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HARU:五日目③
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「ハルー。風呂あがったぞー」
「はーい」
私はお父さんからの声で携帯を閉じるとベッドに放り投げて部屋を出た。KAZUはこれから私のために、私だけのために小説を書いてくれる。そう思うと嬉しくてたまらなかった。今日一日忙しかった中で夕方から未来の私と会ってくれていたはず。未来の私はKAZUに何を話したのだろう。KAZUは未来の私と会ってどんなことを思ったのだろう。昨日から何度も何度も同じことを考えているけど、やっとその答えを聞くことができる。
脱衣所でジャージを脱ぎ捨て、洗濯機に突っ込む。風呂場に入る前に洗面台で笑顔を確認する。こんな感じで笑って会えば印象も良いかな。なんて思っていると鏡越しにお父さんと目が合った。
「お父さんのえっち」
私は照れ隠しの棒読みでそう言うと脱衣所の扉を閉めた。もちろん裸を見られた恥ずかしさじゃない。鏡で笑顔の練習をしていた瞬間を見られた恥ずかしさだ。
「お父さんは何も見てないぞー」
扉越しに言うお父さんの言葉に私は更に恥ずかしくなって風呂場に駆け込んだ。近所迷惑にならないように湯船に頭を突っ込んで叫んだのは我ながら賢いと褒めてあげたいくらいだ。それから体を洗って湯船に少しだけ浸かって出た。普段なら湯船の中だけでも三十分以上は入っているのだけど、今日は嘘みたいに早く上がった。やっぱりKAZUの小説が楽しみだからだろうか。三時間くらい待つように言われているので焦る必要はないけど、万が一三十分で書き上がったらと思うとゆっくりしていられなかった。
風呂場から出て体を拭くと、髪も乾かさずにバスタオルで頭を巻いた状態で部屋まで戻ろうとした。
「こらこらハル」
「なに? お父さん」
台所で煙草を吸っていたお父さんが廊下を歩く私に遠くから話し掛ける。
「いくら家の中でも裸で歩くな」
「すぐ戻るから!」
私はそう言って部屋に行くと、携帯を持って脱衣所に戻った。KAZUからの通知がないことを確かめるためだけ。それだけのために服も着ずに家の中を走った。初めから携帯を脱衣所まで持ってきていなかったのが悪いのだけど。
もちろんKAZUからのメッセージも小説の投稿も無い。それでも私は安心できた。安心してパジャマを着て髪を乾かすことができた。携帯で時間を確認してもまだ八時半。KAZUから言われてる時間まであと二時間半もある。
「テレビでも見て待ってよっかな」
リビングに戻ると煙草を吸い終わったお父さんがソファに座って缶ビールを飲んでいた。「うたばん」を見て声を上げて笑っている。
「あ、私も初めから見たかったのに」
「ああ、お父さんもさっき付けたとこだから一緒」
何が一緒なのだろう。それでもお父さんが悪いわけでもないし、文句を言うのも子供みたいか。そう思って私もソファに腰かけると、お父さんと一緒にテレビを見る。同じタイミングで同じように笑う私たちは、やっぱり親子なのだろう。そうしているうちに時間はあっという間に過ぎて九時になった。
「ねえお父さん。次どっちの料理ショー見ていい?」
「今日はみなさんのおかげでした見るからダメ。録画しといてやるから」
お父さんはそう言ってすぐにチャンネルを変える。
「私の部屋にもテレビ置いてよー」
何度目か分からない私からの要求。しかしお父さんは笑いながら答える。
「そんなことしたらハルがお父さんと一緒にテレビ見てくれなくなるじゃん」
「お父さん、絶対会社でウザいって思われてるでしょ」
「そ、そんなこと無い! と、思う。多分。それより今日はハル、やけに機嫌が良いけど学校で何かあった?」
流石は親なのか。何かあったのはお見通しみたいだった。というより、今日の私を見て何も無いと思う方が難しいか。
「あったっちゃあったかな」
とはいえ、何があったかを言うのも恥ずかしいので言うつもりはない。どんなことを言われるか分かったもんじゃないし、どれを取っても面倒くさそうだ。
「彼氏か!」
「違うわよ!」
言わなくても面倒なのは変わりなかった。
「まあ、彼氏ができたらいつでも連れてきなさい。早く孫の顔を見せておくれ」
「お母さんが出て行ったのも納得ね」
その言葉がトドメになってしまったのか、お父さんは黙り込んでしまった。これで静かにテレビを見れる。どうせすぐに二人して笑っているんだろうけど。
それから一時間。思っていたとおりお父さんもすぐに立ち直ってテレビを見て笑っていた。時計を見てそろそろ十時となったところで携帯に着信が入る。メール……。小説サイトにメッセージが届いたという通知だった。小説サイトに届くメッセージの送信者は一人しかいない。私はメールの中身を確認しただけで直ぐに自分の部屋へと戻った。
「あんまり夜更かしするなよー」
遠くから聞こえるお父さんの声に返事もせずに部屋の扉を閉める。携帯のブラウザにお気に入り登録してあるサイトに飛ぶと未読メッセージが一件と表示されている。KAZUに言われていた時間より一時間も早いけど、書き上がったのだろうか。そう思ってメッセージの内容を見る。
『少し長くなったけど、今日あったことと俺がどう思ったのかを書いたから読んで欲しい。感想は……書けそうになかったら書かなくても良いから』
感想が書けないなんてありえない! だってKAZUが私のために書いてくれた小説なんだもん!
