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二章

11・聖女は底辺生活決定のようです

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「おっ、来たか」

 部屋の中央にマルレーネが出現する。
 転移の魔法石を使って、マルレーネがのこのこフランバル大聖堂にやって来たのだ。

「アルフ? どうして社会のゴミがこんな神聖な場所にっ?」

 マルレーネは俺を見るなり、いきなり罵倒してきた。

 良いなあ!
 それでこそ、今から復讐のし甲斐があるというものだ!

「おいおい。久しぶりなのに、その言いぐさはないだろ」

 まあ久しぶりといっても、一週間くらいだが。

「なにを言ってるのですか! 答えてください! どうしてあなたが——」

 そこでマルレーネは周囲の状況に気付き、言葉を詰まらせた。

「ど、どうして神官達が……それに教皇様まで!」

 そう。
 フランバル大聖堂中の神官……まあ全員ではないが……そいつ等を集め、手足を縄で縛ってあるのだ。

「マルレーネ様! お助けください!」
「マルレーネよ……早くわし達を助けるのじゃ」

 もがきながら、神官と教皇はマルレーネに助けを求める。
 正直、両手足を縛られたくらいだったら、逃げ出そうと思えば出来たかもしれない。
 しかし弱くなっているせいで、これくらいの制限をかけただけでも、神官達は身動き取れなくなっているのだ。

「ああ……どうしてこのようなことに……誰がやったのですかっ?」
「こいつです! 早くこの男を始末してください!」
……? まさか……」

 とマルレーネは俺の方にゆっくりと顔を向けた。

 やっと気付いたか。

「そいつ等の言ってることは当たってるよ」
「な、なんということを……」

 マルレーネは驚き、目を見開いている。

 このキレイな顔が今からどれだけ歪むのか想像するだけで、楽しみだなあ!

「しかし……どうやって? 大聖堂には治癒士も含め、魔法使いもたくさんいたはずなのに……ノロマなアルフでは、このような所業しょぎょうは出来ないはずなのに……」
「ああ。こいつ等、弱かったから俺でもなんとかなったよ」
「嘘を言わないでください! 大聖堂にいるのは選りすぐりの神官ですわよ! 今すぐ彼等を解放しなさい!」

 マルレーネが大きな声を張り上げる。

「マルレーネ様……」

 神官達のマルレーネを見る目つきは、まるで女神を前にしたかのようだ。

「ハハハ。お前、こいつ等の前ではお利口にしてるみたいだな」
「なんのことですか?」

 マルレーネがキョトンとした顔つきをする。


 聖女マルレーネはイーディス教の奇跡とも言われ、皆から尊敬の眼差しを向けられている。

 しかもそれだけじゃない。
 マルレーネは下っ端の神官にすら優しい顔を見せているのだ。

 枢機卿たるマルレーネが、そんな顔をしてたら、バカな男はコロッと騙されてしまうかもしれない。
 結果、イーディス教内にもマルレーネのファンは多い……とも噂で聞いたことがある。


「だが、今からその仮面を俺を引っぱがしてあげよう」

 しかし俺は知っている。
 こいつは打算で動く女だ。
 そうやって優しい顔を見せているのも、ゆくゆくは教皇になるための布石ふせきなんだろう。

「なにを訳の分からないことを言っているのですか。あなた、今の状況が分かっているのですか?」

 マルレーネが鋭い視線を向ける。

「わたくしを回復魔法しか使えない治癒士だとお思いでは?」
「そんなこと思ってないよ。お前は優秀な魔法使いでもあった」

 な。

「それではもう覚悟をしていますわね? 急にパーティーを抜けて……元仲間とはいえ、容赦はいたしませんわよ」

 なにもマルレーネは回復魔法しか使えないわけではない。
【魔法補正+50倍】を持った優秀な攻撃魔法の使い手でもある。
 このスキルを持った者は、普通の人より50倍も魔法の成長速度が速いのだ。

 マルレーネは手の平を俺に向け、

「死になさい——ホーリーサイクロン!」

 …………。
 しかしなにも起こる気配がない。

「ど、どういうことですか? なにが起こっているのですかっ! もう一度——ホーリー」
「無駄だ」

 俺は歩いてマルレーネのところまで行き、そのおキレイな顔に拳をめり込ませた。

「ぐふっ!」

 聖女らしからぬ声を上げ、マルレーネは壁に叩きつけられた。

「クッ……ヒール!」
「お前はもう回復魔法は使えない」

 回復魔法を唱えたマルレーネの顔面をもう一発殴る。

 んー、気持ちいい!
 おいおい、鼻から血を出しているぞ!
 傷を負ったらすぐに回復してしまうので、マルレーネのこのような姿を見られるのは貴重だ。

「どういうことですか……? 回復魔法も使えない……?」
「決まっている」

 俺がそんなの使えないからだ。

 無論、こいつが部屋に現れた瞬間から【みんな俺より弱くなる】は発動しているのだ。
 そのせいで、こいつはこれから一生ド底辺生活決定!

「キャッ——なにをするのですか!」
「うるせえ」

 俺はマルレーネの髪を持って、無理矢理立ち上がらせた。

 キレイな髪だ。
 良い匂いもする。
 この髪に世界中の女が憧れている……という話も聞いたことがある。

 だが、俺はそんなこと気にせず、髪を持ったままマルレーネをブンブンと振り回した。

「お、お止めなさい。何故このようなことを——」
「ハハハ! これは楽しい!」

 そして再度、床に這いつくばらせてやった。

「一体……どうして……? わたくしの回復魔法が、どうして発動出来ませんの?」

 痛みのせいか、マルレーネの声がかすれている。
 しかし瞳を見るに、まだ戦意を失っていないようだ。

 そうだ。これこそ俺の望んでいたことだ。
 簡単に降伏なんてされたら、つまらない。

「アルフ。頑張って」
「おう」

 後ろからはイーデも応援してくれている。

 俺はマルレーネに近付き、

「おい、お前まだ気付いてないのか?」
「なんのことですか?」
「ここがどこっていうことにだよ」

 俺がそう言うと、マルレーネはキョロキョロと辺りを見渡した。
 こうして見ると、さすが絶世の美女とうたわれるマルレーネだな。
 これだけボロボロにやられて、血を流していても、まだ彼女の美しさは保たれているように見えた。

 面白い。
 まずは手始めに、その美しさを壊してやろうじゃないか。

「ここは……審判室?」
「そうだ。やっと気付いたか」

 教皇を脅迫して、マルレーネを呼び出した場所。
 そこは悪魔審判が行われる——審判室であった。

「まさか……」

 マルレーネがぎょっとした顔を向けた。

 おっ、察しが良いじゃないか。

「今から悪魔審判を執り行う!」

 俺は裁判官になったような気分で、マルレーネにそう告げた。
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