「第二の聖女になってくれ」と言われましたが、お断りです

鬱沢色素

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4・聖女の人助け

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「浄化した!? 今の一瞬で!?」

 彼は目を見開き、私の肩をがしっと掴みます。
 突然のことすぎて、思わず体が震えてしまいました。

「す、すまない」

 私が怖がっているのに気付いたのか、男は謝罪し、ゆっくりと私の肩から手を離します。

「しかし……今の一瞬で呪いを浄化するとは、すごすぎる。君は一体何者なんだ……?」
「え、えーっと」

 どうしましょう。いきなりセレスティアの聖女であることがバレてしまいそうです。
 焦った私は、咄嗟にこう口を動かしました。

「じ、実は私、解呪師なんです。だから、その剣の呪いを浄化させることが出来ました」
「なるほど……どおりで」

 私の言葉を信じたのか、彼は納得したように何度か頷きます。

 ほっ……なんとかなりました。
 正しくは本職の解呪師ではないのですが……呪いを浄化することは、聖女のお仕事に含まれます。
 だから、嘘を吐いていることにはならないはず……ですよね?

「解呪師は一般的に怖いというイメージを抱かれがちだ。呪いは普通の人にとって、得体の知れないものだからな。だから俺を怖がらせないように、わざと解呪師であることを隠したといったところか」
「そんなところです」

 私が言わなくても、彼は一人で納得していみたいでした。

「そ、それよりも……お体の方はどうですか? 剣にかけられていた呪いを払ったので、元に戻っていると思いますが」
「ああ、君のおかげで体も軽くなった。重ね重ね礼を言う」

 と、彼は頭を下げました。

 浄化魔法を使えば、元聖女であることがバレてしまうかも。
 だけど、だからといって困っている人を見過ごせませんでした。
 なので、彼を助けられて私もほっと一安心です。

「そういえば、君の名前を聞いていなかったな。俺はウィリアムという。君は?」
「私はアルマです」

 ようやく彼──ウィリアムさんの名前を知れました。

 それにしても……ウィリアムという名前は、どこかで聞いたことがあるような?
 ですが、セレスティアでは珍しくない名前です。他国ではどうか知りませんが、大きく違っているわけではないでしょう。

「なんだ~? さっきから後ろが騒がしいな。あまりトラブルを起こさないでくれよ。じゃないと、予定通りにベイルズに着けない」

 ウィリアムさんと言葉を交わしていると、前から御者の方の声が聞こえてきました。
 私とウィリアムさんは謝り、馬車に揺られながらベイルズへと向かうのでした。



 ……そして数日後。
 ようやく、ベイルズの王都に到着。

「道中は世話になったな」

 馬車から降りて、ウィリアムさんはそう口にします。

「こちらこそです。おかげで楽しい旅になりました」

 と私も返事をします。

 剣の呪いを払ってから、ウィリアムさんは嘘のように饒舌になりました。
 それは私に対する警戒心が薄れたおかげもあると思うけど、一番は体調不良が治ったおかげでしょうか。
 元々、こういう人なのかもしれません。

「君はしばらく、ここ王都で暮らすつもりだったな。期間は決めているのか?」
「いえ……細かくは決めていません。なるべく長く住みたいとは思っているんですが」

 私の事情についても、馬車の中で説明していました。

 もっとも、バカ王子のサディアスに『第二の聖女になってくれ』と言われたのが頭にきて、隣国に移住しようとしている──という本当の理由を伝えるわけにはいきません。
 解呪師としてベイルズで働きステップアップしたいと伝えたら、ウィリアムさんはすんなりと納得してくれました。