『分かった。今から読むね』
簡単にそう返して私は小説のページを開いた。過去へ送る思いと題されたそれは、とても二時間で書き上げたとは思えないページ数で驚いた。私に宛てた思いなのかと思いながら、私はそれを読み始めた。
「はーい」
私はお父さんからの声で携帯を閉じるとベッドに放り投げて部屋を出た。KAZUはこれから私のために、私だけのために小説を書いてくれる。そう思うと嬉しくてたまらなかった。今日一日忙しかった中で夕方から未来の私と会ってくれていたはず。未来の私はKAZUに何を話したのだろう。KAZUは未来の私と会ってどんなことを思ったのだろう。昨日から何度も何度も同じことを考えているけど、やっとその答えを聞くことができる。
脱衣所でジャージを脱ぎ捨て、洗濯機に突っ込む。風呂場に入る前に洗面台で笑顔を確認する。こんな感じで笑って会えば印象も良いかな。なんて思っていると鏡越しにお父さんと目が合った。
「お父さんのえっち」
私は照れ隠しの棒読みでそう言うと脱衣所の扉を閉めた。もちろん裸を見られた恥ずかしさじゃない。鏡で笑顔の練習をしていた瞬間を見られた恥ずかしさだ。
「お父さんは何も見てないぞー」
扉越しに言うお父さんの言葉に私は更に恥ずかしくなって風呂場に駆け込んだ。近所迷惑にならないように湯船に頭を突っ込んで叫んだのは我ながら賢いと褒めてあげたいくらいだ。それから体を洗って湯船に少しだけ浸かって出た。普段なら湯船の中だけでも三十分以上は入っているのだけど、今日は嘘みたいに早く上がった。やっぱりKAZUの小説が楽しみだからだろうか。三時間くらい待つように言われているので焦る必要はないけど、万が一三十分で書き上がったらと思うとゆっくりしていられなかった。
風呂場から出て体を拭くと、髪も乾かさずにバスタオルで頭を巻いた状態で部屋まで戻ろうとした。
「こらこらハル」
「なに? お父さん」
台所で煙草を吸っていたお父さんが廊下を歩く私に遠くから話し掛ける。
「いくら家の中でも裸で歩くな」
「すぐ戻るから!」
私はそう言って部屋に行くと、携帯を持って脱衣所に戻った。KAZUからの通知がないことを確かめるためだけ。それだけのために服も着ずに家の中を走った。初めから携帯を脱衣所まで持ってきていなかったのが悪いのだけど。
もちろんKAZUからのメッセージも小説の投稿も無い。それでも私は安心できた。安心してパジャマを着て髪を乾かすことができた。携帯で時間を確認してもまだ八時半。KAZUから言われてる時間まであと二時間半もある。
「テレビでも見て待ってよっかな」
リビングに戻ると煙草を吸い終わったお父さんがソファに座って缶ビールを飲んでいた。「うたばん」を見て声を上げて笑っている。
「あ、私も初めから見たかったのに」
「ああ、お父さんもさっき付けたとこだから一緒」
何が一緒なのだろう。それでもお父さんが悪いわけでもないし、文句を言うのも子供みたいか。そう思って私もソファに腰かけると、お父さんと一緒にテレビを見る。同じタイミングで同じように笑う私たちは、やっぱり親子なのだろう。そうしているうちに時間はあっという間に過ぎて九時になった。
「ねえお父さん。次どっちの料理ショー見ていい?」
「今日はみなさんのおかげでした見るからダメ。録画しといてやるから」
お父さんはそう言ってすぐにチャンネルを変える。
「私の部屋にもテレビ置いてよー」
何度目か分からない私からの要求。しかしお父さんは笑いながら答える。
「そんなことしたらハルがお父さんと一緒にテレビ見てくれなくなるじゃん」
「お父さん、絶対会社でウザいって思われてるでしょ」
「そ、そんなこと無い! と、思う。多分。それより今日はハル、やけに機嫌が良いけど学校で何かあった?」
流石は親なのか。何かあったのはお見通しみたいだった。というより、今日の私を見て何も無いと思う方が難しいか。
「あったっちゃあったかな」
とはいえ、何があったかを言うのも恥ずかしいので言うつもりはない。どんなことを言われるか分かったもんじゃないし、どれを取っても面倒くさそうだ。
「彼氏か!」
「違うわよ!」
言わなくても面倒なのは変わりなかった。
「まあ、彼氏ができたらいつでも連れてきなさい。早く孫の顔を見せておくれ」
「お母さんが出て行ったのも納得ね」
その言葉がトドメになってしまったのか、お父さんは黙り込んでしまった。これで静かにテレビを見れる。どうせすぐに二人して笑っているんだろうけど。
それから一時間。思っていたとおりお父さんもすぐに立ち直ってテレビを見て笑っていた。時計を見てそろそろ十時となったところで携帯に着信が入る。メール……。小説サイトにメッセージが届いたという通知だった。小説サイトに届くメッセージの送信者は一人しかいない。私はメールの中身を確認しただけで直ぐに自分の部屋へと戻った。
「あんまり夜更かしするなよー」
遠くから聞こえるお父さんの声に返事もせずに部屋の扉を閉める。携帯のブラウザにお気に入り登録してあるサイトに飛ぶと未読メッセージが一件と表示されている。KAZUに言われていた時間より一時間も早いけど、書き上がったのだろうか。そう思ってメッセージの内容を見る。
『少し長くなったけど、今日あったことと俺がどう思ったのかを書いたから読んで欲しい。感想は……書けそうになかったら書かなくても良いから』
感想が書けないなんてありえない! だってKAZUが私のために書いてくれた小説なんだもん!
『分かった。今から読むね』
簡単にそう返して私は小説のページを開いた。過去へ送る思いと題されたそれは、とても二時間で書き上げたとは思えないページ数で驚いた。私に宛てた思いなのかと思いながら、私はそれを読み始めた。
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