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7・もふもふの白狐
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メルヴィンさんの言っていた空き店舗は、人目の少ない場所でひっそりと建っていました。
ですが、ここで問題発生。
その建物を前にして、私は立ち尽くします。
「誰も使っていないとは聞きましたが……まさか、これほどまでとは」
木造の二階建ての建物。
見るからにボロボロで、外壁は所々黒ずんでいます。
建物の周りには雑草が生え散らかしていました。
その出たちはまさしく、幽霊屋敷。
覚悟はしていたつもりですが……想像以上のオンボロさに、言葉を失います。
「とはいえ、贅沢は言っていられません。せっかく、無償で使わせてもらうことになったのですから」
自分の甘えを振り払います。
それによく見てみれば、外観こそ悪いものの、ちゃんと掃除をすればキレイになりそうです。
メルヴィンさんにいつまで甘えられませんし、お金が貯まったら、別のところに移るのも有りかもしれませんしね。
「よし……お邪魔します!」
誰もいないのは分かっているけど、そう口にし、意を決して建物の中に入ります。
「中も……汚れていますね」
全体的に埃っぽい。
木の独特な匂いが鼻をつき、思わず顔を顰めてしまいます。
古びた家具が乱雑に散らばり、いくつかは倒れたまま放置されていました。
「ですが、腕が鳴ります。なにせ掃除は大の得意ですから!」
セレスティアで聖女をしていた頃は、王城の掃除をやらされていたこともあります。
今思えば、あれは聖女のお仕事ではなかった気もしますが……深く考えるのはやめましょう。腹が立つだけです。
「さーて、まずは家具を片付けて──」
気合いを入れ直すと、あることに意識が向きます。
「これは……もしかして、瘴気? 建物の奥からみたいです」
そう言って、足を前に進めます。
瘴気。
これも“穢れ”の一種で、呪いとよく似た性質を持っています。
呪いと瘴気の違いはずばり、自然発生するか否か。
呪いが人為的に引き起こされたものに対し、瘴気は魔物の死骸からや、長年放置された土地で発生します。
長い間使われていない建物には、軽い瘴気が立ち込めている例も珍しくありませんが……それにしては濃すぎるような?
疑問に思いながら建物の奥に進み、二階に上がると、生活スペースのような場所が広がっていました。
その片隅で体を縮こませている、あるものを発見します。
「きゅう……」
それは私を見るなり、元気のない鳴き声を上げます。
キュートな見た目です。
黒い犬……いえ、狐でしょうか?
大きさは私が両手で抱っこ出来るくらい。その黒い狐からは放っておけない悲壮感が漂っていました。
そして、黒い狐に内包されている魔力。
これは……。
「もしかして、土地神様?」
そう声を零します。
土地神様とは、その地に宿り、場を守る精霊のような存在。
女神の使い魔と言う人もいますが、その正体については未だ謎が多いままです。
「珍しいですね。土地神様がいるなんて」
土地神様が宿る場所には、いつしか幸運が流れ込み、物事が上手く運ぶのだとか。
なので、土地神様は商売繁盛や五穀豊穣の神様とも言われ、人々から有り難がれています。
そして、土地神様は心の清らかな人にしか見えず、会えただけでも幸運だとも言われています。
神聖な存在。
だからこそ。
「おかしい……土地神様がいるなら、この建物がボロボロになるはずがありません」
もちろん、幸運が流れ込む──というのがただの迷信かもしれませんが、土地神様がいるのに建物がボロボロのままなのは、違和感があります。
「もしかして……その黒い体も瘴気のせい? 瘴気に塗れたせいで、上手く力を発揮出来ないのでしょうか?」
問いかけると、土地神様が首を縦に振ります。
……そうと分かれば、話が早いです。
弱々しく、今にも消えてしまいそうな土地神様をこのまま放ってはおけません。
私は土地神様に近付き、浄化魔法を発動。
白くて優しい光が、土地神様を包みます。
そして……。
「きゅう!」
──瘴気を払い終えると、土地神様は元気よく鳴いて、立ち上がりました。
「上手くいってよかったです」
額の汗を腕で拭います。
瘴気に塗れているから体が黒いのでは……と推測していましたが、正解だったよう。
今の土地神様は、雪のような白い毛で覆われていました。
撫でてあげると、もふもふとした感触が右手を包みます。
ああ……癒される……。
その感触に、思わず身を委ねてしまいました。
「黒い狐……だと思っていましたが、もしかして、あなたは『白狐《びゃっこ》』だったんでしょうか?」
「きゅう!」
私の声に応えるように、土地神様──白狐が鳴きます。
白狐は土地神様の中でも、人の感情に寄り添い、不安や怒りを和らげる力に長けていると言われます。
だからでしょうか。
白狐を見ているだけでも、疲れた心が穏やかになっていくようでした。
「とにかく、治ってよかったです。白狐ちゃん。あなたはこれからも、この土地を守ってくれますか?」
「きゅう」
白狐は『任せてください!』と言わんばかりに、姿勢を正しました。
白狐は基本的に、その土地から動くことが出来ない存在です。
だから期待を込めて聞いてみたわけですが……神様の一種とはいえ、ペットが出来たみたいで嬉しかったです。
「私はアルマといいます。これから、ここで道具屋を開こうと思っているんです。白狐ちゃん、よろしくお願いしますね」
「きゅう!」
「ふふふっ、ありがとうございます。あっ……そうです。いつまでも白狐と呼ぶのはそっけないですから、名前を付けてあげましょうか」
腕を組んで悩みます。
うーん……白くてちっちゃい体、白くてちっちゃい体……まだ、神様の中でも子どもなのでしょうか? 土地神様だと知らなければ、雪原で生活するただの狐のようです。
……そうです。
「コユキ……あなたの名前はコユキちゃん。そう呼んでもいいですか?」
と質問すると、白狐──コユキちゃんは嬉しそうに笑い、私の前から姿を消しました。
「あらあら、もうやる気十分のようですね」
コユキちゃん……土地神様は、いつでも実体化している存在ではありません。
力を行使する場合、その土地に接続するため姿を消すと聞いたことがあります。
とはいえ、ここにいるのには変わりまりません。
たまには姿を見せてくれるかもしれません。
姿こそ見えないものの、コユキちゃんがいつでも傍にいてくれると思うだけで、心強いです。
「それにしても、メルヴィンさんは白狐の存在に気が付かなかったんでしょうか? メルヴィンさんほどの心が清らかな人が、白狐が見えなかったとは考えにくいですし……」
謎は残ります。
ですが、メルヴィンさんは土地神様がいることに気付いた上で、私にここを紹介してくれたかもしれませんね。
次に会えば、あらためてお礼を言いましょう。
そう思いました。
──しかし、アルマは勘違いしていた。
メルヴィン伯爵は、別名『新人潰し』。
アルマに物件を紹介したのも親切心からではなく、彼女の心を折ろうとしていただけというのを。
彼女は知らず知らずのうちに、彼の企みを一つ潰してしまっていた。
メルヴィン伯爵はこの出来事がきっかけで、破滅することになるのだが……それはまだ、ちょっと先の話。
ですが、ここで問題発生。
その建物を前にして、私は立ち尽くします。
「誰も使っていないとは聞きましたが……まさか、これほどまでとは」
木造の二階建ての建物。
見るからにボロボロで、外壁は所々黒ずんでいます。
建物の周りには雑草が生え散らかしていました。
その出たちはまさしく、幽霊屋敷。
覚悟はしていたつもりですが……想像以上のオンボロさに、言葉を失います。
「とはいえ、贅沢は言っていられません。せっかく、無償で使わせてもらうことになったのですから」
自分の甘えを振り払います。
それによく見てみれば、外観こそ悪いものの、ちゃんと掃除をすればキレイになりそうです。
メルヴィンさんにいつまで甘えられませんし、お金が貯まったら、別のところに移るのも有りかもしれませんしね。
「よし……お邪魔します!」
誰もいないのは分かっているけど、そう口にし、意を決して建物の中に入ります。
「中も……汚れていますね」
全体的に埃っぽい。
木の独特な匂いが鼻をつき、思わず顔を顰めてしまいます。
古びた家具が乱雑に散らばり、いくつかは倒れたまま放置されていました。
「ですが、腕が鳴ります。なにせ掃除は大の得意ですから!」
セレスティアで聖女をしていた頃は、王城の掃除をやらされていたこともあります。
今思えば、あれは聖女のお仕事ではなかった気もしますが……深く考えるのはやめましょう。腹が立つだけです。
「さーて、まずは家具を片付けて──」
気合いを入れ直すと、あることに意識が向きます。
「これは……もしかして、瘴気? 建物の奥からみたいです」
そう言って、足を前に進めます。
瘴気。
これも“穢れ”の一種で、呪いとよく似た性質を持っています。
呪いと瘴気の違いはずばり、自然発生するか否か。
呪いが人為的に引き起こされたものに対し、瘴気は魔物の死骸からや、長年放置された土地で発生します。
長い間使われていない建物には、軽い瘴気が立ち込めている例も珍しくありませんが……それにしては濃すぎるような?
