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婚約指輪をもらいました。

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アパートの荷物はそのまま、城の一室に保管してあるというので。
そこまで案内してもらった。


本当に、そのまま運んだみたいに再現して置かれていた。
お陰で探しやすいけど。

「ええと。……あった。これだ」
目当ての箱を見つけて。

中から出した、厚紙で作られたアルバムをめくると。
最初のページから、可愛らしい赤ん坊の写真が貼られている。

その下には。
ひらがなで、ようちゃん、と書かれていた。


「……これは?」
「鷹ちゃんのお母さんが、僕に預けてくれた写真だよ」

そこに貼られた写真は。
子供を思う母親の気持ちに溢れたものばかりだった。


「子供と引き裂かれるって、予想してたのかもしれない。自分が持っていたら、取り上げられる可能性があると思ったんだろうな。だから、僕に預けたんだ。……二人の約束を聞いていたからかな?」

「そうか……。宗司の写真は?」
「こっち。赤ん坊から大学入学までのやつ」

薄いアルバムを出した。
うちは記念日くらいしか写真を撮らなかったので、枚数は少ない。


「これも、しばらく私に預けてくれないか?」
大事そうに二冊のアルバムを持って、訊かれた。

デジタルで取り込んで、保存でもするのかな?


「夫婦の財産は、」
「ああ、二人のものだったな。……ありがとう」

とても晴れやかな笑顔だった。


*****


「婚約指輪を受け取って欲しい」

用意はしていたが、渡す機会を逸していた、と言われて。
懐から、赤い箱を取り出した。

箱には金色の文字で、クリスティアーニの刻印と、Anelloアネッロ diディ fidanzaフィダンツァmentoメント。婚約指輪、という文字が刻まれている。

赤い宝石が綺麗な指輪だ。


「これは……、ルビー?」

「そう。君の誕生石、ルビーの婚約指輪だよ」
左の薬指にはめられた。

婚約指輪って、一般的にダイヤだと思ってたけど。
誕生石の場合もあるのか。

1センチくらいの指輪に、赤い石を模様みたいに嵌め込んでるのかな?
どうやって作ったのかわからないけど、凄く細かい細工だ。

滑らかな仕上げで。
石が引っ掛かって怪我をしたりしないようになってるっぽい。


「ありがとう。……あれ? みんな同じ石じゃないんだ? 色が違う……グラデーションみたい」

「そう。一番君に似合う色の石を厳選した。中央はピジョンブラッド、ラインにはレッドダイヤ、レッドべリルを使用している」
聞いたことない名前の宝石ばっかりだな。

「赤いダイヤなんかあるんだ……ダイヤって、透明だとばかり思ってた」
「青や黄色、ピンク、インクルージョンなどもあるが」


ダイヤって、そんなにカラフルな宝石だったんだ。
そういえばピンクダイヤっていうのは、大学で女の子が話しているのを聞いた事があった。


呪いのダイヤで有名なホープダイヤは、世界で一番大きなブルーダイヤなのか。
へえ。


*****


クリスティアーニは色々な部門で活躍しているけど。
服装・宝飾部門の”ドルチェ・クリスティアーニ”が最も有名だと思う。

マルチェッロはそこのデザイナーでもあり、取締役社長を任されているそうだ。
この指輪は、マルチェッロにかなり無理を言って作らせたものだという。


「じゃあこれ、マルチェッロにデザインを頼んだの?」

取締役がデザインした指輪なんて贅沢だなあ、と思ったら。
もっととんでもなかった。

「いや、君が身に着けるものを全て他人任せにする訳がないだろう。私がデザイン、セレクトしたものだ」
「ヴィックが!?」

すごい。
デザインもするんだ。

多才だな……。
総帥自らデザインなんて、最高に贅沢じゃないか。


ん? ってことは。

「じゃあ、もしかして。今も。普段僕が着てる服全部、ヴィックがデザインしてた、とか?」

Esattaそのmente通り
ふふん、って得意そうな顔をしているのは、何だか可愛いけど。


よく考えれてみれば。
世界に名だたるクリスティアーニの総帥が厳選した宝石って。とんでもなく高価なものなのでは……!?

今すぐ外して金庫に預けたくなったんだけど。

……いや、深く考えるのはやめておこう。
マッハで胃に穴が空きそうだ。

共有財産共有財産。
これは、僕だけのものじゃない。


ある意味手作りのプレゼントの延長線……みたいなもんだ。
多分。


*****


指輪を見ていて気付いた。

僕の爪、やたら綺麗になってない?
男子大学生にあるまじき、ツヤピカな爪になってるんだけど。

ヴィットーリオの爪も綺麗に整ってるけど。
四角い感じで、男らしいラインだ。

僕の爪は、何というか、女性的というか。
マニキュアが似合いそうな……楕円っぽい感じ?

また、結婚指輪が似合うこと。


げっ、よく見たら、手足の無駄毛が無くなってる。
指の毛も。

シャツを脱いで確認すると。
腋の下の毛も処理されてるし……。

何これどういう事!?

いつの間にか、剃られていたんだろうか。
いや、手触りがすべすべしてるし、脱毛クリームとか?


……あ、股間は無事だった。
良かった。


*****


「そろそろ結婚式に向けて、ウエディングドレスのデザインをしようと思うのだが。肌の露出はなるべく控えたものにしようと思う。他人に見せるのは勿体無いからな」

ヴィットーリオは僕の方を見ながら。
紙にサラサラとデザイン画を描いているようだ。


うっかり聞き流しそうになったけど。
僕がウエディングドレス着るの、既に決定事項なんだ……?

なんか、女装するのが当たり前のように言ってる。
生まれてこの方、そんな趣味を持った覚えは一度もないんだけど。

「僕、結婚式で女装しないと駄目?」


ヴィットーリオの手が止まった。

「いやだったか……?」
何で心外そうな顔をしているのか。

ちょっと意味がわかんないんだけど。


そういえば。
今まで女装させられることについて、文句を言ったことなかったっけ。

夜は普通にベビードールとか着てるけど。
それは、他に選択肢が無いからで。

まさか、僕がこれを喜んで着てるとか思ってたのかな……。

決して喜んではいないぞ?
この格好して、まともに鏡見るのも恐ろしいし。


中学生くらいならまだしも。
常識で考えて、ハタチ過ぎた男の女装が似合うわけがないじゃないか!
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