春風のインドール

色部耀

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同級生 上野真紀

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 それから私たちは生田先生の車に乗ってスーパーで食材を買い足し、生田先生の家へと向かった。スーパーの大きな袋一つに詰められたのはニンジン・タマネギ・ピーマン・キャベツ。あとはもちろん肉類各種。バーベキューとはいえ串に刺して焼くような本格的なバーベキューではなく、屋外で焼き肉をするといった簡易なもののようだ。食材以外は家にあるとのことで買い物はすぐに終わった。

 先生の家は私や智子が住んでいる方向とは逆で、住宅地とは言えない山沿いにあった。農家の家が点々とあるような場所で、家で多少騒がしくしたところで隣の家までは聞こえないのではないかと言うほどに隣の家と離れている。周りは田んぼばかりで植えたての稲が小さく頭を出している。車から降りると学校があった街中より気温が低く、肌がひんやりと冷たくなった。

「バーベキューセットを取りに行きますので誰か手伝ってくれますか?」

 生田先生の言葉にいち早く名乗りを上げたのは高木先生で、私と真紀さんは待っているように言われた。真紀さんとは初対面で話したことはない。今日も出会ったとき以外は二人きりになった瞬間もなく、いざ二人きりになったら何を話せば良いのか分からなくなってしまう。

「ねえ細川さん」

 気まずいと感じていると、真紀さんの方から話し掛けてくれた。私は、はいと答えると何を言われるのかと身構える。

「そんなに硬くなんなくても良いじゃん。おっかしー」

 真紀さんはそう言って笑うと私の背中を軽く叩く。スキンシップが激しく距離が近い。おそらく彼女も姉の亜紀さんと同じように友達が多いのだろう。

「細川さんって生田先生のこと好きなの?」

「はあ?」

 しかし真紀さんの言動に少し感心していたそばから、出た質問に呆れたような声を出してしまった。生田先生のことが好き? 考えたこともなかった話に思考も停止する。しばらくして回り始めた頭が出した答えは純粋な否定だった。

「ごめんごめん。なんか仲良さそうだったからつい」

 そう言ってさらに笑い続ける真紀さん。生物準備室にいたときから思っていたが、大きな声を出したり泣いたり笑ったりと感情豊かで忙しそうな子だ。私は限界まで感情を溜めてしまうのでとても羨ましく感じる。もし真紀さんのように感情をすぐに表に出してしまえていたら私の人生ももっと違ったものになっていたのだろうか。

「それを言うなら、真紀さんも高木先生と仲良く見えますけど」

「そう? てか敬語やめてよ。あと真紀で良い。なんか距離感じるし」

 体の距離が近い真紀さんは心の距離も近くいたいようだった。私もどうしても距離を置きたいというわけではないので、言われたとおりに敬語もさん付けもやめる。

「えっと。じゃあ私のことも卯月って呼んでいいよ」

「ありがと」

 真紀さんは嬉しそうに笑って私の顔を覗き込む。その笑顔が眩しくて、同性である私でさえ可愛いなあと心の中で呟いてしまうほど。出会ってすぐに姉の亜紀の方が可愛いなどと言っていたけれど、私にとっては実際に話をしている真紀の方が可愛いのではないかと感じる。姉の亜紀の方と話をするとまた違った感想を覚えるのかもしれないけれど……

「てか、さっきの続きなんだけど」

 さっきの続き。そう言われて私は何のことか分からず首を傾げてしまった。しかし真紀は少し照れ臭そうに視線を外すと小さな声で呟いた。本当によく動く子だ。

「私、高木先生のこと好きなの」

 そう言われて私は驚きもせずにただただ納得をした。生物準備室での様子だけではなく、その後の買い出しや車の中での態度を見ていれば誰にでも分かるのではないかと思える。生徒ひとりに対して真摯に向き合う態度は好感度高いし、見た目だって健康的に少し焼けた肌と威圧感のない程度に引き締まった体と爽やかな顔はそれだけで好きになる人もいるのではないかと思える。

「今日までは優しい先生だと思って好きかもってくらいだったんだけど、同じような経験してて同じように悩んでたことも知って好きって確信しちゃった」

 異性を好きになった経験がない私にはピンとこないが、共感することは強いエネルギーになるのかもしれない。同化の話とは合わないが、恋心とはやはりよく分からないメカニズムで動くのだろう。理解が及ばないというわけではないが、真紀から恋心を打ち明けられても私はどういった返事をすればいいのか分からなかった。高木先生と上手くいくように考えれば良いのか、それともただ聞いていれば良いだけなのか。

「あ、先生たち帰って来た」
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