「第二の聖女になってくれ」と言われましたが、お断りです

鬱沢色素

文字の大きさ
7 / 41

7・もふもふの白狐

しおりを挟む
 メルヴィンさんの言っていた空き店舗は、人目の少ない場所でひっそりと建っていました。

 ですが、ここで問題発生。
 その建物を前にして、私は立ち尽くします。


「誰も使っていないとは聞きましたが……まさか、これほどまでとは」


 木造の二階建ての建物。
 見るからにボロボロで、外壁は所々黒ずんでいます。
 建物の周りには雑草が生え散らかしていました。

 その出たちはまさしく、幽霊屋敷。
 覚悟はしていたつもりですが……想像以上のオンボロさに、言葉を失います。

「とはいえ、贅沢は言っていられません。せっかく、無償で使わせてもらうことになったのですから」

 自分の甘えを振り払います。

 それによく見てみれば、外観こそ悪いものの、ちゃんと掃除をすればキレイになりそうです。
 メルヴィンさんにいつまで甘えられませんし、お金が貯まったら、別のところに移るのも有りかもしれませんしね。

「よし……お邪魔します!」

 誰もいないのは分かっているけど、そう口にし、意を決して建物の中に入ります。

「中も……汚れていますね」

 全体的に埃っぽい。
 木の独特な匂いが鼻をつき、思わず顔を顰めてしまいます。
 古びた家具が乱雑に散らばり、いくつかは倒れたまま放置されていました。

「ですが、腕が鳴ります。なにせ掃除は大の得意ですから!」

 セレスティアで聖女をしていた頃は、王城の掃除をやらされていたこともあります。

 今思えば、あれは聖女のお仕事ではなかった気もしますが……深く考えるのはやめましょう。腹が立つだけです。

「さーて、まずは家具を片付けて──」

 気合いを入れ直すと、あることに意識が向きます。

「これは……もしかして、瘴気? 建物の奥からみたいです」

 そう言って、足を前に進めます。

 瘴気。
 これも“穢れ”の一種で、呪いとよく似た性質を持っています。

 呪いと瘴気の違いはずばり、自然発生するか否か。

 呪いが人為的に引き起こされたものに対し、瘴気は魔物の死骸からや、長年放置された土地で発生します。
 長い間使われていない建物には、軽い瘴気が立ち込めている例も珍しくありませんが……それにしては濃すぎるような?

 疑問に思いながら建物の奥に進み、二階に上がると、生活スペースのような場所が広がっていました。
 その片隅で体を縮こませている、あるものを発見します。


「きゅう……」


 それは私を見るなり、元気のない鳴き声を上げます。

 キュートな見た目です。
 黒い犬……いえ、狐でしょうか?
 大きさは私が両手で抱っこ出来るくらい。その黒い狐からは放っておけない悲壮感が漂っていました。

 そして、黒い狐に内包されている魔力。
 これは……。

「もしかして、土地神様?」

 そう声を零します。

 土地神様とは、その地に宿り、場を守る精霊のような存在。
 女神の使い魔と言う人もいますが、その正体については未だ謎が多いままです。

「珍しいですね。土地神様がいるなんて」

 土地神様が宿る場所には、いつしか幸運が流れ込み、物事が上手く運ぶのだとか。
 なので、土地神様は商売繁盛や五穀豊穣の神様とも言われ、人々から有り難がれています。
 そして、土地神様は心の清らかな人にしか見えず、会えただけでも幸運だとも言われています。

