「第二の聖女になってくれ」と言われましたが、お断りです

鬱沢色素

文字の大きさ
2 / 41

2・聖女を辞めました

しおりを挟む
 そう言い放つと、今度はサディアスが「は?」と目を丸くする番となりました。

「なんで──」
「そもそも、殿下はどうして今まで聖女が一人しかいなかったのか、ご存知ですか?」

 サディアスの言葉を遮って、私はそう問いかけます。

「特に理由はないだろう。どうせ、二人目の聖女を探すのが、面倒くさかっただけだ」
「いいえ、違います」

 聖女は国中の“穢れ”を払う、大切なお仕事。
 なのに、どうして今まで一人しかいなかったのか。
 それは、女神様の神託で『聖女は一代に限り、一人ずつ』と決められていたからです。

 過去に女神の神託を破って、二人目の聖女を雇った例もいくつかありました。

 ですが、ことごとく裏目に出ました。

 時には二人の聖女が権力争いを繰り広げ、機能不全に陥り。
 時には聖女でも対処が出来ないような疫病が蔓延し、たくさんの人が死んだと聞いています。

 人々は言いました。
 女神の神託を破ったから、罰が当たったのだ──と。

 この国において女神は絶対のもの。
 事態を悪化させないためにも、二人目の──つまり、殿下の言うところの『第二の聖女』を、人々は長らく誕生させてこなかったわけです。

「教典を読み込んでいれば、分かることです。まさか、殿下は知らなかったのですか?」
「……っ! そ、そんなの、ただの偶然だろう。女神なんて偶像に騙されて、仕事を効率化しないなんてバカげている。僕はそんなものを信じない」

 サディアスはむすっとして、そう答えました。

 偶然……ですか。

 確かに、過去に起こったこととはいえ、今回も同じだとは限りません。
 第二の聖女を誕生させても、女神の怒りに触れない可能性もあります。

 ですが、女神の神託を信じている者が多いのは事実。

 女神の神託を破るような真似をしたら、必然と反発も大きくなります。
 そうなると、王家の支持率も下がると思いますが……サディアスは、そんなことにも頭が回らないのでしょうか?

 それに。

「私は……聖女としての仕事を、誇りに思っていました」

 聖女のお仕事は大変なものでした。
 不眠不休で働き続けるのは当たり前。
 時には病気でまともに働かなくても、私は一生懸命、国のために尽くしました。

 それなのに、新参者に『第一の聖女』を与えて、私が補佐に回る?
 サディアスの愛する人を支える?

 ここまでコケにされたら、私だって黙っていられません。

「あなたは、私のことをどう思っていたんですか?」
「どう……って。使い勝手のいい聖女だな、と。君は文句も言わず、働いてくれるからな。雇用側として、君ほど有り難いはいないよ」

 不可解そうな顔で、サディアスは告げました。

「…………」

 その返答を聞いて、彼への気持ちがぷっつりと途切れました。

『もしかしたら、私はサディアスと相思相愛なのでは?』と、考えた時もありました。

 ですが、全ては私の勘違い。

 サディアスが優しくしてくれたのも、彼は私のことを都合のいい駒としか見ていなかったということでしょう。
 そうでなければ、『第二の聖女になってくれ』なんて、バカげたことを言わないはずです。

 どうして、私はこんな男のことを好きだったのでしょうか?
 今となっては、理解できません。

「……とにかく、第二の聖女に関しては、私は断固反対です。即刻、考えをあらためてください」
「はあ!? 今更、なにを言っているんだ!」

 サディアスが怒りで顔を染めます。

「優しくしていたら、つけ上がりやがって……っ! 君に拒否権はないんだ! 文句があるなら、この城から出ていけ!」
「そうですか。では、お言葉に甘えまして──」

 私はサディアスに背を向けます。

「待て! どこに行く!?」
「出ていけと言われたから、あなたの前からいなくなろうと思っているだけですが?」
「君の仕事はどうなる! 仕事をほっぽり出すつもりか! 無断欠勤なんて許さないぞ!」
「その、第一の聖女であるエスメラルダさんにやってもらえばいいじゃないですか。それに、一週間くらいは私がいなくても、王宮が回るように仕事を終わらせています」

