春風のインドール

色部耀

文字の大きさ
21 / 45
同級生 上野真紀

11

しおりを挟む
 それから私たちは好きなように好きなものを焼いては口へと運んでいた。それでも全ての食材がほぼ均等に減っているので不思議なものだった。特にジャガイモに至っては私が一つも手に取っていないのに無くなっていくので、私以外の三人がどれだけ食べているのかが分かる。じゃがバターと言って生田先生がアルミホイルでバターごと巻いていたものなんかは、三人揃って美味しい美味しいと声を上げていた。そのやり取りを見ていると私も少しだけ食べたくもなったが、一か月前の光景を思い出して踏みとどまる。

 ある程度満腹状態になり、食材も少なくなってきたところで私は一人で少し離れたベンチに腰掛けた。丸太を半分に切って横倒しにし、足を付けただけの手作り感あふれるベンチ。生田先生が作ったのか他の誰かが作ったのかは分からないけれど、重量感があってとてもしっかりしたベンチは座っていて安心できる。少し離れてはいるものの、三人の声は問題なく聞こえている。基本的には高木先生と生田先生が話しており、真紀はその話をニコニコと聞いている状態だった。

 私は麦茶の入ったコップを両手で握って膝の上に置くと、風に揺れる近くの山に視線を向ける。頂上でも標高百メートルもないくらいの小さな山。緑で覆われたその小さな山から下りてくる風を感じながら大きく鼻で息を吸う。春の自然の香り。バーベキューの隅が焼ける香りと肉の焼ける香りを吹き飛ばす頭の先まで抜けるような優しい香り。花粉症の人にとっては殺人的な狂気の香りなのかもしれないけれど、花粉症ではない私にとってはとても落ち着く香りだった。

「卯月!」

 少しの時間目を閉じていた私はいつの間にか隣に座っていた真紀に声をかけられてとび上がるほどに驚いた。そんな私の反応を見て笑う真紀だったが、私はその笑いに少しだけ嫌な気分になる。

「突然隣に来て驚かせておいて笑うなんて酷い」

「ごめんごめん。なんか幸せそうな顔して座ってるなーって気になっちゃって」

 そんなに幸せそうな顔をしていたのだろうか。自分で顔のことは分からないが、幸せな気分でいたのは間違っていない。

「高木先生のところにいなくて良いの?」

 私のことが気になったからとはいえ、好きだと言っていた高木先生のそばにいなくて良いものなのかと思う。しかし真紀は二人で楽しそうに話している生田先生と高木先生を見ながら答えた。話し始めた真紀は初めて会ったときの印象とは違って少し落ち着いて見え、幸せそうでもあった。

「ずっと近くにいても鬱陶しいかなって。それに生田先生と仕事の話をしてる高木先生って楽しそうで、私が傍にいない方がもっと気を遣わずに話せることもあるんじゃないかと思ってね」

「生物準備室に無理やり入って話を聞こうとした真紀とは思えないね」

「あのときは午前中に見かけた高木先生が元気なくて心配だったから! ってかさ。卯月って結構ズバズバ言うね。絶対性格キツイって言われてるでしょ?」

 ニヤニヤとそう言った真紀。少し意地悪な言い方をしたことに対する反撃だろうか。確かに少しキツイ言い方をしたのだと自覚している。

「普段学校であんまり喋らないからそういうこと言われたことないけど。昔からよく遊んでる子とはお互いにこんな感じで言いたいこと言い合ってるよ」

 智子とはいつも言いたいことを言い合ってはそれで笑い合っている。女の子らしい会話かと言われれば違うかもしれないが、私にはそれ以外にコミュニケーションをとる方法というのがよく分からない。基本的には一人でいることに対して苦痛に感じたりもしない方だし……。

「ふーん。じゃあ、学校ではあんまり自分出してない感じ?」

「まあ……そうかもしれない」

「じゃあさ、じゃあさ!」

 じゃあじゃあと何度も言う真紀は身を乗り出して私の顔に近づいてくる。私が身を引かなければ本当にぶつかって来るのではないかと思えてしまう。

「学校で会ったら話しかけに行くね! みんなが今の卯月のこと知ったら絶対面白いって言って仲良くしてくれるよ!」

 面白いと言われることに対していまいち納得ができないけれど、話しかけに来てくれるということに対して無下に断るのもおかしな話だ。しかし――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】知られてはいけない

ひなこ
ホラー
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。 他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。 登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。 勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。 一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか? 心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。 (第二回きずな児童書大賞で奨励賞を受賞しました)

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...