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ちょっとだけ、独占欲を抱きました。
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そんなこんなで、結婚式までの期日も迫ってきた。
結婚式に着るドレスの仮縫いができた、ということで。
ミラノから、マルチェッロがやって来た。
「チャオ、可愛い俺の義弟ちゃん。一億と二千年振りだね。元気だった?」
クリスティアーニの最新作を自然に着こなした、どう見てもイタリア紳士が、流暢な日本語でおかしな挨拶をしているのを、南郷さんが微妙な表情で見ていた。
初見だっけ?
それ、その人の通常運転だから。
ヴィットーリオは俺の義弟発言にむっとしたらしく。
私のものだ、と文句を言ったけど。
マルチェッロは、義弟になってるのは事実だし、義弟の婿だから、自分はヴィットーリオの義兄でもあるので敬え、とか言って。
更にむっとさせていた。
*****
そういえば。
いつの間にかヴィットーリオの叔父であるルイジの養子に入れられたので、自動的にマルチェッロの義弟ということになっていたのを思い出した。
「久しぶり、マルチェッロおにいちゃん!」
「おお、可愛い義弟よ! お兄ちゃんの腕の中に飛び込んでおいで!!」
両手を広げられたので。
抱きつく振りをしようとしたら。
マルチェッロのシャツの間からもっさりした胸毛が見えたので。
思わずUターンして、ヴィットーリオに抱きついた。
ああ、いい匂い。
こっちの胸毛はいい胸毛。
これ見よがしに見せないし、今はスーツの下に隠れている。
「あっ、おにいちゃんの胸毛が気持ち悪くて、つい身体が勝手に回避行動を……!」
ヴィットーリオは、ご機嫌な様子で僕を抱き締めている。
「失礼だな! これ、野生的でセクシーって評判なのに! おにいちゃん、激おこぷんぷん丸だよ!?」
「何それ……平成時代に流行った言葉じゃないの?」
「ええっ、ついこないだ日本のチャッ友から教わったばっかりなのに!?」
「その友達もアラサーなんじゃない?」
「マジかー……」
マルチェッロは見るからにがっくりとした様子で。
「ふっ、ははは、」
胸板が揺れて。
ヴィットーリオが吹き出した。
笑ってる。
美形がする無防備な笑顔って、すごい。
*****
おお……、と。
思わずみんなで見入ってしまった。
リッカルドも、細い目を見開いて驚いていた。
「っと、そうだったそうだった。仮縫いできたから、サイズ合わせしないとね!」
何で頬を赤らめてるのかな、マルチェッロ。
ご案内します、と言う南郷さんも。
何だか照れたような顔をして。
では仕事に戻る、と仕事部屋に向かったヴィットーリオの後に続くリッカルドもそんな感じだった。
……誰にも見せたくない、って気持ち。
何となくわかった気がする。
ヴィットーリオの、あんな無防備な笑顔。
自分だけが独り占めしたかったのに、って思ってしまった。
僕も、自分で思ってるより、独占欲が強かったようだ。
フィッティングのために用意された客間で。
「今まで、鼻で笑われるくらいだったから驚いちゃった。ヴィックってば、ああいう風に笑えるんだねー?」
マルチェッロは衣装箱からドレスを出しながら。
えへー、と嬉しそうに笑った。
「それって、今まで鼻で笑われるようなことしかしなかっただけでは……?」
「ひどい。俺の義弟、おにいちゃんにチョー厳しいんですけどー」
口を尖らせてる。
それは、日頃の言動のせいだと思う。
「そういえばご挨拶が遅れまして。この度いつの間にやらクリスティアーノ家の末弟になりました宗司です。今後ともよろしくお願いします」
「これはこれはご丁寧に。義兄のマルチェッロです。従兄弟がアレで、こんなことになってごめんね。遠慮なくおにいちゃんって呼んでね!」
お互いに頭を下げあったりして。
端から聞けば、おかしな挨拶だろうけど。
複雑な事情があるのだ。
クリスティアーノさんちの養子にするのは、僕を護るための処置だったようだし。
稲葉家は僕が最後になるけど。
男の配偶者を選んだ時点で、それはもう覚悟しておくべきことだ。
今ではもう納得している。
*****
「あ、そういえばジュリアーノは? 元気?」
クリスティアーニの首領候補筆頭だったヴィットーリオの弱みを握るべく、スパイとして送り込まれたジュリアーノ。
今はマルチェッロに預けられていて。もう、半年くらい経つんだっけ?
「元気元気。ジュリアーノの坊やは専門のトレーニングを受けて、うちの専属モデルとしてデビューして。早くもトップモデル扱いだよ」
「へえ、すごいなぁ」
ジュリアーノ、子供の頃のヴィットーリオに似てるもんな。
それには納得だ。
でも、ヴィットーリオは15、6歳の頃にはもう180センチ近い身長だったようだから、同じようには育たないだろうけど。
子役とかだと、小さい頃は可愛くても大きくなるとちょっと……っていうのが多いらしい。
でも、ヴィットーリオは良い方に大変身したんだなあ。
美少女みたいな可愛い子供時代から、超美形青年に育ったもんな。
身体も、彫刻みたいに綺麗だし。長身で、スタイルが良くて。
頭も最高レベルに良いし、商才もある。
世界的大企業の総帥で。カリスマもあって。
ドン引きするほど僕のストーカーでさえなければ、パーフェクトなんだけどな。
まあ、少々欠点があった方が人間らしくていいか。
……少々どころじゃない気もするけど。
結婚式に着るドレスの仮縫いができた、ということで。
ミラノから、マルチェッロがやって来た。
「チャオ、可愛い俺の義弟ちゃん。一億と二千年振りだね。元気だった?」
クリスティアーニの最新作を自然に着こなした、どう見てもイタリア紳士が、流暢な日本語でおかしな挨拶をしているのを、南郷さんが微妙な表情で見ていた。
初見だっけ?
