自分が作ったゲームに似た異世界に行ったらお姫様の身代わりで野獣侯爵と偽装結婚させられました。

篠崎笙

文字の大きさ
8 / 60
藍川透の回想

元の姿に戻ってみる

しおりを挟む
「本物のフランチェスカ姫は?」
 と小声で訊いてみる。

 まあ十中八九シナリオ通りに地下室から見つかってるだろうけど。

 コンラート王子は申し訳なさそうな顔をして。
 さきほどテオドゥルフ侯爵にここを追い出された後、泣く泣くユーベルバッハの城に戻ったら、地下室に潜伏していた姉……フランチェスカ姫が無事発見されたそうだ。
 それはいいが。事情を話したら、「身代わりに行った者がいるなら、しばらく外に遊びに出れないじゃない。窮屈だわ」などと嘆いていたそうだ。
 こちらと入れ替わる気はまるっきりないらしい。

 おいおい。頭の中花畑か何かかな? 俺の書いたシナリオよりも酷いってどうなのよ?
 入れ替わったまま結婚、ってことになったらどうするんだよ⁉ ずっと隠れたままでいるつもりか?
 そうなったら一生、ユーベルバッハの城から出れねえぞ? いいのか?

 しかし、王子も侍女に化けて。これからどうする気なんだ? 隙を見て逃げるわけにもいかないだろうし。
 まさか、侯爵を暗殺とか。穏やかじゃない方法はやめてくれよ?

 だいたいはゲームのシナリオと同じ流れになったものの、この世界が俺の作ったゲームじゃないとわかった以上、この先どう転ぶかわからないからな。


 *****


 王子は、再び侍女の姿になっていた。

「この格好のときは、マルティナとお呼び下さい」
 声も仕草もすっかり女の子になっていた。すげえな魔法。あと王子の演技力。


 ……実際に魔法があって。世界観もだいたい同じ、ってことは。
 ここも、二ヶ月に一回、ドラゴンが襲ってくるのだろうか? 大変だな……。冒険者と国の騎士団でレイド戦かな? ぜひ観てみたい。

 俺のアイテムや装備も、ゲームから持ち越し出来てれば良かったんだけどな。開発者チートを使っても、最終進化させるのけっこう苦労したし。
 ゲームで使ってた魔法とか、そのまま使えると助かるんだが。


lumenルーメン

 試しに、明かりの魔法をそっと唱えてみると。
 ……あ、明るくなった。

 どうやらこの世界で俺は魔法が使えるようだ。やったー。

 顔だけじゃなく、能力もゲームと同じだったみたいで良かった。あとでどの魔法が使えるか、試してみよう。
 この世界でのレベルによって、使えなかったりするかもだしな。


 突然明るさを増した部屋に、侍女マルティナに化けたコンラート王子は不思議そうな顔できょろきょろしている。光源を探してるようだ。
 頭上のシャンデリアを見上げて、自動点灯式なのかな?、とか呟いてる。

 しかしこのシャンデリア、いちいち全部の蝋燭に手動で火をつけてたら大変じゃね? ただの飾りだろうか……。
 などとどうでもいいことを考えたり。

 とりあえず俺が”魔女”だってことは、秘密にしておいたほうがいいかな?
 これ以上話をややこしくしたくないし。


「あのう、姉上……いえ、姫様は。あの獣がおそろしくはないのですか?」
 マルティナな王子に、不思議そうに訊かれたが。

 テオドゥルフ侯爵はやらかして呪われてるだけで、中身人間だし。わんこ可愛いじゃん。
 ……というのは、やはりこの世界の人間にはない感覚なのかな?

 魔女に呪われてしまった、ってだけでも貴族的には不名誉なことだったりするのかも。
 その上、姿を獣に変えられてしまったわけだし。獣の姿なのだから気性も獣に違いない、と思い込んでるのかもしれない。

 宗教観の違いもあるだろうけど。現代的な考え方とは捉え方が違う、と思っておいたほうがいいか。


 俺が着せられていたドレスは訪問用のドレスだったらしく、”夕食会用のドレス”とやらに着替えさせられた。
 一日何回着替えるんだよ? 貴族って面倒だな。

 コンラート王子は、侍女になりきるためにドレスの着付けもちゃんと勉強してきたようだ。真面目だな……。
 しかし、こんな締め付けられてはいくらも食えないじゃないか。

 え、姫は小食なもんだって? 知るか。
 普通に食ってやる。


 *****


 食事をとるのは朝と夕食だけで。昼はお茶くらいが普通だそうだ。

 食前酒、前菜、コンソメっぽいスープに丸いパン。メインは周りにベーコンが巻かれたハンバーグみたいなやつで付け合わせはマッシュポテトとザワークラフト。
 きらびやかな食堂だったので、コッテコテの宮廷料理みたいなのが出て来るかと思ったけど、毎日の食事にそんなの出ないか。良かった。

 向かいにいるテオドゥルフ侯爵は、器用にナイフとフォークで優雅に食事をしている。姿が獣になってるだけで、元々王侯貴族なんだから、所作が優雅なのは当たり前っちゃ当たり前なんだろうけど。
 エスコートされた時に触れた手は五本指で、肉球があったっけ。いい弾力だった。毛むくじゃらだけど、皿に毛とか落ちないかね?

