春風のインドール

色部耀

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クラスメイト 花岡 二宮

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 そんなことを言いながら生田先生はホワイトボードに何かを書き足していく。新山先生はノートを持っていればメモを取っていたのではないかというほどに食い入って聞いており、後の二人もつまらなそうにはしていない。

「これらの話で何が重要かといいますと、多様性と環境ストレスへの耐性の関係です。今世界中で色々な人種の人たちが色々な環境で問題なく生きていますよね。それはそれぞれの環境で生きることができている人たちが別の環境から来た人に対して情報を共有したり手助けをしたりしているからに他なりません。人種の話だと日光への耐性だけではなく食べ物の消化や毒物の代謝なんかも大なり小なり差があります。もし多様性が無ければ新しい環境ストレスのある場で、生きる手段を試行錯誤する間もなく一気に全滅なんてこともあり得ない話ではありません」

 生田先生はそうやって大げさな言い方をする。大げさな言い方ではあるが、確かにそのとおりなのかもしれない。しかし、生田先生は今回何故そのような話をしているのだろうか――

「つまり、多様性はストレスに対抗する強い手段なのです」

 そうやって生田先生がはっきりと言い切ったところでやっと私は何が言いたいのかが理解できてきた。しかし、私の頭の上に顎を乗せていた真紀は分からなかったようで私をつついてどういうこと? と聞いてくる。

「花岡さんはみんな同じでないといけないって感じで考えててストレスにやられちゃったわけでしょ? だから多様な考え方をしてストレスに対応できるようにした方が良いよって言いたいんじゃないのかな?」

 真紀は私の説明に納得してくれたのか、小さな声でなるほどと答えてくれた。私が説明した直後に生田先生は同じようなことを花岡さんたちに話していた。私は自分の解釈が合っていたことへの安心と共に、少しだけ胸に引っかかるものがあった。本当に考え方が違うことがストレスへの対抗手段になるのかということ……。そう思っている間にも生物準備室での話は進む。

「考え方や行動が多様であることは悪いことではないと多少なりと理解していただけたかとは思うのですが……。花岡さんはどうして同じであろうという考えが強くなったのですか? 他のクラスメイトから入学当初は今と違ったと伺ったのですが」

 他のクラスメイトというのは私と亜紀さんだろう。花岡さんは誰から聞いたのかなどと突っ込むことはなく、ちらりと新山先生の方を見た。新山先生は新山先生で花岡さんの仕草に驚いている様子。

「部活のときに新山先生に言われたんです。みんな同じになって一緒に頑張れって。そしたら必ず強くなれるって」

 花岡さんの話を聞いて新山先生は小さく首を傾げていた。

「新山先生。心当たりはありますか?」

 生田先生からの問いかけに新山先生はゆっくりと口を開く。私の目には何だか気まずそうな顔をしているように見えた。

「確かにそのようなことを言った記憶はあります。同じ志を持って頑張るようにと。ただ私は極力生徒たちの自主性に任せたいと思っているので、同じ目標に向かって協力して欲しいという意図で話していたつもりです」

 気まずそうな仕草を取っていたが、物言いははっきりとしており自信がある様子だった。しかし隣に座っている花岡さんは眉をひそめて新山先生に問いかける。

「目標なんて試合に勝つことに決まってるじゃないですか。だから私たちは揃って同じ練習をこなして同じ声出しをして同じ考えで試合ができるようにこまめにミーティングしてたんです」

「いや、私が同じって言ったのは目標とモチベーションの話であって、何もかも同じようにやれって意味じゃありません」

 花岡さんの話に被せるようにして言った新山先生だったが、花岡さんは納得いかないとでも言いたげで言葉を続ける。

「じゃあ私たちがしんどい思いして頑張ってたのは間違ってたってことですか?」

 語気を強めた花岡さんだったが、新山先生は一歩引くような態度で冷静に答える。もし私が花岡さんの立場なら気分の良い態度ではない……。

「私はあなたたちに自分で考えて欲しかったんです」

「じゃあ最初からそう言ってください! 自分で考えるようになんて一回も言ってくれてないじゃないですか! さっきの同じって言ったけどそういう意味じゃないみたいな話だって、先生何も言ってくれてないじゃないですか! それじゃどうしたらいいか分かんないですよ!」

「だから! 正しい答えも無いんですから自分たちでやりたいことや目指すものを決めて頑張っていって欲しいんですよ!」

 花岡さんの怒鳴り声に引っ張られるようにして新山先生も声を大にした。すると花岡さんは目に涙を浮かべながら立ち上がるとさらにまくしたてるように言う。

「それだって今初めて聞きました! バレー部の人らはみんな訳わかんないまま先生に言われたことは守ろうと頑張ってたのに、なんでちゃんと言ってくれなかったんですか! そんなに私たちの相手するのが嫌なんですか!」

「そういうわけじゃ……無いです」

 尻すぼみにそう言った新山先生だったが、そこで生田先生が話に割って入った。

「新山先生。今まで答えのある問題に向かって取り組んできた真面目な生徒に突然答えの無い問題を自分で考えろと言うのは酷だと思います。ましてやその意図すら伝えないのはなおさらです。もう少し密にコミュニケーションを取るべきだと思います。……もしかして、何か密にコミュニケーションを取りたくない事情でもおありでしたか?」
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