17 / 41
17・もうこの国は終わりかもしれない【セレスティアSIDE】
しおりを挟む
(エスメラルダ視点)
一方のセレスティア──。
王城で聖女として働き始めた私エスメラルダだけど、サディアス様について分かったことがある。
彼は、私が想像するよりバカだったことだ。
「殿下。お願いします。まだ、私の力は万全ではありません。一刻も早く、アルマ様を連れ戻してください」
「はあ? アルマを? どうして、そんなことする必要がある?」
サディアス様は心底そう言われる理由が分からないのか、首を傾げる。
「あいつは、自分から辞めていったんだ。それなのに、こっちから頭を下げて戻ってきてもらうなんて……断じて有り得ない!」
「では、他の聖女を……」
「それも必要ない。あとあとになって調べたが、聖女を二人置いてはいけない決まりらしくてな。それに……君がいるから平気だろ? 僕は君を信じているから」
うっとりとした表情で、私を見つめるサディアス様。
少し前の私だったら嬉しくなるところだけど、彼のバカさ加減が分かった今となっては鳥肌が立つ。
王城からアルマ様がいなくなって、解れが出始めている。
各地での魔物の被害。呪いのアイテムの増加。瘴気が発生し、使えない土地も増加傾向だ。
それなのに、ろくにサディアス様は対応しようとしない。
もうこの国はダメかもしれない。
「あんの……バカ王子……っ! なにを考えているのよ! まあ、元はといえば私のせいだけど……」
自分でも分かっているから、彼を責められない。
そして、さらにおかしなことがある。
アルマ様が辞めて結構な日にちが経っているというのに、誰も彼女のことを気に留めていないのだ。
さすがに陛下や他の大臣も、アルマ様がいないことは察しているだろう。
聖女の仕事も明らかに滞っている。
それなのに、まるで王城のみんなは最初からアルマ様がいなかったかのように振る舞っているのだ。
最初の頃は私が無能だとバレて、いつクビにされるのかとビクビクしていた。
だが、その様子がなく、今となっては怖さすら感じるようになった。
王城の違和感を示す証拠に。
「あ、あのっ!」
「はい?」
城内を歩いている一人の騎士に話しかける。
「一つ、質問よろしいですか?」
「おお、聖女エスメラルダ様ではないですか。どうされましたか?」
「アルマ様のことです。私一人では業務が大変なので、アルマ様に戻ってきてほしいのですが……サディアス様に言っても、とりつく島もなく。あなたはなにか知っていませんか?」
すると一転。
騎士は酷く慌てたように。
「……っ! アルマ様について、私はなにも知りません! なにも喋れないのであります! 失礼いたします!」
と、私から逃げるように去っていった。
「はあ……やっぱりダメか」
溜め息を吐く。
今回が初めてのことではない。
アルマ様について問いかけたら、先日から似たような調子だ。
なんで、歴代最高の聖女アルマ様が禁句のようになっているのだろう?
城の外では考えられなかったことだ。
「本当に大丈夫なのかしら……」
不安を呟いていると。
「こんなところで、なにをされているのですか?」
「……っ!」
突然、後ろから声。
ビックリして振り返ると、そこには青い長髪の男が立っていた。
「キ、キース様……」
バクバクする心臓の鼓動を抑えながら、私は彼の名を呼ぶ。
キース・セレスティア。
この国の第二王子である。
目立ちたがりのサディアス様とは違い、キース様はほとんど表だった行動をしていない。
噂では病弱で、まともに動けないと聞いた。
実際、目の前のキース様は線が細く、顔色も悪い。
絶対に口に出来ないけど、まるで幽霊みたいな人だと思う。
「い、いえ、特になにもしていません」
「本当ですか? 先ほど、騎士に元聖女アルマのことを聞いておられたようでしたが」
ドキッ。
図星だったので、心臓が口から飛び出てしまいそうになる。
「サディアス殿下には再三伝えているのですが、アルマ様を連れ戻す必要があると思うんです。ですが、みなさん、アルマ様のことについて聞いても教えてくれず……キース殿下はなにかご存知ですか?」
「アルマのことを、あなたが気にかける必要はありませんよ」
表情こそ、うっすらと笑みを浮かべているのに。
そう語るキース様からは、まるで氷のような冷たさを感じた。
「アルマは辞職したと聞いています。それなのに、わざわざ連れ戻すような真似は、彼女だって嫌でしょう」
「で、ですが……」
「だから、気にする必要はないと言ったのです」
断定するキース様。
「それに、今はあなたがいるじゃないですか。調子が悪いようですが、焦る必要はありません。直に王城の暮らしにも慣れてきて、本来の力を取り戻せるでしょうから」
優しい言葉をかけてくれるキース様。
だが、彼の声には静かな圧こもっているように聞こえ、私は蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってしまう。
「これ以上、アルマのことを他の者に問いたださないように。勝手な真似をすれば、聖女であるあなたもどうなるか分かりませんからね」
最後にそう言い残して、キース様は私の前から去っていった。
彼が見えなくなった途端、全身の力が抜け、その場にへたりこんでしまう。
「一体……なんだっていうのよ……」
みんながみんな、アルマ様を気にかけないようにする。
それは、新しく聖女になった私に対する配慮かもしれないけど……とてもそうは思えなかった。
「……考えたらダメ! なにか知っても、私に出来ることはないんだから! このまま、のらりくらりと躱しつつ、事態が収束するのを待ちましょ!」
邪念を振り払うように、自分の両頬を叩いた。