 ああ、わんこが人間みたいに食事してる姿、可愛いなあ。
 なんか見てるとなごむ。

「こちらの食事は口に合ったかね?」
 食後のコーヒーを飲みながら、侯爵が訊いてきた。この世界の、って意味なんだろうな。マルティナな王子がいるから無難な返事にしておこう。

「ええ、とても美味しかったです」
「そうか、それならよかった」


 しかし。
 コンラート王子としては、どういう風に話を持ってく気なんだろうか?

 このままだと、がフランチェスカ姫として侯爵と結婚させられてしまう流れなのでは? 姉ちゃん、もう二度と外に出られなくなるんだぞ? いいのかシスコン。
 っていうか。結婚したら、いくらなんでも俺が偽物の姫で、その上男だってことがバレるわけだろ?
 そしたら、単純に見合いから逃げたってことより、王子もグルになって身代わりを立てて誤魔化したのがバレて。余計、侯爵の怒りを買うだけだとは考えないのだろうか。

 俺としては、いくら偽装でも男同士で結婚式を挙げる、とかいうむなしいイベントはなるべく避けたい。性的マイノリティを差別するつもりはないが、その気がない相手と結婚式なんか挙げたくないだろ普通。

 侯爵も、この後どうするつもりなんだろ。

 侯爵的には、単に悪口言われた仕返しに嫌がらせをしたかっただけで。フランチェスカ姫とは実際に結婚する気なんて全く無いんだよな? 泣いて嫌がる姿を見たかっただけ、って言ってたし。

 そんなんだから、女の恨みをかって呪われる羽目になるんだぞ?


 *****


「本当に、男なんですね……」

 風呂にまで着いてきたマルティナな王子は、心底がっかりしたように言った。
 さっきも着替え手伝ったのに、やっと気づいたのかよ、と言いたいが。夕食用のドレスに着替えた時は、コルセットとか付けたままで、下着までは替えなかったからな。

「……この顔で、男なんて……」
 ぺったんこな俺の胸を見て、しみじみと溜め息を吐いた。

 だからずっと男だって言ってんだろうが!
 男同士でもじろじろ見られるのは嫌なので、まだズロースは脱いでいない。

「洗うのとかは自分でやるから、出てって」
 と、更衣室からマルティナな王子を追い出す。

 コルセットは後ろに紐があるので自分で脱げなかったから、そこまでは手伝ってもらったのだ。


 さて。
 邪魔者はいなくなったし、実験開始だ。

Speciesスペキエース veroウェーロー redireレディーレ
『あるがままの姿』という、本来あるべき姿に戻る魔法をかけてみる。

 肌の色とか、目で見た感じは変わった……というか、元の自分に戻った気がするが。
 念のため、大きな姿見の前に行って確かめてみる。

 鏡に映った姿は、黒髪でこげ茶の瞳の見慣れた顔。
 ……俺だ。普通の、地味な日本人。藍川透の姿が映っている。

 良かった。ちゃんと元の姿に戻れた。何故かすっぽんぽんになってるけど。
 女物のズロース姿になるのもアレだから、まあいいか……。

 よっしゃ!
 やった、普通に魔法、使えるじゃないか。

 ……なんか、ちょっと実年齢よりも若返ってる気がしないでもないが。本来あるべき姿、つまり精神年齢はガキってことか……?

 まあいい。
 いざとなったら、この姿になって逃げよう。さすがに女には見えないだろ。

 魔法が使えるなら、何とか食っていける……はずだ。
 きっと。多分。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで

二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

騎士様、お菓子でなんとか勘弁してください

東院さち
BL
ラズは城で仕える下級使用人の一人だ。竜を追い払った騎士団がもどってきた祝賀会のために少ない魔力を駆使して仕事をしていた。 突然襲ってきた魔力枯渇による具合の悪いところをその英雄の一人が助けてくれた。魔力を分け与えるためにキスされて、お礼にラズの作ったクッキーを欲しがる変わり者の団長と、やはりお菓子に目のない副団長の二人はラズのお菓子を目的に騎士団に勧誘する。 貴族を嫌うラズだったが、恩人二人にせっせとお菓子を作るはめになった。 お菓子が目的だったと思っていたけれど、それだけではないらしい。 やがて二人はラズにとってかけがえのない人になっていく。のかもしれない。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

処理中です...