42 / 45
祈
それはきっと甘い生活
しおりを挟む
「おはようございます、伊角様」
第一秘書の板垣です、と改めて自己紹介し。
永遠に名刺を渡していた。
もうすでに事情を話したものと心得たので、自分の身分を名乗ることにしたのだろう。
「おはようございます。秘書さんだったんだ……」
受け取った名刺を見て、永遠は目を丸くした。
着替えなどの用意をさせていたので、てっきり家の人かと思っていたという。
*****
「そういえば祈、何でスーツなの?」
今やっと気付いたのか。
不思議そうに訊かれたので、今日は大学へは行かないで会社に行くことを伝えた。
「今日は、自分の家に帰るの?」
「残念だが、約束だからね」
肩を竦めて言うと。
「……母さんが、兄さんの部屋、空いてるから、使ってもらえばって言ってた」
それは。
同棲期間延長の許可ととって、良いのだろうか。
「いいの? 君のうちは居心地が良すぎて、定住してしまうよ?」
「ぼ、僕の下僕って言うなら、近くにいて貰わないと駄目だし、」
目が泳いでいる。
照れているのだろう。可愛い。
「そうだね」
ずっと傍にいたい。
永遠の手を取り、手の甲にキスをする。
「どうしよう。この手を放したくない……。永遠、今日は大学休んで家でイチャイチャしないか?」
半ば本気だったのだが。
「僕は、真面目に仕事をする人が好きだな」
淡々と振られてしまった。
「つれないなあ」
大学の裏門に着いたので。
名残惜しかったが、永遠の手を離した。
*****
「これ、昼ご飯」
風呂敷包みを渡す。
板垣が料亭から持ってきたと伝えると、永遠は板垣にお礼を言って頭を下げた。
「じゃ、行ってきます。遊澤さんも、いつもありがとうございます」
「ああ。行ってらっしゃい」
遊澤も、笑顔で頭を下げている。
永遠は可愛いからな。
「手堅い地方公務員志望だったのを、祈の嫁に永久就職させるんだから。しっかり働いてしっかり稼ぎなよ? ダーリン」
車を降りがてら。
永遠は悪戯っぽく笑って言った。
その手を引いて。
触れるだけのキスをする。
「!?」
「ハニーの幸せな結婚生活のために、頑張ってくるよ。一生、君の下僕を務めたいからね」
ウインクをしてみせるのと同時にドアは閉まり。車が発進した。
真っ赤になって。可愛かった。
*****
「社長、社に着くまでに、その緩み切ったお顔をどうにかしてくださいね」
その目は社長に向ける目ではないと思うのだが。
「だって、可愛いだろう?」
あまりに可愛すぎて。じたばたして転げまわりたいのを必死に我慢しているのだ。
緩む顔くらい許せと言いたい。
「そうですね。社長にはもったいないくらいの可愛らしいお方ですね」
どういう意味だ。
「プロポーズも受けてくれたぞ。式は、卒業後になる予定だが」
「それはそれはおめでとうございます。……ご実家から邪魔が入らなければ良いですけど」
さすがの板垣も思案顔になった。
男同士で結婚式を挙げるとなると、東条家の歴史やら体面が何だと、ごちゃごちゃ言ってきそうだが。
「嫌でも祝福してもらう。その対策の為にマスコミ各社や東条の株を買い占めてるんだしな。いざとなったら本家も乗っ取って、黙らせてやるさ」
「坊ちゃま、わたしは一生ついていきますよ」
遊澤は笑顔だ。
「安心しろ。私についてきたことを後悔させはしない」
「私も謹んで、社長のお手伝いをさせていただきます」
たまに社長の本来の年齢を忘れそうですよ、と板垣がすまして言う。
もう、向こうに戻る気はないらしい。
*****
永遠はもちろんのこと。
我が社の社員、その家族の生活まで責任を持たなくてはいけない立場だ。
守るべき対象が出来たのだから。
海千山千の爺さんたちへの対策もこなしつつ、これまで以上に頑張って働かなければ。
もう永遠には、一人で食事をとらせ、一人で眠るような寂しい思いはさせない。
私が傍に居る。
何不自由ない暮らしをさせてやりたい。
今日は帰ったら、永遠の手作り料理を食べて。
私の贈った服を脱がして、たっぷりと可愛がろう。
週末には、また二人で手の込んだ料理を作り。
夜は一緒に寝よう。
それはとても、甘い生活になるだろう。
おわり
第一秘書の板垣です、と改めて自己紹介し。
永遠に名刺を渡していた。
もうすでに事情を話したものと心得たので、自分の身分を名乗ることにしたのだろう。
「おはようございます。秘書さんだったんだ……」
受け取った名刺を見て、永遠は目を丸くした。
着替えなどの用意をさせていたので、てっきり家の人かと思っていたという。
*****
「そういえば祈、何でスーツなの?」
今やっと気付いたのか。
不思議そうに訊かれたので、今日は大学へは行かないで会社に行くことを伝えた。
