29 / 74
リヒト
診察再開
しおりを挟む
救世主として召喚されて。
この国の人達を。
みんなを救わないといけない、っていうプレッシャーから解放されたんだ。
安心して、その場にへたりこみそうになったけど。
どうにか踏ん張った。
まだドニは完全に回復したわけじゃないし。
患者が治療を待ってる。
しっかりしなくちゃ。
僕はもう、グラン・テール王国の医者なんだから。
†‡†‡†
診察を再開したら。
評判を聞いてわざわざ遠いところから来たという患者や。
運ばれてきたという子にあげてやれ、と果物を差し入れてくれる患者もいた。
口コミで、この診療所の評判はかなり遠くまで広まっているようだ。
新しく増えた助手二人に気づいて。
プリマット国から研修に来た医者だと説明すると。
みんな口々にねぎらいの声を掛けていった。
来る時は憂鬱そうな患者も、帰っていく時はみんな笑顔だ。
病院が繁盛するのはあんまり歓迎できないので、元気で暮らしてほしい。
インターンの二人は今日、見学だ。
初診患者のカルテ作成などを手伝ってもらったら。
こうして以前誰がどの病気に罹ったか、どんな怪我をしたかを記しておくのは画期的だと感心してた。
魔法でスッパリ治すのには必要ないかもしれないけど。
前に処方した薬と飲み合わせの悪い薬を出したりしたら、大変だからね。今のところはそれほど危険な薬を処方してないから、大丈夫かな?
魔法でも、同じ場所を何度も怪我すると、治りが遅くなったりするので。
注意しておくのもいいかもしれない。
外科内科整形、色々な患者が来る。
日本の病院は専門が分かれすぎてるせいで、他の病気を発見できなかったりして。
かえって不便だ。
こうして医者になったからには、患者に寄り添える医療を心掛けたい。
最後の患者を診察し終えて。
本日の診察は終わり、という看板を出して。
診療所を閉めた。
†‡†‡†
「ベルナール、ルイ。おつかれさまでした。初日の感想は?」
『今日だけでも、かなり勉強になったと思います』
ベルナールは嬉しそうに言って。
『実は、獣人の国にはあまり良い印象を持ってなかったんですけど。ここは、とても良い国ですね……』
ルイはしみじみと言った。
「中身もケダモノみたいだと思ってた?」
二人は申し訳なさそうに頷いた。
獣人の国で研修、なんて。
王命とはいえ、内心どうなることかとビクビクしていたようだ。
つい5年前まで戦争をしていたんだから。
お互いに誤解があっても仕方ないか。
身内を亡くした人だっているだろう。
村の前まで僕たちを迎えに来た騎士も、ジャンに対して警戒心を抱いてた感じだった。
今のところ、僕の知る獣人はみんな、人間に対して偏見を持ってないような気がする。
僕は救世主として召喚された異世界人だから、例外と考えてもいいかもだけど。
それを知ってるのは城の人だけで、患者さんたちは知らないしなあ。
ルロイ王が呼んだ医者だっていうのが信頼の証なのかな?
ジャンのツガイでもあるし。
「そういえば、人型の獣人と人間の見分けってつくの?」
僕はさっぱりだ。
分析の魔法を使えばわかるけど。
『匂いでわかる』
ジャンはわかるようだ。
人間とは全然違う匂いがするそうだ。
独特な獣臭というか、はっきりと違いがわかるとか。
そうなんだ……。
『変身するのを見るまではわかりません』
ルイもベルナールもわからないという。
だよね。
人間側は全く見分けがつかないため。
戦争中も間違ってただの動物を殺してしまったり、疑心暗鬼に陥っての同族殺しもあったとか。
悲惨だ。
「戦争が終わって良かったね……」
戦争反対。
平和が一番だ。
僕の呟きに、みんな頷いた。
それを力技で終わらせたルロイ王って、本当に凄いんだなあ。
†‡†‡†
ドニの様子を見に行った。
ぐっすり眠っている。
解析の魔法をかけてみると。
体内のウイルスは、順調に減少していっているようだ。
これなら、今週中には良くなるだろう。
ドニの寝ているベッドの脇に控えているデュランの魔導人形は、人間そっくりに見えた。
白衣の天使って感じだ。
ただし男だけど。
人形でも、女性形にすると問題があるのかな?
