123 / 132
116
しおりを挟む「マジですか?絶対取り消しナシですよ」
「…と、取り消したりなんてしないっ」
顔を上向かせてハッキリと言ってやる。
遊園地なんて行ったことないしどうしたらいいのか分からないが、七海が一緒にいるなら不思議と興味がわいてしまう。
七海がどんな顔をするのか、たくさん笑ってくれるのか喜んでくれるのか。
生徒と出歩くなんて発想自体ありえなかったはずだが、今はそんなこと考える余裕などなかった。
「――っやった。すげー嬉しいですっ」
そう言って七海は俺の両手をチケットごと握りしめる。
勢いでクシャリといってしまったそれを見て、慌てて七海の手から逃れる。
「別に少しくらいヨレたって大丈夫ですよ」
七海はそう言ったが、俺にはそう思えなかった。
これは今日一日七海が俺のことを考えて、頑張って取ってくれたものだ。
二枚のチケットをじっと見つめてしまう。
ドキドキとどうしようもなく体温が上がっていく。
「きっと心配しなくても誰にも会いませんよ。人気のあるところなんで人も多いだろうし」
別にそんなことは今心配していない。
ただまじまじとチケットを見つめたまま、目が離せなくなってしまう。
七海は俺のことを飽きたわけじゃなかったのか。
ちゃんと考えてくれていたのか。
その証拠が目の前にあって、その事実に自然と表情が緩んでしまう。
「あっ、やっとニコニコさんになってくれました」
七海に指摘されたが、嬉しくて止められなかった。
堪らなくくすぐったい気持ちが込み上げて、チケットを見つめたまま表情が綻んでしまう。
「ほんとみーちゃんって素直っていうか…」
不意に七海の手が俺の顎に掛かり、そのまま上向かされる。
チケットから強引に移動させられた視線が七海の視線とぶつかる。
「よそ見しないでって言ったじゃないですか。笑顔は全部俺にだけ向けて下さい」
「…何言って」
「好きです。俺の気持ち少しは信じてくれましたか?」
バクリと大きく心臓が跳ねる。
七海の表情はどこか熱を持て余しているようで、うずうずと堪えるように俺の言葉を待っている。
まるで『ヨシ』と言われるのを待っている犬のようだ。
七海の事を信じたい。
だがやはり七海と俺は違うと思ってしまう。
俺にはそんな簡単に相手に気持ちを伝えることなど到底出来ない。
情けないほど迷って、怒って、不安になって、それでもまだ伝えることが出来ずにいる。
「…し、信じたい…けど」
「けど?」
辿々しい俺の言葉に、七海が小さく首を傾ける。
すぐ目の前で絡む視線に、もうバクバクと心臓が鳴っている。
だが七海は俺を逃がす気はないらしい。
しっかりと顔を上向かされて、視線を逸らすことすら許さないと強い瞳に見つめられる。
頭が真っ白になりそうだ。
「じ…自信が持てない」
「え?」
もう俺を見ないでくれ。
近い位置で見つめられると、頭が混乱する。
鼓動が煩くて、頭が真っ白で、なんだか泣きたいような気持ちにすらなってくる。
「お、お前が断ったりなんかするから…っ。だ、だから自信がなくなって…」
「えっ、断るってなんですか。俺が?」
「よ、用事があるならそれでいいんだ。…けど俺はお前と違って簡単に誘ったりなんか出来ない。だ、だからそれで――」
七海は一度ポカンとした顔をしてから、腕を組み深刻な顔で悩みだす。
これは全く分かっていないという顔だ。
「…し、しばらく家に来ないと言っただろう」
なぜ俺がそこまで言ってやらないといけない。
やはり俺への言葉など大した事ないと思っているのか。
「…あー」
だが俺の指摘に、七海は何か思い至ったように目を細めた。
なんだその顔は。
どこか後ろめたい事を隠しているような分かりやすい表情に、ゾクリと足が竦む。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
126
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる