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水の王国編
え、私酒が飲める?
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「彼は何者なのですか?」
アウラ王子に言われて私たちは酒場を出た。そこでクロードが私にだけ聞こえるように言った。少し離れてアウラ王子とアリスが楽しそうに話をしている。
「酒場で絡んできた男たちも彼がひと言声をかけただけで反抗もせずに立ち去りました。つまり彼は何かしらの力を持っているということです」
クロードの推理は正しい。酒場の人間はアウラ王子が持つ権力も戦闘力も知っている。いや、酒場の人間だけじゃなくこの国の人は誰しもが知っている。
「そんな人間がアリス様に危害を加えようと考えているのだとしたら……」
「待ってクロード。待って」
クロードが腰に下げた剣の柄に手をかけたところで私は慌てて止める。
「暗殺術ならセバス直々に伝授されております。バレずに消すことなど雑作もありません」
「違う違う。そういうことじゃない」
とはいえ本人が偽名を名乗っているのに私がバラしても良いものだろうか。でもしばらくすれば強制イベントで正体を明かすことになるだろうし……うーん……。
「細かいことは今夜説明するから。それまでは我慢して。大丈夫だから。彼は無害だから」
「間違いございませんか?」
アリスの事となると本当にめんどくさい執事だな……。
「絶対! 神に誓って大丈夫!」
「……はあ。レジーナ様がそこまで仰るのなら」
クロードため息をついて剣の柄から手をはなす。とりあえずひと安心……かな?
「今夜まで待てばこの剣の手入れも完璧に終わることでしょう」
え、待って。クロードが言ってることが怖い。
「またまた怖い冗談を」
そう言って誤魔化そうとしたのにクロードは微笑み返してくるだけだった。
そうしてしばらく歩いたところでアウラ王子が立ち止まる。巨大な噴水のある広場。吹き上がる噴水の中央には三叉槍が立てられている。土の王国にあった盾のモニュメントがあった場所と似た雰囲気があった。
「治安の悪い国でごめんねアリスちゃん」
アウラ王子はそう言ってアリスに謝った。アリスは困った顔をしている。
「今この国には正式な王がいない。それに水の魔王レヴィアタンが復活してしまったんだ」
「レヴィアタン?」
旧約聖書に出てくる海の悪魔。聖王国のゲーム内では水の王国に封印された魔王の1体とされている。その姿は巨大な人食い鯨だ。
「初代水の王と初代花の王が封印したとされる魔物でね。夜になると湖に姿を現すんだ。そのせいでベンネスで毎日のようにひらかれていた水上パーティが全面禁止になってね」
「へ?」
重たそうな話から一気に軽い話に変わってアリスは拍子抜けした声を出す。私は知っていたので無心だ。
「ベンネスの国民は夜に水上で酒を飲んで騒ぐのが日常でね。それが禁止されてからみんなストレスが溜まっているんだ」
「へ、へー。そうなんですか」
アリスはくだらない話を聞かされたような返事をしている。しかし私はここぞとばかりに首を突っ込んだ。
「ベンネスで飲まれている酒ってどんなものが多いの?」
私の食い気味な発言に引き気味のアリスと困惑気味のアウラ王子。そんなリアクションされても関係ない。
「え、えっと。米を使ったどぶろくって酒だったよ」
「どぶろく!」
つまり日本酒! 私が大好きな清酒の元となるお酒! どぶろくを濾過すれば清酒になる!
