眼鏡オタクが脱オタ目指してアイドルキャラを演じていたら忠実な下僕が出来ました?

篠崎笙

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それはきっと甘い生活

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「おはようございます、伊角様」

第一秘書の板垣です、と改めて自己紹介し。
永遠に名刺を渡していた。

もうすでに事情を話したものと心得たので、自分の身分を名乗ることにしたのだろう。


「おはようございます。秘書さんだったんだ……」
受け取った名刺を見て、永遠は目を丸くした。

着替えなどの用意をさせていたので、てっきり家の人かと思っていたという。



*****


「そういえば祈、何でスーツなの?」

今やっと気付いたのか。
不思議そうに訊かれたので、今日は大学へは行かないで会社に行くことを伝えた。

「今日は、自分の家に帰るの?」

「残念だが、約束だからね」
肩を竦めて言うと。


「……母さんが、兄さんの部屋、空いてるから、使ってもらえばって言ってた」

それは。
同棲期間延長の許可ととって、良いのだろうか。

「いいの? 君のうちは居心地が良すぎて、定住してしまうよ?」

「ぼ、僕の下僕って言うなら、近くにいて貰わないと駄目だし、」
目が泳いでいる。

照れているのだろう。可愛い。

「そうだね」
ずっと傍にいたい。

永遠の手を取り、手の甲にキスをする。

「どうしよう。この手を放したくない……。永遠、今日は大学休んで家でイチャイチャしないか?」
半ば本気だったのだが。

「僕は、真面目に仕事をする人が好きだな」
淡々と振られてしまった。

「つれないなあ」


大学の裏門に着いたので。
名残惜しかったが、永遠の手を離した。


*****


「これ、昼ご飯」

風呂敷包みを渡す。
板垣が料亭から持ってきたと伝えると、永遠は板垣にお礼を言って頭を下げた。

「じゃ、行ってきます。遊澤さんも、いつもありがとうございます」
「ああ。行ってらっしゃい」

遊澤も、笑顔で頭を下げている。
永遠は可愛いからな。


「手堅い地方公務員志望だったのを、祈の嫁に永久就職させるんだから。しっかり働いてしっかり稼ぎなよ? ダーリン」

車を降りがてら。
永遠は悪戯っぽく笑って言った。

その手を引いて。
触れるだけのキスをする。

「!?」

「ハニーの幸せな結婚生活のために、頑張ってくるよ。一生、君の下僕を務めたいからね」
ウインクをしてみせるのと同時にドアは閉まり。車が発進した。

真っ赤になって。可愛かった。


*****


「社長、社に着くまでに、その緩み切ったお顔をどうにかしてくださいね」
その目は社長に向ける目ではないと思うのだが。

「だって、可愛いだろう?」

あまりに可愛すぎて。じたばたして転げまわりたいのを必死に我慢しているのだ。
緩む顔くらい許せと言いたい。

「そうですね。社長にはもったいないくらいの可愛らしいお方ですね」
どういう意味だ。


「プロポーズも受けてくれたぞ。式は、卒業後になる予定だが」

「それはそれはおめでとうございます。……ご実家から邪魔が入らなければ良いですけど」
さすがの板垣も思案顔になった。

男同士で結婚式を挙げるとなると、東条家の歴史やら体面が何だと、ごちゃごちゃ言ってきそうだが。


「嫌でも祝福してもらう。その対策の為にマスコミ各社や東条の株を買い占めてるんだしな。いざとなったら本家も乗っ取って、黙らせてやるさ」

「坊ちゃま、わたしは一生ついていきますよ」
遊澤は笑顔だ。

「安心しろ。私についてきたことを後悔させはしない」

「私も謹んで、社長のお手伝いをさせていただきます」
たまに社長の本来の年齢を忘れそうですよ、と板垣がすまして言う。

もう、向こうに戻る気はないらしい。


*****


永遠はもちろんのこと。
我が社の社員、その家族の生活まで責任を持たなくてはいけない立場だ。

守るべき対象が出来たのだから。
海千山千の爺さんたちへの対策もこなしつつ、これまで以上に頑張って働かなければ。


もう永遠には、一人で食事をとらせ、一人で眠るような寂しい思いはさせない。
私が傍に居る。

何不自由ない暮らしをさせてやりたい。


今日は帰ったら、永遠の手作り料理を食べて。
私の贈った服を脱がして、たっぷりと可愛がろう。

週末には、また二人で手の込んだ料理を作り。
夜は一緒に寝よう。


それはとても、甘い生活になるだろう。




おわり
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