異世界の天使~鳥は二度羽搏く

篠崎笙

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レティシアにて

イニス:ペットと首輪

僕は、荷物と一緒に馬車で運ばれている。

文字通りお荷物なのだから仕方ない。
馬になんて、生まれてこのかた乗ったことなんてないし。いや、厳密には牧場でポニーや引き馬ならあるけど。そんな程度だ。


イザヤから、子を産んで欲しいとか言われて。
頭をどうかしたのかと思ったので、ハーマンに聞いてみたら。

この世界では男が普通に子を産むとか言われて、びっくりした。

更に驚くことに。
この世界には、女性が存在しないという。

昔はいたけど、女神に呪われたか何かで消されたらしい。
その代わり、女神のご加護で、愛し合う男同士には子が授かる。
ご加護だから、出産に痛みもないとか。


ファンタジーにもほどがある。
ハーマンは嘘を言ってるんじゃないだろうか。ちょっと信用できない。


◆◇◆


しかし、15年間その女神のご加護とやらが消えていたせいで、少し前までは子供が出来なかったらしい。
それで、今この世界には小さな子が存在しないのだという。


ああ、それで僕は娼館であれほど重宝されたのか。
そこは納得できた。

この世界での15歳は成人で、皆身体が大きく。その時点ですでに180cmはあるという。
娼館にいた、他の”少年”たちも、僕より大きかった。

だから小さい僕が、人気だったのだ。
そういった趣味の人間に。


この世界では愛し合ってないと子は出来ないし、妊娠しないから。娼館も楽だろうな。
性病もないようだし。

僕がいたところは、娼館の中でもかなり特殊だったみたいだ。
通常は、男の身体のまま売り買いするけど。性器を切り取って少年にするのは異常なんだって。
そりゃそうだ。

よりによって、異世界でも滅多に見ない、そんな特殊な店の人に拾われるなんて。
運が悪いとかのレベルじゃない。

更に少年趣味の王子に拾われて、寵愛されるとか。
もはや呪われてるに決まっている。


愛し合う2人に、女神のご加護、か。

僕はイザヤと愛し合ってもいないし。
僕は女神のご加護がいただけるような上等な人間じゃない。女神が嫌うという、汚らわしい人種だ。
間違っても子供なんて出来ないだろう。


そういえば、娼館の常連客にも、孕め、とかそれに該当する単語を言われた気がする。
僕は性器も何もないから、女の子に見立ててるとか、そういうプレイなのかと思っていた。

わざわざ自分の上着を着せて、客もいた。
皆、やることはあまり変わらないようだ。

イザヤも、僕に自分のシャツを着せて、露出した太股を撫でるのがお気に入りのようだし。


◆◇◆


『上司のそういう話は聞きとうなかった……』
ハーマンはげんなりして頭を抱えていた。

馬車の横を、騎馬でついてきている。僕につけた護衛の役らしい。


孕めって言われたんだけどどういうことだろう、とハーマンに聞いてみたら、イザヤはベッドではどんな感じなのかと詳しく聞きたがったのは自分のくせに。
この世界のことを教えてくれたのは助かったけど。

そうか。
本当に、男同士で子供が出来るのか。おそろしい世界だ。


『……殿下の子を、産みたいとは思わないのか?』

産みたいとか、思うわけがない。
こちらの常識とは違う。

男が子を産むなんて、考えたこともないし。考えられない。
それに、子供が出来るとか、ありえない。

「出来ないよ? 愛し合ってないし、僕は女神の加護なんて得られない」


ハーマンは隊を率いているイザヤの方を伺って。
恐る恐る、聞いてきた。

『もしかして、嫌い、とか……?』


イザヤのことは、嫌いではない。
そこは否定した。

あそこから助けてくれたことは、感謝している。
でも。

そういう感情とは、違う。


「……ペットをいくら愛しても、子供なんかできないでしょ?」
自分の首にはめられた首輪に触れる。


ハーマンは、また微妙な顔をした。


◆◇◆


『ハーマンと、何の話をしていたのかな?』

イザヤの指が、思わせぶりに首輪を撫でた。
自分のペットだということを忘れるな、他の男になつくな、とでも言いたいのかな?

かわいそうに。ハーマン、顔色真っ青だ。

「この世界はほんとに男同士で子供が出来るんだって話」

『ああそうか、知らなかったのか。きちんと教えるべきだったね』
すまない、と頭を撫でられる。


僕は、この世界のことをよく知らない。

この世界は、建物や服装は中世ヨーロッパのような感じだけど。
医療など、ある分野においては魔法があるためか、現代日本よりずっと進歩しているようだ。

魔力が高いと、魔術師や騎士、勇者になれるけど。
魔力が低いと兵士か戦士にしかなれないとか。わりと厳しいようだ。

橙色のマントをまとえるのは、身分が高いか魔力が高い者だけだとイザヤは言った。


『他に知りたいことがあれば、何でも聞いてくれてかまわないよ?』

イザヤは紫水晶のような瞳を細めて笑った。
聞きたいこと、か。


何で僕を連れ帰ったの?

何で僕を飼おうと思ったの?

何で僕にそんなに執着するの?

何で子供を産ませたいの?

いつまで飼うつもりなの?


……そんなの、言えたら苦労はしない。


◆◇◆


「今のところは、思いつかないかな」
特にこの国に興味があるわけでもないし。

『そうか。……では、馬にでも乗ってみる? 相乗りとかどうかな?』

さあ、腕の中においで、と言わんばかりに手を拡げているけど。
仕事中なのでは?

隊を率いる責任者が任務中にペット、しかも首輪をつけたヒトを膝に乗せていたら、部下に示しがつかないと思う。
それを直接言うのもはばかられる。

部下の前で、お前常識ないのか、と言うのも同然だからだ。
ここの常識的にどうなのかはよくわからないけど。


ハーマンの視線が、いかにも呆れているので。やはりおかしいことなのに違いない。
ここは無難にいこう。

「……馬、こわいからやだ」

実際、高いところは苦手だった。
屋上から飛び降りることができたのは、それを越えるストレスだったからで。


こっちの馬、この世界の人に合わせてるのか、すごい大きいし。
馬車をみたときはあまりの巨大さにびっくりした。


『そう……、』
イザヤはがっかりしたように項垂れた。

まるで僕がとんでもなく酷いことを言ったみたいな態度をするのはやめて欲しい。


◆◇◆


「見るのは好きだから、イザヤがかっこよく指揮してるとこ、見たいな」

何故僕は、こんなおねだりみたいなことを言っているのか。
我ながら気持ち悪くて鳥肌が立ちそうだ。

可愛い女の子とかが言うならともかく。僕には似合わない。

イザヤが、見るからにしょんぼりしているのが悪い。
僕が馬に相乗りしないくらいで。


『よし、では行ってくる』
イザヤはしゃんとして。張り切って指揮をしに行った。
おねだりの効果は覿面だったようだ。


『魔性……』
ハーマンが呟いた。

違います、とは言い切れないものがあった。
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