従姉妹の身代わりで茶会に行ったらヤマトナデシコ扱いされてアラブ系の王子様に砂漠の王国へ攫われてしまいました。

篠崎笙

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大和撫子、砂漠の王子に攫われる

押しかけ王子に自分語りかまされる

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「今より10年前。私は父と共にプライベートジェットで日本へ来たのだが。憧れのヤマトナデシコをこの目で見たいと悪戯心で護衛を撒き、滞在していたエンペラーホテルを抜け出し、迷子になった。当時私は8歳。賢くも愛らしかったが、土地勘は無かった」

俺のベッドに胡坐をかいて。
突如始まった、王子様の自分語り。

もうどこから突っ込んでいいのかわからない。


目の覚めるような美形で。
つけてる指輪一つで軽くアパートごとどころか近所の戸建まで買えそうな、とんでもなくゴージャスな異国の王子様が。

ギリ都内とはいえ下町の、家賃6万管理費8千円、1DKの地味なアパートの部屋で、現品処分5千円で買った安っぽいパイプベッドに腰掛けているのである。
そこの部分だけ違和感通り越して、もはや異次元空間になっている。

アラビアンファンタジーな夢でも見ているようだ。
夢なら今すぐ醒めてくれ。


喉が渇いた、と茶を所望されて、つい出してしまった俺もどうかしているに違いない。
しかも水道水ではなくミネラルウォーターで。

だって何か逆らえない雰囲気だし。
超VIPに水道水なんか飲ませたら後で護衛の人とかに怒られそうだし。お茶汲み専用の召使いとか呼ばれても、うち狭いから入れないし。


……ん? 10年前に8歳ってことは。
王子ってば、今18歳なのかよ⁉ 若っ!

もう少し上だと思ってた。少なくとも未成年には見えない。
でも言われてみれば、肌が若々しくて、つやつやしているか……?


†††


ともあれ。
10年前、日本に来た王子は、迷子になってしまい銀座をうろうろしていたようだ。


「異郷の地で言葉も通じず、途方に暮れていたところ。キモノ姿の美しいヤマトナデシコが現れたのだ。拙いが、言葉も通じ。ホテルまで送ってくれた……今日も、懐かしくも拙い言葉が聞けて嬉しかったぞ。はじめまして、と二度も重ねて言われたのは悲しかったが」

拙くて悪かったな!
伯父さんからたまに面白そうな言葉教わるくらいだし!

10年前なら特に、日本でアラビア語をちょっとだけでも話せる人なんて、滅多にいなかったと思うぞ? 最近はわりとあっち系の人も見るけど。


王子、何だか中空を見て恍惚とした表情してるんだけど。
薬でもキメてんのか? 日本では大麻や危ない薬の使用は禁止だぞ。

「そんで?」
話の続きを促してみる。早く思い出話終わらせて帰って欲しい。

……あ、トランスから戻って来た。

王子は俺を見て、真顔で言った。
「そのヤマトナデシコこそが、ユキヤである」

「何で!?」


何がどうなってそんな結論になったのか、もう少し詳しく状況説明しろよ!
王子にとっちゃ外国語である日本語を、これだけ流暢に話せるのは素直に凄いと思うけど。

意味が全くわからないし、身に覚えが全くないんだが。


まさか。
落雷ショックで飛んだ空白の数日の間にあった出来事なのか? それなら王子のこととか今話されたエピソードについての記憶にない説明がつくけど。

でも。振袖を着て、人通りの多い銀座をぶらぶら歩いてたっていうのか? この俺が?
子供の頃なら、強引に着せられてたが。高校生にもなって?

