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Ⅴ
異世界で、ピクニック?
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「了解しました!」
びしっと直立不動してる。
「ふふ、そんなにかしこまらなくてもいいよ。今の私は騎士、ウィリアムだからね。楽にしなさい」
いやいや、次期国王で王子様にかしこまらない国民はいないだろう。
「本日より、再びリズリーの森の管理人として呼ばれました、キース・スペンサーと申します。こうして復職させていただけた上に、新たに住む場所まで作っていただき、大変ありがたく存じます」
ガッチガチに緊張してる。
管理人夫婦には、前もって俺が神の使者だと教えておいたそうだ。
*****
「キースさん? これからはご近所さんですね。よろしくお願いします」
握手をしたら。
タコだらけで、固い手だった。働く男の手だ。
俺もそうだったんだけどな……、とじっと手を見てみたり。
「妻のウィトレーです。趣味はお菓子作りなの。カノムランプンはお好きかしら?」
奥さんのほうは、興味津々といった様子で俺の顔を覗き込んできた。
「カノム……?」
思わずウィリアムを見上げたら。
屈みこんで、耳元でワッフルみたいなお菓子だよ、と教えてくれた。
ご当地料理か。興味ある。
っていうか、甘い声で囁くのやめて。
「この国のお菓子はあまり知らないので、教えてもらえたら嬉しいです」
「うふふ、私も楽しみだわ」
教会の方から、鐘の音がした。
今のは、お昼休み……12時を報せる鐘だそうだ。もう鐘を取り付けたんだ。
っていうか。お昼過ぎに来るって言ってたのに。ずいぶん気が早いなあ。下見をしに来たのかもしれないけど。
「あの、お昼ご飯作ったんですけど。ご一緒にどうですか?」
お弁当の入ったバスケットを掲げた。
「勿論、いただきます!」
どこにいたのか、プレストンが顔を出した。
「我々もご相伴させて頂けますでしょうか!」
あ、オズワルドとオーソンもちゃんと来てたんだ。どこにいたんだろ?
まあ、そうなることを見越して、多めに作っといたんだけど。
*****
「はうっ!?」
バスケットに釘付けになっていたプレストンが、おかしな声を上げた。
「こ、こちらはププププププ狛犬様では!?」
ウィリアムが抱っこしていたシロを見て、腰を抜かしそうになってる。
「この仔犬は、リンの飼い犬のシロだよ? 狛犬そっくりだけど、マラミュートという犬種の犬だ」
「し、しかし、」
「マラミュートのシロ」
圧のある笑顔で、ウィリアムが言うと。
シロはキャン、と返事した。かわいい。
「マ、マラミュートのシロ、様ですね!」
プレストンは、滝のような冷や汗をかきながら、こくこくと頷いた。
まあ確かにどう見てもマラミュートだよね。
「ところで、管理人小屋はあれで大丈夫かね?」
ウィリアムがスペンサー夫妻の視線を他に向けている隙に、大きめなテーブルと椅子を作って。
赤いチェックのテーブルクロスを敷いた。暖色は食欲を増進させる色だ。
オズワルドとオーソンもセッティングを手伝ってくれた。
プレストンはシロをモフってる。幸せそうだ。
*****
「お昼だから、お酒は持ってきてないよ。お茶でいい?」
食前だし、ノンカフェインのお茶にした。食後はカテキンの豊富な緑茶だ。
「おお、お茶は貴重品なので大歓迎ですよ」
そうだった。
水が貴重だったんだから、そりゃお湯で煮だして飲むお茶も貴重だよね……。
「これからは貴重品じゃなくなると思うけど」
「ありがたいことです」
山積みのロールサンドとカリフォルニアロール。大皿におかずを盛って。サラダボウルには野菜サラダ。ドレッシングはサウザンアイランドだ。
取り分け用の皿を置いて。
「スペンサー夫妻の復職と、教会開設に」
お茶の入ったマグカップを掲げて。またもプレストンが音頭を取ってる。
……えっ、もう教会出来たの!? 人力で?
凄いな人海戦術!
「 乾杯!」
*****
用意したお弁当は、凄い勢いで皆の胃袋の中に納まった。
「美味しい料理をありがとう」
「はじめて食べるものばかりだったわ」
スペンサー夫妻も食事を一緒にするうちに、徐々に固さが取れていた。
美味しい、って言って。
笑顔で食べてくれるのは、子供相手じゃなくても嬉しいものだ。
異世界でも、こういう光景を見られて幸せだ。
母親がそうだったから、何となく調理師の道を選んだけど。
腕を磨いてきて良かったな、と心から思う。
びしっと直立不動してる。
「ふふ、そんなにかしこまらなくてもいいよ。今の私は騎士、ウィリアムだからね。楽にしなさい」
いやいや、次期国王で王子様にかしこまらない国民はいないだろう。
「本日より、再びリズリーの森の管理人として呼ばれました、キース・スペンサーと申します。こうして復職させていただけた上に、新たに住む場所まで作っていただき、大変ありがたく存じます」
ガッチガチに緊張してる。
管理人夫婦には、前もって俺が神の使者だと教えておいたそうだ。
*****
「キースさん? これからはご近所さんですね。よろしくお願いします」
握手をしたら。
タコだらけで、固い手だった。働く男の手だ。
俺もそうだったんだけどな……、とじっと手を見てみたり。
「妻のウィトレーです。趣味はお菓子作りなの。カノムランプンはお好きかしら?」
奥さんのほうは、興味津々といった様子で俺の顔を覗き込んできた。
「カノム……?」
思わずウィリアムを見上げたら。
屈みこんで、耳元でワッフルみたいなお菓子だよ、と教えてくれた。
ご当地料理か。興味ある。
っていうか、甘い声で囁くのやめて。
「この国のお菓子はあまり知らないので、教えてもらえたら嬉しいです」
「うふふ、私も楽しみだわ」
教会の方から、鐘の音がした。
今のは、お昼休み……12時を報せる鐘だそうだ。もう鐘を取り付けたんだ。
っていうか。お昼過ぎに来るって言ってたのに。ずいぶん気が早いなあ。下見をしに来たのかもしれないけど。
「あの、お昼ご飯作ったんですけど。ご一緒にどうですか?」
お弁当の入ったバスケットを掲げた。
「勿論、いただきます!」
どこにいたのか、プレストンが顔を出した。
「我々もご相伴させて頂けますでしょうか!」
あ、オズワルドとオーソンもちゃんと来てたんだ。どこにいたんだろ?
まあ、そうなることを見越して、多めに作っといたんだけど。
*****
「はうっ!?」
バスケットに釘付けになっていたプレストンが、おかしな声を上げた。
「こ、こちらはププププププ狛犬様では!?」
ウィリアムが抱っこしていたシロを見て、腰を抜かしそうになってる。
「この仔犬は、リンの飼い犬のシロだよ? 狛犬そっくりだけど、マラミュートという犬種の犬だ」
「し、しかし、」
「マラミュートのシロ」
圧のある笑顔で、ウィリアムが言うと。
シロはキャン、と返事した。かわいい。
「マ、マラミュートのシロ、様ですね!」
プレストンは、滝のような冷や汗をかきながら、こくこくと頷いた。
まあ確かにどう見てもマラミュートだよね。
「ところで、管理人小屋はあれで大丈夫かね?」
ウィリアムがスペンサー夫妻の視線を他に向けている隙に、大きめなテーブルと椅子を作って。
赤いチェックのテーブルクロスを敷いた。暖色は食欲を増進させる色だ。
オズワルドとオーソンもセッティングを手伝ってくれた。
プレストンはシロをモフってる。幸せそうだ。
*****
「お昼だから、お酒は持ってきてないよ。お茶でいい?」
食前だし、ノンカフェインのお茶にした。食後はカテキンの豊富な緑茶だ。
「おお、お茶は貴重品なので大歓迎ですよ」
そうだった。
水が貴重だったんだから、そりゃお湯で煮だして飲むお茶も貴重だよね……。
「これからは貴重品じゃなくなると思うけど」
「ありがたいことです」
山積みのロールサンドとカリフォルニアロール。大皿におかずを盛って。サラダボウルには野菜サラダ。ドレッシングはサウザンアイランドだ。
取り分け用の皿を置いて。
「スペンサー夫妻の復職と、教会開設に」
お茶の入ったマグカップを掲げて。またもプレストンが音頭を取ってる。
……えっ、もう教会出来たの!? 人力で?
凄いな人海戦術!
「 乾杯!」
*****
用意したお弁当は、凄い勢いで皆の胃袋の中に納まった。
「美味しい料理をありがとう」
「はじめて食べるものばかりだったわ」
スペンサー夫妻も食事を一緒にするうちに、徐々に固さが取れていた。
美味しい、って言って。
笑顔で食べてくれるのは、子供相手じゃなくても嬉しいものだ。
異世界でも、こういう光景を見られて幸せだ。
母親がそうだったから、何となく調理師の道を選んだけど。
腕を磨いてきて良かったな、と心から思う。
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