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6・商業ギルドで開業手続き
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「ダメだ」
商業ギルド。
道具屋を開く手続きをするため、そこに向かったのはいいですが、ギルド長にそう突っ返されました。
「どうして!?」
思わず受付の机を叩き、私は声を大にしてしまいます。
「お嬢ちゃん……アルマっていったか。アルマはセレスティアの人間なんだろ?」
「そうです。ですが、この国に移住してきて……」
「だったら、やっぱりダメだ。いくらこの国が移民者を広く受け入れているとはいえ、一定の決まりはある」
ギルド長の説明はこうです。
移民者を広く受け入れることは、人口を増やし、国を活性化させるメリットがある。
ですが、治安の悪化。雇用の取り合いといったデメリットも存在するため、移民者は簡単にお店を開けない。
「移民者が不法なものを持ち込み、商売を始める例もあるからな。一時的な露天商や行商人ならともかく、街に店を構えて、本格的に商売をすることを認めるわけにはいかねえ」
「そこをなんとか……」
「俺だってなんとかしてやりてえとは思ってる。お嬢ちゃんは、いい人そうだからな。だが、規則は規則。規則を破ったら、俺が捕まっちまうよ」
とギルド長は肩をすくめます。
「そこをなんとか……」
「ダメなもんはダメだ。だが、余所者でも店を開く方法がないことはねえ」
ギルド長は人差し指を立てて、こう続けます。
「その一つが、この街に移住して、しばらく暮らすことだ。その間に問題を起こさなければ、店を開く許可を出せる」
「しばらく……というのは具体的にどれくらいでしょうか?」
「一年だ。一年、この街に住んで犯罪を犯さなければ、許可証を出してやる。言っておくが、一年っていうのは他国に比べたら短いんだぜ?」
一年……ですか。
妥当だと思いますが、その間に生活費が尽きてしまうでしょう。
寝泊まりとするところもなく、途中で野垂れ死ぬ未来が見えています。
ですが、ギルド長も意地悪を言っているわけではなさそうです。自分の力ではどうしようもなく、困っている様子でした。
なにか、他に方法があれば──。
「あ」
そこで私は思い出します。
『いくら、この国は移民者が多いとはいえ、外国人の君は色々と困ったことも出てくるだろう。その時、このブローチを出してほしい。きっと、君の力になるだろうから』
馬車の中で出会った男性、ウィリアムさんの言葉を。
去り際、私は彼から銀のブローチをもらいました。
本当にこれを出しただけで、なんとかなるとは思えませんが……試す価値はありそうです。
「実は、こういうものも持っているんですが……」
服の内側ポケットから、私は銀のブローチを取り出します。
身につけて盗まれても困るので、ここにしまっていたのです。
「んん?」
すると、ギルド長は首を伸ばして。
「……いいブローチだな。値打ちもんだ。売れば、まあまあ金になると思うぜ。だからといって、俺がこれで考えが変わるとでも? 賄賂のつもりなら、俺をバカにして──」
しかし、途中で言葉を止めて。
焦ったように目を見開き、今度は銀のブローチをまじまじと眺めます。
「この精巧な造り……そして、この中央に彫られた意匠。まさか──」
ギルド長は息を呑み、私に顔をぐいっと近付けます。
「す、すまなかった! まさかあんたが、これを持っているとは! そうと分かれば、話は早い。今すぐ、お店の開業手続きを進めるから、少し待っててくれ!」
「は、はあ……」
戸惑っている間にも、ギルド長は慌てて椅子から立ち上がり、奥へ消えていきました。
え──なんで!?
銀のブローチを見せた瞬間、ギルド長が目の色を変えました!
このブローチに秘密がありそうですが……怖くて、問いただす気になれません。
「もしかして……ウィリアムさんは、地位の高い方なのでしょうか」
有り得ます。
ギルド長でも逆らえないような相手。たとえば貴族が無茶を言えば、ギルド長も首を縦に振らざるを得ないかもしれません。
ですが、それだけで規則に厳しそうだったギルド長の考えを変えることが出来るでしょうか?