「なるべく長く住みたい……それはいい」

 と、ウィリアムさんは声を弾ませます。

「ベイルズは移民者を広く受け入れている国だ。きっと、君も気に入ると思うよ」
「そうだったら、いいんですが」
「そうだ──」

 なにかを思い出したように。
 ウィリアムさんは声を零し、バッグからあるものを取り出します。

「今日は急いでいるため、また日を改めて礼をさせてほしいが──ひとまず、解呪をしてくれた礼だ。受け取ってほしい」
「え!?」

 そんなものがもらえるとは思っていなかったので、変な声が出てしまいます。

 ウィリアムさんが取り出したものは、銀のブローチ。
 なんの変哲もないブローチに見えますが……貴重なものでしょう。私はすかさず首を横に振ります。

「わ、悪いですよ……私はそんなつもりで、剣の呪いを払ったわけではありませんし」
「そう言わずに受け取ってくれ。じゃないと、俺の気が収まらない」
「でも……」
「いくら、この国は移民者が多いとはいえ、外国人の君は色々と困ったことも出てくるだろう。その時、このブローチを出してほしい。きっと、君の力になるだろうから」

 頑なにウィリアムさんはブローチを渡そうとしてきます。
 ……ここまで言われて断るのも、逆に失礼ですか。

「分かりました。ありがとうございます。大切にしますね」
「礼を言うのはこちらの方だ。本当にありがとう」

 ブローチを受け取ると、ウィリアムさんは安心したように頬を緩めました。

「では、俺はもう行く。冒険者ギルドに、依頼達成の報告をしなければならないからな」
「はい」

 頷くと、ウィリアムさんは名残惜しそうに去っていきました。

 素敵な出会いでした。
 また会えればいいんですが……。

 まあ、ベイルズの王都は広いです。私たちがまた、偶然巡り会う確率は低いでしょうが。
 少し残念に思いながら、私もその場を後にしました。




 ◆ ◆


「殿下!」

 俺が王都内にある城に帰ると、執事のクラークが慌てた顔をして駆け寄ってきた。

「また黙って、城を出られましたね! ダメではないですか! 殿下が急にいなくなって、城の皆は大忙しでしたよ!」
「今回は緊急を要したんだ。それに悪いと思っているから、急いで帰ってきたじゃないか」

 悪びれずに俺はそう答える。

 ──先日、俺はベイルズ国内にいた魔物と戦った。

 レイスという魔物だ。
 しかし、トドメを刺す前にレイスは逃げてしまい、その行方を探っていたが……なんとセレスティアにいることを掴んだ。
 これは由々しき問題だ。
 最悪、国際問題にもなる。

 ゆえに俺は急いで、セレスティアまで向かったのだが……。

「自分の立場を理解してください」

 クラークは溜め息を吐く。

「あなたはこの国において、大切な人物。本来は冒険者になることも止められていたというのに……ちゃんと聞いていますか? ──ウィリアム殿下」

 と、クラークは俺──ウィリアムを嗜めた。

 俺はベイルズ王国の第一王子だ。
 王継承権を持つれっきとした王子の一人だが、から、冒険者としても活動している。

 もっとも、一国の王子が冒険者だなんてことがバレたら、無用な騒ぎを生む。
 ゆえに一部の者を除いて、冒険者として活動していることは秘密にしていた。

 目の前の男、執事のクラークも俺の秘密を知る一人である。

「そんなことより、道中で面白い女に出会ったぞ」

 本来なら、クラークに説教をされて顔を顰めるところだが……今の俺は機嫌がよかった。
 道中で解呪師の女性、アルマに出会ったからだ。

 最初は変な女だと思った。
 王子であることを隠さなければならないのに、彼女は積極的に話しかけてくる。
 しかし、王家に代々受け継がれてきた愛用の剣に呪いがかけられていると知った時の彼女は、まるで人が変わったかのようだった。

「知らない間に、今回倒した魔物に呪いをかけられてしまったようでな。この剣だ。それをあっという間に、彼女は浄化してしまったよ」
「今回倒した……って、魔物のレイスですよね? その呪いをですか……? そんなバカな。レイスの呪いは、ただ触れただけでも魂を削られるほどの強力なものです。いくら解呪師でも、簡単に浄化できるとは思いませんが」
「だから驚いているんだ」

 解呪というのは危険な作業だ。
 作業中に呪いが跳ね返り、術者を蝕んでしまった例も聞く。
 レイスの呪いはさらにその危険が高くなるというのに、彼女は躊躇わずに剣の呪いを払おうとした。

 しかも、なんの見返りも求めず。
 あんな心が清らかな女性は、なかなかいない。

「また会えればいいな」

 本心が口から漏れるのであった。
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