7番目のシャルル、聖女と亡霊の声

しんの(C.Clarté)

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第十章〈聖女の受難〉編

10.11 コンピエーニュ包囲戦(4)捕縛

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 コンピエーニュ包囲戦は、ジャンヌが捕らわれた戦いとして知られている。
 この物語を読んでいる読者諸氏の時代および言語の資料では「1430年5月23日」と書かれているが、実際の戦いは5月20日から10月28日まで5ヶ月以上にわたって繰り広げられた長期戦だ。

 5月23日は、ジャンヌが捕縛された運命の日だ。

 このことからも分かるように、日本語圏ではこの戦いについて「ジャンヌ・ダルク」の文脈でしか語られないが、もう少し広い視野でつづってみよう。





 1430年3月、ブルゴーニュ公がコンピエーニュ包囲を計画している情報が入り、私は戦争回避のために降伏をすすめたが、町からの返答は「援軍要請」だった。

 早くも3月末、ブルゴーニュ公はコンピエーニュ郊外に攻撃を仕掛け、守備隊は町の要塞に撤退。この時点で戦いは避けられない状況になっていた。

 4月、ブルゴーニュ公の重臣ジャン・ド・リュクサンブール率いる先遣隊が出陣。イングランド摂政ベッドフォード公は、パリ包囲戦の礼を兼ねてこの戦いを支援すると表明。カレーの港に新たなイングランド軍が上陸した。

 5月20日、開戦の日。
 コンピエーニュの町は、北西にイングランド軍、真北にブルゴーニュ軍の本隊、北東にリュクサンブール軍がそれぞれ陣を構えた。

 その一週間前、北側が完全に包囲される直前にジャンヌは到着していた。
 オルレアンを解放した「救国の聖女」が来たことはすぐに知れ渡り、戦意は最高潮に達した。

 町の北側は敵軍に覆い尽くされているが、南側はガラ空き——かと思いきや、70キロ先にパリがあるため、ベッドフォード公がパリ駐屯兵を派遣すれば南北で二正面作戦を強いられる。

 補給路を確保していたオルレアン包囲戦とはまるで違う。
 どう考えても防衛側が不利な様相を示している。

 開戦後、ジャンヌは敵の布陣を見て「今のままではだめだ」と判断し、危険を冒して町を出た。

 5月22日、10キロ南にあるクレピ・アン・ヴァロワで小さな傭兵団をいくつか呼び寄せて合流し、コンピエーニュに戻ってきた。地名から分かる通り、王位に就く前のヴァロワ家にゆかりのある地域だ。

 仮に、パリから敵が進軍してきても、コンピエーニュの前にクレピ・アン・ヴァロワで食い止める。そういう約束も取り付けた。

 ジャンヌが捕縛された後、コンピエーニュの町が5ヶ月以上も持ち堪えることができたのは、開戦から3日間でジャンヌが町を防衛するためにあらゆる手を尽くしたおかげだろう。

 クレピ・アン・ヴァロワから帰還して一夜明けた5月23日。
 ジャンヌはほとんど休む間もなく、今度は戦いの前線に出ることにした。
 民兵を中心に組織された守備隊を率いて、町の北側に布陣しているブルゴーニュ軍に奇襲をかけたのだ。

 いつものあの白い軍旗をたなびかせながら、ジャンヌは先頭に立って進んだ。

 直接見ていなくてもわかる。あの子はいつもそうだ。
 いつも同じ行動をしていれば、いずれその行動は読まれて先回りされるようになる。

 ブルゴーニュ軍の本隊にたどり着く前に、北東に布陣していたリュクサンブール軍がジャンヌの行手を阻んだ。奇襲攻撃は読まれていて敵軍6000人が待ち構えていた。

 ジャンヌはコンピエーニュ出身の民兵たちに退却を命じた。
 あの子の性格からすれば、苦渋の決断だっただろう。

 オルレアン包囲戦も、トロワ包囲戦も、ランス行軍も、パリ包囲戦も、あの子はいつも「前へ進め」と言った。負傷して泣き喚きながら、それでも「止まるな、退くな」と言い続けていた。

 しかし、コンピエーニュ包囲戦は違った。
 民兵は、戦うために教育された騎士とは違う。自ら武器を手にした傭兵とも違う。戦争がなければ、手に職を持つごく普通の民間人だ。

 ジャンヌは民兵たちを急き立てて、町に引き返すように促し、自分は一番後ろの殿しんがりで戦った。

 民兵を守ろうとしたのか。
 それとも、「後退したくない」矜持があの子をそうさせたのか。

 あの子がプライドを捨ててコンピエーニュの町に戻ってきたとき、城門は閉ざされていた。ジャンヌは本当にギリギリになるまで敵の最前線に立ち向かっていたから、ジャンヌのほんのわずか後ろに敵兵6000人が迫っていた。

 ジャンヌを待っていたら、町に侵入を許してしまう。

 その恐れが、民兵たちに「ジャンヌを切り捨てる」選択をさせたのかもしれない。あるいは、聖女ならば奇跡を起こして絶体絶命の危機を乗り越えると思ったのか。

 ブルゴーニュ軍に取り囲まれたジャンヌは、とざされた城門の前でそれでも戦い続けたが、ついに上着をつかまれて馬上から引きずり下ろされてしまった。

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