10年前だったら美雪はまだ7歳だから、美雪の身代わり、って訳でもないだろうし。


†††


「私はヤマトナデシコに恋をし、求婚をした。再会の約束としてブレスレットを下賜かししたのだが……」
下賜されちゃったんすか……。たまわった記憶はないけど。


奥ゆかしくもそのヤマトナデシコは自分の名前すら名乗らず、道案内の礼などいらない、と固辞されたが。
大人になったら妻として迎えに行くので、これを身に着けて待っていろ、と言って。
たもとに無理矢理ブレスレットを突っ込んだんだそうだ。

……ああ、それで俺の腕をまくって見て、ブレスレットをつけてなかったのでがっかりしてたのか……。

何で相手が長年ブレスレットを身に着けてること前提なんだよ。
子供の約束とか、本気にする奴、いないだろ。


「それが、ユキヤの持っていたこのブレスレットである。見ろ、我が国の印章ケトムが入っているだろう?」
王子は俺のお守りを指差した。

よく見れば、繊細な鎖の間には丸い珠が7つあって。その珠に刻まれてる、複雑な星みたいな模様。
そういや国旗もこんな感じの模様だった気がする。

これがマクランジナーフ国の印章なのか。……情報殆ど入らない国なんだから、わざわざ調べなきゃそんなの知らないって。


「プラチナは電気炉の発熱体としても使用され、1600℃まで耐えられる。故に落雷サイカに遭っても形がそのままなのだろう」

金メッキや銀とかなら電熱で溶けて肌に張り付いてたとか、怖いこと言うのやめろ。
っていうかプラチナって、高価な金属だよな?

これってプラチナだったんだ。知らなかった。


男子高校生がこんなオシャレアイテムを腕につけてると目立つから、足首につけてたんだろうか?
まさか、俺が子供……しかも男の子とした結婚の約束を真に受けてたなんて思えないし。

今は薄汚れてるけど。星みたいなデザインがかっこよかったから、気に入って着けてたのかもしれない。


†††


「後で調べさせたところ、滞在していたホテルの別館にある催事場の一つで茶道の集会があり、ヤマトナデシコはその茶道を習っている生徒だろうと目星をつけた」
堂々としたストーカー発言である。


王子はその流派の生徒の女性は全員調べさせたのだが、俺も美雪も本家の茶会には参加してないし。
美雪は当時、正式な門弟ではなかった。

それに、俺はその後雷食らって入院したりでそれどころじゃなかったから、調査班は長い間、王子ご執心の”ヤマトナデシコ”が誰であるかを特定できなかったようだ。


しかし、無関係な人間は参加できない会だったため、関係者の子供か知り合いが参加していたのだろうと予測し、その茶道の流派に寄付をすることを決めたとか。

いうことを聞かなきゃ寄付を取りやめると脅して、流派の若い女性を集めたのも、目当てのヤマトナデシコを探すためか?
子供の頃から、そんな搦め手作戦を練ってたのか? こわっ。

10年もの間、子供の約束を覚えていて本気にしてるのもヤバい。
ガチなストーカーだよ、この王子!


それで、過去の生徒だろうが全員強制参加の茶会を開かせ。
参加するでもなく応接間で防犯カメラで待合室の様子を見て、俺の姿が映った瞬間。

これが10年前出逢ったヤマトナデシコだ! と。
保護者の善之おじさんを呼び出させて、娘のプロフィールを聞き出したわけだ。


……なるほど。
流れは何となく理解した。その思考回路は理解できないが。

17歳だと10年前、美雪は7歳だったので、年齢が若すぎるのが引っ掛かったが。
とりあえず父親の名で目当てのヤマトナデシコを呼び出した。王子の呼び出しだと知られれば、大騒ぎになるとはわかっていたのだろう。

王子は実際に美雪に扮した俺を目の前で見て。
自分が10年前に求愛したのは、やはり間違いなく目の前に居るこの女性である、と確信したんだそうだ。

それでもやっぱり年齢のことについては引っ掛かっていたものの。
何か、のっぴきならない事情があるのかと思ったので、他人の耳目があるところでは訊かなかったとか。

まあ、あの場で従兄妹のふりした男です、とは言えないわな。
家元もいたし。


探していたヤマトナデシコは女性ではなかった訳だが。
そこんとこは全く気にしてないようだ。

いや、気にしろよ。
宗教的に、いいのかよ……。


†††


「まさに、電撃が走るような衝撃であった……」

王子はまた、恍惚とした表情で中空を見ている。
トリップしてる間に逃げたいが残念、ここが自宅である。

っていうか、雷を実際喰らってみたら電撃が走るような衝撃そんなことて言えないぞ?
前後の記憶はないけど。

その後、火傷のリハビリとか、酷い目に遭ったし。
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