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血を交換する意味がわかりません。
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ノックの音がして。
「Permesso、」
あの怖い顔の人が入って来て。
ヴィットーリオの腕の針を抜いた。
そして、手早く処置をした後、こちらに来た。
怖い顔だし。
何をされるのかと、思わず後ずさりしそうになったけど。
「これは私の側近で、リッカルドという男だ。顔は怖いだろうが、噛み付きはしない。そう硬くなるな」
「Mi scusi、」
左手を取られて。
僕の方の針は刺さったまま、チューブを折り畳まれて。
ネットで固定された。
引き抜かないのは、これ一回だけじゃないから?
*****
そして腕にもう一つ、穴を開けたような痕があるのに気付いた。
注目しないとわからない程度なので、針を刺す腕はいいのかもしれない。
マフィアが、針を刺す腕がいいとか。恐怖でしかないんだけど。
……これ、寝ている間に、血を抜かれたとか?
いつの間に。
「ああ、安心しなさい。性病など、おかしな病気は持っていないし、薬もやっていない」
こう見えて、清廉潔白に生きて来たのでね、とか言ってる。
マフィアなのに?
いや、それ以前の問題だ。
勝手に血を輸血されてる時点で少しも安心できる要素がない。
ちょっと理解しがたいけど。
もしかして。
母さんと一体化したくて、僕の血が欲しかったのかな?
でも。
「ええと、母はO型ですけど……?」
「知っているが? ああ、私の母もOだ。なので凝固は起こらないだろう」
何を当然なことを、というような顔をしている。
知ってて、それでも僕の血でいいの?
半分だけでも、同じ血が通っていれば、構わないのか……。
それだけ愛が深いのかな?
*****
「Poverino……」
リッカルドはお気の毒に、と呟いた。
無駄口を叩くな、とヴィットーリオに叱られて、肩を竦めて。
それ以降は、無言で。
リッカルドは、サイドテーブルに朝食を並べて。
一礼して、部屋を出て行った。
顔は怖いけど。
悪意は感じなかったし、悪い人じゃないのかもしれない、と思った。
まるで、世の不幸をすべて背負った死神みたいな顔してるけど。
だからって、味方でもないんだろうな。
わかってる。
汚れたシーツなどを回収したり、ここに必要な物を運んだりするのはリッカルドだという。
それ以外は不審者だと思え、と言われた。
側近なのに、お手伝いさんみたいな仕事もするのか。
大変だ。
それとも、マフィアのボスのこういうプライベートな姿は、軽々しく下働きの人には見せられないからだったりして。
……それが一番ありそうだ。
こんな姿。
どこかの雑誌社にすっぱ抜かれて売られたりしたら、世界的ニュースになって大騒ぎだろう。
世界的な大企業の総帥が、平凡な日本人大学生男子を攫って囲って。
その母親の身代わりに抱いただけじゃなく、一体化したくて勝手に輸血したとか。
もはやオカルトじみて意味不明だ。
*****
ヴィットーリオは、食事の時、僕に食器を持たせようとしなかった。
手を怪我している訳じゃないのに、スプーンを口元に寄せて食べさせられた。
まるで甲斐甲斐しく世話をされてるみたいで、恥ずかしいけど。
フォークとかを奪い取って、凶器にする可能性があるからだろうか?
逆らう気なんてないのに。
寝てる間に血は抜かれてるし、輸血されてるし。
おまけに、慣らすためだって言って、お尻にはディルドを突っ込まれたままで。
食欲なんか、わかないけど。
出された料理は美味しいし、残したら食材がもったいないから、
全部平らげてしまった。
本人は、僕に食事をさせた後、食事を摂った。
ヴィットーリオの所作は、生まれながらの貴族みたいに優雅で上品だった。
いや、生まれながらの貴族なのかも。お城に住んでるしな。
住んでいる世界が違う、と感じるような上流階級の人で。
大企業の総帥で、超美形で。
どうしてこんな人が。
僕なんかを飼おう、なんて思ったんだろう?
仮通夜を見て、驚いていた様子から推測すると。
総帥になったヴィットーリオが、想いを告げるためにジェット機で日本に向かっている間に、想い人である母さんが死んでしまっていた、ってことかな?