もしかしたら、もっと上の──。
「まさか……ね」
ぽつりと呟きます。
ウィリアムさんは冒険者と言っていました。
ならずもののイメージが強い冒険者に、わざわざ貴族がなるとは思えませんし、私の考えすぎでしょう。
そう自分に言い聞かせていると、ほどなくしてギルド長が戻ってきました。
「これが許可証だ。店を開いたら、目立つところに提示しな。あと……困ったことがあったら、すぐに俺に相談しろ。誠心誠意、対応させてもらう」
ギルド長から許可証を受け取ります。
……一時はどうなることかと思いましたが、あっさりとお店を開く許可が出てしまいました。
「ひとまず……よかった、ということですかね?」
ウィリアムさんからもらったブローチのことは気になるけど、あまり深入りもしたくありません。
頭を切り替えて、私は次にやるべきことを考えます。
「あとは……お店を開く建物と場所でしょうか。それがなければ、道具屋が始められません」
一難去って、また一難。
お店を開く許可。そして、並べる商品についてもアテがあるものの、肝心のそれを売る場所が見つかっていません。
店舗を買えるほどのお金はないので、必然的に賃貸にはなるでしょう。
ですが、お金はあまり使いたくないですし、高い物件を借りることは出来ません。
どうすれば──。
「おや、そこのお美しい貴婦人。なにかお困りごとですか?」
頭を悩ませていると、声をかけられます。
振り返ると、そこにはキレイな服に身を包んだ男性が立っていました。
「失礼ですが、あなたは……?」
「メルヴィン・ヴァルローンといいます。この街で商売をしている伯爵です。以後、お見知り置きを」
と男性──メルヴィンさんは優雅に一礼します。
貴族!
しかも伯爵!
伯爵というと、貴族の中でもかなり位が高かったはずです。
セレスティアでも平民だった私は貴族の登場に、ついつい恐縮してしまいます。
「す、すみません。伯爵家の方だったんですね。この国に来たのは今日だったので、分からなくて……」
「そうかしこまらなくても結構ですよ。別に失礼とは思っていませんので」
メルヴィンさんは、私の言葉を手で制します。
メルヴィンさん……いい人です。
貴族の中には傲慢で、ろくに話を聞かない人もいますからね。
それなのにメルヴィンさんの態度は柔らかく、知らず知らずのうちに私は緊張を解いてしまいました。
「それに、謝らなければならないのは私の方です」
「え?」
「実は……ギルド長とあなたの会話、横から盗み聞きさせてもらっていたんですよ。そこで、あなたの事情についても知りました」
メルヴィンさんは顎を手で撫で。
「この街で、店を開くそうですね。どうして移住してきたばかりのあなたに許可が出たのかは分かりませんが……事情がお有りなのでしょう」
「は、はい」
「でしたら、店を開くための建物と場所に困っているはずです。それとも、なにかアテがあるとでも?」
「い、いえ、ありません……」
しょんぼりと肩を落とします。
あらためて自分の無計画さに呆れてしまいます。
ですが、メルヴィンさんはそのことを咎めたりもせず、
「だったら、あなたは運がいい!」
笑顔で手を打ちました。
「丁度、誰も使っていない空き店舗があるんですよ。よかったら、そこを使いませんか? もちろん、お金もいりません」
「ほ、本当ですか!? ですが……」
「私は商売を頑張ろうとしている人を応援したいんです。あなたならきっと、素敵なお店が作れると思います。だから……どうですか?」
と問いかけるメルヴィンさん。
渡りに船の話です。
タダで使わせてもらうのは申し訳ないですが……特にアテもなかったので、彼の話に乗らせてもらいましょう。
「ぜひ、お願いします!」
