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美青年王佐の特別

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お姫様抱っこのままベッドまで運ばれて。そっと寝かされる。


「長かった。これほど求めたのは、あんただけだ」
ロロは俺を見つめながら、しみじみと呟いた。

前世では、半年くらい。生まれ変わってからは17年。
ずっと、求めてきたって。


前世では、一度も。話をしたことすらなかったのに。
それまでの人生を全部捨ててまで追いかけてきたとか。本当、とんでもないよな。


*****


「こうして受け入れてくれるなんて、奇跡みたいだ」
『まあ、普通はドン引きだよな』

ドン引きレベルのストーカーだ。

「ははは、あんたが普通じゃなくてよかった」
『それ、褒めてなくない?』

「とんでもない。褒めてるよ。……あんたが特別なんだ」


そっと、額や頬に、触れるようなキスをされる。
お揃いの指輪が光る、俺の左手の薬指にも。

『でも、こっちまで追いかけてきてくれたの、なんだかんだ言って嬉しいっていうか。良かったと思ってるよ? この異世界で、たった一人じゃないんだって思えるし。こうして、日本語での話もできる』


そのことで。俺は、だいぶ救われてる。
いくら美少年に生まれ変わったからといって、中身は変わってないんだし。

ずっと良い子ちゃんのふりをするのも疲れちゃうもんな。

美しき伯爵……じゃなくて完全無欠の国王アンリ様が、そうそうオタトークなんてできない。
相手かまわずマシンガントークできるような強メンタルでもないし。


「そこでそう思えるあんたが、心から愛おしくてたまらない」
くっくっ、と笑った。

のしかかって来た身体から、振動が伝わる。

手の甲に、キスをされて。
「俺が惹かれたのは、その、純粋で美しい魂だ。俺が触れて汚したら駄目だってわかってるのに。どうしても欲しくて、我慢できなかった」


*****


ロロの目には、俺が悪魔に狙われるような聖人の如き清らかな魂の持ち主にでも見えてるのか?
目、曇り過ぎでは?


おいおい、前世で俺がピュアだったのは、身体の一部だけだぞ?
ピュアなソウルを持った人は、間違っても外見ょぅι゛ょな成人女子が凌辱されるえっちな本を読んでシコったりしないと思う。

ロロに散々エロイことされちゃった今でも、別に汚されたとか思ってないし。
むしろいろんな液体で汚したシーツを他人に洗わせるのが申し訳ない。


アンドレもだけど。
お前ら、アンリに対して夢を見過ぎだっつーの。

そう言うと。
同人誌の内容を実際にやったり、しようと考えたこともないだろう、と言われた。

そんなの当たり前だろ。凌辱モノだぞ? 普通に犯罪じゃん。
お話と現実をごっちゃにしたらいかんのですよ。

触手とか、モンスターの存在するファンタジー世界じゃあるまいし、実現不可能だ。

あ、今はそういうのも魔法で実現可能なファンタジー世界にいるんだっけ?
でも、もしエロい妄想が実現可能でやりたい放題できたとしても、実行に移したいとかは思わないな。

そもそも俺、三次元女子には興味なかった。
だって、怖いもん。


……だから、俺の上で笑うなっつーの。


*****


「あんたは、そのままでいてくれ」
そう言って。

繊細なレースで作られたフリルシャツの上から、胸を触られる。


「ん、」
「……そろそろ、スーティアンゴルジュが必要かな?」

『え? 何て?』
『この言葉は習ってなかったのですね。ブラジャーのことです』
日本語で訊いて、言い直してもらう。

日本語になると、途端に丁寧語になるのは未だに違和感があるけど。
それはしょうがないか。

確かに、その単語は習ってなかった。
女性用下着の話とか、アンドレの口から聞いたことがない。何だかんだ言って王子様だからかな?

アンドレも、貴族あるあるの手ほどきは受けてないみたいだし。
5歳からずっと俺のお世話係だったもんな。

いい加減、俺のことはロロに任せて、そろそろ自分のことを考えてもいいだろうに。
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