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Ⅱ
異世界で、正装に着換える
「こちらをお使いください。お着替えはご自分でされますか?」
ラドクリフ少年に更衣スペースに案内され、着替えを渡され。
自分で着られるから手伝いはいい、と答えた。
手触りの良い服だ。シャツはシルクっぽいし、上着はアンゴラかな?
この世界、もしかしたら、布もかなり高価なんじゃないか……?
「大丈夫? 一人で着られるかな? 着替え、手伝おうか?」
じっと服を見てたら、ウィリアムにおかしな心配をされてしまった。
10歳は、そこまで子供じゃないと思うんだが。
保育園の3歳児だって、一人でスモックを着られる子はいる。まあ年長さんでも手伝いが必要な子もいたが。さすがに10歳になれば一人で着替えられるだろう。
貴族の場合、着替えはお手伝いさんに任せるから、自分で着替えないのが普通なのか? それとも、俺はそんなに何も出来なさそうに見えるのだろうか。
おそらくそっちの線が濃いな……。くっ、屈辱。
さすがに下着までは渡されなくて、ほっとした。
袖と前のボタン周りにフリルのついたドレスシャツに、首にはジャボとかいうスカーフみたいなのを着けて。黒に青の縦ラインが入った膝上までの半ズボン。腰には青いサッシュ。黒地に金糸で装飾の施された裾丈の短い上着を羽織る。肩も袖もぴったりだった。
ローファー風の革靴もジャストサイズだ。すごいな。
初めてつける靴下留めにはちょっと手間取ったが。どうにか慣れない貴族の服を身に着けることができた。
自信満々に自分で着られると言ったのに、もし着られなかったら恥ずかしい思いをするところだった。
馬子にも衣裳というか。小公子みたいな格好だ。
服が立派だと、下町育ちの俺でもいいとこのお坊ちゃまっぽく見える……かな?
あえて鏡は見ないでおこう。
*****
更衣スペースから出ると。笑顔のウィリアムに迎えられた。
「ああ、やはり差し色を青にしてよかった。よく似合っているよ。とても可愛らしい」
そういうのは女の子に言ってあげて欲しい。
「うん。立派な貴公子だ。かわいいなあ」
オズワルドもにこにこしている。
「ありがとう、」
お礼を言う顔が引きつりそうだ。
精神も子供だったら、可愛いと褒められても嬉しかったのだろうか? 10歳当時の感性など、遠い昔過ぎて思い出せない。
外見こそ子供だが、中身はいい年をしたおっさんなので、かなり微妙な気分である。
「服はいくらあっても困らないだろう? 何着か着替えを用意させよう」
ウィリアムは、店主に追加注文していた。
いや、普通に困るが?
服はいくらあっても困らない、なんて、広いクローゼットのあるお金持ちにしかできない発想だ。そもそもこんな立派な服、他に着る機会があるのだろうか? 舞踏会にでも参加しろと? 絶対無理。
それに、子供なんだから、成長してすぐに着られなくなるだろうに。もったいない。……すぐに着られなくなるよな? 成長期はこれからだ。
ああ、借金がどんどん増えていく……。
当のウィリアムは、貸しにしたつもりなど一切なさそうだが。
こちとら王族でも何でもない、元地方公務員、生まれながらのド庶民である。働かずに税金を使うことに強い忌避感を覚えてしまうのだ。
しかし、金を突き返すのも感じが悪いだろうし。儲けを出して、国を富ませることでチャラということでいいだろうか?
少なくとも、俺の良心が痛まないで済む。
*****
スキート商会を出て。
ふたたび馬車に乗り込んだ。
次は下町というか、平民の住んでいる区域に向かうという。商店街の先は貴族街というか、貴族の別宅や邸宅が立ち並んでいるらしいけど。今日はそこは通り過ぎる。
大きな円形の城壁の上方に城と城を守る城壁があって、周辺に貴族街、真ん中に正門から城へ続く大通り、東西に馬車が二台並べる幅の道が通っていて、東通りが商店街、西通りが下町、姓を持たない商人の店や家があるそうだ。
西側も一見、同じような石造りの家が並んだ光景だが。よく見ればさっきの商店街よりも窓が小さかったり、簡素な木戸だったりする。この世界、どうやらガラスも高価なようだ。
スキート商会で出された飲み物は、陶器製のコップに入ってた。縁が厚めで、頑丈そうだった。俺が出されたのは何かの果物の絞り汁だったが。ここでは綺麗な飲み水が貴重だそうで、ビールやワインを飲料水代わりに飲んでいるとか。一応、アルコール度の低いやつらしいが。
川の近くにワイン工場があるので、飲料水もそこから運んでくるのだと言っていた。
それなら、”創造”でこの近くに大きな貯水池でも作って、飲料水を確保した方が喜ばれるかもしれない。
俺も、普通に水を使いたいし。
二階建てくらいの建物の中、ひょっこりと目立つ、塔のような建物が見えた。
「あの、大きな建物は?」
「ああ、教会だね。通常、15歳の時にそこで神から恩寵をいただくのだけれど……」
ウィリアムが説明してくれた。
この世界の人は、生まれながらに持っているスキルや魔法の能力は教会で教えられるそうだ。
15歳になると、教会の神像の前で祈りを捧げる。
すると、神の声が聞こえて、自分の能力を教えられる。神から、自分がこれから進むべき道を示されるんだとか。
もし自分がなりたい職業があったとしても、それに向いた能力を持ってないとなれないし、15歳の時点で将来が確定してしまうようなものか。
遅いと言えば遅いし。不便な気もするけど。神様が直接、一番自分に向いてる職業を示してくれるなら、ありがたいかもしれない。
そうなると。この世界じゃ、ある意味何でもアリな俺は、かなり特別扱いというか。珍しい能力持ちになるんだな。
重ね重ね、神様に感謝しないと。
ラドクリフ少年に更衣スペースに案内され、着替えを渡され。
自分で着られるから手伝いはいい、と答えた。
手触りの良い服だ。シャツはシルクっぽいし、上着はアンゴラかな?
この世界、もしかしたら、布もかなり高価なんじゃないか……?
「大丈夫? 一人で着られるかな? 着替え、手伝おうか?」
じっと服を見てたら、ウィリアムにおかしな心配をされてしまった。
10歳は、そこまで子供じゃないと思うんだが。
保育園の3歳児だって、一人でスモックを着られる子はいる。まあ年長さんでも手伝いが必要な子もいたが。さすがに10歳になれば一人で着替えられるだろう。
貴族の場合、着替えはお手伝いさんに任せるから、自分で着替えないのが普通なのか? それとも、俺はそんなに何も出来なさそうに見えるのだろうか。
おそらくそっちの線が濃いな……。くっ、屈辱。
さすがに下着までは渡されなくて、ほっとした。
袖と前のボタン周りにフリルのついたドレスシャツに、首にはジャボとかいうスカーフみたいなのを着けて。黒に青の縦ラインが入った膝上までの半ズボン。腰には青いサッシュ。黒地に金糸で装飾の施された裾丈の短い上着を羽織る。肩も袖もぴったりだった。
ローファー風の革靴もジャストサイズだ。すごいな。
初めてつける靴下留めにはちょっと手間取ったが。どうにか慣れない貴族の服を身に着けることができた。
自信満々に自分で着られると言ったのに、もし着られなかったら恥ずかしい思いをするところだった。
馬子にも衣裳というか。小公子みたいな格好だ。
服が立派だと、下町育ちの俺でもいいとこのお坊ちゃまっぽく見える……かな?
あえて鏡は見ないでおこう。
*****
更衣スペースから出ると。笑顔のウィリアムに迎えられた。
「ああ、やはり差し色を青にしてよかった。よく似合っているよ。とても可愛らしい」
そういうのは女の子に言ってあげて欲しい。
「うん。立派な貴公子だ。かわいいなあ」
オズワルドもにこにこしている。
「ありがとう、」
お礼を言う顔が引きつりそうだ。
精神も子供だったら、可愛いと褒められても嬉しかったのだろうか? 10歳当時の感性など、遠い昔過ぎて思い出せない。
外見こそ子供だが、中身はいい年をしたおっさんなので、かなり微妙な気分である。
「服はいくらあっても困らないだろう? 何着か着替えを用意させよう」
ウィリアムは、店主に追加注文していた。
いや、普通に困るが?
服はいくらあっても困らない、なんて、広いクローゼットのあるお金持ちにしかできない発想だ。そもそもこんな立派な服、他に着る機会があるのだろうか? 舞踏会にでも参加しろと? 絶対無理。
それに、子供なんだから、成長してすぐに着られなくなるだろうに。もったいない。……すぐに着られなくなるよな? 成長期はこれからだ。
ああ、借金がどんどん増えていく……。
当のウィリアムは、貸しにしたつもりなど一切なさそうだが。
こちとら王族でも何でもない、元地方公務員、生まれながらのド庶民である。働かずに税金を使うことに強い忌避感を覚えてしまうのだ。
しかし、金を突き返すのも感じが悪いだろうし。儲けを出して、国を富ませることでチャラということでいいだろうか?
少なくとも、俺の良心が痛まないで済む。
*****
スキート商会を出て。
ふたたび馬車に乗り込んだ。
次は下町というか、平民の住んでいる区域に向かうという。商店街の先は貴族街というか、貴族の別宅や邸宅が立ち並んでいるらしいけど。今日はそこは通り過ぎる。
大きな円形の城壁の上方に城と城を守る城壁があって、周辺に貴族街、真ん中に正門から城へ続く大通り、東西に馬車が二台並べる幅の道が通っていて、東通りが商店街、西通りが下町、姓を持たない商人の店や家があるそうだ。
西側も一見、同じような石造りの家が並んだ光景だが。よく見ればさっきの商店街よりも窓が小さかったり、簡素な木戸だったりする。この世界、どうやらガラスも高価なようだ。
スキート商会で出された飲み物は、陶器製のコップに入ってた。縁が厚めで、頑丈そうだった。俺が出されたのは何かの果物の絞り汁だったが。ここでは綺麗な飲み水が貴重だそうで、ビールやワインを飲料水代わりに飲んでいるとか。一応、アルコール度の低いやつらしいが。
川の近くにワイン工場があるので、飲料水もそこから運んでくるのだと言っていた。
それなら、”創造”でこの近くに大きな貯水池でも作って、飲料水を確保した方が喜ばれるかもしれない。
俺も、普通に水を使いたいし。
二階建てくらいの建物の中、ひょっこりと目立つ、塔のような建物が見えた。
「あの、大きな建物は?」
「ああ、教会だね。通常、15歳の時にそこで神から恩寵をいただくのだけれど……」
ウィリアムが説明してくれた。
この世界の人は、生まれながらに持っているスキルや魔法の能力は教会で教えられるそうだ。
15歳になると、教会の神像の前で祈りを捧げる。
すると、神の声が聞こえて、自分の能力を教えられる。神から、自分がこれから進むべき道を示されるんだとか。
もし自分がなりたい職業があったとしても、それに向いた能力を持ってないとなれないし、15歳の時点で将来が確定してしまうようなものか。
遅いと言えば遅いし。不便な気もするけど。神様が直接、一番自分に向いてる職業を示してくれるなら、ありがたいかもしれない。
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重ね重ね、神様に感謝しないと。
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