「よかった! とはいえ、立地も悪く外観にも戸惑うかもしれませんが……耐震性には問題ありません。場所については教えますので、ひとまず一度ご内覧なさってください」
メルヴィンさんから空き店舗の場所を聞き、私は早速そこに向かうことになりました。
商業ギルド。
道具屋を開く手続きをするため、そこに向かったのはいいですが、ギルド長にそう突っ返されました。
「どうして!?」
思わず受付の机を叩き、私は声を大にしてしまいます。
「お嬢ちゃん……アルマっていったか。アルマはセレスティアの人間なんだろ?」
「そうです。ですが、この国に移住してきて……」
「だったら、やっぱりダメだ。いくらこの国が移民者を広く受け入れているとはいえ、一定の決まりはある」
ギルド長の説明はこうです。
移民者を広く受け入れることは、人口を増やし、国を活性化させるメリットがある。
ですが、治安の悪化。雇用の取り合いといったデメリットも存在するため、移民者は簡単にお店を開けない。
「移民者が不法なものを持ち込み、商売を始める例もあるからな。一時的な露天商や行商人ならともかく、街に店を構えて、本格的に商売をすることを認めるわけにはいかねえ」
「そこをなんとか……」
「俺だってなんとかしてやりてえとは思ってる。お嬢ちゃんは、いい人そうだからな。だが、規則は規則。規則を破ったら、俺が捕まっちまうよ」
とギルド長は肩をすくめます。
「そこをなんとか……」
「ダメなもんはダメだ。だが、余所者でも店を開く方法がないことはねえ」
ギルド長は人差し指を立てて、こう続けます。
「その一つが、この街に移住して、しばらく暮らすことだ。その間に問題を起こさなければ、店を開く許可を出せる」
「しばらく……というのは具体的にどれくらいでしょうか?」
「一年だ。一年、この街に住んで犯罪を犯さなければ、許可証を出してやる。言っておくが、一年っていうのは他国に比べたら短いんだぜ?」
一年……ですか。
妥当だと思いますが、その間に生活費が尽きてしまうでしょう。
寝泊まりとするところもなく、途中で野垂れ死ぬ未来が見えています。
ですが、ギルド長も意地悪を言っているわけではなさそうです。自分の力ではどうしようもなく、困っている様子でした。
なにか、他に方法があれば──。
「あ」
そこで私は思い出します。
『いくら、この国は移民者が多いとはいえ、外国人の君は色々と困ったことも出てくるだろう。その時、このブローチを出してほしい。きっと、君の力になるだろうから』
馬車の中で出会った男性、ウィリアムさんの言葉を。
去り際、私は彼から銀のブローチをもらいました。
本当にこれを出しただけで、なんとかなるとは思えませんが……試す価値はありそうです。
「実は、こういうものも持っているんですが……」
服の内側ポケットから、私は銀のブローチを取り出します。
身につけて盗まれても困るので、ここにしまっていたのです。
「んん?」
すると、ギルド長は首を伸ばして。
「……いいブローチだな。値打ちもんだ。売れば、まあまあ金になると思うぜ。だからといって、俺がこれで考えが変わるとでも? 賄賂のつもりなら、俺をバカにして──」
しかし、途中で言葉を止めて。
焦ったように目を見開き、今度は銀のブローチをまじまじと眺めます。
「この精巧な造り……そして、この中央に彫られた意匠。まさか──」
ギルド長は息を呑み、私に顔をぐいっと近付けます。
「す、すまなかった! まさかあんたが、これを持っているとは! そうと分かれば、話は早い。今すぐ、お店の開業手続きを進めるから、少し待っててくれ!」
「は、はあ……」
戸惑っている間にも、ギルド長は慌てて椅子から立ち上がり、奥へ消えていきました。
え──なんで!?
銀のブローチを見せた瞬間、ギルド長が目の色を変えました!
