過労死社畜は悪役令嬢に転生して経済革命を起こす

色部耀

文字の大きさ
28 / 66
水の王国編

え、私酒が飲める?

しおりを挟む
「彼は何者なのですか?」

 アウラ王子に言われて私たちは酒場を出た。そこでクロードが私にだけ聞こえるように言った。少し離れてアウラ王子とアリスが楽しそうに話をしている。

「酒場で絡んできた男たちも彼がひと言声をかけただけで反抗もせずに立ち去りました。つまり彼は何かしらの力を持っているということです」

 クロードの推理は正しい。酒場の人間はアウラ王子が持つ権力も戦闘力も知っている。いや、酒場の人間だけじゃなくこの国の人は誰しもが知っている。

「そんな人間がアリス様に危害を加えようと考えているのだとしたら……」
「待ってクロード。待って」

 クロードが腰に下げた剣の柄に手をかけたところで私は慌てて止める。

「暗殺術ならセバス直々に伝授されております。バレずに消すことなど雑作もありません」
「違う違う。そういうことじゃない」

 とはいえ本人が偽名を名乗っているのに私がバラしても良いものだろうか。でもしばらくすれば強制イベントで正体を明かすことになるだろうし……うーん……。

「細かいことは今夜説明するから。それまでは我慢して。大丈夫だから。彼は無害だから」
「間違いございませんか?」

 アリスの事となると本当にめんどくさい執事だな……。

「絶対! 神に誓って大丈夫!」
「……はあ。レジーナ様がそこまで仰るのなら」

 クロードため息をついて剣の柄から手をはなす。とりあえずひと安心……かな?

「今夜まで待てばこの剣の手入れも完璧に終わることでしょう」

 え、待って。クロードが言ってることが怖い。

「またまた怖い冗談を」

 そう言って誤魔化そうとしたのにクロードは微笑み返してくるだけだった。

 そうしてしばらく歩いたところでアウラ王子が立ち止まる。巨大な噴水のある広場。吹き上がる噴水の中央には三叉槍が立てられている。土の王国にあった盾のモニュメントがあった場所と似た雰囲気があった。

「治安の悪い国でごめんねアリスちゃん」

 アウラ王子はそう言ってアリスに謝った。アリスは困った顔をしている。

「今この国には正式な王がいない。それに水の魔王レヴィアタンが復活してしまったんだ」
「レヴィアタン?」

 旧約聖書に出てくる海の悪魔。聖王国のゲーム内では水の王国に封印された魔王の1体とされている。その姿は巨大な人食い鯨だ。

「初代水の王と初代花の王が封印したとされる魔物でね。夜になると湖に姿を現すんだ。そのせいでベンネスで毎日のようにひらかれていた水上パーティが全面禁止になってね」
「へ?」

 重たそうな話から一気に軽い話に変わってアリスは拍子抜けした声を出す。私は知っていたので無心だ。

「ベンネスの国民は夜に水上で酒を飲んで騒ぐのが日常でね。それが禁止されてからみんなストレスが溜まっているんだ」
「へ、へー。そうなんですか」

 アリスはくだらない話を聞かされたような返事をしている。しかし私はここぞとばかりに首を突っ込んだ。

「ベンネスで飲まれている酒ってどんなものが多いの?」

 私の食い気味な発言に引き気味のアリスと困惑気味のアウラ王子。そんなリアクションされても関係ない。

「え、えっと。米を使ったどぶろくって酒だったよ」
「どぶろく!」

 つまり日本酒! 私が大好きな清酒の元となるお酒! どぶろくを濾過すれば清酒になる!

「じゃあこの国ではどぶろくがいくらでも……って、今過去形で言った?」
「レヴィアタンに荒らされて米が取れなくなったからね。今国内で飲まれているのは輸入ワインばかりだ」

 なんてこと……。

「これは早急にレヴィアタンを退治しないといけないみたいね」

 私のその発言にアリスとクロード、メアリーは呆れた表情を浮かべた。知ってたよ。その顔するの。でもアウラ王子はひとり神妙な顔をしていたのは意外だった。

「レヴィアタン退治……それは本気で言ってるのかい?」

 しまった……。アウラ王子の返答に私は少しばかり後悔した。しかし退治するのは決定事項だ。

「ええ。本気よ」

 私の返事を聞いてアウラ王子は初めて私の目をちゃんと見た気がした。ずっとアリスのことばかり見ていたので私のことは文字通り眼中になかったから。

「じゃあ笑わないで聞いてくれよな」

 アウラ王子はそう言うと噴水の中央に向けて手を伸ばした。すると中央にあった三叉槍のモニュメントから光が伸びてアウラ王子の手元に届く。そしてアウラ王子が手を握ると金色に輝く三叉槍が現れた。

「僕はレヴィアタンを殺す。父と母の仇をこの手で討つ」
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです

藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。 家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。 その“褒賞”として押しつけられたのは―― 魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。 けれど私は、絶望しなかった。 むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。 そして、予想外の出来事が起きる。 ――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。 「君をひとりで行かせるわけがない」 そう言って微笑む勇者レオン。 村を守るため剣を抜く騎士。 魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。 物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。 彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。 気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き―― いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。 もう、誰にも振り回されない。 ここが私の新しい居場所。 そして、隣には――かつての仲間たちがいる。 捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。 これは、そんな私の第二の人生の物語。

悪役令嬢の父は売られた喧嘩は徹底的に買うことにした

まるまる⭐️
ファンタジー
【第5回ファンタジーカップにおきまして痛快大逆転賞を頂戴いたしました。応援頂き、本当にありがとうございました】「アルテミス! 其方の様な性根の腐った女はこの私に相応しくない!! よって其方との婚約は、今、この場を持って破棄する!!」 王立学園の卒業生達を祝うための祝賀パーティー。娘の晴れ姿を1目見ようと久しぶりに王都に赴いたワシは、公衆の面前で王太子に婚約破棄される愛する娘の姿を見て愕然とした。 大事な娘を守ろうと飛び出したワシは、王太子と対峙するうちに、この婚約破棄の裏に隠れた黒幕の存在に気が付く。 おのれ。ワシの可愛いアルテミスちゃんの今までの血の滲む様な努力を台無しにしおって……。 ワシの怒りに火がついた。 ところが反撃しようとその黒幕を探るうち、その奥には陰謀と更なる黒幕の存在が……。 乗り掛かった船。ここでやめては男が廃る。売られた喧嘩は徹底的に買おうではないか!! ※※ ファンタジーカップ、折角のお祭りです。遅ればせながら参加してみます。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。

ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。 そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。 すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

処理中です...