自分が作ったゲームに似た異世界に行ったらお姫様の身代わりで野獣侯爵と偽装結婚させられました。

篠崎笙

文字の大きさ
39 / 60
Schicksalhafte Begegnung (運命的な出会い)

meine Begegnung mit Frau Lasur(ラズール嬢との出会い)

しおりを挟む
姫はここへ置いていけ、と王子に言うと、王子は真っ青になった。

それは出来ないと渋っていたが。
少し脅してやっただけで、震え上がって姫の後ろに隠れた。身長差があるので隠れてはいないのだが。
なんと情けない男であろう。


王子をやや強引に追い出した後。

私は彼女に尋ねた。
「さて、フランチェスカ姫に良く似たお嬢さん。君は、何者かね?」

彼女はバレてたんだ、と悪巧みが見つかった子のような笑みを浮かべた。
なかなか豪胆な女性である。


*****


私は彼女に事情を説明した。
本当は結婚する気は全くなく、ただ、フランチェスカ姫に一泡吹かせてやりたかっただけなのだと。

何故あの姫の身代わりをしていたのかを訊ねると。
彼女は、王都を歩いていたら王子に捕まって、いなくなった姫の身代わりを強引にさせられたのだという。

それは、とんだ災難である。
そこまで焦らせた私にも責任の一端があるだろう。


「それに、お嬢さんじゃありません。俺、男だもん」
拗ねたように言うが。

目くらましの魔法が解け、本来の姿であろう彼女は、今まで見たこともないほどの、美しい少女だったのである。

亜麻色の髪、吸い込まれそうな瑠璃色の瞳。愛らしく言葉を紡ぐ唇。
ドレスの上からでもわかる、華奢な肢体。

比類なき美しい姫と称えられたフランチェスカ姫より美しいというのに。男だと?
こんな男がいてたまるか。


「それは災難だったな。……よければ名前を教えてもらえないだろうか」

瑠璃ラズール
ほう。

「瞳の色と同じだな。いい名前だ」

名を褒めたら、得意そうに笑った。
その笑みは、まるで少年のようであった。


*****


利用された彼女を憐れに思い、家まで送ろう、と申し出たのだが。

「実は、名前以外の記憶がなくて。気がついたら王都にいたんです」
ラズールは私を見上げ、困ったように言った。

「ああ、それでこんなところまで連れてこられたのか……」


かわいそうに。
目くらましの魔法を掛けられ、ここまで騙されて連れて来られたのか。

身代わりとして野獣のもとへ連れて来ても、そのような相手ならば後腐れもないだろうし、仮にもし、何が不幸があったとしても問題ないとみたのだろう。
ここは竜だけでなく魔獣も出る、危険な辺境である。突然の事故で命を落としてもおかしくはないのだから。


「着いてきなさい」
地下への階段を降りて、グレアに聞くことにした。

彼女の占いならば、すぐに身元も判明するだろう。
グレアの占いは、外れたことが無いのだから。

「グレア、この子の身元がわからないので、占ってやってくれ」

水晶玉でこちらの様子を見ていたのだろう。
グレアは特に理由を訊くでもなく、頷いたが。

「侯爵は、席を外しておくれ」
そう言われ、部屋から出た。

私に聞かせたくない身の上なのだろうか?

好奇心が疼き。
つい、聞き耳を立ててしまった。この耳はとても良く聞こえるのだ。


*****


グレアは言った。
「……あんた、ここの世界の人間じゃないね。どっから紛れ込んだんだい?」

……何だと?
この世界の人間ではない?

「……夢?」
「なるほど。夢に導かれてこちらに来たんだねえ」

夢によって、導かれたというのか。
そんな信じられないことがあるのか。不思議なこともあるものだ。


「かわいそうに。あんたの元の身体、死んでるよ。あちらにはもう、帰れないようだ」
「…………え?」
ショックを受けたような声が聞こえた。

死んでいる、だと? あの子が?