このブローチに秘密がありそうですが……怖くて、問いただす気になれません。
「もしかして……ウィリアムさんは、地位の高い方なのでしょうか」
有り得ます。
ギルド長でも逆らえないような相手。たとえば貴族が無茶を言えば、ギルド長も首を縦に振らざるを得ないかもしれません。
ですが、それだけで規則に厳しそうだったギルド長の考えを変えることが出来るでしょうか?
もしかしたら、もっと上の──。
「まさか……ね」
ぽつりと呟きます。
ウィリアムさんは冒険者と言っていました。
ならずもののイメージが強い冒険者に、わざわざ貴族がなるとは思えませんし、私の考えすぎでしょう。
そう自分に言い聞かせていると、ほどなくしてギルド長が戻ってきました。
「これが許可証だ。店を開いたら、目立つところに提示しな。あと……困ったことがあったら、すぐに俺に相談しろ。誠心誠意、対応させてもらう」
ギルド長から許可証を受け取ります。
……一時はどうなることかと思いましたが、あっさりとお店を開く許可が出てしまいました。
「ひとまず……よかった、ということですかね?」
ウィリアムさんからもらったブローチのことは気になるけど、あまり深入りもしたくありません。
頭を切り替えて、私は次にやるべきことを考えます。
「あとは……お店を開く建物と場所でしょうか。それがなければ、道具屋が始められません」
一難去って、また一難。
お店を開く許可。そして、並べる商品についてもアテがあるものの、肝心のそれを売る場所が見つかっていません。
店舗を買えるほどのお金はないので、必然的に賃貸にはなるでしょう。
ですが、お金はあまり使いたくないですし、高い物件を借りることは出来ません。
どうすれば──。
「おや、そこのお美しい貴婦人。なにかお困りごとですか?」
頭を悩ませていると、声をかけられます。
振り返ると、そこにはキレイな服に身を包んだ男性が立っていました。
「失礼ですが、あなたは……?」
「メルヴィン・ヴァルローンといいます。この街で商売をしている伯爵です。以後、お見知り置きを」
と男性──メルヴィンさんは優雅に一礼します。
貴族!
しかも伯爵!
伯爵というと、貴族の中でもかなり位が高かったはずです。
セレスティアでも平民だった私は貴族の登場に、ついつい恐縮してしまいます。
「す、すみません。伯爵家の方だったんですね。この国に来たのは今日だったので、分からなくて……」
「そうかしこまらなくても結構ですよ。別に失礼とは思っていませんので」
メルヴィンさんは、私の言葉を手で制します。
メルヴィンさん……いい人です。
貴族の中には傲慢で、ろくに話を聞かない人もいますからね。
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「それに、謝らなければならないのは私の方です」
「え?」
「実は……ギルド長とあなたの会話、横から盗み聞きさせてもらっていたんですよ。そこで、あなたの事情についても知りました」
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「は、はい」
「でしたら、店を開くための建物と場所に困っているはずです。それとも、なにかアテがあるとでも?」
「い、いえ、ありません……」
しょんぼりと肩を落とします。
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ですが、メルヴィンさんはそのことを咎めたりもせず、
「だったら、あなたは運がいい!」
笑顔で手を打ちました。
「丁度、誰も使っていない空き店舗があるんですよ。よかったら、そこを使いませんか? もちろん、お金もいりません」
「ほ、本当ですか!? ですが……」
「私は商売を頑張ろうとしている人を応援したいんです。あなたならきっと、素敵なお店が作れると思います。だから……どうですか?」
と問いかけるメルヴィンさん。
渡りに船の話です。
タダで使わせてもらうのは申し訳ないですが……特にアテもなかったので、彼の話に乗らせてもらいましょう。
「ぜひ、お願いします!」
「よかった! とはいえ、立地も悪く外観にも戸惑うかもしれませんが……耐震性には問題ありません。場所については教えますので、ひとまず一度ご内覧なさってください」
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