春風のインドール

色部耀

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同級生 上野真紀

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 そして放課後。私は授業が終わって真っ直ぐに生物準備室に向かった。生物室で待っているように言われていたが、一応来たことを生田先生に伝えておこうと思ったからだ。生物準備室の扉をノックして開けると、生田先生は紅茶を飲みながらデスクワークをしていた。

「こんにちは」

 生田先生はそう言うと立ち上がる。

「高木先生はまだ来ていませんよ。少し長くなるかもしれませんが隣の部屋で自習でもして待っていてください」

「はい」

 私はそれだけ言って隣の生物室に行く。誰もいない静かな生物室。新校舎の備え付けの綺麗な実験台とそれにふさわしくない木製の丸椅子。独特の薬品臭さが漂い、開け放たれた窓からは校舎裏の畑が見える。何の先入観もなければ綺麗な畑でいくつもの野菜がすくすくと育っているようにしか見えない。生田先生は自習でもと言っていたけれど、この学校の授業は授業を真面目に聞いているだけで充分付いて行けるし、宿題もほとんど無い。商業高校なので簿記の授業があり、今のところ唯一その宿題だけがあるけれどそれも授業中に終わらせてしまっている。だから私は単純に暇を持て余してしまっていた。

 イヤホンをつけてスマホで音楽を聴きながら窓から青空を眺める。ただそれだけで時間を消費していた。すると、生物準備室の方から失礼しますという男の人の声が聞こえた。おそらく高木先生の声だろう。生物室と生物準備室を繋ぐ扉のそばに行って聞き耳を立てていれば話を聞くことができるかもしれない――。しかしそんな誘惑に負けないようにと、私はスマホの音量を少し上げた。

 流し始めた音楽の一曲目が終わろうかというとき、生物室の扉が勢いよく開かれた。

「高木せんせー!」

 そう言って生物室に入って来たのは背の低い女子生徒だった。百五十五センチメートルの私よりも低く、おそらく百五十センチメートルもないのではないかと思われる。見覚えのある女子で、私は記憶の中から名前を絞り出す。

「上野さん?」

 確か、同じクラスの上野さん。フルネームは上野亜紀。学級委員長をしている子だ。仲の良さそうな人たちからは亜紀と呼ばれている。私は話したことが無いし、彼女自身のことはよく知らないけれど、元気で活発な印象があった。

「えっと……もしかして亜紀と間違えてる?」

 そう言うと彼女は私の方へと近づいてきた。間違えてるも何も本人ではないかと言いかけたとき、彼女は通学カバンに付けてあるМの形をしたキーホルダーを私に見せて言った。

「私は双子の妹の真紀。多分姉の亜紀と間違えてるんだと思う。ややこしいから真紀って呼んで」

 話したこともないのだから当たり前かもしれないけれど、上野さんが双子だなんて知らなかった。よく見ると確かに少し雰囲気が違うような気もしてくる。

「亜紀の方が身長もちょっと高いし成績も良いし可愛いから。直ぐに見分けがつくようになると思うよ。それより高木先生は? 職員室で聞いたらここにいるって言ってたんだけど」

 真紀さんはきょろきょろと周りを見渡すと私に近づいてきてそう訊ねた。パーソナルスペースがないのか距離がとても近い。女の子の良い匂いがする。その真紀さんの圧力に負けるようにして私は高木先生のいる場所を答えた。

「今準備室で生田先生と……」

「高木せんせー!」

 真紀さんは私の話を最後まで聞くことなくそう言いながら準備室の扉を開けて中に入った。考えなしに居場所を教えてしまったことの罪悪感から、私も追いかけるようにして準備室に入る。中では以前私と生田先生がしていたように二人で紅茶を飲みながら机を挟んで話をしていた様子だった。真紀さんの登場に高木先生は目を丸くしている。

「えっと、生田先生。彼女が先程話をさせてもらった生徒です」

「そうですか。すみませんが、しばらく外で待っていてもらえませんか。高木先生と大事な話をしているところですので」

「私のこと話してたのに私のこと追い出すとか酷くないですか?」

 真紀さんはそう言うと、勝手に椅子を引いて高木先生の隣に座った。高木先生は困った顔をしながらも判断を生田先生に任せているようだった。私はただ入り口で立ち尽くいているだけ。彼女のような行動を取ることはできない。

「はあ……。高木先生が話を聞かれても大丈夫なのでしたら構いませんが」

「俺ですか?」
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