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Ⅸ
異世界で、過ごした時を思う
俺は5年と少し前まで、日本の地方公務員、保育園で調理師をしていた瀧 凛太郎として、地味に生きていた。
35歳の誕生日。仕事帰りに、倒れかけた顔見知りの子供が乗った自転車を起こそうとしていたら。停車中の自動車をすり抜けてきた暴走バイクに撥ねられた。
目の前に広がる血だまりと、全身がやたら痛かったことは記憶してる。
俺はその事故で死亡したらしい。子供たちが巻き込まれなかったのは良かったけど。まあよくある前方不注意による不幸な事故だと思ったんだが。
まさかそれが、世界の混乱を願う悪い神様の介入による想定外の事故だったとは。全くの予想外で。
四方八方真っ白な死後の世界で、神様に生き返らせるのは無理だけど、自分の管理する他の世界に転生させることはできる、って言われたんだ。
神様に、本来俺は、倒れかけた自転車に乗ってたシングルマザーの女性とそのことが縁で結婚して、幸せな人生を送るはずだったと言われて。
お詫びとして、神様から色々チートな能力を与えられた上で、異世界に転生することになった。
*****
目を開けたら、キングスレー王国の最南端にある何もない荒野、リズリーで佇んでいた。
転生だと言われたので、現地の人と違和感のない姿になると思ってたけど。容姿が大幅に変わることもなく、そこに居たのは10歳まで若返った自分の姿だった。
そして、数年前に魔物の大発生があり、その打ち漏らしがないか見回りをしていた、キングスレーの王子様であるウィリアムに保護されて。首都ロチェスターへ連れて行かれた。
そこで色々話を聞いて。
魔法のある世界だけど、日本とは違って色々未発達な部分もあったので、神様のくれた能力が役立ちそうで良かった、と思った。
うっかりそのまま城で保護されそうになったものの。生前からの夢だったスローライフを送りたい、と言ったら。
魔物の集団発生により死の荒野になったリズリーの土地を譲ってもらい、森などを蘇らせ、そこに理想の家を創って住むことになった。
送迎してくれたウィリアムたちに夕食を振舞った後。
なんと、ウィリアムも俺と同じ、日本人の転生者だったことを知らされた。
でも、彼の場合は神様が転生させた訳じゃなかった。
神様から直接自分に合った職業を宣託される成人の儀式の時に、悪い神によって前世の記憶を思い出させられた上に、世に混乱を招くようにと強力な闇魔法を与えられて。しばらくして送られてくる”神の使い”を誑かすように命じられたという。
ウィリアムの前世は何と、俺も大ファンだったアイドルの榊原 流星。芸能界の闇に絶望して自殺した、超大手芸能事務所ダニーズの元トップアイドルだった。
でも、悪い神の思惑とは違って、ウィリアムは人間を見放したりはしなかった。
ウィリアムだけでなく、騎士のオズワルドやウィリアムの側近オーソン。
スキート商会の人たちに、神職のプレストン。
森林管理人のスペンサー夫妻、冒険者協同組合の人たちなど。
外見が子供だったこともあってか、色々な人から目を掛けてもらって。
神様から番犬として贈られた狛犬のシロと一緒に、酪農家や新しい食糧の発見者、冒険者として過ごした。……新しい食料というのは、テングサとかサトウキビとかを”創造”の力で作って発見したことにしたんだけど。
ウィリアムと事前に相談したおかげか、失敗することもあったけど、あまりおかしなものを”創造”することもなく、発展に繋げていった。
*****
そして、この世界では成人となる15歳の誕生日。
これまでに知り合った大勢がうちに集まって、盛大なパーティーを開いてくれた。
皆が帰った後。
ウィリアムは俺がリクエストしたリューセーの歌を歌ってくれて。
ちょっとした誤解で、ウィリアムと身体を重ねることになった。
俺がウィリアムに対して持っているのは、恋愛感情ではないと思ってた。
でも、自分が思ってたよりウィリアムのことを好きだったことに気づいて、めでたく両想いとわかった。
王子から国王になったウィリアムからプロポーズされて。
住み慣れたリズリーから王城のある首都ロチェスターへ移り住むことになったんだ。
白馬じゃなくて黒馬に乗ってるけど。王子様に見染められて結婚、なんてまるでシンデレラストーリーのようだ。
惜しむらくは両方とも男だってことだけど。
貴族の場合決して無視できないお世継ぎ問題も、この世界では神様に祈れば狛犬が赤ちゃんを運んでくれるそうなので解決、という親切さである。
俺なんて、神様からもらった能力がなければその辺にいるような、地味な日本人男子なのに。……いや、他にここまで日本人男子的な外見の子はこの世界に居ないんだけど。この世界の人間、平均身長が高すぎるんだよ。
何で、こんなことになっちゃったんだろう?
まあ、何かあるたびに”神託”で助言してくれるくらい親切な神様がこのことについては何も言わなかったってことは、このまま結婚しちゃってもいいのかな……?
*****
「そりゃ、あからさまに両想いでしたし。神様も野暮なことは言わないでしょ」
オズワルドは呆れたように言った。
初めて会った時も、ずっとウィリアムの顔ばっかりうっとり眺めていて、オズワルドとオーソンのことは完全に意識外だって気づいてた? 俺、そこまであからさまだった?