グレアによると。
ラズールは異世界の住人であったが。脳の血管に血栓が出来、それが原因で心臓が停止し、死亡したという。
だが幸いにもこの世界に縁があったため、こちらで蘇ったというのだ。

残念ながら、グレアの水晶玉は、真実しか映さない。
それ故に、結果によっては本人に占いの内容を話さないこともあるという。


*****


「……これから、どうしたらいいんだ……」
絶望したような声。

できたら私が引き取って、世話してやりたいが。
どうだろうか。

「顔は可愛いんだから、なんとでもなるだろうよ。侯爵にも気に入られてるようだし、このまま玉の輿でも乗ったらどうだい?」
よし、グレアよく言ってくれた、と思ったが。

「俺、男だし。玉の輿とかやだ……」
断られてしまった。


私を恐れてもおらず、侯爵の妃の座も要らない、と言うなど極めて稀有な存在である。可能なら私の手元に置いておきたかった。
いっそ、このラズールが、私の運命の相手ならば良かったのだが。残念だ。
やはり獣の妻になるのは嫌だろう。


「そこで聞き耳を立ててる侯爵。入っておいで」

気配は消していたつもりであったが、グレアにはしっかり気づかれていた。
大変気まずかったが、中に入ると。

「そういうわけだから、この子の面倒を見ておやり。ことだろうよ」
グレアは言った。


「!」

私の。
呪いが、解ける? それは。

思わず、ラズールを見た。
この、美しい少女が、私の運命の相手だというのか?

「グレア。では、このラズールが、私の……?」
グレアは、笑みながら頷いた。


それでは。
このラズールが、私の運命の相手。この少女と番えば、元の姿に戻るというのか。


「そういうことならば、この城に居れば良い。私が責任を持って面倒をみよう」


*****


話をするため、テラッセへ連れて行った。

ラズールとシュヴァルツァーテーを飲みながら。
しばらく、ラズールが身代わりであるとは気付いていない振りをして。ユーベルバッハの連中をからかってやりたいのだと話した。

「結婚式までは花嫁に手を出してはいけないという決まりもあるからな。あちらはまだ、身代わりだと判明しているとは思ってないだろう」

野獣だからそんな紳士ではない、すぐに手を出すはず、と思われているかもしれないが。

「そうなんだー」
ラズールは、私を真っ直ぐに見ている。

好意すら感じるのは気のせいではあるまい。
単にそれは私の毛皮ペルツに対する好意かもしれないが。それでも稀有な存在である。


しかし、この視線。
何かに似ているような。

……ラズールは元の世界で、ここと同じ世界の、玩具だか何かを作る仕事をしていると言っていたな。
箱庭のようなものか?


視線は、ラズールのものだったのだろうか?

だとすれば、
これが”縁”というものか。


*****


ユーベルバッハより来客との報せがあった。

中に通すと。
荷物を抱えた侍女の姿をしたコンラート王子であった。

魔法は見事であるが、匂いでわかる。
私の鼻が利くことは人に知られていないのである。

嫁入り前の娘を一人きりで置いておくわけにいかない、身の回りの世話をする顔見知りの使用人が必要だろう、と命令され、ここへ派遣された、という言い訳はまあ、納得できるものだが。

荷物は、着慣れた服や寝間着じゃないと落ち着かないだろう、と。実際にフランチェスカ姫本人の着替えを持ってきたようだ。
金属臭はなし。危険物は入っていない。


「そういうことならば、歓迎しよう」
笑んでみせたが。

侍女の姿をした王子は、がたがた震えている。
女の真似をするつもりであれば、及第点を与えてもいいが。


「では、夕食までごゆっくり」
ラズールを、妃にあてがう部屋に案内した。

私は部屋に戻り、鏡のシュピーゲルン魔法マーギアを使った。
鏡と鏡を通じ、あちらの鏡から、様子を伺う魔法である。

コンラート王子は荷物の整理を終えると。
侍女の制服を脱ぎ、ラズールに身分を明かした。


やはり、結婚までは手を出さないのが通例だが。相手は野獣だし、信用できないので来たのだという。

しかし、王子が自ら来るとはな。
コンラート王子も、相当ラズールを気に入ったようだ。

……姉と間違えたくせに。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで

二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

騎士様、お菓子でなんとか勘弁してください

東院さち
BL
ラズは城で仕える下級使用人の一人だ。竜を追い払った騎士団がもどってきた祝賀会のために少ない魔力を駆使して仕事をしていた。 突然襲ってきた魔力枯渇による具合の悪いところをその英雄の一人が助けてくれた。魔力を分け与えるためにキスされて、お礼にラズの作ったクッキーを欲しがる変わり者の団長と、やはりお菓子に目のない副団長の二人はラズのお菓子を目的に騎士団に勧誘する。 貴族を嫌うラズだったが、恩人二人にせっせとお菓子を作るはめになった。 お菓子が目的だったと思っていたけれど、それだけではないらしい。 やがて二人はラズにとってかけがえのない人になっていく。のかもしれない。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

処理中です...