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水の王国編
え、私眼中にない?
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「てことで、クロードは外で待ってて」
目的の酒場に到着すると私はそう言ってクロードに待機命令を出す。
「てことで、とはどういうことでしょうか」
「女だけでいた方が多分都合が良いからね。いざとなってもメアリーがいれば大丈夫だし、アリスには盾の加護もあるから」
クロードは私の説明にしぶしぶ従うという感じで了承する。
「アリス様。何かあればすぐにお呼びください」
「大丈夫よクロード。お姉さまがついていますもの」
クロードは私のことを一瞬睨む。だから心配なのだとでも言いたげだ。私は大丈夫だと知ってはいるものの、クロードの気持ちも分からないでもない。酒場があるのはあまり治安の良さそうな場所でもなく、また建物自体も高級なものではない。町のチンピラに会いに行くとでも言うようなもの。それは心配しても仕方ない。
「じゃあ行ってくるね」
私はアリスとメアリーを連れて酒場の扉をくぐった。怪しい壺が並び、よく言えばアンティークなテーブルと椅子が使われている酒場。酒場の中は外とは違って昼間から酔っ払いの大声が飛び交う。酔っ払って耳が聞こえづらくなって声が大きくなる。周りの声が大きくて話が聞きづらくなってさらに声が大きくなる。まるで学生時代の大規模コンパを思い出す。私は隅っこでコンパの様子を大人しく見ていたことばかりだったけど、それでも楽しい気分になれた。懐かしい。
この世界では飲酒に年齢制限はないが、酒場には子供はいない。私たちが一番若いくらいだ。
空いているテーブルに座り店内を見渡す。すると注文を取りに来る店員よりも先に屈強な男が3人近づいてきた。
「こんなところになんの用だいお姫様」
その中の1人、最も屈強な男がアリスにそう声をかける。戸惑うアリスは私に助けを求めるように視線を送ってくる。
「話してるのは俺だぞ! こっち見やがれ!」
アリスが視線を逸らした瞬間に男は怒鳴り声をあげる。アリスは驚きで反射的に男の方を見るが、その表情はみるみる曇っていく。そりゃあ大男に怒鳴られたら怖い。私は仕事で理不尽に怒鳴られることも多かったので慣れたけど、それでも嫌なものだ。
アリスが怯えた顔をしているのを見てメアリーが間に入ろうとする。
「待って」
「ですが……」
私が小声でメアリーを制止する。反論しようとしたメアリーだったが、次の瞬間にメアリーが出る必要がないと分かる。そう。ピンチに現れる人物といえば……
「大の男が女の子を怖がらせるもんじゃないよ。ほら、自分の席に帰りな」
飄々と。その言葉が似合う青い髪の青年。肩口まで伸びたウェーブがかった青い髪。まるでこの国を象徴する流水のよう。そう。アリスを助けに現れたのは紛れもなく王子様だった。
水の王国ベンネスの王子。アウラ・ベンネスーー。しかしこの場ではまだ素性は隠されたまま。ゲームで知っている私は心の中で王子の登場に歓声を上げていただけ。
「大丈夫かい? お姫様」
「あの。ありがとうございます」
深々と頭を下げるアリスを見てアウラはニコニコとし続けている。爽やかな笑顔。聖王国の攻略キャラの中でも1、2を争う人気キャラ。
「助けになったのなら良かった。僕はオーロラ。よろしくね。お姫様は何という名前なのかな?」
「お、お姫様ではないです」
「女の子は誰しも生まれながらにしてお姫様だよ」
歯の浮くようなセリフ。これがただの人間、ただのイケメンなら鼻で笑っていたところ。でも私は彼のかっこよさをゲーム内で知ってしまっているが故にキザなセリフもかっこよく感じてしまう。
アリスはそんな知識もないのに照れている。なんてチョロいんだ。可愛い。
「あ、アリスって言います」
「アリスちゃん。見た目だけではなく名前まで可愛いなんて。僕は君を守るために生まれてきたのかもしれない。そう思ってしまうよ」
「そんな……」
アリス……チョロいぞ……。
ここまで来ると面白い。ただのナンパ野郎ではないと分かっているし、お姉ちゃんは背中を押すのもやぶさかではない。
「私は姉のレジーナ。よろしく。オーロラさん」
「え、あ、うん」
え、待って。流石に眼中になさすぎるのでは?
