ドSワンコとクズ眼鏡

うさき

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「マジですか?絶対取り消しナシですよ」
「…と、取り消したりなんてしないっ」

 顔を上向かせてハッキリと言ってやる。

 遊園地なんて行ったことないしどうしたらいいのか分からないが、七海が一緒にいるなら不思議と興味がわいてしまう。
 七海がどんな顔をするのか、たくさん笑ってくれるのか喜んでくれるのか。
 生徒と出歩くなんて発想自体ありえなかったはずだが、今はそんなこと考える余裕などなかった。

「――っやった。すげー嬉しいですっ」

 そう言って七海は俺の両手をチケットごと握りしめる。
 勢いでクシャリといってしまったそれを見て、慌てて七海の手から逃れる。

「別に少しくらいヨレたって大丈夫ですよ」

 七海はそう言ったが、俺にはそう思えなかった。
 これは今日一日七海が俺のことを考えて、頑張って取ってくれたものだ。

 二枚のチケットをじっと見つめてしまう。
 ドキドキとどうしようもなく体温が上がっていく。

「きっと心配しなくても誰にも会いませんよ。人気のあるところなんで人も多いだろうし」

 別にそんなことは今心配していない。
 ただまじまじとチケットを見つめたまま、目が離せなくなってしまう。

 七海は俺のことを飽きたわけじゃなかったのか。
 ちゃんと考えてくれていたのか。
 その証拠が目の前にあって、その事実に自然と表情が緩んでしまう。

「あっ、やっとニコニコさんになってくれました」

 七海に指摘されたが、嬉しくて止められなかった。
 堪らなくくすぐったい気持ちが込み上げて、チケットを見つめたまま表情が綻んでしまう。

「ほんとみーちゃんって素直っていうか…」

 不意に七海の手が俺の顎に掛かり、そのまま上向かされる。
 チケットから強引に移動させられた視線が七海の視線とぶつかる。

「よそ見しないでって言ったじゃないですか。笑顔は全部俺にだけ向けて下さい」
「…何言って」
「好きです。俺の気持ち少しは信じてくれましたか?」

 バクリと大きく心臓が跳ねる。
 七海の表情はどこか熱を持て余しているようで、うずうずと堪えるように俺の言葉を待っている。
 まるで『ヨシ』と言われるのを待っている犬のようだ。

 七海の事を信じたい。
 だがやはり七海と俺は違うと思ってしまう。

 俺にはそんな簡単に相手に気持ちを伝えることなど到底出来ない。
 情けないほど迷って、怒って、不安になって、それでもまだ伝えることが出来ずにいる。

「…し、信じたい…けど」
「けど?」

 辿々しい俺の言葉に、七海が小さく首を傾ける。
 すぐ目の前で絡む視線に、もうバクバクと心臓が鳴っている。
 
 だが七海は俺を逃がす気はないらしい。
 しっかりと顔を上向かされて、視線を逸らすことすら許さないと強い瞳に見つめられる。
 頭が真っ白になりそうだ。

「じ…自信が持てない」
「え?」

 もう俺を見ないでくれ。
 近い位置で見つめられると、頭が混乱する。
 鼓動が煩くて、頭が真っ白で、なんだか泣きたいような気持ちにすらなってくる。

「お、お前が断ったりなんかするから…っ。だ、だから自信がなくなって…」
「えっ、断るってなんですか。俺が?」
「よ、用事があるならそれでいいんだ。…けど俺はお前と違って簡単に誘ったりなんか出来ない。だ、だからそれで――」

 七海は一度ポカンとした顔をしてから、腕を組み深刻な顔で悩みだす。
 これは全く分かっていないという顔だ。

「…し、しばらく家に来ないと言っただろう」

 なぜ俺がそこまで言ってやらないといけない。
 やはり俺への言葉など大した事ないと思っているのか。

「…あー」

 だが俺の指摘に、七海は何か思い至ったように目を細めた。
 なんだその顔は。
 どこか後ろめたい事を隠しているような分かりやすい表情に、ゾクリと足が竦む。
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