 神聖な存在。
 だからこそ。

「おかしい……土地神様がいるなら、この建物がボロボロになるはずがありません」

 もちろん、幸運が流れ込む──というのがただの迷信かもしれませんが、土地神様がいるのに建物がボロボロのままなのは、違和感があります。

「もしかして……その黒い体も瘴気のせい? 瘴気に塗れたせいで、上手く力を発揮出来ないのでしょうか?」

 問いかけると、土地神様が首を縦に振ります。

 ……そうと分かれば、話が早いです。
 弱々しく、今にも消えてしまいそうな土地神様をこのまま放ってはおけません。

 私は土地神様に近付き、浄化魔法を発動。
 白くて優しい光が、土地神様を包みます。

 そして……。

「きゅう!」

 ──瘴気を払い終えると、土地神様は元気よく鳴いて、立ち上がりました。

「上手くいってよかったです」

 額の汗を腕で拭います。

 瘴気に塗れているから体が黒いのでは……と推測していましたが、正解だったよう。
 今の土地神様は、雪のような白い毛で覆われていました。

 撫でてあげると、もふもふとした感触が右手を包みます。

 ああ……癒される……。

 その感触に、思わず身を委ねてしまいました。

「黒い狐……だと思っていましたが、もしかして、あなたは『白狐《びゃっこ》』だったんでしょうか?」
「きゅう!」

 私の声に応えるように、土地神様──白狐が鳴きます。

 白狐は土地神様の中でも、人の感情に寄り添い、不安や怒りを和らげる力に長けていると言われます。

 だからでしょうか。
 白狐を見ているだけでも、疲れた心が穏やかになっていくようでした。

「とにかく、治ってよかったです。白狐ちゃん。あなたはこれからも、この土地を守ってくれますか?」
「きゅう」

 白狐は『任せてください!』と言わんばかりに、姿勢を正しました。

 白狐は基本的に、その土地から動くことが出来ない存在です。
 だから期待を込めて聞いてみたわけですが……神様の一種とはいえ、ペットが出来たみたいで嬉しかったです。

「私はアルマといいます。これから、ここで道具屋を開こうと思っているんです。白狐ちゃん、よろしくお願いしますね」
「きゅう!」
「ふふふっ、ありがとうございます。あっ……そうです。いつまでも白狐と呼ぶのはそっけないですから、名前を付けてあげましょうか」

 腕を組んで悩みます。

 うーん……白くてちっちゃい体、白くてちっちゃい体……まだ、神様の中でも子どもなのでしょうか? 土地神様だと知らなければ、雪原で生活するただの狐のようです。

 ……そうです。

「コユキ……あなたの名前はコユキちゃん。そう呼んでもいいですか?」

 と質問すると、白狐──コユキちゃんは嬉しそうに笑い、私の前から姿を消しました。

「あらあら、もうやる気十分のようですね」

 コユキちゃん……土地神様は、いつでも実体化している存在ではありません。
 力を行使する場合、その土地に接続するため姿を消すと聞いたことがあります。

 とはいえ、ここにいるのには変わりまりません。
 たまには姿を見せてくれるかもしれません。
 姿こそ見えないものの、コユキちゃんがいつでも傍にいてくれると思うだけで、心強いです。

「それにしても、メルヴィンさんは白狐の存在に気が付かなかったんでしょうか? メルヴィンさんほどの心が清らかな人が、白狐が見えなかったとは考えにくいですし……」

 謎は残ります。
 ですが、メルヴィンさんは土地神様がいることに気付いた上で、私にここを紹介してくれたかもしれませんね。

 次に会えば、あらためてお礼を言いましょう。
 そう思いました。





 ──しかし、アルマは勘違いしていた。

 メルヴィン伯爵は、別名『新人潰し』。
 アルマに物件を紹介したのも親切心からではなく、彼女の心を折ろうとしていただけというのを。
 彼女は知らず知らずのうちに、彼の企みを一つ潰してしまっていた。

 メルヴィン伯爵はこの出来事がきっかけで、破滅することになるのだが……それはまだ、ちょっと先の話。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

七光りのわがまま聖女を支えるのは疲れました。私はやめさせていただきます。

木山楽斗
恋愛
幼少期から魔法使いとしての才覚を見せていたラムーナは、王国における魔法使い最高峰の役職である聖女に就任するはずだった。 しかし、王国が聖女に選んだのは第一王女であるロメリアであった。彼女は父親である国王から溺愛されており、親の七光りで聖女に就任したのである。 ラムーナは、そんなロメリアを支える聖女補佐を任せられた。それは実質的に聖女としての役割を彼女が担うということだった。ロメリアには魔法使いの才能などまったくなかったのである。 色々と腑に落ちないラムーナだったが、それでも好待遇ではあったためその話を受け入れた。補佐として聖女を支えていこう。彼女はそのように考えていたのだ。 だが、彼女はその考えをすぐに改めることになった。なぜなら、聖女となったロメリアはとてもわがままな女性だったからである。 彼女は、才覚がまったくないにも関わらず上から目線でラムーナに命令してきた。ラムーナに支えられなければ何もできないはずなのに、ロメリアはとても偉そうだったのだ。 そんな彼女の態度に辟易としたラムーナは、聖女補佐の役目を下りることにした。王国側は特に彼女を止めることもなかった。ラムーナの代わりはいくらでもいると考えていたからである。 しかし彼女が去ったことによって、王国は未曽有の危機に晒されることになった。聖女補佐としてのラムーナは、とても有能な人間だったのだ。

ヒロインと結婚したメインヒーローの側妃にされてしまいましたが、そんなことより好きに生きます。

下菊みこと
恋愛
主人公も割といい性格してます。 アルファポリス様で10話以上に肉付けしたものを読みたいとのリクエストいただき大変嬉しかったので調子に乗ってやってみました。 小説家になろう様でも投稿しています。

現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。

和泉鷹央
恋愛
 聖女は十年しか生きられない。  この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。  それは期間満了後に始まる約束だったけど――  一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。  二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。  ライラはこの契約を承諾する。  十年後。  あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。  そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。  こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。  そう思い、ライラは聖女をやめることにした。  他の投稿サイトでも掲載しています。

トカゲ令嬢とバカにされて聖女候補から外され辺境に追放されましたが、トカゲではなく龍でした。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。  リバコーン公爵家の長女ソフィアは、全貴族令嬢10人の1人の聖獣持ちに選ばれたが、その聖獣がこれまで誰も持ったことのない小さく弱々しいトカゲでしかなかった。それに比べて側室から生まれた妹は有名な聖獣スフィンクスが従魔となった。他にもグリフォンやペガサス、ワイバーンなどの実力も名声もある従魔を従える聖女がいた。リバコーン公爵家の名誉を重んじる父親は、ソフィアを正室の領地に追いやり第13王子との婚約も辞退しようとしたのだが……  王立聖女学園、そこは爵位を無視した弱肉強食の競争社会。だがどれだけ努力しようとも神の気紛れで全てが決められてしまう。まず従魔が得られるかどうかで貴族令嬢に残れるかどうかが決まってしまう。

今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて

nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…

誰も信じてくれないので、森の獣達と暮らすことにしました。その結果、国が大変なことになっているようですが、私には関係ありません。

木山楽斗
恋愛
エルドー王国の聖女ミレイナは、予知夢で王国が龍に襲われるという事実を知った。 それを国の人々に伝えるものの、誰にも信じられず、それ所か虚言癖と避難されることになってしまう。 誰にも信じてもらえず、罵倒される。 そんな状況に疲弊した彼女は、国から出て行くことを決意した。 実はミレイナはエルドー王国で生まれ育ったという訳ではなかった。 彼女は、精霊の森という森で生まれ育ったのである。 故郷に戻った彼女は、兄弟のような関係の狼シャルピードと再会した。 彼はミレイナを快く受け入れてくれた。 こうして、彼女はシャルピードを含む森の獣達と平和に暮らすようになった。 そんな彼女の元に、ある時知らせが入ってくる。エルドー王国が、予知夢の通りに龍に襲われていると。 しかし、彼女は王国を助けようという気にはならなかった。 むしろ、散々忠告したのに、何も準備をしていなかった王国への失望が、強まるばかりだったのだ。

処理中です...