもってたんだけど、はっきり覚えてるわ。朝から夕方まで二人は絶対に離れないくらいくっついててとっても愛らしかったんだもの。ほら」
まだ思い出せないがなんだか聞いていてとても恥ずかしくなるような話だった。十年前の話なのにはっきり覚えているとまで言われるほど印象に残っているのは普通とは言いがたい。園長先生に新しく見せられた写真はまたしても二人で手を繋いで写っているものだった。遠足先だろうか。河原をバックに撮影されている。少しだけ見た覚えがある気がする。
「ほら、こっちでも」
次はハロウィンの仮装パーティ。二人揃って魔法使いの格好をして手を繋いでいる。
「あ、これも」
クリスマスケーキを隣り合って食べている。流石に手を繋いだまま食べてはいないが、ぴったりくっつくほどの距離。
そのどれもが見せられた瞬間にフィルターがかかったような淡い記憶として思い出される。あったような気がする……。懐かしい気がする……。そんな曖昧な思い出として。
「懐かしいですね」
懐かしくなって訪れたという話で来たので、怪しまれないように最低限のリアクションを見せる。そんな俺とは違い、園長先生は息を吐くごとに懐かしいと口にしながらファイルをめくる。その先々で俺たち二人の写真が目につく。美波さんを見ても記憶が戻った様子はない。
そんな中、ファイルをめくり続ける園長先生の手がピタリと止まった。
「この写真は……」
「まさしくその通りです。この歳だと自分の顔も分からないもんですね」
そう答えながらも合計四十人の園児を端から一人ずつ見ていく。全く分からないというのは流石に悔しい。
「二人の名前、聞いてなかったわね」
完全に名乗るのを忘れていた。自己紹介といえば真壁鏡平とまで言われていたのに不覚だ。
「俺は真壁鏡平って言います。それでこっちは……」
俺は美波さんの方を見る。すると、ばっと立ち上がって頭を下げると名乗った。
「私は美波聖奈と言います!」
「あれ? もしかして鏡ちゃん聖ちゃん?」
「鏡ちゃん聖ちゃん?」
何か聞き覚えのあるような呼び方に俺は首を傾げた。美波さんの方を見ると、俺と同じように不思議そうな顔をしている。記憶喪失の彼女に助けを求めるのは酷というもの。まだ頭の片隅に引っかかっているような記憶のかけらがある俺が思い出す方が早いだろう。先ほどより少しだけ記憶が戻ってきている気がする。
「ほら、この二人」
園長先生が指差した場所を見ると集合写真の端で手を繋いで座る二人の園児がいた。結局自分の顔は分からなかったが、片方の女の子は間違いなく美波さんだった。小さいながらも整った顔立ちとサラサラな黒髪も変わらない。妙に緊張した様子でカメラを睨んでいるようにも見え、隣の男の子の手を力一杯握っているであろうことも分かる。
「美波さんは変わらないね」
「真壁君こそ変わりませんよ」
「そうか?」
美波さんにしてみれば俺も変わらないとのことだが、いまいち納得できなかった。呑気にヘラヘラ笑うこの園児が今の自分と変わらないというのか。
「鏡ちゃん聖ちゃんって呼び合うのはもう卒業したのかしら?」
園長先生は俺と美波さんが名字で呼び合ったことを笑うと指摘する。
「あら、恥ずかしくなって呼び方を変えたってわけじゃなさそうね」
「えっと……美波さんは小学校に上がるタイミングで引っ越して、たまたま高校で再会したんです。なので、同じ幼稚園というのは覚えていてもお互いのことは覚えてなくて」
俺は虚実織り交ぜて説明すると園長先生は納得してくれた様子でファイリングされた写真をめくった。
「多分幼稚園での思い出は二人で過ごしたものばかりなんじゃないかしら。私は年少さんと年長さんのときに受けもってたんだけど、はっきり覚えてるわ。朝から夕方まで二人は絶対に離れないくらいくっついててとっても愛らしかったんだもの。ほら」
まだ思い出せないがなんだか聞いていてとても恥ずかしくなるような話だった。十年前の話なのにはっきり覚えているとまで言われるほど印象に残っているのは普通とは言いがたい。園長先生に新しく見せられた写真はまたしても二人で手を繋いで写っているものだった。遠足先だろうか。河原をバックに撮影されている。少しだけ見た覚えがある気がする。
「ほら、こっちでも」
次はハロウィンの仮装パーティ。二人揃って魔法使いの格好をして手を繋いでいる。
「あ、これも」
クリスマスケーキを隣り合って食べている。流石に手を繋いだまま食べてはいないが、ぴったりくっつくほどの距離。
そのどれもが見せられた瞬間にフィルターがかかったような淡い記憶として思い出される。あったような気がする……。懐かしい気がする……。そんな曖昧な思い出として。
「懐かしいですね」
懐かしくなって訪れたという話で来たので、怪しまれないように最低限のリアクションを見せる。そんな俺とは違い、園長先生は息を吐くごとに懐かしいと口にしながらファイルをめくる。その先々で俺たち二人の写真が目につく。美波さんを見ても記憶が戻った様子はない。
そんな中、ファイルをめくり続ける園長先生の手がピタリと止まった。
「この写真は……」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる