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同級生 上野真紀
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智子の家に行った日から一か月。長いゴールデンウィークが明けて制服の上着も着ずに登校するような季節になった。あれから智子の家には週に四・五回の頻度で遊びに行っており、学校に来ていた頃よりも一緒にいる時間が長いような気がしていた。同じ環境に身を置いていないからこそ話すことも増えていて、ゲームをしながらでも話題が絶えることはなかった。相変わらず智子は学校に来るつもりはない様子で、紹介してもらったという仕事も順調に進んでいるらしい。智子は初任給で私に何か奢ると意気込んでおり、私に何か食べたい物がないか考えておくようにと言っていた。昼には学校の購買でパンを買って食べている程度の私にとって、外食であれば何でもごちそうなのだ。今のところは、せっかくだしちょっと良いハンバーガーでも奢ってもらおうかと考えている。
今日も普段と変わらず昼休みに購買でパンを買っていた。教室から購買までの距離が近いため、私はいつも人気のフレンチトーストを買うことができている。それと普段滅多に買わないカレーパン。二つで二百円。親から渡されている昼食代は一か月分で五千円。一日平均二百五十円で過ごさないといけないので、いつもは安い五十円のアンパンかジャムパンを買っていた。今日は奮発して百円のカレーパンだ。二つのパンを小脇に抱えて教室へと戻ろうとした私は、校舎に入ったところで若い男性教諭とぶつかった。それと同時に私はカレーパンを落としてしまう。
「あ、ごめん」
ボーっとしている様子の先生はそう言って私が落としたカレーパンを拾う。ビニール袋に入っているので食べられなくなったというわけではないが、ぶつかった拍子に潰れてしまったようだった。中からカレーが飛び出している。そのカレーパンを手に持ったままその先生は私の顔を見ると、申し訳なさそうな顔で言った。
「代わりに同じのを買ってあげられたら良かったんだけど……。今から行っても買えないよね。お詫びに自販機でジュースでも奢るよ」
「いえ、私の不注意でもありますし。食べられるので大丈夫ですよ」
「同じ不注意だったら責任は年上の者が負うんだよ。ほら、好きなもの選んで」
その先生は校舎を出てすぐの場所にある自販機を指さして言った。そこまで言われると無下にもできず、私はじゃあと言ってオレンジジュースを選ぶ。その横で先生は無糖のコーヒーを買っている。生田先生より少し身長が低いだろうか。それでも筋肉質で髪も短いところからスポーツでもしているのかと思った。新任の先生だろう。最近たまに昼休みに見かけることはあっても授業で見たことはない。その先生はコーヒーを買うとすぐ隣にあるベンチに座る。小気味の良い音と共に缶のプルタブを上げると軽くひと口飲んで溜息をついてぼんやりと視線を前に向ける。視線の先には校舎の壁があるだけ……。
「お疲れですね」
私はその様子を見て居ても立ってもいられず隣に座った。先生は少し驚いた顔をしつつ拳一つ分ほど私との距離を開けた。その態度が少し気にくわず、私は同じように拳一つ分先生の方へとにじり寄る。それでも二人の距離は肘を伸ばして触れる程度の距離。
「新任の先生ですか? 私は一年二組の細川って言います。これありがとうございました」
私は簡単に自己紹介をすると奢ってもらったオレンジジュースを開ける。
「いや、ジュースはお詫びだし。あと俺は新任の先生じゃなくて教育実習生だよ。五月初めから一か月間だけだけどね。一応まだ大学四年生で名前は高木」
「高木先生ですね」
教育実習とは言っても先生は先生だと思うので私は高木先生と呼ばせてもらった。とても真面目そうな人だ。
「なんだか疲れている様子だったので気になったんです。大学生でしたら、もしかして昨日飲み会で寝てないとかですか?」
私の中で大学生のイメージと言えば合コンや飲み会で毎日寝るのが遅いといった感じ。それならば疲れている様子も納得だ。せっかく大学生の人と話ができるのならそういった話も聞いてみたい……。そう思っての言葉だった。しかし、疲れの原因は違ったようだった。
「いや、飲み会ってわけじゃないけど寝不足でね。ボーっとしてぶつかっちゃってごめんね」
「いえ、それは良いんですが……」
高木先生は少し話をすると視線を外してぼんやりと壁の方を見る。その動作を繰り返していて、私が思っていたよりも深刻な悩みでもあるのかと思ってしまった。それが私生活でのことかこの学校でのことかは分からない。それが私にどうこうできることかは分からない。それでももし高木先生が話をすることで楽になるのであれば……。そう思うと同時に私は声に出していた。
「もし何か悩みでもあるのでしたら、親身になって聞いてくれる先生がいらっしゃるので紹介しましょうか?」
親身になって話を聞いてくれる先生……もちろんそれは理科教師の生田先生のことだ。生田先生なら弱みを握っていることだし、それを抜きにしても困っている人の話をしっかり聞いてくれるのではないかと信頼している。高木先生は私の提案を聞いて少し唸ると答えた。
「いや、細川さんにもその先生にも迷惑かけるわけにはいかないし自分でどうにかするよ。ありがとう」
そう言ってコーヒーを一気に飲み干すと背伸びをして立ち去って行った。その後ろ姿は立派な体格とは裏腹に猫背気味に曲がっており、私の心配が消えることはなかった。
今日も普段と変わらず昼休みに購買でパンを買っていた。教室から購買までの距離が近いため、私はいつも人気のフレンチトーストを買うことができている。それと普段滅多に買わないカレーパン。二つで二百円。親から渡されている昼食代は一か月分で五千円。一日平均二百五十円で過ごさないといけないので、いつもは安い五十円のアンパンかジャムパンを買っていた。今日は奮発して百円のカレーパンだ。二つのパンを小脇に抱えて教室へと戻ろうとした私は、校舎に入ったところで若い男性教諭とぶつかった。それと同時に私はカレーパンを落としてしまう。
「あ、ごめん」
ボーっとしている様子の先生はそう言って私が落としたカレーパンを拾う。ビニール袋に入っているので食べられなくなったというわけではないが、ぶつかった拍子に潰れてしまったようだった。中からカレーが飛び出している。そのカレーパンを手に持ったままその先生は私の顔を見ると、申し訳なさそうな顔で言った。
「代わりに同じのを買ってあげられたら良かったんだけど……。今から行っても買えないよね。お詫びに自販機でジュースでも奢るよ」
「いえ、私の不注意でもありますし。食べられるので大丈夫ですよ」
「同じ不注意だったら責任は年上の者が負うんだよ。ほら、好きなもの選んで」
その先生は校舎を出てすぐの場所にある自販機を指さして言った。そこまで言われると無下にもできず、私はじゃあと言ってオレンジジュースを選ぶ。その横で先生は無糖のコーヒーを買っている。生田先生より少し身長が低いだろうか。それでも筋肉質で髪も短いところからスポーツでもしているのかと思った。新任の先生だろう。最近たまに昼休みに見かけることはあっても授業で見たことはない。その先生はコーヒーを買うとすぐ隣にあるベンチに座る。小気味の良い音と共に缶のプルタブを上げると軽くひと口飲んで溜息をついてぼんやりと視線を前に向ける。視線の先には校舎の壁があるだけ……。
「お疲れですね」
私はその様子を見て居ても立ってもいられず隣に座った。先生は少し驚いた顔をしつつ拳一つ分ほど私との距離を開けた。その態度が少し気にくわず、私は同じように拳一つ分先生の方へとにじり寄る。それでも二人の距離は肘を伸ばして触れる程度の距離。
「新任の先生ですか? 私は一年二組の細川って言います。これありがとうございました」
私は簡単に自己紹介をすると奢ってもらったオレンジジュースを開ける。
「いや、ジュースはお詫びだし。あと俺は新任の先生じゃなくて教育実習生だよ。五月初めから一か月間だけだけどね。一応まだ大学四年生で名前は高木」
「高木先生ですね」
教育実習とは言っても先生は先生だと思うので私は高木先生と呼ばせてもらった。とても真面目そうな人だ。
「なんだか疲れている様子だったので気になったんです。大学生でしたら、もしかして昨日飲み会で寝てないとかですか?」
私の中で大学生のイメージと言えば合コンや飲み会で毎日寝るのが遅いといった感じ。それならば疲れている様子も納得だ。せっかく大学生の人と話ができるのならそういった話も聞いてみたい……。そう思っての言葉だった。しかし、疲れの原因は違ったようだった。
「いや、飲み会ってわけじゃないけど寝不足でね。ボーっとしてぶつかっちゃってごめんね」
「いえ、それは良いんですが……」
高木先生は少し話をすると視線を外してぼんやりと壁の方を見る。その動作を繰り返していて、私が思っていたよりも深刻な悩みでもあるのかと思ってしまった。それが私生活でのことかこの学校でのことかは分からない。それが私にどうこうできることかは分からない。それでももし高木先生が話をすることで楽になるのであれば……。そう思うと同時に私は声に出していた。
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親身になって話を聞いてくれる先生……もちろんそれは理科教師の生田先生のことだ。生田先生なら弱みを握っていることだし、それを抜きにしても困っている人の話をしっかり聞いてくれるのではないかと信頼している。高木先生は私の提案を聞いて少し唸ると答えた。
「いや、細川さんにもその先生にも迷惑かけるわけにはいかないし自分でどうにかするよ。ありがとう」
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