「今日は、自分の家に帰るの?」
「残念だが、約束だからね」
肩を竦めて言うと。
「……母さんが、兄さんの部屋、空いてるから、使ってもらえばって言ってた」
それは。
同棲期間延長の許可ととって、良いのだろうか。
「いいの? 君のうちは居心地が良すぎて、定住してしまうよ?」
「ぼ、僕の下僕って言うなら、近くにいて貰わないと駄目だし、」
目が泳いでいる。
照れているのだろう。可愛い。
「そうだね」
ずっと傍にいたい。
永遠の手を取り、手の甲にキスをする。
「どうしよう。この手を放したくない……。永遠、今日は大学休んで家でイチャイチャしないか?」
半ば本気だったのだが。
「僕は、真面目に仕事をする人が好きだな」
淡々と振られてしまった。
「つれないなあ」
大学の裏門に着いたので。
名残惜しかったが、永遠の手を離した。
*****
「これ、昼ご飯」
風呂敷包みを渡す。
板垣が料亭から持ってきたと伝えると、永遠は板垣にお礼を言って頭を下げた。
「じゃ、行ってきます。遊澤さんも、いつもありがとうございます」
「ああ。行ってらっしゃい」
遊澤も、笑顔で頭を下げている。
永遠は可愛いからな。
「手堅い地方公務員志望だったのを、祈の嫁に永久就職させるんだから。しっかり働いてしっかり稼ぎなよ? ダーリン」
車を降りがてら。
永遠は悪戯っぽく笑って言った。
その手を引いて。
触れるだけのキスをする。
「!?」
「ハニーの幸せな結婚生活のために、頑張ってくるよ。一生、君の下僕を務めたいからね」
ウインクをしてみせるのと同時にドアは閉まり。車が発進した。
真っ赤になって。可愛かった。
*****
「社長、社に着くまでに、その緩み切ったお顔をどうにかしてくださいね」
その目は社長に向ける目ではないと思うのだが。
「だって、可愛いだろう?」
あまりに可愛すぎて。じたばたして転げまわりたいのを必死に我慢しているのだ。
緩む顔くらい許せと言いたい。
「そうですね。社長にはもったいないくらいの可愛らしいお方ですね」
どういう意味だ。
「プロポーズも受けてくれたぞ。式は、卒業後になる予定だが」
「それはそれはおめでとうございます。……ご実家から邪魔が入らなければ良いですけど」
さすがの板垣も思案顔になった。
男同士で結婚式を挙げるとなると、東条家の歴史やら体面が何だと、ごちゃごちゃ言ってきそうだが。
「嫌でも祝福してもらう。その対策の為にマスコミ各社や東条の株を買い占めてるんだしな。いざとなったら本家も乗っ取って、黙らせてやるさ」
「坊ちゃま、わたしは一生ついていきますよ」
遊澤は笑顔だ。
「安心しろ。私についてきたことを後悔させはしない」
「私も謹んで、社長のお手伝いをさせていただきます」
たまに社長の本来の年齢を忘れそうですよ、と板垣がすまして言う。
もう、向こうに戻る気はないらしい。
*****
永遠はもちろんのこと。
我が社の社員、その家族の生活まで責任を持たなくてはいけない立場だ。
守るべき対象が出来たのだから。
海千山千の爺さんたちへの対策もこなしつつ、これまで以上に頑張って働かなければ。
もう永遠には、一人で食事をとらせ、一人で眠るような寂しい思いはさせない。
私が傍に居る。
何不自由ない暮らしをさせてやりたい。
今日は帰ったら、永遠の手作り料理を食べて。
私の贈った服を脱がして、たっぷりと可愛がろう。
週末には、また二人で手の込んだ料理を作り。
夜は一緒に寝よう。
それはとても、甘い生活になるだろう。
おわり
24
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』
バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。 そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。 最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
* ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画 です!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
ヴィル×ノィユのお話です。
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけのお話を更新するかもです。
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる