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エピローグ・近衛顕正の幸福
幸福な結婚式
花嫁のエスコートは誰がするか。
爺と喬任、穂積、綾小路君とで争奪戦となっていた。
厳正なるくじ引きの結果、爺が勝ち取ったようで。爺まで周に合わせてお色直しをしていた。
神前式では紋付袴姿だったのが、いつの間にか家令のようなフロックコートに着替えていた。張り切り過ぎである。
「周様、三国一の花嫁姿でございますね」
「三国……?」
爺は今まで見たことの無いような笑顔で周をエスコートしていた。
それもそのはず。
ウエディングドレスに着替えた周は、世界一美しい花嫁であったのだから。
*****
教会の通路を歩く姿に、皆が釘付けになっていた。
もちろん、私も。
華奢な身体を包む純白のドレスには小粒のダイヤが縫い込まれ。繊細なレースに包まれた細い腕。
恥じらい、伏せた小づくりな顔。ヴェールから透けて見える、黒髪を結い上げた白いうなじ。全てが芸術品のようだ。
こんな美しいひとが、私の花嫁になってくれるとは。
信じがたい気持ちだ。
爺からエスコート役が私になり。
花嫁は、少し恥ずかしそうに微笑みながら私を見上げた。
誓いの言葉に胸を弾ませ。
指輪の交換をし、誓いの口づけを交わす。
触れるだけのキスに、まるで少年のようにときめいてしまった。
ライスシャワーを浴びながら、美しい花嫁の手を取り。
教会の階段を降りていく。
「この晴れ姿を、おばあさまに見せたかったな。天国で、お父さまお母さま、おじいさまと一緒に見ていてくれるかな?」
そう呟く周の肩を抱き寄せた。
「ああ、きっと見ていてくれているに違いない」
この季節には珍しい、曇りない青空を見上げた。
貴方達以上に、周を愛し、慈しみ。生涯大切にすると誓おう。
周の後見人でもある穂積は、式の間中、大泣きしていた。
「自分の子をお嫁に出すわけじゃないのに」
奥方は笑っていたが。
それに近い気持ちなのだろう。
今まで周のことを、親のような気持ちで見ていたようだ。
「今まで、面倒を見てくれてありがとう。感謝してます」
周が礼を言うと、更に大泣きしていた。
「周のことを見守ってくれてありがとう。これからは、私が周を幸せにすると誓うので、任せていただきたい」
穂積の手を握り、心からの言葉を掛ける。
「……はい、よろしく、お願いします」
穂積は何度も頭を下げた。
彼は私を信じ、疑いもせず大切な周を預けた。
このような善人らに囲まれて育ったから、今の周があるのだろう。
感謝したい。
*****
衣装はそのままで。
会社の関係者が集まる披露宴会場へと移動した。
招待客に礼を言い、乾杯の音頭を取る。
司会は、広報部の有馬だ。二人のなれそめなどをおもしろおかしく話し、拍手喝采されていた。
それはいいが、話を盛るのはやめろ。
ケーキ入刀はあるが、さすがに人数が多すぎるのでキャンドルサービスなどは無しである。
「御前の遺言状のことで、お話があります」
式の途中。
近衛グループカンパニーの顧問弁護士が席に来た。
「式の後でなく、今、か?」
「はい、今、この場で発表するようにとのお約束でした」
喬任、爺、綾小路君だけでなく、穂積も呼ばれて席の前に来た。
「久世 周様。貴方は今、幸せですか?」
「はい、とても。大学を卒業したら、顕正さんのお仕事を少しでもお手伝いしたいと思っております」
周は微笑みながら答えた。
「喬任 信義様、このお二人は幸せだと思われますか?」
「はい。お似合いのお二人だと思いますよ」
爺も、綾小路君も、穂積も。喬任と同様に答えた。
「近衛 顕正様。貴方は今、幸せですか?」
「勿論だ。世界で一番の花嫁を得て、幸せでない男がいるとでも?」
「さようでございますか」
顧問弁護士は苦笑した。
*****
「では、御前の遺言を。……顕正、この手紙を読んでいるということは、現在幸せの絶頂にいるのだろう。私の育て方が悪かったか、息子の実輝は一度の失敗で諦める、自信のない男に育ってしまった。その分、優秀だったお前には期待をかけ過ぎ、苦労をさせたことだろう。幼少の頃から裏切られ、人を信じられなくなったお前が人を愛することを知り、愛される喜びを知ったことを心から、お前の幸せを祝いたいと思う」
息継ぎするように、息を吐いた。
「元から会社の経営権の全てはお前のものだ。脅かして悪かったな、結婚おめでとう。近衛 徳正。……以上が御前からのお祝いのメッセージでございます」
「……何だ、それは……」
元より、私から経営権を剥奪するつもりはなかった、だと……?
あまりのことに、脱力してしまった。
父は、大学卒業後に一つの事業を任されたが失敗し、倒産させ。それ以来、自信を喪失し。経営から離れていた。母とは見合い結婚だ。
商才で息子にも負け、実父からは見捨てられ。今まで、自由のない人生だっただろう。
その反動か。
放任主義とは聞こえはいいが、両親から愛情を掛けられた記憶は無い。
仕事のことで最期まで言い争いはしていたものの。私のことを認めてくれていたのだ。
全く、死んでまで食えないジジイだ。
正頌はカメラを持ったまま、何で俺には聞いてくれないの? という顔をしていたが。
正頌が結婚した時用の遺言もあると聞き、とりあえずは納得していた。
「あ、兄さんおめでとう。泥酔しちゃってるけど、父さんたちも、おめでとうだってさ」
「全く。息子の一世一代の晴れ姿だというのに。手を抜き過ぎだろう」
「そう言ってやるなって。あの人達なりに兄さんのことは心配してたんだからさ」
肩を叩かれる。
「あ、周君もお幸せに!」
「ありがとうございます。もう充分幸せです」
晴れやかな笑顔。
この笑顔を、ずっと守りたい。
周だけではなく。
私の周囲の人間には、笑顔でいて欲しい。
周は、自分だけ幸せになることを、望んではいないだろうから。
そんな優しい伴侶を得たのは、ジジイのお陰も、ほんの少しだけは、あるからな。
少しは感謝してやってもいい。
*****
「……愛しているよ、私の可愛い花嫁」
世界で一番愛らしい花嫁に愛を囁くと。
花嫁は笑顔で。
「愛しています。ぼくの素敵な旦那様」
「だから、何故君はそうやって私をメロメロにする……?」
周は私に、人を心から愛すること。幸せと喜びを与えてくれた。
私は周にそれ以上の愛と幸せと喜びを与えたい。
私達二人だけでなく。
皆にも幸せの輪を広げよう。
おわり
爺と喬任、穂積、綾小路君とで争奪戦となっていた。
厳正なるくじ引きの結果、爺が勝ち取ったようで。爺まで周に合わせてお色直しをしていた。
神前式では紋付袴姿だったのが、いつの間にか家令のようなフロックコートに着替えていた。張り切り過ぎである。
「周様、三国一の花嫁姿でございますね」
「三国……?」
爺は今まで見たことの無いような笑顔で周をエスコートしていた。
それもそのはず。
ウエディングドレスに着替えた周は、世界一美しい花嫁であったのだから。
*****
教会の通路を歩く姿に、皆が釘付けになっていた。
もちろん、私も。
華奢な身体を包む純白のドレスには小粒のダイヤが縫い込まれ。繊細なレースに包まれた細い腕。
恥じらい、伏せた小づくりな顔。ヴェールから透けて見える、黒髪を結い上げた白いうなじ。全てが芸術品のようだ。
こんな美しいひとが、私の花嫁になってくれるとは。
信じがたい気持ちだ。
爺からエスコート役が私になり。
花嫁は、少し恥ずかしそうに微笑みながら私を見上げた。
誓いの言葉に胸を弾ませ。
指輪の交換をし、誓いの口づけを交わす。
触れるだけのキスに、まるで少年のようにときめいてしまった。
ライスシャワーを浴びながら、美しい花嫁の手を取り。
教会の階段を降りていく。
「この晴れ姿を、おばあさまに見せたかったな。天国で、お父さまお母さま、おじいさまと一緒に見ていてくれるかな?」
そう呟く周の肩を抱き寄せた。
「ああ、きっと見ていてくれているに違いない」
この季節には珍しい、曇りない青空を見上げた。
貴方達以上に、周を愛し、慈しみ。生涯大切にすると誓おう。
周の後見人でもある穂積は、式の間中、大泣きしていた。
「自分の子をお嫁に出すわけじゃないのに」
奥方は笑っていたが。
それに近い気持ちなのだろう。
今まで周のことを、親のような気持ちで見ていたようだ。
「今まで、面倒を見てくれてありがとう。感謝してます」
周が礼を言うと、更に大泣きしていた。
「周のことを見守ってくれてありがとう。これからは、私が周を幸せにすると誓うので、任せていただきたい」
穂積の手を握り、心からの言葉を掛ける。
「……はい、よろしく、お願いします」
穂積は何度も頭を下げた。
彼は私を信じ、疑いもせず大切な周を預けた。
このような善人らに囲まれて育ったから、今の周があるのだろう。
感謝したい。
*****
衣装はそのままで。
会社の関係者が集まる披露宴会場へと移動した。
招待客に礼を言い、乾杯の音頭を取る。
司会は、広報部の有馬だ。二人のなれそめなどをおもしろおかしく話し、拍手喝采されていた。
それはいいが、話を盛るのはやめろ。
ケーキ入刀はあるが、さすがに人数が多すぎるのでキャンドルサービスなどは無しである。
「御前の遺言状のことで、お話があります」
式の途中。
近衛グループカンパニーの顧問弁護士が席に来た。
「式の後でなく、今、か?」
「はい、今、この場で発表するようにとのお約束でした」
喬任、爺、綾小路君だけでなく、穂積も呼ばれて席の前に来た。
「久世 周様。貴方は今、幸せですか?」
「はい、とても。大学を卒業したら、顕正さんのお仕事を少しでもお手伝いしたいと思っております」
周は微笑みながら答えた。
「喬任 信義様、このお二人は幸せだと思われますか?」
「はい。お似合いのお二人だと思いますよ」
爺も、綾小路君も、穂積も。喬任と同様に答えた。
「近衛 顕正様。貴方は今、幸せですか?」
「勿論だ。世界で一番の花嫁を得て、幸せでない男がいるとでも?」
「さようでございますか」
顧問弁護士は苦笑した。
*****
「では、御前の遺言を。……顕正、この手紙を読んでいるということは、現在幸せの絶頂にいるのだろう。私の育て方が悪かったか、息子の実輝は一度の失敗で諦める、自信のない男に育ってしまった。その分、優秀だったお前には期待をかけ過ぎ、苦労をさせたことだろう。幼少の頃から裏切られ、人を信じられなくなったお前が人を愛することを知り、愛される喜びを知ったことを心から、お前の幸せを祝いたいと思う」
息継ぎするように、息を吐いた。
「元から会社の経営権の全てはお前のものだ。脅かして悪かったな、結婚おめでとう。近衛 徳正。……以上が御前からのお祝いのメッセージでございます」
「……何だ、それは……」
元より、私から経営権を剥奪するつもりはなかった、だと……?
あまりのことに、脱力してしまった。
父は、大学卒業後に一つの事業を任されたが失敗し、倒産させ。それ以来、自信を喪失し。経営から離れていた。母とは見合い結婚だ。
商才で息子にも負け、実父からは見捨てられ。今まで、自由のない人生だっただろう。
その反動か。
放任主義とは聞こえはいいが、両親から愛情を掛けられた記憶は無い。
仕事のことで最期まで言い争いはしていたものの。私のことを認めてくれていたのだ。
全く、死んでまで食えないジジイだ。
正頌はカメラを持ったまま、何で俺には聞いてくれないの? という顔をしていたが。
正頌が結婚した時用の遺言もあると聞き、とりあえずは納得していた。
「あ、兄さんおめでとう。泥酔しちゃってるけど、父さんたちも、おめでとうだってさ」
「全く。息子の一世一代の晴れ姿だというのに。手を抜き過ぎだろう」
「そう言ってやるなって。あの人達なりに兄さんのことは心配してたんだからさ」
肩を叩かれる。
「あ、周君もお幸せに!」
「ありがとうございます。もう充分幸せです」
晴れやかな笑顔。
この笑顔を、ずっと守りたい。
周だけではなく。
私の周囲の人間には、笑顔でいて欲しい。
周は、自分だけ幸せになることを、望んではいないだろうから。
そんな優しい伴侶を得たのは、ジジイのお陰も、ほんの少しだけは、あるからな。
少しは感謝してやってもいい。
*****
「……愛しているよ、私の可愛い花嫁」
世界で一番愛らしい花嫁に愛を囁くと。
花嫁は笑顔で。
「愛しています。ぼくの素敵な旦那様」
「だから、何故君はそうやって私をメロメロにする……?」
周は私に、人を心から愛すること。幸せと喜びを与えてくれた。
私は周にそれ以上の愛と幸せと喜びを与えたい。
私達二人だけでなく。
皆にも幸せの輪を広げよう。
おわり
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