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結婚式までカウントダウン入りました。
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マルチェッロは、僕の左手の指輪に目をとめた。
「あ、婚約指輪、受け取ったんだ?」
「うん。これ、どうやって作ったの? こんな指輪、見たことないよ!」
宝石って、熱に弱いし割れやすいから、留めやすいようにカットして、留め金で留める加工が主流らしいのに。
石と金属が、違和感無く馴染んでいるように見える。
マルチェッロが説明するには、ピジョンブラッドというのはルビーの中でも希少性の高い石で。
レッドダイヤもレッドベリルも、滅多にお目にかかれないような大変稀少な石だそうだ。
1カラット以上の宝石は世界に10粒、あるかないかくらいだという。
そんな稀少かつ貴重な宝石を。
指輪の土台に埋め込むように配置して、容赦なく滑らかに削ってしまった、という。
「うう、もったいない……稀少石をこんなに削るなんて……」
泣きそうな顔をしている。
大胆すぎるカットに、ジュエリー工房が悲鳴で溢れたくらいで。
もはや背徳的行為だという。
ああ、それで無理を言って作らせたって……。
「でも、すごく綺麗だよ?」
芸術作品というのは、犠牲なくしては作れないのだろうか。
「そりゃ、うちの工房の技術は世界一だからね! ヴィックのデザインの力もあるけど」
泣きそうだったのが、得意げな顔になった。
なるほど。
こっちが彼の得意分野な訳だ。全然表情が違う。
マフィアの首領や、企業の総帥になるよりも。デザインの現場に居たかったんだろう。
それで、ヴィットーリオを応援する立場に回ったんだ。
パソコン弄ってた時より、ずっと生き生きしてる。
*****
「わあ、」
仮縫いの状態だというのに。女性らしく柔らかで優美なラインが出ている。
これなら、男だってわからないだろうな。
すごいな最高峰の縫製技術。
ヴィットーリオのデザインのおかげもあるかな?
それと、胸がなくても下着で自然に見えるおっぱいが作れるって知った。
世の男性がどれだけ騙されているのかわかった気がする。世の中欺瞞に溢れている。
「どう? 動きにくくない? さすがにドレスで格闘とかされたら困るけど」
動いてみて、と言われて。
手を上下に動かしたり、荒ぶる鷹のポーズをしてみても、変なよじれとかも出ない。すごいなあ。
「格闘とかしないし。うん、すごく快適」
腕や胸を覆う繊細なレースの刺繍、全てが手で刺したものだとか。
全部手作業なんだ、これ。
布も、光が当たると真珠みたいに見えて、すごく綺麗だ。
特殊な加工の布なのかな?
コスト、とんでもないほど掛かってるんだろうな、と遠い目をしてしまう。
「じゃあ後は仕上げだけだ。ははは。……一週間くらいで終わるかなあ……?」
マルチェッロも、遠い目をしている。
「え、もうこれでほぼ完成じゃないの?」
「天下のドルチェ・クリスティアーニの最高峰、ウエディングドレスだよ? それもクリスティアーニ総帥の結婚式なんだから。世界一ゴージャスな花嫁衣裳のギネス記録更新に挑戦するに決まってるじゃない」
とかウインクされても。
それ、本気で言ってるの!?
*****
更に、ベールやドレスに細かく宝石を縫い付けるという。
ギャー、と悲鳴を上げそうになった。
ギネスとかに挑戦しなくていいと思います!
でも、ブランドとしては色々と付加価値をつけて、宣伝効果とかも考えないといけないのか。
大変だなあ。
ちなみに、ギネスには申請してないようだけど。
ウエディングドレスの最高額と言われているのは、有名宝飾ブランドのお嬢様が着たという、推定約1億1000万円のものだそうだ。
セレブに人気のある有名なデザイナーの作で、50万個ものスワロフスキーがあしらわれたドレスだとか。重そう。
その値段をさらに更新してやろうって?
どれだけ高価な宝石を、何個縫い付けるつもりなんだか。
宝石、後で外すんだよね? 店のギャラリーに飾っておく?
それなら、宣伝になっていいかな……。
……僕が着られる重さにしてね?
ケープをつけられて、本番さながらの本格的なメイクを施された。
マニキュアもしっかり塗られる。
メイクの腕もすごいんだなあ。
本番で、どういう化粧にするかの練習かな? と思ったら。
「Entri pure」
マルチェッロの合図で。
部屋に、カメラや照明機材を担いだ撮影隊が入って来た。
え? カメラテストもするの? 本格的過ぎない!?
