異世界の天使~鳥は二度羽搏く

篠崎笙

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レティシアにて

イザヤ:幸福

オリバーに汚され、疲弊したイニスの身体を清め、宿のベッドで休ませていた。

騎士たちとの打ち合わせも済ませ、一件の後始末をようやく終えて、イニスのもとへ戻る。
イニスはすやすやと寝息を立てて眠っていた。

こうしていると、幼子のようにしか見えないが。
この小さな頭の中で、色々考えていたのだと思うと、胸が苦しくなる。


ハーマンの忠言通りだった。
私は言葉が足らなかった。

想いなど。
言わねば、伝わる訳がないのだ。
誤解も多々あった。

使用人に穢されたときも。
実際は、イニスは誘ってなどいなかったのだ。
やつがそういう目で見ていただけのこと。

イニスは、自分が誘ったせいだと気に病んでいた。


イニスの国では男同士で妊娠はしない。
男は女と番うのが一般常識だという。

そんな国で生まれたのだ。
イニスは男同士で抱き合うのを喜んではいなかった。無理矢理強要されていただけで。


それなのに、私を好きだと言ってくれた。

私になら、触れられるのも嫌ではないと。
今まで、イニスの意思を無視して、あれほど酷い扱いをしたというのに。


◆◇◆


「……イザヤ……?」
イニスが目を覚ました。

潤んだような真っ黒な大きな瞳で、私を見ていた。
その瞳で見られると、どうしようもなく、ざわざわしてくる。心が騒ぐ。
この気持ちは、ただの欲情などではない。

愛おしいという気持ちだ。


「良かった。夢だったら、どうしようかと思った……」
イニスはほっとしたように微笑んだ。

私に助けられたのが夢で。
まだオリバーに捕まっているのが。娼館にいるのが現実だったら嫌だと言った。

彼にとっては、悪夢だったろう日々。


今は、私のもとにいることを、望んでくれているのだ。
何という幸福だろう。

「大丈夫、私はここにいるよ」
抱き締めて。
夢ではないと囁いてやる。

もう、イニスの望まぬことは絶対にしないと誓おう。


「じゃあ、……して?」
頬を染めて。

恥ずかしそうにイニスは言った。
抱いて欲しい、と。


誘われたのだ。間違いなく。


◆◇◆


柔らかい唇を吸い、舌を絡ませて。裸で抱き合う。

イニスの肌は、滑らかで。
吸い付くように、しっとりとして。いつまでも撫でていたくなる。


「ああ、イザヤだ……」
イニスの手は、私の背に回されて。

私を、確かめるかのように触れている。

イニスは私の顔を美しいという。
それなのに何故、自分のようなつまらない平凡な男を愛すのか、わからないと。


平凡なものか。
傷つけられて。穢されて、踏みにじられて。
それでも、自分を失わずにいた者が。

更生施設に送られた”少年”のほとんどは、絶望の末、自死したという。

性器を奪われ、男に陵辱されてきた記憶に。
もう二度と、通常の生活に戻れないという不安に。皆、精神が耐えられなかったのだ。


「……これが夢なら、もう一生、覚めないでいたいな……」
うっとりと、私の頬を撫でている、小さな手。

イニスは、もとの世界のことは、語らない。


この世界で、あれほどの目に遭っていても。
元の世界に戻りたいとは、一度も言わなかった。元の世界では、どれだけの地獄を見たのだろう。

ずっと、私の側に居ればいい。
もう二度と、つらい思いはさせない。


これからは、本当に自由なのだから。


◆◇◆


「イザヤ、もう、……欲しい、」
イニスは、ぱかりと足を開いてみせた。


無毛の股間。
うっすらと残る、残酷な手術の痕。

性器がないと、欲望を発散するすべがなく、苦しいのだという。
それでも、身体は快楽を求め、熱くなると。


「ア……ッ、」
突き入れると、入口はきつく、中はやわらかく、熱く私を包んでくれる。

中から、性器があっただろう場所を擦り上げると、ぎゅうぎゅう締め付ける。

「イザヤ、イザヤ……っ、そこ、もっと、」
ねだられて、動きを更に激しくする。

「アッ、アン、アッ、アアッ、」
突き上げる度に、愛らしい声で鳴く。

その声が、もっと聴きたくなる。


赤く、尖ってきた乳首も愛撫しながら、腰を穿つと。狂おしく締め付けて。
イニスは自分でも、積極的に腰を振っている。

「いい、きもちいい、イザヤぁ、」
快楽に蕩ける、甘い声。


「……っく、」
イニスの中に、欲望を解き放った。


◆◇◆


荒げた息を、整えて。
汗で額に張り付いた、イニスの髪をかきあげてやる。

イニスはうっとりとした表情で私を見ている。


「僕の名前。ほんとは、伊藤春樹って言うんだ」
本当の、名前?


そうだ。
イニスは、娼館での名前だ。


「イトオ、ハルキ?」
「春樹」

「……ハルキ」
「うん」
笑った。


そうか。
……その目を見て、確信した。

ハルキはもう、決めたのだ。
この世界で。私と共に、生きてくれると。


愛おしい。

私の子など、孕まなくてもいい。
そこまでは望まない。

愛している。ただそれだけで。


ハルキは私の首に、手を回して。キスをねだった。
「イザヤ、愛してる……」


ああ。私もだ。
私だけの、可愛い小鳥。


◆◇◆


小鳥の声で、目を覚ました。


次の視察へ行かなければいけない。
まだ名残惜しいが。ハルキを起こさないよう、身体を起こす。

また、毛布に包んだまま馬車まで運んでやろう。


「……ハルキ?」
ハルキの姿は消えていた。


金の首飾りと、小さな卵を残して。
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