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一章
3・勇者は俺より弱くなる
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その後、俺はイーディスからスキルの説明を一通り受けた。
そのまま復讐に行ってもよかったのだが、どうせなら体力万全にして……というわけで、路地裏の地面でイーディスと肩を寄せ合って目を瞑った。
俺は興奮したままで、なかなか寝付くことが出来なかったのだが。
そして今日。
俺は朝起きて、早速エリオットだけ街の外れに呼び出したのだ。
「ふわぁ……一体なんだよ、アルフ」
エリオットが欠伸をする。
「寝不足みたいだな」
「そりゃそうだろ。だって昨日は三人を相手してたんだからな」
とエリオットが口角を歪ませる。
……金は十分あるのに、俺は王宮の部屋を使わせてくれなかった。
フェリシーとエリオットが口づけしている場面を想像して、一瞬胸くそが悪くなったが、昨日よりは気にならなくなっていた。
「それでなんなんだ、アルフ。急に呼び出して」
「なあに。ちょっと文句を言いたくてな」
「文句?」
「ああ。俺の扱い……あまりにも酷くないか? そりゃ戦闘ではほとんど役に立ってないかもしれない。だったらパーティーを追放すればいいだけだし、そうしないのはお前の方だ」
「なんだあ? もしかしてお金がもっと欲しいのかい?」
「そうじゃない。もっと人間扱いしろってんだ。俺だって、お前等の立派なパーティーの一員なんだからな」
「はっ——!」
エリオットは吹き出し、
「なにを言ってるんだい! このままだったら朽ち果てるしかない無能な君を、僕が飼ってあげてるんだよ? 感謝して欲しいくらいだよ。どうして家畜を人間扱いしなければならない?」
「その言葉が聞きたかったよ」
まあ最初からエリオットが気を改めるとは思っていない。
これから行われる復讐劇を、楽しく彩るために調味料を振ったようなものだ。
「なに笑ってるんだい?」
笑ってる?
ああ、そうか。
エリオットに復讐出来るかと思ったら、いつの間にか笑ってしまってたらしい。
「それにその獣人族はなんだい? もしかして奴隷でも買ったのかい? はっ! 家畜らしいねえ。わざわざ汚らわしい獣人族なんて。僕なんて絶世の美女を奴隷にしようと思えば、いくらでも出来るのに……まあ君にはお似合いかもしれないね」
後ろで俺の背中に隠れているイーディスに、エリオットの視線が移る。
イーディスも「復讐している様を見たい」と言ったので、連れてきたのだ。
こいつは知らないんだな。
まさかこの世界で唯一神と崇められているイーディスが、実は人間ではなく獣人族だなんて。
俺はイーディスから獣人族こそが神の種族だと聞いた。
偽の神託に騙されているエリオットが、ますます愚かに思えた。
「なんだい? その反抗的な目は? ちょっとお仕置きしないといけないみたいだね」
エリオットが一歩前に踏み出す。
「奴隷は奴隷らしく、口答えしなかったら良いんだよぉぉぉおおおおお!」
とエリオットが拳を振り上げて、俺のところに突っ込んでくる。
——遅っ!
