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美しき伯爵、筋肉を望む

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普通、貴族だと俺の場合はベリエ領を治めている伯爵なので「ベリエ伯」、ロロの場合は「トロー伯」と領地の名と爵位で呼ぶものだが。
出逢ってすぐに名で呼ばれ、自分のことはロロと呼べ、と言われた。


最初は無礼だって怒ってたアンドレも、本当なら俺のことは「殿下」と呼ぶべきなんだろうが。
ずっと「アンリ様」って名前で呼ばれてる。

日本で生まれた記憶がある俺としては、そういうの気にしてないからいいけど。周囲の貴族がうるさいんだよなあ。
人んちのことなんだから、放っておけっての。


*****


「これ、土産。うちの料理長が焼いた菓子。あんた前に好きだって言ってただろ? 後で一緒に食べよう」
人懐っこい笑顔で、焼き菓子の入った包みを手渡される。


出逢った時は、俺よりずっと小さかったのに。
12歳になった今。目線が少し上になるくらい大きくなってる。小6のくせして腹立つ。

生意気小僧だが。
子犬みたいに懐いて来られれば、情も湧くものだ。


もうすでに、心の中では弟みたいな位置についてる。
来たら邪魔だとは言いつつも、来なきゃ来ないで寂しく思うし。好意を示されれば嬉しい。

ロロも、国王を目指している。いわばライバルにあたる。
将来、敵対することになるだろう相手だと、わかってるのに。


「あっちぃ、」

アンドレと剣の訓練をしていたロロが、シャツを脱いだ。
浅黒い肌が露わになる。

もう初夏になるので、運動をするとさすがに暑いだろう。


美少年のセミヌードに、メイドたちは大喜びである。
何やらこっちにも”おはだけ”を期待されてるような視線を感じるが。

期待されても、俺はそんなサービスをする気はない。貧弱な坊やだからな!
色が白いから、余計に目立つのだ。比較されたくない。


おいおい、脱いだ服で汗を拭くな。まさか、それを着て帰るのか?
それでも貴族か。

小6だと思えば、おかしくないけど。


*****


「こら、貴族がはしたない真似をするな」
とりあえず叱っておく。

「いやほら、この鍛えた肉体美をみせびらかしたくて」

腕の筋肉を盛り上げ、ポーズをとっている。
見せたくて、わざと脱いだのかよ……。

ついた筋肉を見せびらかしたいとか子供か。って、12歳はこっちの世界でも、まだまだ子供だ。
図体ばかりでかくなりやがって。


確かに、綺麗に筋肉がついている。俺よりも腕周りが太そうだ。

くっ、12歳の子供に体格で負けるとは……。
にくい。肉だけに。

前世では運動する気力も無かったが。事務仕事でも本を運んだりするから、それなりに筋肉はついていた。
今の俺は、毎日ちゃんと鍛えてるのに。それ以下の筋肉量とは。どういうことだってばよ。

魔力だけはあまりあるほどあるけど。この身体、筋肉がつきにくいのか?
腕力の無さは、魔法で補えば問題ないか。


「……うわっ、」
横から忍び寄ってきたロロに、二の腕を掴まれた。

「アンリは細いよな。筋肉どこだよ?」
やかましいわ。

「寄るな、汗臭い」
ロロの手を叩き落とした。


言うほど汗臭さは感じなかったけど。
自分のはわからないが、まだ加齢臭がない若い男は、そんなに臭くないのか? 夏コミは地獄のようだったな……。饐えた臭いというか。


「え、汗臭いとか。酷い……!」

視界が陰り。
きゃあ、と嬉しそうな悲鳴が上がる。


*****


メイド達は大喜びだった。

何故なら、ロロが俺に抱き着いたからだ。
しかし、いくら美少年だろうが。半裸の男に抱き着かれても、俺の方が少しも嬉しくないんですが。
しかも、汗だくの。


「こら。私の服で、汗を拭くな!」
引きはがしたいが。汗だくの身体に触りたくない。

「ん? ……んん?」
抱き着かれたまま、ぺたぺたと、肩や背などを確かめられる。

「やわらかいな……」

うるさいな。
どうせ、お前みたいに筋肉ついてねえよ! 悪かったな! でも、そんなふにゃふにゃでもないからな!?
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