疑問に思いながら建物の奥に進み、二階に上がると、生活スペースのような場所が広がっていました。
その片隅で体を縮こませている、あるものを発見します。
「きゅう……」
それは私を見るなり、元気のない鳴き声を上げます。
キュートな見た目です。
黒い犬……いえ、狐でしょうか?
大きさは私が両手で抱っこ出来るくらい。その黒い狐からは放っておけない悲壮感が漂っていました。
そして、黒い狐に内包されている魔力。
これは……。
「もしかして、土地神様?」
そう声を零します。
土地神様とは、その地に宿り、場を守る精霊のような存在。
女神の使い魔と言う人もいますが、その正体については未だ謎が多いままです。
「珍しいですね。土地神様がいるなんて」
土地神様が宿る場所には、いつしか幸運が流れ込み、物事が上手く運ぶのだとか。
なので、土地神様は商売繁盛や五穀豊穣の神様とも言われ、人々から有り難がれています。
そして、土地神様は心の清らかな人にしか見えず、会えただけでも幸運だとも言われています。
神聖な存在。
だからこそ。
「おかしい……土地神様がいるなら、この建物がボロボロになるはずがありません」
もちろん、幸運が流れ込む──というのがただの迷信かもしれませんが、土地神様がいるのに建物がボロボロのままなのは、違和感があります。
「もしかして……その黒い体も瘴気のせい? 瘴気に塗れたせいで、上手く力を発揮出来ないのでしょうか?」
問いかけると、土地神様が首を縦に振ります。
……そうと分かれば、話が早いです。
弱々しく、今にも消えてしまいそうな土地神様をこのまま放ってはおけません。
私は土地神様に近付き、浄化魔法を発動。
白くて優しい光が、土地神様を包みます。
そして……。
「きゅう!」
──瘴気を払い終えると、土地神様は元気よく鳴いて、立ち上がりました。
「上手くいってよかったです」
額の汗を腕で拭います。
瘴気に塗れているから体が黒いのでは……と推測していましたが、正解だったよう。
今の土地神様は、雪のような白い毛で覆われていました。
撫でてあげると、もふもふとした感触が右手を包みます。
ああ……癒される……。
その感触に、思わず身を委ねてしまいました。
「黒い狐……だと思っていましたが、もしかして、あなたは『白狐《びゃっこ》』だったんでしょうか?」
「きゅう!」
私の声に応えるように、土地神様──白狐が鳴きます。
白狐は土地神様の中でも、人の感情に寄り添い、不安や怒りを和らげる力に長けていると言われます。
だからでしょうか。
白狐を見ているだけでも、疲れた心が穏やかになっていくようでした。
「とにかく、治ってよかったです。白狐ちゃん。あなたはこれからも、この土地を守ってくれますか?」
「きゅう」
白狐は『任せてください!』と言わんばかりに、姿勢を正しました。
白狐は基本的に、その土地から動くことが出来ない存在です。
だから期待を込めて聞いてみたわけですが……神様の一種とはいえ、ペットが出来たみたいで嬉しかったです。
「私はアルマといいます。これから、ここで道具屋を開こうと思っているんです。白狐ちゃん、よろしくお願いしますね」
「きゅう!」
「ふふふっ、ありがとうございます。あっ……そうです。いつまでも白狐と呼ぶのはそっけないですから、名前を付けてあげましょうか」
腕を組んで悩みます。
うーん……白くてちっちゃい体、白くてちっちゃい体……まだ、神様の中でも子どもなのでしょうか? 土地神様だと知らなければ、雪原で生活するただの狐のようです。
……そうです。
「コユキ……あなたの名前はコユキちゃん。そう呼んでもいいですか?」
と質問すると、白狐──コユキちゃんは嬉しそうに笑い、私の前から姿を消しました。
「あらあら、もうやる気十分のようですね」
コユキちゃん……土地神様は、いつでも実体化している存在ではありません。
力を行使する場合、その土地に接続するため姿を消すと聞いたことがあります。
とはいえ、ここにいるのには変わりまりません。
たまには姿を見せてくれるかもしれません。
姿こそ見えないものの、コユキちゃんがいつでも傍にいてくれると思うだけで、心強いです。
「それにしても、メルヴィンさんは白狐の存在に気が付かなかったんでしょうか? メルヴィンさんほどの心が清らかな人が、白狐が見えなかったとは考えにくいですし……」
謎は残ります。
ですが、メルヴィンさんは土地神様がいることに気付いた上で、私にここを紹介してくれたかもしれませんね。
次に会えば、あらためてお礼を言いましょう。
そう思いました。
──しかし、アルマは勘違いしていた。
メルヴィン伯爵は、別名『新人潰し』。
アルマに物件を紹介したのも親切心からではなく、彼女の心を折ろうとしていただけというのを。
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