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近衛騎士、勇者になる

結婚式の準備

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結婚式の打ち合わせのほとんどが済んだので。
残すは陛下から許可印を戴くだけとなり、陛下の寝室の方へ戻ると。

ちょうど陛下がこちらに向かい、歩かれているところだった。


「陛下。式の日取りが決まりました。明後日の昼に大聖堂の予約と近隣国の招待客への出欠確認、諸々の手続きを済ませました」
式の準備が整ったと報告をする。

……?」
陛下は準備のために慌ただしく駆け回っている兵や使用人を見やり、目を瞬かせている。

「本当は今日にでも挙げたかったのですが。さすがに国王の結婚式には準備不足だろうということで断念しました」


色々無理を通しはしたが。
さすがに招待客に出す招待状の作成や、儀式などの準備期間を考えるとこれがぎりぎりだという。

招待でなく、投影魔術でも構わないだろうに。

全く。
王族や貴族はしきたりなど、面倒なことが多い。


*****


陛下と共に執務室へ向かい。
陛下が私が作成した書類を検め、記名し、捺印されているのを隣で見ていた。


今までは、部屋全体が見渡せる場所に立って警備をしていたが。
今は陛下の隣に椅子を置き、並んでいる。

手元を覗き込まれるのは邪魔なので、隣に座っているよう命じられたのだ。
定位置に戻れ、とは言われなかった。

それは私がもう近衛騎士ではなく、勇者だからだろう。
勇者というのは立場的には王と同等か、小国であればそれ以上の身分である。


私の代わりに警備に立っているのは、近衛騎士のヴァルター。
近衛騎士筆頭の位は未だ空席である。

誰かに譲るつもりはない。
近衛騎士の地位を返上していないので、私は勇者兼陛下の近衛騎士のままだと思っているのだが。


頃合いを見てお茶を出し。
ティンテがついて汚れた手を、蒸した手巾で拭い清める。

陛下と視線が合ったので微笑みかけると。つんと正面を向いてしまわれたが。
手を引かれはせず、そのまま預けられている。


強者との戦いは、それはそれで血が躍るものだ。
しかし、こうして陛下のお世話をしている時間が一番幸福だと改めて思った。


できることならば、ずっとこうしていたい。


*****


「そういえば。聖剣ヴァルムントを抜きに行くとき、何故、私に断りもなく城を出たのだ」

普段はお傍を離れず、何か用事がある場合は必ず伝言を残して出ていたので。
何故あの時ばかりは何も言わずに出たのか、ずっと疑問に思っていらっしゃったようだ。

「いえ、許可を頂いた上で試して、抜けなかったら恥ずかしいと思いまして。抜けなくとも周りの地面ごと引き抜こうと思っていましたが」


もし陛下の御前で試し、抜けなかった場合。
その場面を思い浮かべるだけで、冷や汗が出てくるほどである。

そのような見苦しい姿など、お見せできない。
先程、かなりの醜態をお見せてしまったので今更だが。


「御身を狙う輩の恐れもありましたが。可能であれば、私がこの手で陛下の憂いを取り払いたいと思い、悪竜を斃したいと思ったのです」

「……そうか」
陛下は頬を染められ、俯かれた。

愛らしいその仕草に、抱き締めたいと思ったが。
ぐっと堪える。


執務の邪魔をしてはいけない。


……しかし、をどうしたものか。
陛下が愛らしすぎて、陰茎に血液が集まり過ぎた。今は座っているので、どうにか隠せるが。

もし式の最中にこのような状態になってしまったら、陛下に恥をかかせることになるだろう。
何か対策を考えねば。


大臣の顔を見ていたら萎えてきたが。
常にこの手が効くかどうか。


*****


陛下も署名捺印して下さったので、居住地を自分の部屋から陛下の寝室へ移動させたのだが。
陛下はその書類を吟味せず、認めてしまったという。

常に仕事に対し真摯である陛下が、珍しいことだ。
全て私が作成した書類であることはお伝えしたのだが。そのせいだろうか。


特に問題ない、と仰った。

「毎夜忍んで来てたようだし、同じようなものだろう」
と呟かれて、お床につかれたのだった。

それは、いくら何でも大らか過ぎはしないだろうか?
相手が私だから?


勿論、その晩も陛下の子種をいただいた。

眠っているよりも、起きて反応されたほうがずっと良い。
何よりも、陛下に赦されてするのだから。罪悪感を覚えずに済む。


申し訳なさそうな視線を向けられ、どうしたのかと思えば。

自分だけ気持ち良くなってしまったのが申し訳ないと考えられたそうだ。
私の心配をなさってくれただけでも幸せである。


「私はいいのです。お休みになってください」
抱き締めて。
陛下の頭や背を撫でているうちにうとうとされて。そのまま眠りに落ちた。


私は明け方まで、自分の腕の中ですやすやとお休みになられる愛らしい陛下の寝顔を、思う存分堪能した。
幸福を噛み締めながら。


*****


式の前に、王母ローザリンデ様とリーゼロッテ殿下がクリスティアン陛下と身内だけでお話がしたいとのことで。
その間、私は席を外していた。

聞き耳の魔法を使い、会話を聞いていたが。


お二方は、私が陛下に抱いていた恋心を、以前から気付かれていたという。
私自身、気付いていなかったというのに。

女性の勘は凄い。
そして、密かに応援して下さっていたようだ。


私が心から笑えたのは陛下の前だけで。
触れたいと思ったのも、お世話をしたいと思ったのも陛下だけであった。

あからさまに態度が違い過ぎたという。
私も修業が足りない。


そして、リーゼロッテ殿下は、私と陛下の間では子が成せないことに対してもお気を配られて、その対策を考えられておられたのだ。
跡取りは婿を取り自分が産むので気にしないように、と。

私は嫡子ではあるが。
兄弟は他にも居るし、生涯独身を宣言していたので問題ない。

ついこの間まで幼い少女であったリーゼロッテ殿下がそこまで考えて、心配してくださったことを嬉しく思った。
王母ローザリンデ様も。


私とでは、子が成せないというのに。
結婚をお許し下さったお二方の広いお心に感謝したい。
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