「第二の聖女になってくれ」と言われましたが、お断りです

鬱沢色素

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17・もうこの国は終わりかもしれない【セレスティアSIDE】

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(エスメラルダ視点)


 一方のセレスティア──。

 王城で聖女として働き始めた私エスメラルダだけど、サディアス様について分かったことがある。
 彼は、私が想像するよりバカだったことだ。

「殿下。お願いします。まだ、私の力は万全ではありません。一刻も早く、アルマ様を連れ戻してください」
「はあ? アルマを? どうして、そんなことする必要がある?」

 サディアス様は心底そう言われる理由が分からないのか、首を傾げる。

「あいつは、自分から辞めていったんだ。それなのに、こっちから頭を下げて戻ってきてもらうなんて……断じて有り得ない!」
「では、他の聖女を……」
「それも必要ない。あとあとになって調べたが、聖女を二人置いてはいけない決まりらしくてな。それに……君がいるから平気だろ? 僕は君を信じているから」

 うっとりとした表情で、私を見つめるサディアス様。
 少し前の私だったら嬉しくなるところだけど、彼のバカさ加減が分かった今となっては鳥肌が立つ。

 王城からアルマ様がいなくなって、解れが出始めている。
 各地での魔物の被害。呪いのアイテムの増加。瘴気が発生し、使えない土地も増加傾向だ。

 それなのに、ろくにサディアス様は対応しようとしない。
 もうこの国はダメかもしれない。

「あんの……バカ王子……っ! なにを考えているのよ! まあ、元はといえば私のせいだけど……」

 自分でも分かっているから、彼を責められない。
 
 そして、さらにおかしなことがある。
 アルマ様が辞めて結構な日にちが経っているというのに、誰も彼女のことを気に留めていないのだ。

 さすがに陛下や他の大臣も、アルマ様がいないことは察しているだろう。
 聖女の仕事も明らかに滞っている。
 それなのに、まるで王城のみんなは最初からアルマ様がいなかったかのように振る舞っているのだ。

 最初の頃は私が無能だとバレて、いつクビにされるのかとビクビクしていた。
 だが、その様子がなく、今となっては怖さすら感じるようになった。

 王城の違和感を示す証拠に。

「あ、あのっ!」
「はい?」

 城内を歩いている一人の騎士に話しかける。

「一つ、質問よろしいですか?」
「おお、聖女エスメラルダ様ではないですか。どうされましたか?」
「アルマ様のことです。私一人では業務が大変なので、アルマ様に戻ってきてほしいのですが……サディアス様に言っても、とりつく島もなく。あなたはなにか知っていませんか?」

 すると一転。
 騎士は酷く慌てたように。

「……っ! アルマ様について、私はなにも知りません! なにも喋れないのであります! 失礼いたします!」

 と、私から逃げるように去っていった。

「はあ……やっぱりダメか」

 溜め息を吐く。

 今回が初めてのことではない。
 アルマ様について問いかけたら、先日から似たような調子だ。

 なんで、歴代最高の聖女アルマ様が禁句のようになっているのだろう?
 城の外では考えられなかったことだ。

「本当に大丈夫なのかしら……」

 不安を呟いていると。

「こんなところで、なにをされているのですか?」
「……っ!」

 突然、後ろから声。
 ビックリして振り返ると、そこには青い長髪の男が立っていた。

「キ、キース様……」

 バクバクする心臓の鼓動を抑えながら、私は彼の名を呼ぶ。

 キース・セレスティア。
 この国の第二王子である。

 目立ちたがりのサディアス様とは違い、キース様はほとんど表だった行動をしていない。
 噂では病弱で、まともに動けないと聞いた。

 実際、目の前のキース様は線が細く、顔色も悪い。
 絶対に口に出来ないけど、まるで幽霊みたいな人だと思う。

「い、いえ、特になにもしていません」
「本当ですか? 先ほど、騎士に元聖女アルマのことを聞いておられたようでしたが」

 ドキッ。
 図星だったので、心臓が口から飛び出てしまいそうになる。

「サディアス殿下には再三伝えているのですが、アルマ様を連れ戻す必要があると思うんです。ですが、みなさん、アルマ様のことについて聞いても教えてくれず……キース殿下はなにかご存知ですか?」
「アルマのことを、あなたが気にかける必要はありませんよ」

 表情こそ、うっすらと笑みを浮かべているのに。
 そう語るキース様からは、まるで氷のような冷たさを感じた。

「アルマは辞職したと聞いています。それなのに、わざわざ連れ戻すような真似は、彼女だって嫌でしょう」
「で、ですが……」
「だから、気にする必要はないと言ったのです」

 断定するキース様。

「それに、今はあなたがいるじゃないですか。調子が悪いようですが、焦る必要はありません。直に王城の暮らしにも慣れてきて、本来の力を取り戻せるでしょうから」

 優しい言葉をかけてくれるキース様。
 だが、彼の声には静かな圧こもっているように聞こえ、私は蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってしまう。

「これ以上、アルマのことを他の者に問いたださないように。勝手な真似をすれば、聖女であるあなたもどうなるか分かりませんからね」

 最後にそう言い残して、キース様は私の前から去っていった。
 彼が見えなくなった途端、全身の力が抜け、その場にへたりこんでしまう。

「一体……なんだっていうのよ……」

 みんながみんな、アルマ様を気にかけないようにする。
 それは、新しく聖女になった私に対する配慮かもしれないけど……とてもそうは思えなかった。

「……考えたらダメ! なにか知っても、私に出来ることはないんだから! このまま、のらりくらりと躱しつつ、事態が収束するのを待ちましょ!」

 邪念を振り払うように、自分の両頬を叩いた。
 しかし、胸に引っかかるしこりみたいなものは、残ったままだった。
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