霊と恋する四十九日

色部耀

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 そして翌日――。休日である土曜日にも関わらず、那由は文化祭実行委員としての片付けのために登校していた。遠くから聞こえる部活動生の声を聞きながら、那由たち文化祭実行委員は前日に出たゴミを業者に引き渡すために正門に集まっている。

「那由、昨日のことなんやけど」

 ばらしたゲートの資材を束ねながら、勝也が那由に声をかけた。勝也はそれまでずっと黙っていたので那由も少し身構えてしまう。しかし勝也の方を向いてすぐに笑顔を作ると、何事もなかったかのように返す。

「ちょっと遠くに行っちゃう人がおって、その見送りに急いどったんよ。昨日はありがとね」

「そっか。で、その見送りとやらには間に合ったん?」

「ばっちり! かっちゃんのおかげで」

「それなら良かった」

 那由は元から言うことを決めていたかのようにスラスラと答えて、それ以上何も言わずに黙々と作業を続ける。勝也も那由の泣きはらした目元を見てまだ深く聞くべきではないと判断したのか、それ以上質問を重ねることはなかった。少し作業を続けている内にゴミ処理業者が到着する。すると三年生の先輩の主導で各クラスから集まったゴミや来年以降には使えないゲートの一部などを運び始めた。大きなゴミは男子生徒が運び、那由たち女子はゴミ袋にまとめられているゴミを運ぶ。ひとしきりゴミ出しの作業も終わって軽く汗をかいたところで、職員室から文化祭担当の教師が両手にレジ袋を下げて近寄って来る。

「お疲れ様ー。休憩がてら好きなもん取って良いぞー」

 そう言って地面に置かれたレジ袋の中には五百ミリリットルサイズのジュースが人数分入っていた。実行委員たちは口々にお礼の言葉を述べて好きなものを取っていく。那由や勝也たち一年生は年功序列にならって最後の方でジュースに手を伸ばす。そしてオレンジジュースを手に取った那由は遠くグラウンドの方を見ると突然走り出した。周りのことが見えないほどに真っ直ぐにグラウンドを見つめて全速力で駆けていく。どうしたんだと聞く勝也の声も全く届いていないようで返事もしない。五十メートルほど走っただろうか。那由は水道で顔を洗う一人の運動部員の後ろに立つと、ゆっくりと近づいておもむろに脇腹をつついた。

「うぉぉぉいぃぃ!」

 飛び上がって驚く男子生徒を見て、那由は涙が出るほどに腹を抱えて笑う。男子生徒は首から下げていたタオルで顔を拭くと不機嫌な表情で那由を睨むが、すぐに普段通りの顔に戻って言った。

「って、君は昨日の……」

「はい。改めまして一年の木田那由って言います」

 那由はお辞儀をして自己紹介をすると、満面の笑みで宗祇を見る。そんな那由の姿を見て宗祇は不思議そうに眉を顰めて聞いた。

「えっと……。なんで突然脇腹つついてきたんかな?」

「ちょっとお願いがあって来ました!」

「お願いがあるから脇腹をつつくってのも意味わかんないけど」

 頭を抱えて言う宗祇をみてさらに笑い声を上げる那由だったが、そんな楽しそうに笑う那由のことを見て宗祇は諦めたように息を吐くと釣られて笑った。

「で、お願いって?」

 宗祇に聞かれた那由は、姿勢を正してすっと握手を求めるようにして手を差し出すと言った。決意で目を輝かせながら自信たっぷりに。

「私と付き合ってください! 未来を変えるために!」

 突然の告白に宗祇は照れ臭そうにすると、那由の手をとったのだった。
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みんなの感想(1件)

田丸哲二
2021.08.16 田丸哲二

流石ですね。展開とセリフが上手くて、速攻で投票。

解除

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