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1章 ゾンビになった日
ぼくの家族
しおりを挟む・前回までのあらすじ
母ちゃんヒステリックデスボイス
主人公からすれば鼻血もんでした
「何よこの鼻血、真っ黒じゃない!」
そう言ってこちらに駆け寄ってくる女性がいた。
ケロックの母:ルナリア・クロムハーツである。
長いブロンドの髪を三つ編みにして後ろに提げたタレ目の女性だったが、怒った顔は怖かった。肉体の本能的に恐怖を感じたのは、やっぱりこの女性がケロックの母親だからであろう。ケロックは何となくそれがわかったようだ。
「大丈夫? 熱はない?・・・・・って冷たっ!! なによこれ、本当に大丈夫なの!?」
死体なのでもちろん体温はない。よっぽど心配していたのだろう。口調がどうしてもやり場のない怒りをまき散らす形になってしまっていた。
「ルシルったら、『もう大丈夫だ』とか適当なこと言って! ファランだって、高熱出して寝込んでる息子うっちゃって、そんなに騎士の仕事が大事かしら! こんな、ケロちゃん、を・・・・・」
愛称なのだろうか。名前をつぶやいたことで、改めてケロックをまじまじと見つめたルナリア。
無理もない。目の前で元気そうに鼻血を吹く彼は、さっき息を引き取ったはずの我が子なのだ。
一気に血の気が引き、喉の奥から何かがこみ上げてきて・・・・・。
「うっ、ひぐっ、うわぁぁあああああんんケロちゃぁあああああああああああ」
息子の冷たい体を抱きしめて、ルナリアは子供のように泣きじゃくるのだった。
結局、後から入ったルシルが止めるも、ルナリアはケロックをデレデレした顔で決して離さなかった。ルシルはあきれて途中で帰ってしまうし、ケロックもうんざりしていた。ケロックの妹らしき女の子は、何かに怯えるかのように、彼のことを遠巻きに見ているだけだった。
状況が変わったのは、それから2時間後のこと。
「今帰ったぞ! 無事かケロック!!!!!!」
流石に血まみれの鎧騎士が玄関から乱入してきたときは、メンドくさくて死にたくなった死人:ケロック。
飾りのないベッコベコの兜。おそらくブリキ製。
傷だらけの皮鎧。古いものから新しいものまで血がべったり。
木製の盾。不揃いな鉄片が複数枚埋め込まれている。
大鉈のような分厚い片刃の剣。これだけはよく研がれているが、一番血まみれ。
面頬で顔は見えないが、雰囲気からしてケロックの父なのは間違いない。しかし、これを騎士と呼んで良いものか、甚だ疑問である。
当然だが、そんな彼をルナリアは厳しく叱る。ケロックを燃やす勢いでなでなでしながらだが。
「ファラン! 仕事着のまま帰ってきたの!? ケロちゃんとフニちゃんが怖がってるじゃない! いい加減騎士団から支給された装備を着けなさいっていつも言ってるでしょう⁉︎」
「しょうがないだろ!? 冒険者時代からこのスタイルで慣らしてきたんだ、今さらあんなクソ重い鎧なんか着れるか!こんな早く帰れたのもこの軽さあってこそだよ!」
「何が早くよ! あなたがちんたら仕事してる間に、ケロちゃん、一回、し、死に・・・・・うわぁああああああんケロちゃぁああああああ」
「お、おい泣くなよ大袈裟だな・・・・・うおぁケロック! なんだその生気のない顔! 親の顔が見たいわ!」
「あたしたちでしょ! いい加減親の自覚持ってくれる!? 顔色悪いのだって、いっかい死んじゃったからに決まってるじゃない! ファランのバカァあああああああ」
「だから泣くなってルナリア! ほら、フニランだってあんな隅で震えて・・・・・やめろ、二人とも父さんをそんな目で見るなぁあああああああ!!!!!!」
こんなのが親だとしたら泣きたい、そう思っても泣けない死人ケロック。
とりあえずこの無秩序をなんとかしたいので、フニランと呼ばれた少女の方に目を向けた。
びくりと体を震わせる金髪の少女。鋭利な刃物のような力強い目をしているが、何かに怯えるように、それでいて警戒心を持ちながらこちらを見つめ続けている。
(何に怯えているんだ・・・・・)
『え?まだ気づきません? というより気づかれてません?』
(え、何が?)
まさかとは思いつつも、【天の声】さんにおそるおそる確認を取る。
『死んだはずの人間が生き返ったら、普通怪しみますよね』
(ですよねー)
親バカが親バカしすぎて忘れていたが、このしっかり者の妹:フニラン、死人の復活という非常識と、生まれた時から一緒にいる血を分けた兄の変容に、しっかりと嫌疑の目を以って観察していたのだ。以前の兄とどう違うか今の兄に何が起きているのか、子供なりに考えてはいるようだった。
具体的に言えば、
(死んだ人はテンゴクに行くっておかあさん言ってたもん。お兄ちゃんのタマシイはテンゴクに行ったんだもん。きっと、あの中にはお兄ちゃんじゃないアクマかなんかが入ってるんだもん。顔色わるいし無口だし、死んだおさかなさんの目してるから、あれはお兄ちゃんじゃないもん)
などと、なかば確信をついた想像をしていた。
『遅かれ早かれ起こっていた事態です。生まれて11年、ずっと成長を見守ってきた両親と、生まれた時からずっと兄を見てきた妹。突然別人になったあなたを見て疑われないわけがありません。』
(・・・・・。)
『もし受け入れられて、家族があなたの味方になったとしても、あなたの身体は成長することはありません。いずれは家族に捨てられるか、近所から気味悪がられて家族ごと追い出されるか』
(・・・・・。)
『なんにせよ、この世界であなたが生きていくということはとても厳しいことだと覚えておいてください。あなたにとっても、家族にとっても・・・・・って、聞いてます?』
(・・・・・おいで)
『・・・・・あなたまさか』
天の声の忠告や、両親の言い争いも、ケロックは意に介さない。
彼の体の奥底から、血と肉と心とが望むままに、本能で妹だと認識できる存在をただ慰めるためだけに、ケロックは全くの無表情で妹に手招きをしていたのだ。
フニランはそんな兄の様子を見て一瞬躊躇したが、あまりにも無防備で敵意のないその姿に、その足はゆっくりと引きずられるように近づいていった。
距離が縮むごとに足はすくみ脳は危険信号を訴え続けるが、それでも歩みを止めることはできず、ついにケロックの手の届く位置まで来てしまった。こちらの目をじっと見つめてくる少年の死人のような目に身震いし、動いていた足は凍りつくように動かなくなっていた。もう引き返すことすらできない。
そんな少女に、少年はゆるく伸ばした腕をさらに体ごと伸ばして、頭の上にその手を乗せた。
いきなり強めに押し付けられたその手に、フニランはその目を閉じ、体を震わせ硬直させた。しかし、ふと我に返った時に、なぜだかその冷たい死人の手が暖かく感じられるようになっている。
(・・・・・お兄ちゃんの手だ)
ケロックが妹に対してそうであったように、フニランもまた、目の前の人間が兄であると本能的に認めてしまったのだ。
(ぜったい、お兄ちゃんじゃない。お兄ちゃんはよく笑うもん。お兄ちゃんは体は弱いけど、よくしゃべるもん。でも、こんな、こんなの・・・・・)
心の奥底から、もう二度と会えないはずだった兄の面影を感じて、何かがあふれ出しそうで止まらなかった。
そして、それは決壊する。
「・・・・・う、うぇえええええええんお兄ぢゃぁあああああああああああ」
(ウワァめんどくさぁ)
『・・・・・フフッ、ひどい人ですね』
何がおかしいのか、スキル【天の声】が少しだけ笑った。何げに生まれて初めての感情である。
結局、妹が泣き出したがために両親の喧嘩は収まり、夜になるまで家族の号泣大合唱は続いたのだった。
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