生まれ変わったらしんでました

かんた

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2章 命にふさわしい

辺境伯令嬢①

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「全く、患者を増やすんじゃないよアホ兄妹」
「文句はウチの母に言ってください」


 ここトッカータには、チェルーシル・リシルという優秀な医師がいる。辺境の町医者でありながら、その腕により遠方から診察を望む者も多い。

 だからと言って変死体を増やしていい理由にはならない。


「これからお世話になるお屋敷のみなさんにおすそわけをしたかっただけなの…」
「なあフニラン。しょぼんとしてるところ悪いが、ファランが倒れるのを見た後では確信犯以外の何者でもないぞ?」
「ほら、妹も悪気があったわけじゃないですし、僕が止めきれなかった(嘘)のも悪いし反省してる(嘘)んで、ここはひとつルシル先生の顔を立てて…」
「私はおまえら兄妹がいつかとんでもない事をやらかすと思ってる。それもそう遠くない未来に」


 一つの部屋に押し込められた、犠牲者である使用人7名。屋敷の人間全員が食べたので、割合としては少ない方かも知れない。
 というか、全員に行き渡るほどのサンドイッチがあのバスケットに入っていたのも謎現象である。

 ちなみに『ハズレ』を引いた者の中にも無事な者がいた。執事長・料理長・領主の3名。
「ふむ、中々の刺激、筋肉が震えますな」「まさかこれは…食材の復活⁉︎ 一体どうやって‼︎?」「雄々オォ!! 久しく血湧き肉躍る!!!」とそれぞれ感想を漏らしていた。ちなみに各々が例外無くマッチョである。

『筋肉をつけると辛味に耐性が付くのでしょうか』
(でもあそこで門番も寝てるよ? アードンだかサムスンだか忘れたけど)

 ケロックの視線の先には黒光りする筋肉双子がいた。「弟よ、達者で生きろ…ガクッ」「兄さぁぁあん!!!」などと寸劇を繰り広げている。ただの胃潰瘍である。



「そういえば、先生は何でここに?」
「呼んだらすぐ来てくれたよね?」
「ん? あー、君らはまだここの令嬢には会ってないか」

 話しながらもルシルは胃薬の調合の手を止めない。

「元々ここにはご令嬢の診察に来てるんだよ」
「あぁ、僕らと同じくらいの娘さんがいるんでしたっけ」
「お兄ちゃん、領主さまの娘さんって、お姫さま?」
「ちょっと違うけど、伯爵令嬢だしなぁ」
「正確には辺境伯令嬢だ。侯爵位とほぼ同格だが、お姫様かどうかとなると・・・」


 現代日本では『田舎の貧乏貴族』と勘違いされがちではあり、実際王都の貴族からもそう揶揄されるのだが、中央集権型の封建君主政において、王都から離れた国境付近の重要な領地を任される辺境伯は、一種の治外法権に等しい。
 家格では第二位にあたるが、直接命令を下せるのは国王や大公のみ。下手な公爵家にも逆らう事が出来てしまうのだ。羨望の的にもなるだろう。

「しかもアイゼンヴァルト辺境伯領は領主自身が帝国との最前線に居を構えているんだ。そんな状態で地方貴族や豪族どもを纏めあげるくらいだから、そこらの小国より遥かに精強だろ」
「歴代の領主様は帝国側に開拓を進めなかったのでしょうか?」
「森の向こうは【大渓谷】を挟む広大な荒れ地が広がっているからな。より強力な魔物もいるから旨味が少ないし、帝国からの障害にもなるから放置されているんだよ」

【大渓谷】と呼ばれる、深い断崖の亀裂。その深さ故に侵入は困難で、魔力の滞留により半ばダンジョン化されつつあるので、更に集団でいる事が不可能になっていく。
 帝国が侵略国家でありながら、東側に位置する王国へ攻めあぐねているのは、こうした【大渓谷】を迂回しなければならない道程と、辺境伯軍の精強さによるものが大きく影響している。

(想像してたより重要拠点だったここ・・・)
『それでいてかなり特殊ですが、絶妙なバランスで成り立ってますね』
「うー、よくわかんない・・・」
「まあだいぶ脱線したが、ここの家系は王族とほぼ同じくらい大事ってことだ。お姫様ってのもあながち間違いじゃない。
 なんなら会ってみてくれないか? 二階の廊下の突き当たりが彼女の部屋だから、挨拶がてらに。私はこの通り手が離せないからな」
「子ども同士とはいえ、嫁入り前のご令嬢の部屋にこんな若造を向かわせて良いんですか」



「構わん! 我が許す!」


 部屋に鳴り響く大音声に、気絶した者以外全ての視線が集まる。

 そこに立つのは我らが領主、バルディアス・バルガ・フォン・アイゼンヴァルト辺境伯である。先程のパンイチスタイルではなく、立派な白い軍服衣装に身を包んでいる(と思ったけど包みきれていない、胸のボタンがはち切れている)。

「元より貴君ら2人を招待したのは我が娘の為! 虚弱な娘の友人になってもらうためだ! 奮脱破ふんぬばっ!!!」

 説明しながらもサイドチェスト。パァンと高そうな軍服が背中からハジけた。着替えた意味があったのだろうか。



 直後、なんの前触れもなく脱力し、膝をついて項垂うなだれる男。その顔からは悲哀が滲み、声にも力が入らなくなる。





「…頼む、もうあまり猶予がない」

 そこに頼もしい領主の姿はなかった。

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