春風のインドール

色部耀

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幼馴染 浅野智子

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 少しして、一階から智子のお母さんの声が聞こえてきた。

「卯月ちゃーん。先生そろそろおかえりになるそうだけどどうするー? 後で自転車取りに行くときにおばさんが車で学校まで送って行ってあげよっかー?」

「どうする? もうちょい遊んでく?」

 智子はニヤニヤしながら私の顔を覗き込むとそう言った。久しぶりだからもう少し一緒にいても良いけれど、これからはいつでも遊びに来て良いって言ってくれたのだ。それなら遊ぶときはちゃんと落ち着いた気持ちのときに遊びたい。

「ううん。今日は帰るよ。付き添ってくれた先生にお礼言わなきゃだし」

「そういや、先生も一緒だったの? 川村先生?」

「ううん。違う頼りになる先生」

「あの先生頼りなさそうだもんね」

 智子の言葉にはっきり答えるわけではないが笑い声で肯定したことが伝わったのか、智子も同じように笑う。

「それじゃ、また連絡するからね」

「うん。いつでも遊びに来てね」

 今日はその言葉を最後に智子と別れた。今日は――そう今日はなのだ。また後日訪れたときは違う別れの挨拶を……その次もまた違う言葉を使って……。そうして何度も何度も遊ぶことができたら……。そう願いながら私は智子の家を後にした。

 家を出ると生田先生が壁にもたれかかって待っていてくれた。相変わらず無感情そうに見える作り笑顔で私のことを迎えてくれる。

「五日ぶりに顔を合わせた感じ、浅野さんの様子はいかがでしたか? お母さんから話を伺った限り、イジメに関しての問題は特に無さそうでしたが」

「はい。元気そうでした。イジメも私の思い過ごしだったみたいです。本人はあんまり気にしてなかったみたいで……」

「それは一安心ですね。しかしイジメというのは同じ言動でも受け手次第で変わるものです。もし、今後同じように不安なことが起きれば私でも良いのでこっそり誰か教員に教えてください。それで救われる生徒がいるかもしれません。細川さんのように繊細な感性の持ち主がいることは教師としてとても心強く感じます」

 生田先生の言葉で私は少しだけ安心することができた。自分の考えが完全に間違っていたというわけでないという安心感、そして何かあれば話を聞いてくれる大人がいるということへの安心感。

「ありがとうございます」

 口を突いて出たのは感謝の言葉だった。脅すような形で先生に仕事をさせた負い目もあって、完全に嫌われることも覚悟していた。しかし、問題が解決いた後も教師として大人として優しく接してくれている。そのことへの無意識に近い感謝だったのだろう。

「ところで、私が智子と話している間に先生はどんなことを話していたんですか?」

 私はコインパーキングへと歩き始めた先生の背中に向かって気になっていたことを質問した。先生は歩調を変えることなく歩き続けると、少し唸りながら答えてくれた。部外者の私に話せる内容を取捨選択しているのかもしれない。

「うーん。娘さんから休む理由をどう聞いているのかとか、今は家でどう過ごしているのかとかですね。ご両親ともに娘さんの選択への理解もおありのようでしたし、浅野さん自身も家で夢中になれるものがあるようなので心配は不要かと思いました。それと退学についての話を少々」

「退学?」

 急な話に私は驚いて声を荒らげてしまった。少し前を歩く先生の隣まで駆け寄ると詳細が気になって顔を覗き込む。先生は私の様子を見ると、慌てて続きを話した。

「退学とはいえ今すぐに学校をやめるという話ではなく、浅野さんが学校を辞める意思があるのかという確認のようなものです。今のところはご両親も浅野さんの様子を見ながら復学できるように退学の決定は保留したいと仰っていましたし。進級に必要な出席日数の関係で、夏休み前までは籍を残しておくということで今日のところはまとまりました。……これはオフレコですよ」

 生田先生はそう言うと自分の唇に人差し指を当てる。私がそれに頷いて返すと、生田先生は微笑んで到着したコインパーキングの料金支払い機に駐車場の番号を入力して金額を投入する。

「暗くなる前には帰れそうですね。さあ、乗ってください」
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