皆で撮影機材をセットして、マルチェッロが光源の位置とかを指示してる。
ライト眩しい……。
おお。背景はブルーなんだ。
後でCG合成でもするのかな?
今まで扉の外で待機していた南郷さんは、撮影隊と一緒に部屋に入って。
万が一撮影隊が妙な動きをしないよう、監視している。
おお、プロの目をしている。
*****
『楽にしてー、うん、そうそう。世界一綺麗だよ』
えええ!? これが噂に聞くカメラマンの褒め殺し!?
楽になんて出来ないよ。
ぐわー。
めちゃくちゃ緊張するー。
でも、今の僕は普通の大学生、稲葉宗司じゃない。
クリスティアーニの総帥の花嫁。
別人だ。
そう思い込んでおこう。
化粧ってすごい。
何だか自信がわいてくる気がする。
椅子に座ったまま、何枚か写真を撮られた。
「婚約指輪、飴玉みたいで美味しそう、って感じで口に近づけてー」
マルチェッロに言われて。
薬指に嵌められた婚約指輪を見る。
確かに、赤い宝石が飴玉みたいだ。
それで宝飾部門のブランド名がドルチェ・クリスティアーニなのかな?
新しくブランド名を付けたのはヴィットーリオだという話だけど。
何を考えて名付けたんだろう?
苺かな?
それとも、飴玉かな。
二人の想い出を、つけてくれたなら嬉しいな。
「Va benone、Benissimo!」
カメラマンがOKサインを出した。
あ、撮影終わったんだ。
終わってみればあっという間だったな。
撮影隊は、クリスティアーニ所有の映像、撮影専門の会社で。
結婚式や披露パーティーの時も写真を撮りに伺いますので、今後もよろしく、と言われて。
帰り際に、代表でカメラマンから名刺をいただいた。
アルテ・クリスティアーニ、イタリア本社か。
所在地はローマ。
この会社は知らなかった。
関連会社、いくつあるんだろう?
貿易会社が最初にあって。
食品と、アパレル関係。不動産に、銀行、警備会社と……。
気が遠くなりそうになったのでやめよう。
「あ、婚約指輪、受け取ったんだ?」
「うん。これ、どうやって作ったの? こんな指輪、見たことないよ!」
宝石って、熱に弱いし割れやすいから、留めやすいようにカットして、留め金で留める加工が主流らしいのに。
石と金属が、違和感無く馴染んでいるように見える。
マルチェッロが説明するには、ピジョンブラッドというのはルビーの中でも希少性の高い石で。
レッドダイヤもレッドベリルも、滅多にお目にかかれないような大変稀少な石だそうだ。
1カラット以上の宝石は世界に10粒、あるかないかくらいだという。
そんな稀少かつ貴重な宝石を。
指輪の土台に埋め込むように配置して、容赦なく滑らかに削ってしまった、という。
「うう、もったいない……稀少石をこんなに削るなんて……」
泣きそうな顔をしている。
大胆すぎるカットに、ジュエリー工房が悲鳴で溢れたくらいで。
もはや背徳的行為だという。
ああ、それで無理を言って作らせたって……。
「でも、すごく綺麗だよ?」
芸術作品というのは、犠牲なくしては作れないのだろうか。
「そりゃ、うちの工房の技術は世界一だからね! ヴィックのデザインの力もあるけど」
泣きそうだったのが、得意げな顔になった。
なるほど。
こっちが彼の得意分野な訳だ。全然表情が違う。
マフィアの首領や、企業の総帥になるよりも。デザインの現場に居たかったんだろう。
それで、ヴィットーリオを応援する立場に回ったんだ。
パソコン弄ってた時より、ずっと生き生きしてる。
*****
「わあ、」
仮縫いの状態だというのに。女性らしく柔らかで優美なラインが出ている。
これなら、男だってわからないだろうな。
すごいな最高峰の縫製技術。
ヴィットーリオのデザインのおかげもあるかな?