そうだね。確かにあの時、ウィリアムの他に人がいたことにしばらく気づいてなかったし。
ウィリアムの方も、長く続いた魔物との戦いで、精神的にもかなり消耗してたのと、その最中に家族を失ったせいで。それまで暗い顔ばっかりしていたのに。
俺と逢ってからはずっと楽しそうだったとか。それで、見守ることにしたそうだ。
そうなんだ……。
俺が見たのは、ほぼ笑顔ばかりだったから気が付かなかった。
35歳の誕生日。仕事帰りに、倒れかけた顔見知りの子供が乗った自転車を起こそうとしていたら。停車中の自動車をすり抜けてきた暴走バイクに撥ねられた。
目の前に広がる血だまりと、全身がやたら痛かったことは記憶してる。
俺はその事故で死亡したらしい。子供たちが巻き込まれなかったのは良かったけど。まあよくある前方不注意による不幸な事故だと思ったんだが。
まさかそれが、世界の混乱を願う悪い神様の介入による想定外の事故だったとは。全くの予想外で。
四方八方真っ白な死後の世界で、神様に生き返らせるのは無理だけど、自分の管理する他の世界に転生させることはできる、って言われたんだ。
神様に、本来俺は、倒れかけた自転車に乗ってたシングルマザーの女性とそのことが縁で結婚して、幸せな人生を送るはずだったと言われて。
お詫びとして、神様から色々チートな能力を与えられた上で、異世界に転生することになった。
*****
目を開けたら、キングスレー王国の最南端にある何もない荒野、リズリーで佇んでいた。
転生だと言われたので、現地の人と違和感のない姿になると思ってたけど。容姿が大幅に変わることもなく、そこに居たのは10歳まで若返った自分の姿だった。
そして、数年前に魔物の大発生があり、その打ち漏らしがないか見回りをしていた、キングスレーの王子様であるウィリアムに保護されて。首都ロチェスターへ連れて行かれた。
そこで色々話を聞いて。
魔法のある世界だけど、日本とは違って色々未発達な部分もあったので、神様のくれた能力が役立ちそうで良かった、と思った。
うっかりそのまま城で保護されそうになったものの。生前からの夢だったスローライフを送りたい、と言ったら。
魔物の集団発生により死の荒野になったリズリーの土地を譲ってもらい、森などを蘇らせ、そこに理想の家を創って住むことになった。
送迎してくれたウィリアムたちに夕食を振舞った後。
なんと、ウィリアムも俺と同じ、日本人の転生者だったことを知らされた。
でも、彼の場合は神様が転生させた訳じゃなかった。
神様から直接自分に合った職業を宣託される成人の儀式の時に、悪い神によって前世の記憶を思い出させられた上に、世に混乱を招くようにと強力な闇魔法を与えられて。しばらくして送られてくる”神の使い”を誑かすように命じられたという。
ウィリアムの前世は何と、俺も大ファンだったアイドルの榊原 流星。芸能界の闇に絶望して自殺した、超大手芸能事務所ダニーズの元トップアイドルだった。
でも、悪い神の思惑とは違って、ウィリアムは人間を見放したりはしなかった。
ウィリアムだけでなく、騎士のオズワルドやウィリアムの側近オーソン。
スキート商会の人たちに、神職のプレストン。
森林管理人のスペンサー夫妻、冒険者協同組合の人たちなど。
外見が子供だったこともあってか、色々な人から目を掛けてもらって。
神様から番犬として贈られた狛犬のシロと一緒に、酪農家や新しい食糧の発見者、冒険者として過ごした。……新しい食料というのは、テングサとかサトウキビとかを”創造”の力で作って発見したことにしたんだけど。
ウィリアムと事前に相談したおかげか、失敗することもあったけど、あまりおかしなものを”創造”することもなく、発展に繋げていった。
*****
そして、この世界では成人となる15歳の誕生日。
これまでに知り合った大勢がうちに集まって、盛大なパーティーを開いてくれた。
皆が帰った後。
ウィリアムは俺がリクエストしたリューセーの歌を歌ってくれて。
ちょっとした誤解で、ウィリアムと身体を重ねることになった。
俺がウィリアムに対して持っているのは、恋愛感情ではないと思ってた。
でも、自分が思ってたよりウィリアムのことを好きだったことに気づいて、めでたく両想いとわかった。
王子から国王になったウィリアムからプロポーズされて。
住み慣れたリズリーから王城のある首都ロチェスターへ移り住むことになったんだ。
白馬じゃなくて黒馬に乗ってるけど。王子様に見染められて結婚、なんてまるでシンデレラストーリーのようだ。
惜しむらくは両方とも男だってことだけど。
貴族の場合決して無視できないお世継ぎ問題も、この世界では神様に祈れば狛犬が赤ちゃんを運んでくれるそうなので解決、という親切さである。
俺なんて、神様からもらった能力がなければその辺にいるような、地味な日本人男子なのに。……いや、他にここまで日本人男子的な外見の子はこの世界に居ないんだけど。この世界の人間、平均身長が高すぎるんだよ。
何で、こんなことになっちゃったんだろう?
まあ、何かあるたびに”神託”で助言してくれるくらい親切な神様がこのことについては何も言わなかったってことは、このまま結婚しちゃってもいいのかな……?
*****
「そりゃ、あからさまに両想いでしたし。神様も野暮なことは言わないでしょ」
オズワルドは呆れたように言った。
初めて会った時も、ずっとウィリアムの顔ばっかりうっとり眺めていて、オズワルドとオーソンのことは完全に意識外だって気づいてた? 俺、そこまであからさまだった?
そうだね。確かにあの時、ウィリアムの他に人がいたことにしばらく気づいてなかったし。
ウィリアムの方も、長く続いた魔物との戦いで、精神的にもかなり消耗してたのと、その最中に家族を失ったせいで。それまで暗い顔ばっかりしていたのに。
俺と逢ってからはずっと楽しそうだったとか。それで、見守ることにしたそうだ。
そうなんだ……。
俺が見たのは、ほぼ笑顔ばかりだったから気が付かなかった。
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