その動きを見て、思わず驚いてしまった。
「おいおい、どうした。歩いてるのか?」
俺がそう口にするが「はぁぁあああああああ!」と声を上げて、エリオットは必死にパンチを放とうとしている。
聞こえてないんだろう。
虫でも止まりそうな拳を、俺は人差し指一本で受け止めた。
「えっ?」
人差し指で止められた自分の拳を見て、エリオットが口をポカーンと間抜けに開けた。
「お前なんてこの人差し指だけで十分だ」
と俺はエリオットの額にデコピンをくらわせてやった。
「うぉぉぉぉおおおおおお!」
エリオットが後方に吹っ飛ぶ。
普段のエリオットなら考えられなかったことだ。
そもそもデコピンどころか、俺が全力でいくら拳を繰り出しても、今までのエリオットなら笑っていただろう。
「ごめんごめん。デコピンって人差し指じゃなくて、親指も使うんだったな。嘘吐いてごめんね」
まるで子どもをあやすようにして、地面に倒れているエリオットに言い放った。
……それにしても【みんな俺より弱くなる】の効果は本当だったらしい。
イーディスを疑ってたわけじゃないが、ここまでとは思っていなかった。
「アルフ。強い」
「俺が強いわけじゃない。あいつが弱いだけだ」
後ろから見ていたイーディスの頭を撫でてやった。
「クッ……!」
エリオットはよろよろと立ち上がる。
おっ、良かった良かった。
この程度で死なれたら、面白みがないからな。
「アルフ……一体なにをした? 僕にこれだけダメージを与えるなんて……もしや、なにかSSSランクの武器アイテムでも隠し持っているのか?」
「そんなの持ってないよ」
イーディスいわく【みんな俺より弱くなる】の効果は、視覚に入った人間らしい。
俺の視覚に入った人間に「弱くなれ」と頭の中で呪いをかけることによって、発動する。
どれだけ弱体化するのかというと——そのスキルの名の通り『俺より弱くなる』
さらにこの呪いにかけられてしまった対象は、死ぬまで永遠に効果が発動し続けるらしい。
これのせいで、エリオットはどう足掻いても俺には勝てないのだ。
「ふんっ。さっきのはまぐれか。まあ近付かなかったら問題ないだろう」
とデコピン一発でボロボロのエリオットは、手を掲げて魔法を唱えようとする。
「くらえ……! エクスプロージョン!」
…………。
なにも起こらない。
「バ、バカな! どうしてエクスプロージョンが発動しないんだっ!」
「決まっている。俺がそんなの使えないからだ」
エクスプロージョンは上級魔法に位置する。
エリオットは魔法を覚えて、三日で使えたと言われている。
俺はいくら努力しても下級魔法しか使えなかった。
俺レベル……いや、俺以下のレベルまで下がったエリオットに、そんな魔法使えるはずないのだ。
「ちょ、調子が悪いだけだ! 仕方ない……面倒臭いけど、下級魔法でジワジワいためてやる! ファイアーボール!」
エリオットの手の平で小さい火球が出現した。
米粒サイズだ。しかもそれが発射されても、のろのろとしかこっちに向かってこない。
「おっ? もしかして、お前。遊んで欲しいのか?」
「ぼ、僕を子ども扱いするな! クソ……! 魔力は十分あるはずなのにどうしてっ?」
「俺より弱くなったからだ」
やれやれ。
仕方ない。俺が普通のファイアーボールというものを見せてやろう。
「ファイアーボール!」
今度は手の平サイズのファイアーボールだ。
俺はそれを発射し、ちんけな火球を吸い込んで、エリオットに激突した。
「グハッ!」
ハハハ!
面白いぞ、こいつ。
たかがファイアーボールでまた吹っ飛びやがった。
俺のファイアーボールなんて、あのスライムにすら五発くらい当てないと、倒せないんだぞ?
こいつ、防御力なさすぎだろ!
ハハハ! 愉快だ!
