7番目のシャルル、聖女と亡霊の声

しんの(C.Clarté)

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第八章〈オルレアン包囲戦・終結〉編

8.1 オルレアン勝利までの12日間(1)

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 3月8日に初めて謁見してから4月27日に旅立つまで、私はできるだけジャンヌ・ラ・ピュセルをそばに置き、他愛ない話をしたり、さまざまな人と対面させて、さりげなく様子をうかがった。
 もし、少女が詐欺師なら、四六時中、国王とその側近たちに見張られている状況は大きなプレッシャーになるだろうし、いずれボロを出すかもしれない。敵方のスパイなら機密情報を求めてこちらに探りを入れてくるだろうし、隙だらけの私を見て暗殺を試みるかもしれない。

 結局、異常に前向きなこと以外に、あやしいところは何も見つからなかった。
 ジャンヌを聖女たらしめている神秘的な言動も、初対面と出発時の対話くらいで、普段は天真爛漫なそのもの。

 どう考えても、裏の顔があるようには見えない。
 私を騙すつもりで一芝居を打っているなら大したものだ。
 仮にジャンヌが悪人で、ある時点で正体を明かして反逆したとしても、私は騙されたことを怒るよりも、うまく演じ続けたことを称賛するかもしれない。

 ジャンヌに好意を抱いたのは私だけではない。マリー・ダンジュー、ヨランド・ダラゴン、ラ・イル、アランソン公……、老若男女、身分に関係なくほとんどの人がジャンヌの人柄に魅かれた。
 単純な人間はジャンヌのすべてを受け入れ、慎重な人間は「聖人かどうか」の判断を保留しつつも「純朴な善人である」ことは間違いなく認めた。

 そういう人間が、善意ゆえに災いに巻き込まれて犠牲になるのは後味が悪い。

 だから、取り返しのつかない経験をする前に、いつでも自由に逃げていいと思っていた。戦場を目の前にして、命と名誉が危険に晒されたら誰だってそうする。

 私はジャンヌに何も命令しなかったし、オルレアン包囲戦の司令官であるデュノワにも「自由にさせるように」と伝えた。これは「ジャンヌの言いなりになれ」という意味ではない。

 好きな時に逃げていい——、そういうことだ。





 5月8日、伝令が来た。
 見送ってから12日、オルレアンに着いて一週間から10日ほどだろうか。
 四旬節が過ぎてイングランドの攻勢が再開したと聞いていたから、ついにジャンヌが根を上げたかと思いきや、

「勝った……だと?」

 にわかに信じられない知らせだった。

 実際、勝利の一報をもたらした伝令の様子がおかしかったため、口述筆記したジャンヌの手紙ではなく、伝令自身が直接見聞きした情報を問いただすと、「まだ勝利は確定していない」と言う。

「4月27日に旅立ってからの出来事を、順を追って説明してほしい」
「は、恐れながら申し上げます……」

 オルレアンまでの行軍中、ジャンヌはずっと讃美歌を歌っていたらしい。
 軍隊の行進ではなく、まるで巡礼者のように。
 敵方に見つかるのではないかと恐れたが、幸い、イングランド兵にも脱走兵にも遭遇しないまま無傷でオルレアンに到着した。

 クレルモン伯の時と同じく、半分は援軍としてオルレアンに残り、もう半分は次回の兵站輸送のために再びブロワ城へ引き返す。

 ジャンヌは「ほら、あたしの言った通りになった。神様のおかげですよ」と胸を張り、感謝の祈りを捧げるために教会を訪れた。そこで、負傷者が収容されているのを見つけると、悲鳴をあげて涙を流し「どうして何も教えてくれなかったの?」と出迎えのデュノワを責めた。

「じっとなんかしてられない!」

 ジャンヌは軍旗を手に取ると、馬に騎乗してオルレアンの街路を駆け抜け、城門を飛び出して、平野に踊り出た。

 そこには、生々しい小競り合いの跡があった。
 負傷者は町に引き取られたが、死者はそのままになっていた。
 荒れた平野の先にイングランド軍が陣取る城砦があったが、ジャンヌが半狂乱で泣き叫んでも敵が出てくる気配はなかった。すでにこの日の戦闘は「お開き」だったから。

 おそらく、デュノワはジャンヌ一行を安全に出迎えるために、到着する少し前にわざと小競り合いを仕向けたのだろう。オルレアンの近くで戦闘を起こせば、周辺を巡回する敵兵を減らすことができる。
 教会にいる負傷者と、死者が転がっている戦地を見せたのも、ジャンヌ本人が傷を負う前に、無謀な考えを改めるきっかけになればとデュノワは考えたのではないか。

 オルレアンに到着して早々、ジャンヌは大きなショックを受けた。
 しかし、意志がぶれたり、保身を考えて逃げるどころか、「戦う決意」を固めるきっかけになってしまったようだ。

 デュノワが見たジャンヌ・ラ・ピュセルは、聖女というよりむしろ戦士だった。



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