「じゃあこの国ではどぶろくがいくらでも……って、今過去形で言った?」
「レヴィアタンに荒らされて米が取れなくなったからね。今国内で飲まれているのは輸入ワインばかりだ」
なんてこと……。
「これは早急にレヴィアタンを退治しないといけないみたいね」
私のその発言にアリスとクロード、メアリーは呆れた表情を浮かべた。知ってたよ。その顔するの。でもアウラ王子はひとり神妙な顔をしていたのは意外だった。
「レヴィアタン退治……それは本気で言ってるのかい?」
しまった……。アウラ王子の返答に私は少しばかり後悔した。しかし退治するのは決定事項だ。
「ええ。本気よ」
私の返事を聞いてアウラ王子は初めて私の目をちゃんと見た気がした。ずっとアリスのことばかり見ていたので私のことは文字通り眼中になかったから。
「じゃあ笑わないで聞いてくれよな」
アウラ王子はそう言うと噴水の中央に向けて手を伸ばした。すると中央にあった三叉槍のモニュメントから光が伸びてアウラ王子の手元に届く。そしてアウラ王子が手を握ると金色に輝く三叉槍が現れた。
「僕はレヴィアタンを殺す。父と母の仇をこの手で討つ」
アウラ王子に言われて私たちは酒場を出た。そこでクロードが私にだけ聞こえるように言った。少し離れてアウラ王子とアリスが楽しそうに話をしている。
「酒場で絡んできた男たちも彼がひと言声をかけただけで反抗もせずに立ち去りました。つまり彼は何かしらの力を持っているということです」
クロードの推理は正しい。酒場の人間はアウラ王子が持つ権力も戦闘力も知っている。いや、酒場の人間だけじゃなくこの国の人は誰しもが知っている。
「そんな人間がアリス様に危害を加えようと考えているのだとしたら……」
「待ってクロード。待って」
クロードが腰に下げた剣の柄に手をかけたところで私は慌てて止める。
「暗殺術ならセバス直々に伝授されております。バレずに消すことなど雑作もありません」
「違う違う。そういうことじゃない」
とはいえ本人が偽名を名乗っているのに私がバラしても良いものだろうか。でもしばらくすれば強制イベントで正体を明かすことになるだろうし……うーん……。
「細かいことは今夜説明するから。それまでは我慢して。大丈夫だから。彼は無害だから」
「間違いございませんか?」
アリスの事となると本当にめんどくさい執事だな……。
「絶対! 神に誓って大丈夫!」
「……はあ。レジーナ様がそこまで仰るのなら」
クロードため息をついて剣の柄から手をはなす。とりあえずひと安心……かな?
「今夜まで待てばこの剣の手入れも完璧に終わることでしょう」
え、待って。クロードが言ってることが怖い。
「またまた怖い冗談を」
そう言って誤魔化そうとしたのにクロードは微笑み返してくるだけだった。
そうしてしばらく歩いたところでアウラ王子が立ち止まる。巨大な噴水のある広場。吹き上がる噴水の中央には三叉槍が立てられている。土の王国にあった盾のモニュメントがあった場所と似た雰囲気があった。
「治安の悪い国でごめんねアリスちゃん」
アウラ王子はそう言ってアリスに謝った。アリスは困った顔をしている。
「今この国には正式な王がいない。それに水の魔王レヴィアタンが復活してしまったんだ」
「レヴィアタン?」
旧約聖書に出てくる海の悪魔。聖王国のゲーム内では水の王国に封印された魔王の1体とされている。その姿は巨大な人食い鯨だ。
「初代水の王と初代花の王が封印したとされる魔物でね。夜になると湖に姿を現すんだ。そのせいでベンネスで毎日のようにひらかれていた水上パーティが全面禁止になってね」
「へ?」
重たそうな話から一気に軽い話に変わってアリスは拍子抜けした声を出す。私は知っていたので無心だ。
「ベンネスの国民は夜に水上で酒を飲んで騒ぐのが日常でね。それが禁止されてからみんなストレスが溜まっているんだ」
「へ、へー。そうなんですか」
アリスはくだらない話を聞かされたような返事をしている。しかし私はここぞとばかりに首を突っ込んだ。
「ベンネスで飲まれている酒ってどんなものが多いの?」
私の食い気味な発言に引き気味のアリスと困惑気味のアウラ王子。そんなリアクションされても関係ない。
「え、えっと。米を使ったどぶろくって酒だったよ」
「どぶろく!」
つまり日本酒! 私が大好きな清酒の元となるお酒! どぶろくを濾過すれば清酒になる!
「じゃあこの国ではどぶろくがいくらでも……って、今過去形で言った?」
「レヴィアタンに荒らされて米が取れなくなったからね。今国内で飲まれているのは輸入ワインばかりだ」
なんてこと……。
「これは早急にレヴィアタンを退治しないといけないみたいね」
私のその発言にアリスとクロード、メアリーは呆れた表情を浮かべた。知ってたよ。その顔するの。でもアウラ王子はひとり神妙な顔をしていたのは意外だった。
「レヴィアタン退治……それは本気で言ってるのかい?」
しまった……。アウラ王子の返答に私は少しばかり後悔した。しかし退治するのは決定事項だ。
「ええ。本気よ」
私の返事を聞いてアウラ王子は初めて私の目をちゃんと見た気がした。ずっとアリスのことばかり見ていたので私のことは文字通り眼中になかったから。
「じゃあ笑わないで聞いてくれよな」
アウラ王子はそう言うと噴水の中央に向けて手を伸ばした。すると中央にあった三叉槍のモニュメントから光が伸びてアウラ王子の手元に届く。そしてアウラ王子が手を握ると金色に輝く三叉槍が現れた。
「僕はレヴィアタンを殺す。父と母の仇をこの手で討つ」
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