「ど、どうして……?」
地面で転がっているエリオットに近付いていく。
エリオットは未だ状況がつかめないのか、混乱しているようだ。
そりゃそうだよな。
今まで当たり前に出来てたことが、出来ないんだから。
「どうして出来ないんだ! なにが起こっている!」
「何回も言ってるだろ。お前、俺より弱いんだから」
「アルフより弱い……? はっ! なにを言ってるんだ! 万年負け組のアルフなんかに勝ち組の僕が負けるわけないだろうが!」
「だったら体に教えてやるだけだ。お前は俺より弱いって」
「や、やれるもんならやってみろ……!」
おお、これだけやられてもまだ戦意を失っていないとは。
それでこそ復讐のし甲斐があるというものだ。
俺はエリオットに馬乗りになって、拳を何度も振り上げた。
血と涎が辺りに飛ぶ。
「や、止めろ……」
とうとうエリオットの口から弱音が飛び出した。
「止めるわけないだろ。今までお前、俺がそう言って、止めてくれたことあったか?」
そのキレイな顔がだんだんボコボコになっていく光景を見て、俺は笑いが止まらなかった。
そのまま復讐に行ってもよかったのだが、どうせなら体力万全にして……というわけで、路地裏の地面でイーディスと肩を寄せ合って目を瞑った。
俺は興奮したままで、なかなか寝付くことが出来なかったのだが。
そして今日。
俺は朝起きて、早速エリオットだけ街の外れに呼び出したのだ。
「ふわぁ……一体なんだよ、アルフ」
エリオットが欠伸をする。
「寝不足みたいだな」
「そりゃそうだろ。だって昨日は三人を相手してたんだからな」
とエリオットが口角を歪ませる。
……金は十分あるのに、俺は王宮の部屋を使わせてくれなかった。
フェリシーとエリオットが口づけしている場面を想像して、一瞬胸くそが悪くなったが、昨日よりは気にならなくなっていた。
「それでなんなんだ、アルフ。急に呼び出して」
「なあに。ちょっと文句を言いたくてな」
「文句?」
「ああ。俺の扱い……あまりにも酷くないか? そりゃ戦闘ではほとんど役に立ってないかもしれない。だったらパーティーを追放すればいいだけだし、そうしないのはお前の方だ」
「なんだあ? もしかしてお金がもっと欲しいのかい?」
「そうじゃない。もっと人間扱いしろってんだ。俺だって、お前等の立派なパーティーの一員なんだからな」
「はっ——!」
エリオットは吹き出し、
「なにを言ってるんだい! このままだったら朽ち果てるしかない無能な君を、僕が飼ってあげてるんだよ? 感謝して欲しいくらいだよ。どうして家畜を人間扱いしなければならない?」
「その言葉が聞きたかったよ」
まあ最初からエリオットが気を改めるとは思っていない。
これから行われる復讐劇を、楽しく彩るために調味料を振ったようなものだ。
「なに笑ってるんだい?」
笑ってる?
ああ、そうか。
エリオットに復讐出来るかと思ったら、いつの間にか笑ってしまってたらしい。
「それにその獣人族はなんだい? もしかして奴隷でも買ったのかい? はっ! 家畜らしいねえ。わざわざ汚らわしい獣人族なんて。僕なんて絶世の美女を奴隷にしようと思えば、いくらでも出来るのに……まあ君にはお似合いかもしれないね」
後ろで俺の背中に隠れているイーディスに、エリオットの視線が移る。
イーディスも「復讐している様を見たい」と言ったので、連れてきたのだ。
こいつは知らないんだな。
まさかこの世界で唯一神と崇められているイーディスが、実は人間ではなく獣人族だなんて。
俺はイーディスから獣人族こそが神の種族だと聞いた。
偽の神託に騙されているエリオットが、ますます愚かに思えた。
「なんだい? その反抗的な目は? ちょっとお仕置きしないといけないみたいだね」
エリオットが一歩前に踏み出す。
「奴隷は奴隷らしく、口答えしなかったら良いんだよぉぉぉおおおおお!」
とエリオットが拳を振り上げて、俺のところに突っ込んでくる。
——遅っ!
