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2章 命にふさわしい
紙一重の連続
しおりを挟む気配が消えた。
いや、より意識を集中させ注視すれば、わずかに感じられる。 老人は眼前の少女の変化に目を凝らした。
先ほど圧倒的な差を見せつけたにもかかわらず、より細く鋭く研ぎ澄ますかのように闘気を練るフニラン。本当に先ほどと同一人物かすら怪しくなってくる。
(実戦でここまで化けるかよ)
驚愕しつつも嬉しさが勝り、笑みがこぼれた。ときに若者の成長は、彼の老後の生活に最高のスパイスとなる。
だが悲しいかな、幼子の初のまともな実戦。最善手を選ぼうにも経験がなさすぎる。フニランがどれだけ戦闘センスに優れていようとも、手が足りない今の彼女では、目の前の老人に傷ひとつつけられはしない。
なればこそと、その槍を大きく振りかぶって投げた。
当然悪手である。相手からすれば雀の涙ほどだが、自らの武器を捨て、取れる手を大幅に減らす行為に等しい。文字通りの投げやりである。
だが、投擲した槍は想像以上に速度が出ていた。矛先の老人が思わず舌を巻くほどに。
実は、フニランの槍の中で最も威力が高いのがこの技である。
槍を振り始めた時はまだ人数の多い悪ガキに対処するすべがなく、石ころや木片など、とりあえず手に触れたもの全てを投げつけながら戦っていた。そして槍が手に馴染んだ頃、投げる石は木の板を割り、ひらひらと舞う木の葉を撃ち落とすまでに昇華され、危険なのでその日から人に向けて石を投げるのをやめた。
まだフニランがあずかり知らぬところではあるが、この時彼女には【投擲の心得】という称号スキルが生えており、【天賦の才:槍術】と組み合わせる事によって、現在の投げ槍へと発展していた。
さらに言えばこの技、対飛竜撃墜用の武技で【撃竜槍】と呼ばれているのだが、もちろんフニランはまだ知らない。
それでもあくまで投擲術であり、悪手は悪手。少なくとも互角以上の対人に使う技ではない。
老人はこの技が前述した武技である事は気づいている。無視できない威力とはいえ、無手の老人なら振り払う事はせずに難なく回避するだろう。
なのでフニランも、投げた体勢そのまま老人に向かって駆け出していた。相手の目を奪い接近するための最強の捨て槍、最善手が無ければ悪手を好手に変える、そのための投擲だったのだ。
「まあ、儂でもそうしてたがな」
老人はそう呟いて、空いている左手で飛んできた槍を捕まえた。
手の痺れでわかる槍の威力。直感的でありながら、格上に対する動きと思いきりの良さは素直に感嘆に値する。
ただまぁ武技とはいえ、所詮は子供の力。武芸の達人である謎の老人にかかれば赤子の手をひねるも同然である。それでも充分に神技ではあったが。
結果、老人の体勢を崩すどころか武器を取られ、自身は無手のまま前傾姿勢で距離を詰めてしまっている。
「せっかくだし手本でも見せるか」
言葉と同時に突き出される槍の柄。石突きと呼ばれ、非殺傷を目的とした部分だが、充分に鋭い一撃である。少なくとも子供相手にしていい攻撃ではない。このまま行けばカウンター気味に眉間にクリーンヒット、下手すれば昇天モノである。
そんな己れを射抜かんばかりの一撃に、フニランは必死で策を見いだそうとするも、見当たらない。それでも考えるのをやめてはならない。兄を奪還する為にも。
ふと思い立ったのは、過去の情景。走馬灯のように浮かんでくるのは、兄の歩く姿。
ケロックは常にふらふら歩く。初めて立ってから2年経った今でもふらふら歩く。
何でこんな時にこんな事思い出すのかはわからないが、良く転ばないなと思った瞬間にハッとした。
そう、ケロックは転ばないのである。どれだけ転びそうなぐらいふらふらしてても、近所の悪ガキに蹴り飛ばされる以外で、フニランは彼が転ぶところを見た覚えが無かったのだ。
気づけば、老人は何もない空間を突いていた。
「んなっ!?」
動きは見えていたはずだ。ただ、あまりの予想外の動きに虚を突かれたのだ。
フニランがやった事は至極単純である。
老人からすれば、フニランの速さならどこに避けようとも捉える自信があった。
なので、この時フニランは直前に少しだけ頭を引き、スピードを緩めたかのように錯覚させ誘導したのである。
老人が確実に当てるためにより深く突こうと前のめりになるそのタイミングで、踏み出した右足を2足分左にずらしただけだ。
足を交差させる形になり、自然とバランスを崩し、右前へと倒れこむ事で急加速、額を少し削りながらもギリギリで回避に成功したのである。
丈の長いスカートで脚の動きが見えにくかった事、2つの動作による緩急、確実に当てようとする老人の意識をも利用した、見事なコンビネーションであった。
なお、倒れこむ時にスカートに隠した短い手槍(ユグドラシル2号)を取り出す事も忘れない。わざと体勢を崩す分には、すぐに立て直すことができる。兄の歩き方から学べたことだ。
老人の死線を越えた。奇しくもケロックを攫われた時と立場が入れ替わった同じ状況。
今度はこちらの番だとばかりに、渾身の力で手槍を振るう。
点では当たらないので横に薙ぐ線での攻撃。老人も避けるよりは迎え撃つ方が無難であると、腕と腰の捻りだけで無理矢理叩き落とそうとする。
2人の槍が交差した。
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