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マリッジブルーというやつかもしれません。
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結婚式にはマスコミなどは呼ばず、関係者以外は立ち入り禁止だけど。
アルテ・クリスティアーニがマスコミ各社に写真を無償で提供することになっているそうだ。
ヴィットーリオがこのテスタ島に住んでいるのは極秘情報なので、所在は知られてない。
この島自体、地図にもグーグルアースにすら載ってないとか。
マフィアの島にも乗り込んでくるような命知らずなパパラッチがいるかどうかは謎だ。
でも、巷ではもう大変な大騒ぎらしく。
一面で写真を載せた新聞は売り切れ続出となり、異例の増刷に次ぐ増刷で。
ミラノの本社前には連日マスコミが押しかけて、対応に大変なようだ。
相手は一般人なので、取材はお断りすると答えているとか。
僕も島にこもってるお陰で、助かっているわけだ。
わかってたつもりだけど。
クリスティアーニの総帥と結婚するって、大変なことなんだな。
*****
図書室で。
一面クリスティアーニで埋まった、各社の新聞を眺めていた。
新聞の記事には、相手の女性はおそらくクリスティアーニ所属のモデルだろう、とか。
突如現れた謎の美女、って書かれてる。
美女、かあ。
素顔で歩いても、絶対僕だってバレないよね。
こういう平凡な顔立ちのほうが、化粧って映えるんだって。
胸もあるように見えるし。
この化けっぷりなら、花嫁が男だってこともバレないだろう。
僕の正体が知られて。
結婚相手が男だって発表されたとしても、ヴィットーリオ本人は全く気にしないんだろうな。
僕がOKすれば、そのまま公表するつもりだったようだし。
でも、隣に立つなら、そのままの僕よりも、美人の方がいいよね。
化粧の力でも、お似合いの二人だって言われたいし。
……って乙女か!
「はあ……」
ヴィットーリオレベルの美貌なんて贅沢は言わないけど。
どうせなら、ジュリアーノくらい可愛く生まれてきたかったな……。
ああ、これがマリッジブルーというやつだろうか。
何か違う気がするけど。
『溜め息をひとつ吐くたびに、幸せがひとつ逃げるというよ? 小鳥』
ん?
からかうような、歌うような声に、振り向いたら。
見事な金髪の、天使のような美青年が立っていた。
青年……だけど。
もしかして。
ジュリアーノ!?
ヴィットーリオが男性的な美しさ最高峰なら、こっちは女性的な美しさだ。
でも。
『どうしてたった半年で、こんなに背が伸びてるの!?』
*****
ついこの前まで、僕と同じくらいだったのに。
頭一つくらい大きくなってるし! ずるい、ずるすぎる。外国人の遺伝子!
『成長期だからね。むしろ、君が21歳だなんて。日本人はおかしい』
ジュリアーノは、少し伸びた緩いウエーブの金髪を煩わしそうにかき上げて言った。
うわあ、声も低くなってるよ。
天使みたいなソプラノだったのに。今の声も似合ってるけど。
僕だって今はイタリア人と同じものを食べているはずなのに……。
食べる量かな?
ダイエットしてるの? って聞かれるくらいだもんな。
あ。
ダイエットといえば。
『ジュリアーノ、モデルをやってるんだってね。もうトップモデルだって? おめでとう』
手足も長いし。
クリスティアーニの服がよく似合いそうだ。っていうか似合っている。
これ、上から下までフルオーダーかな?
『ありがとう。当然だけどね?』
ポーズを取って言った。
羨ましいほどの自信だ。綺麗なのは事実なんだけど。
『隣、座ってもいいかな?』
『どうぞ』
いつかしたような会話。
そういえば、前にもここで、話をしたっけ。
あの頃は、こんなことになるなんて思ってもいなかった。
ジェットコースターに乗ったような急展開だ。
人生って、わからないもんだ。
*****
『写真、見たよ。まあ、綺麗な写真だった。モデルが素人でも、写真家の腕がいいと素晴らしい作品に見えるね』
ああ、新聞に載ったやつかな。
あれはプロの仕事だよ。
『ありがとう』
『でも、あれは君じゃない。まるで別人じゃないか。どうして? マスコミに素性を知られたくないなら、顔を発表しなくてもいいじゃない』
そういう訳にもいかない。
だって、天下のクリスティアーノの総帥の結婚だよ?
顔も出せません、じゃ体裁が悪いし。
それに。
ヴィットーリオみたいな美形の隣りに並ぶなら。そのままの姿より、女装でもしたほうがマシだと思った。
今ちょうど、どうせなら僕もジュリアーノくらい可愛く生まれてくればよかったのに、とか考えてたところだから。
本人が現れて驚いた、って言うと。
ジュリアーノは。
美形が台無しなくらい、口をあんぐり開けて。
「Scemo!」
え?
『なんてロバなんだ君は!』
ロ、ロバ?
『この僕が、使命なんて放り投げてここから助け出して連れ去りたいと考えたくらい、君は可愛いというのに! 何だよその自信の無さは! 呆れたな!!』
「はあ!?」
ああ、ここにも目と頭がどうにかしてる人種が現れたか、と思ったら。
*****
『私の宗司を攫おうとは、いい度胸だ……』
地獄の底から聞こえてくるような、恐ろしい声が聞こえた。
ヴィットーリオだ。
話を聞いていて、仕事部屋から慌てて駆けつけたようだ。
素早いな。
『過去形、話、半年前』
ジュリアーノは可哀想なほど真っ青になってホールドアップしている。
何かカタコトになってるし。
『いいから。拳銃仕舞って。ヴィック』
ヴィットーリオはしぶしぶと拳銃を懐に仕舞った。
そんなことで拳銃を持ち出さないで欲しい。
物騒だなあ。
アルテ・クリスティアーニがマスコミ各社に写真を無償で提供することになっているそうだ。
ヴィットーリオがこのテスタ島に住んでいるのは極秘情報なので、所在は知られてない。
この島自体、地図にもグーグルアースにすら載ってないとか。
マフィアの島にも乗り込んでくるような命知らずなパパラッチがいるかどうかは謎だ。
でも、巷ではもう大変な大騒ぎらしく。
一面で写真を載せた新聞は売り切れ続出となり、異例の増刷に次ぐ増刷で。
ミラノの本社前には連日マスコミが押しかけて、対応に大変なようだ。
相手は一般人なので、取材はお断りすると答えているとか。
僕も島にこもってるお陰で、助かっているわけだ。
わかってたつもりだけど。
クリスティアーニの総帥と結婚するって、大変なことなんだな。
*****
図書室で。
一面クリスティアーニで埋まった、各社の新聞を眺めていた。
新聞の記事には、相手の女性はおそらくクリスティアーニ所属のモデルだろう、とか。
突如現れた謎の美女、って書かれてる。
美女、かあ。
素顔で歩いても、絶対僕だってバレないよね。
こういう平凡な顔立ちのほうが、化粧って映えるんだって。
胸もあるように見えるし。
この化けっぷりなら、花嫁が男だってこともバレないだろう。
僕の正体が知られて。
結婚相手が男だって発表されたとしても、ヴィットーリオ本人は全く気にしないんだろうな。
僕がOKすれば、そのまま公表するつもりだったようだし。
でも、隣に立つなら、そのままの僕よりも、美人の方がいいよね。
化粧の力でも、お似合いの二人だって言われたいし。
……って乙女か!
「はあ……」
ヴィットーリオレベルの美貌なんて贅沢は言わないけど。
どうせなら、ジュリアーノくらい可愛く生まれてきたかったな……。
ああ、これがマリッジブルーというやつだろうか。
何か違う気がするけど。
『溜め息をひとつ吐くたびに、幸せがひとつ逃げるというよ? 小鳥』
ん?
からかうような、歌うような声に、振り向いたら。
見事な金髪の、天使のような美青年が立っていた。
青年……だけど。
もしかして。
ジュリアーノ!?
ヴィットーリオが男性的な美しさ最高峰なら、こっちは女性的な美しさだ。
でも。
『どうしてたった半年で、こんなに背が伸びてるの!?』
*****
ついこの前まで、僕と同じくらいだったのに。
頭一つくらい大きくなってるし! ずるい、ずるすぎる。外国人の遺伝子!
『成長期だからね。むしろ、君が21歳だなんて。日本人はおかしい』
ジュリアーノは、少し伸びた緩いウエーブの金髪を煩わしそうにかき上げて言った。
うわあ、声も低くなってるよ。
天使みたいなソプラノだったのに。今の声も似合ってるけど。
僕だって今はイタリア人と同じものを食べているはずなのに……。
食べる量かな?
ダイエットしてるの? って聞かれるくらいだもんな。
あ。
ダイエットといえば。
『ジュリアーノ、モデルをやってるんだってね。もうトップモデルだって? おめでとう』
手足も長いし。
クリスティアーニの服がよく似合いそうだ。っていうか似合っている。
これ、上から下までフルオーダーかな?
『ありがとう。当然だけどね?』
ポーズを取って言った。
羨ましいほどの自信だ。綺麗なのは事実なんだけど。
『隣、座ってもいいかな?』
『どうぞ』
いつかしたような会話。
そういえば、前にもここで、話をしたっけ。
あの頃は、こんなことになるなんて思ってもいなかった。
ジェットコースターに乗ったような急展開だ。
人生って、わからないもんだ。
*****
『写真、見たよ。まあ、綺麗な写真だった。モデルが素人でも、写真家の腕がいいと素晴らしい作品に見えるね』
ああ、新聞に載ったやつかな。
あれはプロの仕事だよ。
『ありがとう』
『でも、あれは君じゃない。まるで別人じゃないか。どうして? マスコミに素性を知られたくないなら、顔を発表しなくてもいいじゃない』
そういう訳にもいかない。
だって、天下のクリスティアーノの総帥の結婚だよ?
顔も出せません、じゃ体裁が悪いし。
それに。
ヴィットーリオみたいな美形の隣りに並ぶなら。そのままの姿より、女装でもしたほうがマシだと思った。
今ちょうど、どうせなら僕もジュリアーノくらい可愛く生まれてくればよかったのに、とか考えてたところだから。
本人が現れて驚いた、って言うと。
ジュリアーノは。
美形が台無しなくらい、口をあんぐり開けて。
「Scemo!」
え?
『なんてロバなんだ君は!』
ロ、ロバ?
『この僕が、使命なんて放り投げてここから助け出して連れ去りたいと考えたくらい、君は可愛いというのに! 何だよその自信の無さは! 呆れたな!!』
「はあ!?」
ああ、ここにも目と頭がどうにかしてる人種が現れたか、と思ったら。
*****
『私の宗司を攫おうとは、いい度胸だ……』
地獄の底から聞こえてくるような、恐ろしい声が聞こえた。
ヴィットーリオだ。
話を聞いていて、仕事部屋から慌てて駆けつけたようだ。
素早いな。
『過去形、話、半年前』
ジュリアーノは可哀想なほど真っ青になってホールドアップしている。
何かカタコトになってるし。
『いいから。拳銃仕舞って。ヴィック』
ヴィットーリオはしぶしぶと拳銃を懐に仕舞った。
そんなことで拳銃を持ち出さないで欲しい。
物騒だなあ。
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