それと、胸がなくても下着で自然に見えるおっぱいが作れるって知った。
世の男性がどれだけ騙されているのかわかった気がする。世の中欺瞞に溢れている。
「どう? 動きにくくない? さすがにドレスで格闘とかされたら困るけど」
動いてみて、と言われて。
手を上下に動かしたり、荒ぶる鷹のポーズをしてみても、変なよじれとかも出ない。すごいなあ。
「格闘とかしないし。うん、すごく快適」
腕や胸を覆う繊細なレースの刺繍、全てが手で刺したものだとか。
全部手作業なんだ、これ。
布も、光が当たると真珠みたいに見えて、すごく綺麗だ。
特殊な加工の布なのかな?
コスト、とんでもないほど掛かってるんだろうな、と遠い目をしてしまう。
「じゃあ後は仕上げだけだ。ははは。……一週間くらいで終わるかなあ……?」
マルチェッロも、遠い目をしている。
「え、もうこれでほぼ完成じゃないの?」
「天下のドルチェ・クリスティアーニの最高峰、ウエディングドレスだよ? それもクリスティアーニ総帥の結婚式なんだから。世界一ゴージャスな花嫁衣裳のギネス記録更新に挑戦するに決まってるじゃない」
とかウインクされても。
それ、本気で言ってるの!?
*****
更に、ベールやドレスに細かく宝石を縫い付けるという。
ギャー、と悲鳴を上げそうになった。
ギネスとかに挑戦しなくていいと思います!
でも、ブランドとしては色々と付加価値をつけて、宣伝効果とかも考えないといけないのか。
大変だなあ。
ちなみに、ギネスには申請してないようだけど。
ウエディングドレスの最高額と言われているのは、有名宝飾ブランドのお嬢様が着たという、推定約1億1000万円のものだそうだ。
セレブに人気のある有名なデザイナーの作で、50万個ものスワロフスキーがあしらわれたドレスだとか。重そう。
その値段をさらに更新してやろうって?
どれだけ高価な宝石を、何個縫い付けるつもりなんだか。
宝石、後で外すんだよね? 店のギャラリーに飾っておく?
それなら、宣伝になっていいかな……。
……僕が着られる重さにしてね?
ケープをつけられて、本番さながらの本格的なメイクを施された。
マニキュアもしっかり塗られる。
メイクの腕もすごいんだなあ。
本番で、どういう化粧にするかの練習かな? と思ったら。
「Entri pure」
マルチェッロの合図で。
部屋に、カメラや照明機材を担いだ撮影隊が入って来た。
え? カメラテストもするの? 本格的過ぎない!?
皆で撮影機材をセットして、マルチェッロが光源の位置とかを指示してる。
ライト眩しい……。
おお。背景はブルーなんだ。
後でCG合成でもするのかな?
今まで扉の外で待機していた南郷さんは、撮影隊と一緒に部屋に入って。
万が一撮影隊が妙な動きをしないよう、監視している。
おお、プロの目をしている。
*****
『楽にしてー、うん、そうそう。世界一綺麗だよ』
えええ!? これが噂に聞くカメラマンの褒め殺し!?
楽になんて出来ないよ。
ぐわー。
めちゃくちゃ緊張するー。
でも、今の僕は普通の大学生、稲葉宗司じゃない。
クリスティアーニの総帥の花嫁。
別人だ。
そう思い込んでおこう。
化粧ってすごい。
何だか自信がわいてくる気がする。
椅子に座ったまま、何枚か写真を撮られた。
「婚約指輪、飴玉みたいで美味しそう、って感じで口に近づけてー」
マルチェッロに言われて。
薬指に嵌められた婚約指輪を見る。
確かに、赤い宝石が飴玉みたいだ。
それで宝飾部門のブランド名がドルチェ・クリスティアーニなのかな?
新しくブランド名を付けたのはヴィットーリオだという話だけど。
何を考えて名付けたんだろう?
苺かな?
それとも、飴玉かな。
二人の想い出を、つけてくれたなら嬉しいな。
「Va benone、Benissimo!」
カメラマンがOKサインを出した。
あ、撮影終わったんだ。
終わってみればあっという間だったな。
撮影隊は、クリスティアーニ所有の映像、撮影専門の会社で。
結婚式や披露パーティーの時も写真を撮りに伺いますので、今後もよろしく、と言われて。
帰り際に、代表でカメラマンから名刺をいただいた。
アルテ・クリスティアーニ、イタリア本社か。
所在地はローマ。
この会社は知らなかった。
関連会社、いくつあるんだろう?
貿易会社が最初にあって。
食品と、アパレル関係。不動産に、銀行、警備会社と……。
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