 だから──。

「本日限りで、聖女を辞めさせていただきます。もっとも……あなたも、解雇《クビ》にするつもりで言ったと思いますが」

 彼の制止の声にもあっさりと答えて、私は部屋から出ていきました。



「どうしましょう……我慢の限界だったとはいえ、少々軽率すぎたような気がします」

 城から出ると、急に自分のしでかした行いが怖くなってきました。
 とはいえ、もう後戻りは出来ません。

「サディアスに裏で手を回されて、まともな職に就けないかもしれませんし……そうでなくとも、この国にはあまりいい思い出はありません。セレスティアで生きていくのは、厳しいでしょうか?」
 
 ……となると、やっぱり。

「よし、決めました」

 前々から考えてきたことを、私は実行に移すことにしました──。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

トカゲ令嬢とバカにされて聖女候補から外され辺境に追放されましたが、トカゲではなく龍でした。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。  リバコーン公爵家の長女ソフィアは、全貴族令嬢10人の1人の聖獣持ちに選ばれたが、その聖獣がこれまで誰も持ったことのない小さく弱々しいトカゲでしかなかった。それに比べて側室から生まれた妹は有名な聖獣スフィンクスが従魔となった。他にもグリフォンやペガサス、ワイバーンなどの実力も名声もある従魔を従える聖女がいた。リバコーン公爵家の名誉を重んじる父親は、ソフィアを正室の領地に追いやり第13王子との婚約も辞退しようとしたのだが……  王立聖女学園、そこは爵位を無視した弱肉強食の競争社会。だがどれだけ努力しようとも神の気紛れで全てが決められてしまう。まず従魔が得られるかどうかで貴族令嬢に残れるかどうかが決まってしまう。

聖女の紋章 転生?少女は女神の加護と前世の知識で無双する わたしは聖女ではありません。公爵令嬢です!

幸之丞
ファンタジー
2023/11/22~11/23  女性向けホットランキング1位 2023/11/24 10:00 ファンタジーランキング1位  ありがとうございます。 「うわ~ 私を捨てないでー!」 声を出して私を捨てようとする父さんに叫ぼうとしました・・・ でも私は意識がはっきりしているけれど、体はまだ、生れて1週間くらいしか経っていないので 「ばぶ ばぶうう ばぶ だああ」 くらいにしか聞こえていないのね? と思っていたけど ササッと 捨てられてしまいました~ 誰か拾って~ 私は、陽菜。数ヶ月前まで、日本で女子高生をしていました。 将来の為に良い大学に入学しようと塾にいっています。 塾の帰り道、車の事故に巻き込まれて、気づいてみたら何故か新しいお母さんのお腹の中。隣には姉妹もいる。そう双子なの。 私達が生まれたその後、私は魔力が少ないから、伯爵の娘として恥ずかしいとかで、捨てられた・・・  ↑ここ冒頭 けれども、公爵家に拾われた。ああ 良かった・・・ そしてこれから私は捨てられないように、前世の記憶を使って知識チートで家族のため、公爵領にする人のために領地を豊かにします。 「この子ちょっとおかしいこと言ってるぞ」 と言われても、必殺 「女神様のお告げです。昨夜夢にでてきました」で大丈夫。 だって私には、愛と豊穣の女神様に愛されている証、聖女の紋章があるのです。 この物語は、魔法と剣の世界で主人公のエルーシアは魔法チートと知識チートで領地を豊かにするためにスライムや古竜と仲良くなって、お力をちょっと借りたりもします。 果たして、エルーシアは捨てられた本当の理由を知ることが出来るのか? さあ! 物語が始まります。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

妹が真の聖女だったので、偽りの聖女である私は追放されました。でも、聖女の役目はものすごく退屈だったので、最高に嬉しいです【完結】

小平ニコ
ファンタジー
「お姉様、よくも私から夢を奪ってくれたわね。絶対に許さない」  私の妹――シャノーラはそう言うと、計略を巡らし、私から聖女の座を奪った。……でも、私は最高に良い気分だった。だって私、もともと聖女なんかになりたくなかったから。  退職金を貰い、大喜びで国を出た私は、『真の聖女』として国を守る立場になったシャノーラのことを思った。……あの子、聖女になって、一日の休みもなく国を守るのがどれだけ大変なことか、ちゃんと分かってるのかしら?  案の定、シャノーラはよく理解していなかった。  聖女として役目を果たしていくのが、とてつもなく困難な道であることを……

処理中です...