それ、その人の通常運転だから。
ヴィットーリオは俺の義弟発言にむっとしたらしく。
私のものだ、と文句を言ったけど。
マルチェッロは、義弟になってるのは事実だし、義弟の婿だから、自分はヴィットーリオの義兄でもあるので敬え、とか言って。
更にむっとさせていた。
*****
そういえば。
いつの間にかヴィットーリオの叔父であるルイジの養子に入れられたので、自動的にマルチェッロの義弟ということになっていたのを思い出した。
「久しぶり、マルチェッロおにいちゃん!」
「おお、可愛い義弟よ! お兄ちゃんの腕の中に飛び込んでおいで!!」
両手を広げられたので。
抱きつく振りをしようとしたら。
マルチェッロのシャツの間からもっさりした胸毛が見えたので。
思わずUターンして、ヴィットーリオに抱きついた。
ああ、いい匂い。
こっちの胸毛はいい胸毛。
これ見よがしに見せないし、今はスーツの下に隠れている。
「あっ、おにいちゃんの胸毛が気持ち悪くて、つい身体が勝手に回避行動を……!」
ヴィットーリオは、ご機嫌な様子で僕を抱き締めている。
「失礼だな! これ、野生的でセクシーって評判なのに! おにいちゃん、激おこぷんぷん丸だよ!?」
「何それ……平成時代に流行った言葉じゃないの?」
「ええっ、ついこないだ日本のチャッ友から教わったばっかりなのに!?」
「その友達もアラサーなんじゃない?」
「マジかー……」
マルチェッロは見るからにがっくりとした様子で。
「ふっ、ははは、」
胸板が揺れて。
ヴィットーリオが吹き出した。
笑ってる。
美形がする無防備な笑顔って、すごい。
*****
おお……、と。
思わずみんなで見入ってしまった。
リッカルドも、細い目を見開いて驚いていた。
「っと、そうだったそうだった。仮縫いできたから、サイズ合わせしないとね!」
何で頬を赤らめてるのかな、マルチェッロ。
ご案内します、と言う南郷さんも。
何だか照れたような顔をして。
では仕事に戻る、と仕事部屋に向かったヴィットーリオの後に続くリッカルドもそんな感じだった。
……誰にも見せたくない、って気持ち。
何となくわかった気がする。
ヴィットーリオの、あんな無防備な笑顔。
自分だけが独り占めしたかったのに、って思ってしまった。
僕も、自分で思ってるより、独占欲が強かったようだ。
フィッティングのために用意された客間で。
「今まで、鼻で笑われるくらいだったから驚いちゃった。ヴィックってば、ああいう風に笑えるんだねー?」
マルチェッロは衣装箱からドレスを出しながら。
えへー、と嬉しそうに笑った。
「それって、今まで鼻で笑われるようなことしかしなかっただけでは……?」
「ひどい。俺の義弟、おにいちゃんにチョー厳しいんですけどー」
口を尖らせてる。
それは、日頃の言動のせいだと思う。
「そういえばご挨拶が遅れまして。この度いつの間にやらクリスティアーノ家の末弟になりました宗司です。今後ともよろしくお願いします」
「これはこれはご丁寧に。義兄のマルチェッロです。従兄弟がアレで、こんなことになってごめんね。遠慮なくおにいちゃんって呼んでね!」
お互いに頭を下げあったりして。
端から聞けば、おかしな挨拶だろうけど。
複雑な事情があるのだ。
クリスティアーノさんちの養子にするのは、僕を護るための処置だったようだし。
稲葉家は僕が最後になるけど。
男の配偶者を選んだ時点で、それはもう覚悟しておくべきことだ。
今ではもう納得している。
*****
「あ、そういえばジュリアーノは? 元気?」
クリスティアーニの首領候補筆頭だったヴィットーリオの弱みを握るべく、スパイとして送り込まれたジュリアーノ。
今はマルチェッロに預けられていて。もう、半年くらい経つんだっけ?
「元気元気。ジュリアーノの坊やは専門のトレーニングを受けて、うちの専属モデルとしてデビューして。早くもトップモデル扱いだよ」
「へえ、すごいなぁ」
ジュリアーノ、子供の頃のヴィットーリオに似てるもんな。
それには納得だ。
でも、ヴィットーリオは15、6歳の頃にはもう180センチ近い身長だったようだから、同じようには育たないだろうけど。
子役とかだと、小さい頃は可愛くても大きくなるとちょっと……っていうのが多いらしい。
でも、ヴィットーリオは良い方に大変身したんだなあ。
美少女みたいな可愛い子供時代から、超美形青年に育ったもんな。
身体も、彫刻みたいに綺麗だし。長身で、スタイルが良くて。
頭も最高レベルに良いし、商才もある。
世界的大企業の総帥で。カリスマもあって。
ドン引きするほど僕のストーカーでさえなければ、パーフェクトなんだけどな。
まあ、少々欠点があった方が人間らしくていいか。
……少々どころじゃない気もするけど。
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