春風のインドール

色部耀

文字の大きさ
20 / 45
同級生 上野真紀

10

しおりを挟む
 私が返答に困っている間に生田先生と高木先生が一つずつダンボールを抱えて戻って来た。高木先生が抱えているダンボールにはバーベキューセットのロゴが書かれているので中身が分かるが、生田先生の持っているダンボールは古すぎて何と書いてあるのか分からない。

「先生、それ何が入ってるんですか?」

 私は生田先生が抱えているダンボール箱を指さして聞くと、箱を空けて中身を見せてくれた。中には真っ黒な物体がぎゅうぎゅうに詰め込まれている。

「炭ですよ。大学時代に懇意にしていた教授が大きな窯を持っていて、毎年一緒になって木炭や竹炭を沢山作っているのです。備長炭なんかもあるので欲しいのであれば後で差し上げますよ」

 先生はダンボール箱から一つ掴んで私の目の前に持ってくる。それは大きな竹炭で真っ黒なのに表面が艶やかで少し光って見える。ダイヤモンドと同じ炭素の塊だとは知っていたけれど、こうして見ると本当に綺麗で同じものなんだと思える。興味深くてまじまじと見ていると、高木先生が隣でバーベキューセットを組み立てながら生田先生に声をかけた。

「生田先生。火起こしはやっときましょうか」

「お、それではお願いしますね。では細川さんか真紀さんのどちらか一人は高木先生の手伝いを。一人は私と一緒に野菜を切っていただけますか?」

 生田先生がそう言って采配をすると、私は真紀の方を見た。どちらかが高木先生と火起こしでどちらかが生田先生と野菜切り。直前に真紀から恋心を打ち明けられているので考える必要もなく私が野菜担当をするべきだろう。野菜を切るのは家で慣れているし、私としてもその方が楽で助かる。

「私が野菜やります。家で料理することもあるので」

「偉いですね。では高木先生、真紀さん、よろしくお願いします」

 高木先生と真紀を庭に残して、私と生田先生は家の中へと向かった。生田先生の家は昔ながらの日本家屋といった感じで、瓦屋根に土壁、玄関は薄い曇りガラスの張られた引き戸でできている。ガラス製の引き戸は綺麗だけれど、泥棒が簡単に割って侵入してきそうだ。引き戸を開けるとコンクリート剥き出しの玄関で、目の前にすぐ台所が見えた。

「元は祖父が使っていた古い家でしてね。この台所も土間だったところを改築したのでこのような不格好な形になってしまっているのですよ」

 土間というと、かまどとかが置いてある土足で入れる部屋だろうか。生田先生にそう言われると確かに面影がある。台所から居間に入る戸口に段差があり、継ぎはぎされたような形となっている。かまどが立ち並ぶ姿を想像すると、目の前に広がる台所の床が全て玄関口と同じ高さなのも目に浮かび、それは趣きがあったのだろう。今ではシステムキッチンとは言わないが、昭和初期にでも作られたのであろう古い台所設備が綺麗にされている。

「では、ささっと済ませてしまいますか」

 生田先生は靴を揃えて脱ぐと、手慣れた様子で調理器具を取り出す。私の分も準備してくれたおかげで本当に手際よくさっと野菜を切って準備することができた。ただ、私が頑なにジャガイモを触ろうとしないことに関しては生田先生も不思議な顔をしていた。皮についている土を見るだけで私は嫌な気分になる。しかしそれを口に出さなかっただけでも頑張ったと褒めてもらいたいくらいだ。

 高木先生と真紀は早めに火が付いたからと言って食器を運んでくれた。そのおかげで私と生田先生は食材を運ぶだけで良かった。早炊きにしていたご飯もちょうど炊きあがり、炊飯器から米の香りと共に蒸気が吹き出す。

「さて、始めましょうか」

 生田先生の声と共に四人全員のコップに麦茶が注がれる。生田先生はこの後運転して学校まで私たちを送り届けないといけないし、高木先生も学校から帰るのにバイクを使っているということなのでアルコールは無しだ。それでも二人は楽しそうにコップを掲げる。

「それでは高木先生のこれからの活躍を祈り、そして新たな園芸部員二人の加入を祝いまして乾杯」

「え、私園芸部に入ったことになったんですか?」

「私は考えておきます」

 真紀と私の話が無視される形で四人はコップを合わせて乾杯をした。四人とも冗談だと分かっているからこそ笑い合うことができていたのだと思う。生田先生が本気で入部して欲しいと思っているかどうかはさておいて……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】知られてはいけない

ひなこ
ホラー
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。 他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。 登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。 勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。 一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか? 心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。 (第二回きずな児童書大賞で奨励賞を受賞しました)

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...