未来からの小説、過去からの恋

色部耀

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HARU:四日目②

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「もう千秋帰っちまったぞ。俺も詳しい話は明日千秋もいる時に一緒に聞かせてもらうよ」

 六時間目が終わって少し経った頃、私は遅れて部活に顔を出した。コートの周りをランニングしている中に混ざると、ペースを上げて私を追い抜きながら佐藤がそう言う。六時間目をサボる時に先生に言い訳をしてもらうのを佐藤と千秋にお願いしていたから、何があったかは話しておかないといけないと思っていた。

「分かった! ちゃんと話す!」

 私よりも早く走る佐藤は、ぐっと親指を立てて先を行く。私も気持ちが穏やかで、いつもはつまらないはずのランニングも笑顔でこなしてしまうほど。これからもKAZUと話ができるのが嬉しい。未来の人なんていう突拍子もない話だったけど、それがまるで自分が小説の主人公になったみたいに感じさせて胸が躍る。自分がこの世界で特別な何かになれたかのようでワクワクする。五時間目が終わった瞬間に跳ぶように教室を出て、疲れることすら忘れて里見公園まで走れたのもKAZUと話すことが楽しみだったからという理由だけだろう。心臓の奥の奥から湧き出てくるような熱さ。ニヤニヤが止まらない。KAZUのことを考えるだけで気分が高鳴ってついついジャンプしたくなる。楽しいが体の中で木霊する。
 やっぱりこれは恋なのだろうか……。
 一日話すことが出来なかった間に溜まっていたフラストレーションが爆発して一気にひっくり返った気がする。恋かもしれない……そう思い始めると頭の中で何度も何度も好きだと叫んでしまう。私はKAZUのことが好きだ。私はKAZUのことが好きだ。KAZUともっとお話がしたい。KAZUのことをもっと知りたい。KAZUに――

 KAZUに会いたい……。

「山内さん、何だか今日は楽しそうだね」

 KAZUのことを考えている時に突然後ろから話し掛けられて驚いた。ランニング中なのでわざわざ後ろにまで注意を向けたりはしないけど、それでもいつもなら肩を上げるほど驚きはしなかっただろう。

「渉先輩」

「何か良いことでもあった?」

「そう……ですね。友達と仲直りできたって感じです」

「それで昨日は暗い顔してたのか。そっか。じゃあ、今日なら話しても大丈夫かな?」

 昨日話したいことがあると言っていたけれど、そのことだろうか。

「はい! 昨日は気を遣わせちゃってすみませんでした」

「じゃあ、部活が終わったら下駄箱前で待っててくれるかな?」

「はい! 分かりました!」

 KAZUとの仲が戻ったおかげでずっと自然と笑顔が続く。私に釣られてか、渉先輩も笑顔でランニングに戻った。遅れて部活に参加した私より先にみんながラケットを持って球出し練習に入る。しばらく一人だけで走っていることになったが、KAZUのことを考えていると時間が早く過ぎるような錯覚にでも落ちたようにすぐ走り終わった。
 練習風景も輝いて見える。まるでつい一時間ほど前までモノクロの世界にいて、今はカラフルな世界に変わったかのよう。全てがキラキラしている。これが恋をするというものなのか。すごい、すごい――

「楽しいね!」

「え? ああ、そうか?」

「うん! 楽しい楽しい!」

 試合形式の練習になるまでは男女合同で練習をするため、球出しの順番待ちをしている佐藤に後ろから話し掛けると、気持ち悪いものを見るかのような目をされた。そんなに私って変なことを言ってしまったのだろうか。まあ、それもどうでも良いような気がするけど。
 それから日が沈むまで、私は楽しい気分のまま部活動に勤しんだ。汗を掻いてべたついた肌もタオルで拭いただけで爽やかな気分になる。いつもなら早く帰ってシャワーを浴びたくなるものなのに、今は早く帰ってKAZUにメッセージを送りたい一心だった。
 この時は渉先輩から呼び出されていた件も、何の話だろうと楽観的で深く考えられないほどに思ってしまっていた。もっと真剣に考えておけば良かったと、後になって思っても遅い話だった。

「すみません。待ちましたか?」

「ううん。今来たとこ」

 私よりも早くに下駄箱の前で待ってくれていた先輩はいつもと違って少し話しかけづらい雰囲気を出していた。何を話したら良いか分からない。そんな感じの雰囲気。

「あの、話ってなんですか?」

 少しの間私の顔から視線を外していた渉先輩は、一度大きく深呼吸して真っ直ぐに私の目を見る。その仕草に訳もなくドキッとさせられた。それと共にこれから何を言われるのかを直感した。

「あんまりだらだら話すのもなんだから、単刀直入に言わせてもらうね。山内さん……」

 そこまで言って先輩はすっと右手を差し出す。

「俺は山内さんのことが好きだ。総体が終わったら、俺と付き合って欲しい」

 その言葉に、まるで私の時間が止められてしまったかのようだった。
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