目的の酒場に到着すると私はそう言ってクロードに待機命令を出す。
「てことで、とはどういうことでしょうか」
「女だけでいた方が多分都合が良いからね。いざとなってもメアリーがいれば大丈夫だし、アリスには盾の加護もあるから」
クロードは私の説明にしぶしぶ従うという感じで了承する。
「アリス様。何かあればすぐにお呼びください」
「大丈夫よクロード。お姉さまがついていますもの」
クロードは私のことを一瞬睨む。だから心配なのだとでも言いたげだ。私は大丈夫だと知ってはいるものの、クロードの気持ちも分からないでもない。酒場があるのはあまり治安の良さそうな場所でもなく、また建物自体も高級なものではない。町のチンピラに会いに行くとでも言うようなもの。それは心配しても仕方ない。
「じゃあ行ってくるね」
私はアリスとメアリーを連れて酒場の扉をくぐった。怪しい壺が並び、よく言えばアンティークなテーブルと椅子が使われている酒場。酒場の中は外とは違って昼間から酔っ払いの大声が飛び交う。酔っ払って耳が聞こえづらくなって声が大きくなる。周りの声が大きくて話が聞きづらくなってさらに声が大きくなる。まるで学生時代の大規模コンパを思い出す。私は隅っこでコンパの様子を大人しく見ていたことばかりだったけど、それでも楽しい気分になれた。懐かしい。
この世界では飲酒に年齢制限はないが、酒場には子供はいない。私たちが一番若いくらいだ。
空いているテーブルに座り店内を見渡す。すると注文を取りに来る店員よりも先に屈強な男が3人近づいてきた。
「こんなところになんの用だいお姫様」
その中の1人、最も屈強な男がアリスにそう声をかける。戸惑うアリスは私に助けを求めるように視線を送ってくる。
「話してるのは俺だぞ! こっち見やがれ!」
アリスが視線を逸らした瞬間に男は怒鳴り声をあげる。アリスは驚きで反射的に男の方を見るが、その表情はみるみる曇っていく。そりゃあ大男に怒鳴られたら怖い。私は仕事で理不尽に怒鳴られることも多かったので慣れたけど、それでも嫌なものだ。
アリスが怯えた顔をしているのを見てメアリーが間に入ろうとする。
「待って」
「ですが……」
私が小声でメアリーを制止する。反論しようとしたメアリーだったが、次の瞬間にメアリーが出る必要がないと分かる。そう。ピンチに現れる人物といえば……
「大の男が女の子を怖がらせるもんじゃないよ。ほら、自分の席に帰りな」
飄々と。その言葉が似合う青い髪の青年。肩口まで伸びたウェーブがかった青い髪。まるでこの国を象徴する流水のよう。そう。アリスを助けに現れたのは紛れもなく王子様だった。
水の王国ベンネスの王子。アウラ・ベンネスーー。しかしこの場ではまだ素性は隠されたまま。ゲームで知っている私は心の中で王子の登場に歓声を上げていただけ。
「大丈夫かい? お姫様」
「あの。ありがとうございます」
深々と頭を下げるアリスを見てアウラはニコニコとし続けている。爽やかな笑顔。聖王国の攻略キャラの中でも1、2を争う人気キャラ。
「助けになったのなら良かった。僕はオーロラ。よろしくね。お姫様は何という名前なのかな?」
「お、お姫様ではないです」
「女の子は誰しも生まれながらにしてお姫様だよ」
歯の浮くようなセリフ。これがただの人間、ただのイケメンなら鼻で笑っていたところ。でも私は彼のかっこよさをゲーム内で知ってしまっているが故にキザなセリフもかっこよく感じてしまう。
アリスはそんな知識もないのに照れている。なんてチョロいんだ。可愛い。
「あ、アリスって言います」
「アリスちゃん。見た目だけではなく名前まで可愛いなんて。僕は君を守るために生まれてきたのかもしれない。そう思ってしまうよ」
「そんな……」
アリス……チョロいぞ……。
ここまで来ると面白い。ただのナンパ野郎ではないと分かっているし、お姉ちゃんは背中を押すのもやぶさかではない。
「私は姉のレジーナ。よろしく。オーロラさん」
「え、あ、うん」
え、待って。流石に眼中になさすぎるのでは?
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