しかし、胸に引っかかるしこりみたいなものは、残ったままだった。
一方のセレスティア──。
王城で聖女として働き始めた私エスメラルダだけど、サディアス様について分かったことがある。
彼は、私が想像するよりバカだったことだ。
「殿下。お願いします。まだ、私の力は万全ではありません。一刻も早く、アルマ様を連れ戻してください」
「はあ? アルマを? どうして、そんなことする必要がある?」
サディアス様は心底そう言われる理由が分からないのか、首を傾げる。
「あいつは、自分から辞めていったんだ。それなのに、こっちから頭を下げて戻ってきてもらうなんて……断じて有り得ない!」
「では、他の聖女を……」
「それも必要ない。あとあとになって調べたが、聖女を二人置いてはいけない決まりらしくてな。それに……君がいるから平気だろ? 僕は君を信じているから」
うっとりとした表情で、私を見つめるサディアス様。
少し前の私だったら嬉しくなるところだけど、彼のバカさ加減が分かった今となっては鳥肌が立つ。
王城からアルマ様がいなくなって、解れが出始めている。
各地での魔物の被害。呪いのアイテムの増加。瘴気が発生し、使えない土地も増加傾向だ。
それなのに、ろくにサディアス様は対応しようとしない。
もうこの国はダメかもしれない。
「あんの……バカ王子……っ! なにを考えているのよ! まあ、元はといえば私のせいだけど……」
自分でも分かっているから、彼を責められない。
そして、さらにおかしなことがある。
アルマ様が辞めて結構な日にちが経っているというのに、誰も彼女のことを気に留めていないのだ。
さすがに陛下や他の大臣も、アルマ様がいないことは察しているだろう。
聖女の仕事も明らかに滞っている。
それなのに、まるで王城のみんなは最初からアルマ様がいなかったかのように振る舞っているのだ。
最初の頃は私が無能だとバレて、いつクビにされるのかとビクビクしていた。
だが、その様子がなく、今となっては怖さすら感じるようになった。
王城の違和感を示す証拠に。
「あ、あのっ!」
「はい?」
城内を歩いている一人の騎士に話しかける。
「一つ、質問よろしいですか?」
「おお、聖女エスメラルダ様ではないですか。どうされましたか?」
「アルマ様のことです。私一人では業務が大変なので、アルマ様に戻ってきてほしいのですが……サディアス様に言っても、とりつく島もなく。あなたはなにか知っていませんか?」
すると一転。
騎士は酷く慌てたように。
「……っ! アルマ様について、私はなにも知りません! なにも喋れないのであります! 失礼いたします!」
と、私から逃げるように去っていった。
「はあ……やっぱりダメか」
溜め息を吐く。
今回が初めてのことではない。
アルマ様について問いかけたら、先日から似たような調子だ。
なんで、歴代最高の聖女アルマ様が禁句のようになっているのだろう?
城の外では考えられなかったことだ。
「本当に大丈夫なのかしら……」
不安を呟いていると。
「こんなところで、なにをされているのですか?」
「……っ!」
突然、後ろから声。
ビックリして振り返ると、そこには青い長髪の男が立っていた。
「キ、キース様……」
バクバクする心臓の鼓動を抑えながら、私は彼の名を呼ぶ。
キース・セレスティア。
この国の第二王子である。
目立ちたがりのサディアス様とは違い、キース様はほとんど表だった行動をしていない。
噂では病弱で、まともに動けないと聞いた。
実際、目の前のキース様は線が細く、顔色も悪い。
絶対に口に出来ないけど、まるで幽霊みたいな人だと思う。
「い、いえ、特になにもしていません」
「本当ですか? 先ほど、騎士に元聖女アルマのことを聞いておられたようでしたが」
ドキッ。
図星だったので、心臓が口から飛び出てしまいそうになる。
「サディアス殿下には再三伝えているのですが、アルマ様を連れ戻す必要があると思うんです。ですが、みなさん、アルマ様のことについて聞いても教えてくれず……キース殿下はなにかご存知ですか?」
「アルマのことを、あなたが気にかける必要はありませんよ」
表情こそ、うっすらと笑みを浮かべているのに。
そう語るキース様からは、まるで氷のような冷たさを感じた。
「アルマは辞職したと聞いています。それなのに、わざわざ連れ戻すような真似は、彼女だって嫌でしょう」
「で、ですが……」
「だから、気にする必要はないと言ったのです」
断定するキース様。
「それに、今はあなたがいるじゃないですか。調子が悪いようですが、焦る必要はありません。直に王城の暮らしにも慣れてきて、本来の力を取り戻せるでしょうから」
優しい言葉をかけてくれるキース様。
だが、彼の声には静かな圧こもっているように聞こえ、私は蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってしまう。
「これ以上、アルマのことを他の者に問いたださないように。勝手な真似をすれば、聖女であるあなたもどうなるか分かりませんからね」
最後にそう言い残して、キース様は私の前から去っていった。
彼が見えなくなった途端、全身の力が抜け、その場にへたりこんでしまう。
「一体……なんだっていうのよ……」
みんながみんな、アルマ様を気にかけないようにする。
それは、新しく聖女になった私に対する配慮かもしれないけど……とてもそうは思えなかった。
「……考えたらダメ! なにか知っても、私に出来ることはないんだから! このまま、のらりくらりと躱しつつ、事態が収束するのを待ちましょ!」
邪念を振り払うように、自分の両頬を叩いた。
しかし、胸に引っかかるしこりみたいなものは、残ったままだった。