それで。
本来喪主である僕の、あまりの不甲斐無さに、代わりに葬式をあげた、ってところまでは納得できなくはないけど。
それ以降の行動の理由が、さっぱり理解できない。
*****
そもそも、この部屋は母さんを攫って閉じ込めるために作ったようには思えないんだよな。
枷は、僕の手足にぴったりすぎるし。
部屋の作りとか内装からして、急造のものとも思えない。
前々から用意していたような感じだ。
邪魔な僕をここに閉じ込めておいて、母さんと二人っきりになろうと思って用意していたのかな?
日本に置いてってくれて結構だけど。
クリスティアーニの関係者になった場合、放置してたらまずいとか?
普通、息子を閉じ込められたら怒ると思うけど。
マフィアの人の考えることだからな。
一般人には想像できないことでもおかしくはないか……。
「口を開けなさい」
デザートのオレンジを、口の中に放り込まれた。
……食べたくて見てた訳じゃないんだけど。
あ、美味しい。
世界的大企業の自宅って、出される食事のレベルも高いんだな。
「これは、うちの所有する畑から獲れたものだ。気に入ったか?」
ああ、そうなんだ。
こくこくと頷いてみせる。
今は季節じゃないけど、ブラッドオレンジの畑もあるそうだ。
それも美味しそうだな……。
なんてのんきなことを考えたりして。
人間って、何があっても順応する生き物なのかもしれない。
*****
「人間の肉体は、一年ほどで入れ替わるというが……それでは物足りない」
ん?
それは、どういった意味の発言なんだ?
「いっそ、食べてしまいたいほどだが、そうしたら抱けなくなるな……」
ヴィットーリオは物憂げな顔で僕を見ながら、呟いた。
食べるって。
性的な意味じゃなく。
カニバリズム的な意味で!? 僕を食べるの?
そのために太らせようとして、美味しい食事を摂らせてるとか!?
何だか本気で言ってそうで怖い。
輸血をして同化するとかも、尋常じゃない発想だし。
病気で血液を摂取したくなる嗜好の人なら、判例でも見た。
そこまでの考えに至ったのは、好きな人が死んでしまったショックからなんだろうか?
見た感じは、頭がおかしくなってるようには見えないけど。
人は見た目じゃわからないし。
僕なんかに手を出す時点でどうかしてるって言えばそれまでか。
「Permesso、」
あの怖い顔の人が入って来て。
ヴィットーリオの腕の針を抜いた。
そして、手早く処置をした後、こちらに来た。
怖い顔だし。
何をされるのかと、思わず後ずさりしそうになったけど。
「これは私の側近で、リッカルドという男だ。顔は怖いだろうが、噛み付きはしない。そう硬くなるな」
「Mi scusi、」
左手を取られて。
僕の方の針は刺さったまま、チューブを折り畳まれて。
ネットで固定された。
引き抜かないのは、これ一回だけじゃないから?
*****
そして腕にもう一つ、穴を開けたような痕があるのに気付いた。
注目しないとわからない程度なので、針を刺す腕はいいのかもしれない。
マフィアが、針を刺す腕がいいとか。恐怖でしかないんだけど。
……これ、寝ている間に、血を抜かれたとか?
いつの間に。
「ああ、安心しなさい。性病など、おかしな病気は持っていないし、薬もやっていない」
こう見えて、清廉潔白に生きて来たのでね、とか言ってる。
マフィアなのに?
いや、それ以前の問題だ。
勝手に血を輸血されてる時点で少しも安心できる要素がない。
ちょっと理解しがたいけど。
もしかして。
母さんと一体化したくて、僕の血が欲しかったのかな?
でも。
「ええと、母はO型ですけど……?」
「知っているが? ああ、私の母もOだ。なので凝固は起こらないだろう」
何を当然なことを、というような顔をしている。
知ってて、それでも僕の血でいいの?
半分だけでも、同じ血が通っていれば、構わないのか……。
それだけ愛が深いのかな?
