未来からの小説、過去からの恋

色部耀

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HARU:三日目②

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『テニス用具倉庫に二十一年前の総体優勝記念のトンボがある。これは里高生でもテニス用具倉庫の中を見られる人しか分からないはず』

 私はKAZUから届いたメッセージを見て倉庫へと向かおうとベンチを立った。佐藤はお弁当を食べ終えて渉先輩と練習をしている。その様子を眺めていた千秋は不意に立ち上がった私を心配したように声をかけてきてくれた。

「どしたハル? 泣きそうな顔して」

「何でもない」

 我ながらKAZUの言葉でショックを受けていたのを隠せていないと分かった。

「何でもないわけないじゃん。あたしにできることあるなら何でも言いなよ」

 千秋はわざとらしい笑顔でサムズアップしてウィンクをする。気を遣わせてしまって申し訳ない。

「何でもない……こともないけど、ごめん。まだ整理がついてなくって上手く話せそうにないの。確かめなきゃいけないことがあって」

「そっか。じゃあ、話せるようになってら言いなよ! あたしら友達だし!」

「うん。絶対言うから」

 そう答えて私は倉庫へ向かった。倉庫の中にはトンボやブラシ、スコップなどのコート整備に使う道具とコーンなどの練習に使う道具が揃えて置いてある。奥には毎日使うわけでは無いもの――塩化カルシウムの入った袋や未開封の練習ボールなどが押し込められていた。
 コート整備用のトンボは倉庫に四本しかなく、すぐに確認することができた。

「そんなの無いじゃない……」

 ドラマのような偶然にひとり舞い上がっていた自分が急に恥ずかしくなってきた。それと同時に虚しさに襲われる。念のためと倉庫の奥まで探してもKAZUが言っているようなトンボは存在しない。半ばやけくそ気味に倉庫を漁る。嘘を吐かれた事実が確かなものになり悲しくて涙が出てくる。気を紛らわすために身体を動かしているようなものだった。そんなことをしていると、視界の隅にあるものが写った。

「釘……」

 コートにラインを打ち込むために用意されている釘。高校に入ってからラインの張り替えなんて一度しかしていない。そのくらい滅多に使わないもの。私はおもむろにその釘を掴むと倉庫の一番奥まで進んで壁に突き立てた。柔らかい鉄板で作られている倉庫の壁は悲鳴を上げながら私の手に握られた釘によって線を刻まれる。

 KAZUのバカ――

 感情的になって書き綴った七文字は思いの外私の心を静めてくれた。

『倉庫の中全部探してみたけどそんなもの無かったよ。代わりにKAZUにメッセージ残しといたから読めるもんなら読んでみなさいよ』

 壁に刻まれた言葉を指差しながら、小説サイトのメッセージでKAZUに送りつける。嘘でしたって謝ってくれるのなら許さないでもない。でも私だって怒る時は怒るんだ。

「ハルー。なんか凄い音してたけど大丈夫?」

「ちょっとだけ大丈夫になった! 千秋聞いてくれる?」

「何でも言ってって言ったじゃん! あたしら友達だし!」

 怒りの感情を吐き出すように私は千秋に打ち明けた。

「……実はネットで知り合った男がいたんだけどさ。そいつが同じ学校だって嘘吐いてたの」

「は? まじ? サイテーじゃん! 意味不明」

 私の感情に共感するように怒りの表情を作ってくれる千秋。

「それで、なんか倉庫に昔の人の優勝記念のトンボがあるからとか言ってさ。確認してもそんなの無いし」

「優勝記念にトンボとかありえんし。吐くならもっとまともな嘘吐けっての」

 言われてみれば優勝記念にトンボを買うなんておかしいのかもしれない。千秋に言われなかったらそんなこと思いもしなかっただろう。

「確かに……」

「そんな暗い顔してないでこっちおいで!」

 千秋はそう言って手を引っ張る。連れて行かれた先はテニスコートの中。

「佐藤! ハルが思いっきり打ちたいらしいからボール上げてー」

 千秋はそう言って手に持っていたラケットを私に渡す。

「はいよー」

 気の抜けた掛け声とともに佐藤はネット際から適当なロブを私の頭上に上げる。スマッシュするには絶好のチャンスボール。反射的に私はスマッシュを打つ構えを取り、力の限り、高ぶった怒りの限りに振りぬく。

「痛って!! どこ狙ってんだよバカ!!」

 綺麗な弾道で放たれたスマッシュは佐藤の脇腹に直撃した。痛がる佐藤とは裏腹に渉先輩も千秋も腹を抱えて笑っている。釣られて私も笑ってしまう。

「ごめんごめん! でも当たったのが佐藤で良かった」

「どういう意味だよ!」

「佐藤なら怪我してても怪我してなくても試合で勝てないでしょ?」

「うっせー! 一勝くらいしてやるから見てろよ!」

 少しの間かもしれないけど、千秋と佐藤のおかげで嫌なことを忘れられるほど笑うことができた。
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