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1章 ゾンビになった日
死人の目にも涙
しおりを挟む・前回のあらすじ
父の威厳は最初からなかった。
家族は生まれ変わった? ケロックをとても賑やかに(それはもう盛大に、具体的にはご近所さんに家族揃ってご挨拶という形で)受け入れてくれた。
父親は血まみれ兜のまま頭を下げた相手をビビらした。
母親はケロックが「死んだ」と言うたびに泣き出し、「生き返った」のフレーズでさらに泣いていたので、ご近所さんから慰められてまた泣いた。手に負えなかった。
妹はずっとケロックにしがみついて離れなかった。彼女を無理やり引きずりながらの挨拶回りだったので、急場だがケロックの歩行は上達した。歩きだけなら完璧である。
ご近所さんたちは少し困りながらも優しく応えてくれて、夕飯の残りや亡き父の歩行杖、さらには『おばちゃん特製・夫婦円満の秘薬』というピンク色の薬剤までくれるものもいた。
その日の夜は家鳴りがギシギシとあまりにもうるさかったので、ケロックはスキル【聴覚】と【視覚】のスイッチをOFFにしていた。フニランは子供なのでぐっすりだった。
(【天の声】さん、時間わかんないから朝になったら起こして)
『私をスマホAIのようにこき使うとはいい度胸ですね』
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・寝れねえ)
『そりゃゾンビですもの』
こうしてケロックの誕生日は終わりを迎えたのだった。
あれから一週間が経過しようとしている。
その間に再び町医者:ルシルがクロムハーツ家を訪ねた。大きな水晶玉を持って。
「いいか? 君たちは私に感謝をしなければならない。
わざわざ領内で一番大きな教会まで足を運び、最大限のコネと脅しを駆使して『神眼の水晶』を手に入れ、本来なら15歳以上が高い金を積まなければ受けられない儀式を今ここで受けさせてもらえるのだから。
クロムハーツ家はチェルーシルに感謝をしなければならない! はい復唱っ!」
「クロムハーツけはチェルーシルにかんしゃしなければならない!」
「やっと見た目が大人らしくなってきたのにねぇ。フニちゃん、ルシルは調子に乗ってるだけだから応えなくてもいいのよ。」
「おかあさん、かんしゃって何?」
「それはね、常日頃おかあさんに向けられるものよ。
洗濯掃除料理に買い物子育て美容体操井戸端会議etcetc…、家では役立たずのくせに1つの仕事で出張が多い無能なお父さんと違って、あらゆる仕事を一手に引き受ける最強の自宅警備員、それがおかあさんよ。
おかあさんいつもありがとう! はい復唱っ!」
「おかあさんいつもありがとう!」
「二人ともフニランに変なこと教えないでくれない?」
お茶を入れる父のツッコミを無視してきゃっきゃきゃっきゃする母娘と、一心不乱にチョークで魔法陣を描く町医者。哀れファラン・クロムハーツ。普段帰らないこの家では、父の威厳など皆無である。
魔法陣の真ん中に座って堂々と本を読むのは、我らが主人公ケロック・クロムハーツ。最近のマイブームは、父・ファランの持ち物である『スティング流抜刀術指南書』を主とした武道書である。ファラン自身は我流であるが、迅速に敵を無力化すると言う発想は求める形に近いのだと言う。
「おとなしい奴だと思ってたが、剣術に興味があったか。ケロックもやっぱり男の子なんだなぁ。今度よく切れるナイフでも買ってやるかな。むふふふふふふふ」
(この『歩法』のページはとても参考になる)
『父親に過度な期待をさせているようですが』
(うん、わかるよ。兜の奥から目ぇギラッギラさせて笑ってるもん。ってかいつ脱ぐんだよあれ)
『夫婦揃って奥の部屋に引っ込んでギシギシやってる時はさすがに脱ぐでしょうね』
(ギシギシとか言うな)
『奥でアンアンやってる時とか』
(アンアン言うな)
一週間目にして歩き方を完璧にマスターし、さらなる高みを目指していた。あ、ギシギシアンアンについてはスルーで。
「よーしみんな、一旦静かにしてくれ。これからケロックの加護に以上がないかを調べさせてもらう。
本来なら15になるまでこの儀式をすることはないが、今の彼の状態には【神】が関わっている可能性がある」