その動きを見て、思わず驚いてしまった。
「おいおい、どうした。歩いてるのか?」
俺がそう口にするが「はぁぁあああああああ!」と声を上げて、エリオットは必死にパンチを放とうとしている。
聞こえてないんだろう。
虫でも止まりそうな拳を、俺は人差し指一本で受け止めた。
「えっ?」
人差し指で止められた自分の拳を見て、エリオットが口をポカーンと間抜けに開けた。
「お前なんてこの人差し指だけで十分だ」
と俺はエリオットの額にデコピンをくらわせてやった。
「うぉぉぉぉおおおおおお!」
エリオットが後方に吹っ飛ぶ。
普段のエリオットなら考えられなかったことだ。
そもそもデコピンどころか、俺が全力でいくら拳を繰り出しても、今までのエリオットなら笑っていただろう。
「ごめんごめん。デコピンって人差し指じゃなくて、親指も使うんだったな。嘘吐いてごめんね」
まるで子どもをあやすようにして、地面に倒れているエリオットに言い放った。
……それにしても【みんな俺より弱くなる】の効果は本当だったらしい。
イーディスを疑ってたわけじゃないが、ここまでとは思っていなかった。
「アルフ。強い」
「俺が強いわけじゃない。あいつが弱いだけだ」
後ろから見ていたイーディスの頭を撫でてやった。
「クッ……!」
エリオットはよろよろと立ち上がる。
おっ、良かった良かった。
この程度で死なれたら、面白みがないからな。
「アルフ……一体なにをした? 僕にこれだけダメージを与えるなんて……もしや、なにかSSSランクの武器アイテムでも隠し持っているのか?」
「そんなの持ってないよ」
イーディスいわく【みんな俺より弱くなる】の効果は、視覚に入った人間らしい。
俺の視覚に入った人間に「弱くなれ」と頭の中で呪いをかけることによって、発動する。
どれだけ弱体化するのかというと——そのスキルの名の通り『俺より弱くなる』
さらにこの呪いにかけられてしまった対象は、死ぬまで永遠に効果が発動し続けるらしい。
これのせいで、エリオットはどう足掻いても俺には勝てないのだ。
「ふんっ。さっきのはまぐれか。まあ近付かなかったら問題ないだろう」
とデコピン一発でボロボロのエリオットは、手を掲げて魔法を唱えようとする。
「くらえ……! エクスプロージョン!」
…………。
なにも起こらない。
「バ、バカな! どうしてエクスプロージョンが発動しないんだっ!」
「決まっている。俺がそんなの使えないからだ」
エクスプロージョンは上級魔法に位置する。
エリオットは魔法を覚えて、三日で使えたと言われている。
俺はいくら努力しても下級魔法しか使えなかった。
俺レベル……いや、俺以下のレベルまで下がったエリオットに、そんな魔法使えるはずないのだ。
「ちょ、調子が悪いだけだ! 仕方ない……面倒臭いけど、下級魔法でジワジワいためてやる! ファイアーボール!」
エリオットの手の平で小さい火球が出現した。
米粒サイズだ。しかもそれが発射されても、のろのろとしかこっちに向かってこない。
「おっ? もしかして、お前。遊んで欲しいのか?」
「ぼ、僕を子ども扱いするな! クソ……! 魔力は十分あるはずなのにどうしてっ?」
「俺より弱くなったからだ」
やれやれ。
仕方ない。俺が普通のファイアーボールというものを見せてやろう。
「ファイアーボール!」
今度は手の平サイズのファイアーボールだ。
俺はそれを発射し、ちんけな火球を吸い込んで、エリオットに激突した。
「グハッ!」
ハハハ!
面白いぞ、こいつ。
たかがファイアーボールでまた吹っ飛びやがった。
俺のファイアーボールなんて、あのスライムにすら五発くらい当てないと、倒せないんだぞ?
こいつ、防御力なさすぎだろ!
ハハハ! 愉快だ!
「ど、どうして……?」
地面で転がっているエリオットに近付いていく。
エリオットは未だ状況がつかめないのか、混乱しているようだ。
そりゃそうだよな。
今まで当たり前に出来てたことが、出来ないんだから。
「どうして出来ないんだ! なにが起こっている!」
「何回も言ってるだろ。お前、俺より弱いんだから」
「アルフより弱い……? はっ! なにを言ってるんだ! 万年負け組のアルフなんかに勝ち組の僕が負けるわけないだろうが!」
「だったら体に教えてやるだけだ。お前は俺より弱いって」
「や、やれるもんならやってみろ……!」
おお、これだけやられてもまだ戦意を失っていないとは。
それでこそ復讐のし甲斐があるというものだ。
俺はエリオットに馬乗りになって、拳を何度も振り上げた。
血と涎が辺りに飛ぶ。
「や、止めろ……」
とうとうエリオットの口から弱音が飛び出した。
「止めるわけないだろ。今までお前、俺がそう言って、止めてくれたことあったか?」
そのキレイな顔がだんだんボコボコになっていく光景を見て、俺は笑いが止まらなかった。
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