426
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
七光りのわがまま聖女を支えるのは疲れました。私はやめさせていただきます。
木山楽斗
恋愛
幼少期から魔法使いとしての才覚を見せていたラムーナは、王国における魔法使い最高峰の役職である聖女に就任するはずだった。
しかし、王国が聖女に選んだのは第一王女であるロメリアであった。彼女は父親である国王から溺愛されており、親の七光りで聖女に就任したのである。
ラムーナは、そんなロメリアを支える聖女補佐を任せられた。それは実質的に聖女としての役割を彼女が担うということだった。ロメリアには魔法使いの才能などまったくなかったのである。
色々と腑に落ちないラムーナだったが、それでも好待遇ではあったためその話を受け入れた。補佐として聖女を支えていこう。彼女はそのように考えていたのだ。
だが、彼女はその考えをすぐに改めることになった。なぜなら、聖女となったロメリアはとてもわがままな女性だったからである。
彼女は、才覚がまったくないにも関わらず上から目線でラムーナに命令してきた。ラムーナに支えられなければ何もできないはずなのに、ロメリアはとても偉そうだったのだ。
そんな彼女の態度に辟易としたラムーナは、聖女補佐の役目を下りることにした。王国側は特に彼女を止めることもなかった。ラムーナの代わりはいくらでもいると考えていたからである。
しかし彼女が去ったことによって、王国は未曽有の危機に晒されることになった。聖女補佐としてのラムーナは、とても有能な人間だったのだ。
ヒロインと結婚したメインヒーローの側妃にされてしまいましたが、そんなことより好きに生きます。
下菊みこと
恋愛
主人公も割といい性格してます。
アルファポリス様で10話以上に肉付けしたものを読みたいとのリクエストいただき大変嬉しかったので調子に乗ってやってみました。
小説家になろう様でも投稿しています。
現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。
和泉鷹央
恋愛
聖女は十年しか生きられない。
この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。
それは期間満了後に始まる約束だったけど――
一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。
二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。
ライラはこの契約を承諾する。
十年後。
あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。
そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。
こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。
そう思い、ライラは聖女をやめることにした。
他の投稿サイトでも掲載しています。
トカゲ令嬢とバカにされて聖女候補から外され辺境に追放されましたが、トカゲではなく龍でした。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
リバコーン公爵家の長女ソフィアは、全貴族令嬢10人の1人の聖獣持ちに選ばれたが、その聖獣がこれまで誰も持ったことのない小さく弱々しいトカゲでしかなかった。それに比べて側室から生まれた妹は有名な聖獣スフィンクスが従魔となった。他にもグリフォンやペガサス、ワイバーンなどの実力も名声もある従魔を従える聖女がいた。リバコーン公爵家の名誉を重んじる父親は、ソフィアを正室の領地に追いやり第13王子との婚約も辞退しようとしたのだが……
王立聖女学園、そこは爵位を無視した弱肉強食の競争社会。だがどれだけ努力しようとも神の気紛れで全てが決められてしまう。まず従魔が得られるかどうかで貴族令嬢に残れるかどうかが決まってしまう。
今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて
nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…
誰も信じてくれないので、森の獣達と暮らすことにしました。その結果、国が大変なことになっているようですが、私には関係ありません。
木山楽斗
恋愛
エルドー王国の聖女ミレイナは、予知夢で王国が龍に襲われるという事実を知った。
それを国の人々に伝えるものの、誰にも信じられず、それ所か虚言癖と避難されることになってしまう。
誰にも信じてもらえず、罵倒される。
そんな状況に疲弊した彼女は、国から出て行くことを決意した。
実はミレイナはエルドー王国で生まれ育ったという訳ではなかった。
彼女は、精霊の森という森で生まれ育ったのである。
故郷に戻った彼女は、兄弟のような関係の狼シャルピードと再会した。
彼はミレイナを快く受け入れてくれた。
こうして、彼女はシャルピードを含む森の獣達と平和に暮らすようになった。
そんな彼女の元に、ある時知らせが入ってくる。エルドー王国が、予知夢の通りに龍に襲われていると。
しかし、彼女は王国を助けようという気にはならなかった。
むしろ、散々忠告したのに、何も準備をしていなかった王国への失望が、強まるばかりだったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる