生まれ変わったらしんでました

かんた

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2章 命にふさわしい

老人の正体、両親の過去、オニワサビの慟哭

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「・・・・・やれやれ」



 結果的に言えば、倒れたのはフニランで、立っていたのは老人だった。

 ただし、ケロックの奪還には成功していた。


「ケロック君、だったか。大事にされとるなぁ」
「いつも僕を守ってくれる自慢の妹ですから」
『守られる前提で動く事自体、クズ兄極まってますね』

 実際ケロックは全くと言っていいほど抵抗しなかった。めんどくさかったから。
 それでも老人はこの少年に対して、言い知れぬ恐怖のようなものを感じていた。








 それはほんの十数秒前のこと。

 老人がフニランの槍を叩き落す瞬間。老人のすぐ横から濃密な殺気が放たれた。
 右肩に魔王でも乗っけてしまったと思えるぐらい強烈な存在感に、歴戦の猛者である老人ですら一瞬の硬直を禁じ得なかった。

 気づけばフニランは手槍を囮にし、右肩のケロックに飛びついていたのだ。

 着地した後、フニランは感極まって「獲ったどー!!!」と叫んでいたが、槍を掠めた頭は脳震盪のうしんとうを起こしていたため、そのまま意識を落としたのである。



(腕も槍も儂の方が長かったから、その気になれば嬢ちゃんごと叩き落しても良かったんじゃが、槍を狙わんかったら無事ではすまなかったかもしれん)

 目の前で妹の面倒を見る少年は、老人にとって不気味に見えるものだった。






「僕を、殺します?」


 この場において異常とも取れる質問を、少年は少し遠慮がちに聞いてくる。
 
 それは、この世界に生を受け、最初に町医者から敵意を向けられた時も無言で問いかけた内容だった。






「質問を返すようで悪いが、なぜ抵抗しなかった? あのタイミングで殺気をぶつけてきたのは何故だ?」
「妹の成長を見たかったからです。でも、見てられませんでした」
「・・・なるほど、これを使いなさい」

 口調が柔らかくなった老人は、ケロックに向けて何かを投げ渡した。
 受け取って見れば、緑色の液体が入った小瓶、いわゆる低級ポーションである。

「それを垂らせば血は止まるが、少し抉れてしまってるからな、放っておくと跡になってしまう。1日2回一滴ずつ塗るように。中庭にファランがおるから合流しなさい」
「ありがとうございます」
「うむ、ガルド・ローエン・アイゼンヴァルトは君達の美しき兄妹愛に免じ、ケロック・クロムハーツは1人の「人」であるとここに宣言する。
 方々ほうぼうに文書をしたためておくので、これからの身分については保証しよう。2人の行く先に災い無きよう」

 そう言って老人は踵を返し、「ほれさっさと介抱せんか、見た目だけのニセ筋ども」と筋肉双子に一喝してから去っていった。














「それは災難だったね」

 すぐ後にフニランが目覚め、二人は中庭で剣を振っていた父と合流、そのままお昼ごはんになった。

 領主の館の中庭には大理石で出来た溜め池のようなものがあり、四方に向かって伸びる水路へと流れ続ける。これがアイゼンヴァルト領名物浄化の泉である。今も魔晶石から魔力が送られ、微弱とはいえ呪殺の魔方陣が発動し続けているので、基本的には立ち入り禁止となっている。

「ガルド先生は現王の武術指南もやってた元Sランクの冒険者で、すごい人なんだよ。僕もかつてあの人の師事を受けたことがあるんだ」


 ガルド・ローエン・アイゼンヴァルト。
 先々代アイゼンヴァルト辺境伯の三男であり、現当主の叔父にあたる人物である。
 クランやパーティではなく個人でSランクを取得した凄腕の冒険者だったそうで、
曰く「複数の高難度ダンジョンを単独踏破」
曰く「1人で1000人規模の一個大隊を制圧した」
曰く「竜王に実力を認められ、その娘を嫁にした」
 など、噂や実績は数知れない。
 引退後も大陸中を漫遊しながら行く先々で出会った者に武術を仕込み、有名な騎士や高ランクの冒険者、果ては革命に成功した英雄など、優秀な弟子を輩出しているらしい。
 爵位も何も持たないが、王族も頭が上がらない存在であり、この男に認められたならケロックのこれからは安心だと、ファランはにこやかに話していた。

「へーあのおじーちゃんそんなすげー人だったの」
「フニランこそ、そのすげーおじーちゃんを出し抜いてケロックを奪還したんだろう? よく頑張ったと思うよ」
「次会った時には絶対に勝つ。この傷は残しとく」
「えっ、それ治さないのかい? 痕が残るよ?」
「戦士の勲章ってェヤツだぜぃ」
「女の子がおデコに傷とか、母さんになんて言おう・・・・・」

 良い笑顔でサムズアップする娘に、眉間を押さえてため息を吐く父。
 ケロックはふと、それまで行き詰まっていた疑問を投げかける。

「父さん、ベントレールさんて知ってる?」
「ん? ベントレールに会ったのか?」
「おとーさん、ベントレールさんは私とお兄ちゃんを迎えに来てたけど、私たち外に遊びに行ってたの」

「え? 待って。てことは、ルナリアと、家でふたり…きりだった?」

 フニランの補足の意味を噛み砕いて、今度はだんだんと青ざめていくファラン。なんだか雲行きが怪しい。

「・・・子どもにこんな事話すのも変だろうけどさ、元々母さんはベントレールと婚約してたんだ」
「ぅわぁお、それでそれで?」

『こういう時の妹さんの食いつきがすごいですよね』
(男らしさも女らしさも母さん似だからなぁ)

「一緒に冒険者してた頃はお互い意識するにとどまってたんだけど、戦争の功績で男爵位が貰えることになったから、叙任式の時感極まって彼女のご両親含む王侯貴族の前でプロポーズしちゃったんだ」

 語られるのは子どもたち2人にとって衝撃的な過去。両親が冒険者であったことは知っていたが、突発的な情報過多で呆然とするしかなかった。
 結局ルナリアの両親が「男爵位から騎士爵位への降格」と「冒険者稼業の引退」を条件に結婚を認めたらしい。

「ちなみにガルド先生がルナリアの父だよ」

 さらに告げられる衝撃の事実。開いた口が塞がらない。フニランは額の傷に手を当てて「お祖父ちゃん⁉︎ ほげーっ」と上を向いている。


 ガルド・ローエン自体に爵位は無いし、その娘であるルナリアも貴族ではないのだが、王家武術指南役のガルドと竜王の娘であるその妻は、下手な王族や貴族よりも発言力と影響力があった。だから王都の貴族との婚約も実現していたし、それを破棄して冒険者あがりの準貴族との結婚に至っても身分違いということはなかったのだ。

「その場にベントレールもいてね、彼も婚約破棄を了承してくれたけど、内心どう思ってるかわからないよ。婚約破棄って貴族にとっては不名誉も良いとこだろうし、彼に会うのもそれが最初で最後だったから」

 そんな事があったのだから、両親の警戒心にも納得がいく。それでもあんな顔で話が出来るのだから、なおさら胡散臭い。





「それにしても、このサンドイッチ美味しいね。ルナリアの新作だろう?」

 ルナリアから渡されたバスケットのなかには、美味しそうなサンドイッチがギッシリ詰まっていた。 
 彼女の手料理でサンドイッチは初登場だったので、始め三人はかなり警戒しながら食べていたのだが、新鮮な野菜とオニワサビペーストを混ぜたソースの爽やかな香りで、気づけば三人とも舌鼓を打っていた。




「ルナリアも腕を上げたなぁ、オニワサビは1割以下の濃度で使わないといけない食材だけど、この味は絶(ガリッ)みょわガァアあああっっ!!???」



 それでも、警戒を解いてはいけなかったのだ。

 オニワサビの実はその刺激ゆえに、専門の資格が無いと加工が出来ない。なので、市販されている物はだいたい加工品である。
 ルナリアが購入したのも例に漏れず、乾燥させ粉末にしたものを特殊な果汁で薄めてペーストにした、ごくごく一般的なもの。

 しかし彼女の「サンドイッチ」という新たな挑戦が、摩訶不思議な失敗作ミスリードクッキングへの扉を開けることになってしまった。

 具体的に言うと、パンで挟んだ空間に謎現象が発生し、一度乾燥して粉末にまでしたはずのオニワサビの実が、


 何を言ってるんだと思うかもしれない。筆者もよくわかってない。ルナリア・クロムハーツだからとしか言いようが無い。



 その確率:33%。
 新作【三度に一度のロシアンルーレット・サンドイッチ】爆誕である。



 涙と鼻水に塗れ、血の泡を吹いて気絶するファラン。地面には「わびさ」というダイイングメッセージ。

 ケロックはだいぶ前から当たっていたが、即座に痛覚と味覚を遮断したので問題はない。

 フニランは4つほど口にしたが運良く当たらなかったようだ。




「ごちそーさま! お屋敷のみなさんにもごちそーしてくる!」





 数分後、領主館のあちこちで悲鳴が上がったという。



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