ルシルの言葉によって、場に驚愕と緊張の混じった空気が漂い始めるが、実はこの言い訳、あくまで建前である。
この建前は、以前ルシルがケロックを診た時に打ち合わせた(と言うより一方的に説明した)内容なので、ケロックも了承済みではある。
この世界で最大の宗教といえば、三人の女神を主神とした【三星教】である。女神によって宗派は異なり、黄金の女神シャイナムルの『太陽信仰』・白銀の女神エメリエンネムの『月光信仰』・黒鉄の女神イルルヤンジュの『夜色信仰』の3つに分類される。
その中でも太陽信仰の教会は、「世の理や真実を明るみに」のコンセプトのもと、15の成人を迎えたものには任意で種族や加護などが印字された紙が発行される。個人情報も多いのだが、重要な場面で身分証として使われる。
ゾンビになったと言うことは、儀式で表示される種族名に「ゾンビ(劣等種)」が載ると言うこと。それが教会で明るみに出れば、見敵必殺間違いなし。
なので成人を迎える前に、限られた場で儀式を済ませる必要があったのだ。
なお、この儀式の結果如何によっては、家族にケロックの正体を明かすことも視野に入れている。「神が関わる」とはすなわち、「何らかの使命を女神から与えられた者である」と言うことだ。ルシルはそんな大義名分があれば、彼がゾンビであると知った時の衝撃もいくらか和らぐだろうと考えていた。
「状態が状態だから何が起こっているかもわからない。目的はあくまで診察だが、内容によっては彼だけでなく、君たち家族にとっても重荷になるかもしれない。それこそ世界を背負う存在になるか、逆に世界を敵に回すか・・・・・・」
この言葉には家族だけでなく、当のケロック本人も息を飲んだ。ルシルはこのタイミングでケロックにも覚悟を問いかけようとしていた。
『あの日、私が話したことと一緒ですね』
(・・・・・やっぱりなんか応えた方がいいのかな)
『一応子供ですし、喋れないうちは何もしない方がいいと思います。ただ、答えだけは見つけておいた方がいいかと』
(答え、か・・・・・)
「そんなん決まってるじゃない」
ただ一人、沈黙を打ち破ったのは母・ルナリアであった。
「私はこの子のためなら【救世主の母】にもなれるし、【悪魔の育て親】にだってなれるわよ?」
「全く別の何かになった可能性だってあるんだぞ?」
「知ったこっちゃないわよ。私は人間だけど、私の親はエルフだったわ。お腹を痛めて産んだ子がその別の何かと入れ替わったとしても、私はケロちゃんが我が子じゃなくなることを絶対に許さないもの。
血の繋がりとか過ごした記憶とかどうでもいい。ただ、今まで育ててきたのも私ならこれから育てていくのも私。たとえ死んでも、生き返っても、何度も言うけど『全く別の何かに入れ替わっても』」
「・・・・・気づいてたんだな」
「可能性としては、ね」
ケロックがふと周りを見れば、父も妹も動揺せずケロックのことをじっと見ていた。その眼差しには母と同様、決意のこもった光が灯っている。
そう、とっくに気づかれていた。
未だ小さな妹ですら、初見で違和感に気づいていた。10年以上我が子を見守ってきた両親が、一週間も『全く別の何か』と暮らしていれば、とても生きた人間の体ではないし、それまでの息子とは違うこともわかっているはずだった。
そんな、あたたかく優しい一週間が、色濃い記憶の本流がたっっっっっぷりと景色として流れ込んでくる。
気づけば何の前触れもなく、ケロックの目から涙があふれていた。
あてのなかったはずの、優しい未来が頬をつたって流れていた。
「ぅあぁああああああ・・・・・」
『スキル【音魔法の基礎】を手に入れました』
名:ケロック・クロムハーツ(10)
種族:ゾンビ(劣等種)
●称号
【フレッシュイモータル】【女神の死徒】【転生者】【“NEW!”愛されしゾンビ】
●スキル
【鈍感】【天の声】【“NEW!”歩法】【“NEW!”音魔法の基礎】
●称号
【愛されしゾンビ】
本来愛されることはない存在が人に愛された稀有な証明。成長率と魅力に補正がかかる。
●スキル
【歩法】
歩く・走る・蹴るなど、足を使ったスキルを覚えやすくなる。
【音魔法の基礎】
音魔法を覚えやすくなる。
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