*****
「Poverino……」
リッカルドはお気の毒に、と呟いた。
無駄口を叩くな、とヴィットーリオに叱られて、肩を竦めて。
それ以降は、無言で。
リッカルドは、サイドテーブルに朝食を並べて。
一礼して、部屋を出て行った。
顔は怖いけど。
悪意は感じなかったし、悪い人じゃないのかもしれない、と思った。
まるで、世の不幸をすべて背負った死神みたいな顔してるけど。
だからって、味方でもないんだろうな。
わかってる。
汚れたシーツなどを回収したり、ここに必要な物を運んだりするのはリッカルドだという。
それ以外は不審者だと思え、と言われた。
側近なのに、お手伝いさんみたいな仕事もするのか。
大変だ。
それとも、マフィアのボスのこういうプライベートな姿は、軽々しく下働きの人には見せられないからだったりして。
……それが一番ありそうだ。
こんな姿。
どこかの雑誌社にすっぱ抜かれて売られたりしたら、世界的ニュースになって大騒ぎだろう。
世界的な大企業の総帥が、平凡な日本人大学生男子を攫って囲って。
その母親の身代わりに抱いただけじゃなく、一体化したくて勝手に輸血したとか。
もはやオカルトじみて意味不明だ。
*****
ヴィットーリオは、食事の時、僕に食器を持たせようとしなかった。
手を怪我している訳じゃないのに、スプーンを口元に寄せて食べさせられた。
まるで甲斐甲斐しく世話をされてるみたいで、恥ずかしいけど。
フォークとかを奪い取って、凶器にする可能性があるからだろうか?
逆らう気なんてないのに。
寝てる間に血は抜かれてるし、輸血されてるし。
おまけに、慣らすためだって言って、お尻にはディルドを突っ込まれたままで。
食欲なんか、わかないけど。
出された料理は美味しいし、残したら食材がもったいないから、
全部平らげてしまった。
本人は、僕に食事をさせた後、食事を摂った。
ヴィットーリオの所作は、生まれながらの貴族みたいに優雅で上品だった。
いや、生まれながらの貴族なのかも。お城に住んでるしな。
住んでいる世界が違う、と感じるような上流階級の人で。
大企業の総帥で、超美形で。
どうしてこんな人が。
僕なんかを飼おう、なんて思ったんだろう?
仮通夜を見て、驚いていた様子から推測すると。
総帥になったヴィットーリオが、想いを告げるためにジェット機で日本に向かっている間に、想い人である母さんが死んでしまっていた、ってことかな?
それで。
本来喪主である僕の、あまりの不甲斐無さに、代わりに葬式をあげた、ってところまでは納得できなくはないけど。
それ以降の行動の理由が、さっぱり理解できない。
*****
そもそも、この部屋は母さんを攫って閉じ込めるために作ったようには思えないんだよな。
枷は、僕の手足にぴったりすぎるし。
部屋の作りとか内装からして、急造のものとも思えない。
前々から用意していたような感じだ。
邪魔な僕をここに閉じ込めておいて、母さんと二人っきりになろうと思って用意していたのかな?
日本に置いてってくれて結構だけど。
クリスティアーニの関係者になった場合、放置してたらまずいとか?
普通、息子を閉じ込められたら怒ると思うけど。
マフィアの人の考えることだからな。
一般人には想像できないことでもおかしくはないか……。
「口を開けなさい」
デザートのオレンジを、口の中に放り込まれた。
……食べたくて見てた訳じゃないんだけど。
あ、美味しい。
世界的大企業の自宅って、出される食事のレベルも高いんだな。
「これは、うちの所有する畑から獲れたものだ。気に入ったか?」
ああ、そうなんだ。
こくこくと頷いてみせる。
今は季節じゃないけど、ブラッドオレンジの畑もあるそうだ。
それも美味しそうだな……。
なんてのんきなことを考えたりして。
人間って、何があっても順応する生き物なのかもしれない。
*****
「人間の肉体は、一年ほどで入れ替わるというが……それでは物足りない」
ん?
それは、どういった意味の発言なんだ?
「いっそ、食べてしまいたいほどだが、そうしたら抱けなくなるな……」
ヴィットーリオは物憂げな顔で僕を見ながら、呟いた。
食べるって。
性的な意味じゃなく。
カニバリズム的な意味で!? 僕を食べるの?
そのために太らせようとして、美味しい食事を摂らせてるとか!?
何だか本気で言ってそうで怖い。
輸血をして同化するとかも、尋常じゃない発想だし。
病気で血液を摂取したくなる嗜好の人なら、判例でも見た。
そこまでの考えに至ったのは、好きな人が死んでしまったショックからなんだろうか?
見た感じは、頭がおかしくなってるようには見えないけど。
人は見た目じゃわからないし。
僕なんかに手を出す時点でどうかしてるって言えばそれまでか。
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