『せ、んせ……?』
「ああ、ごめん。起こしちゃった? 寝てて」
ドニが起き上がろうとしたので、制した。
『この人に、聞きました。僕の村、助けてくださって、ありがとうございます』
魔導人形を示した。
人ではないけど。
しゃべるんだ。凄いな。……じゃなくて。
「君が頑張って報せようとしたから、みんなが助かったんだよ」
ドニの手を握って。
ありがとう、と言った。
もし、ドニじゃなく。
ウイルスを持った動物が逃げ出して来ていたら。
もっと被害が拡大していたかもしれない。
『子供の様子は?』
消毒を済まして隔離病棟から出てきたら、ジャンが待っていた。
「大丈夫。順調に快方へ向かってるよ」
『それは良かった。ところで、あいつらの寝床だが。どうする? 病室のどこかでいいか?』
あいつらって。
ルイとベルナールだよ?
しばらく預かるんだし、名前くらい覚えてあげなよ。
この国の人達を。
みんなを救わないといけない、っていうプレッシャーから解放されたんだ。
安心して、その場にへたりこみそうになったけど。
どうにか踏ん張った。
まだドニは完全に回復したわけじゃないし。
患者が治療を待ってる。
しっかりしなくちゃ。
僕はもう、グラン・テール王国の医者なんだから。
†‡†‡†
診察を再開したら。
評判を聞いてわざわざ遠いところから来たという患者や。
運ばれてきたという子にあげてやれ、と果物を差し入れてくれる患者もいた。
口コミで、この診療所の評判はかなり遠くまで広まっているようだ。
新しく増えた助手二人に気づいて。
プリマット国から研修に来た医者だと説明すると。
みんな口々にねぎらいの声を掛けていった。
来る時は憂鬱そうな患者も、帰っていく時はみんな笑顔だ。
病院が繁盛するのはあんまり歓迎できないので、元気で暮らしてほしい。
インターンの二人は今日、見学だ。
初診患者のカルテ作成などを手伝ってもらったら。
こうして以前誰がどの病気に罹ったか、どんな怪我をしたかを記しておくのは画期的だと感心してた。
魔法でスッパリ治すのには必要ないかもしれないけど。
前に処方した薬と飲み合わせの悪い薬を出したりしたら、大変だからね。今のところはそれほど危険な薬を処方してないから、大丈夫かな?
魔法でも、同じ場所を何度も怪我すると、治りが遅くなったりするので。
注意しておくのもいいかもしれない。
外科内科整形、色々な患者が来る。
日本の病院は専門が分かれすぎてるせいで、他の病気を発見できなかったりして。
かえって不便だ。
こうして医者になったからには、患者に寄り添える医療を心掛けたい。
最後の患者を診察し終えて。
本日の診察は終わり、という看板を出して。
診療所を閉めた。
†‡†‡†
「ベルナール、ルイ。おつかれさまでした。初日の感想は?」
『今日だけでも、かなり勉強になったと思います』
ベルナールは嬉しそうに言って。
『実は、獣人の国にはあまり良い印象を持ってなかったんですけど。ここは、とても良い国ですね……』
ルイはしみじみと言った。
「中身もケダモノみたいだと思ってた?」
二人は申し訳なさそうに頷いた。
獣人の国で研修、なんて。
王命とはいえ、内心どうなることかとビクビクしていたようだ。
つい5年前まで戦争をしていたんだから。
お互いに誤解があっても仕方ないか。
身内を亡くした人だっているだろう。
村の前まで僕たちを迎えに来た騎士も、ジャンに対して警戒心を抱いてた感じだった。
今のところ、僕の知る獣人はみんな、人間に対して偏見を持ってないような気がする。
僕は救世主として召喚された異世界人だから、例外と考えてもいいかもだけど。
それを知ってるのは城の人だけで、患者さんたちは知らないしなあ。
ルロイ王が呼んだ医者だっていうのが信頼の証なのかな?
ジャンのツガイでもあるし。
「そういえば、人型の獣人と人間の見分けってつくの?」
僕はさっぱりだ。
分析の魔法を使えばわかるけど。
『匂いでわかる』
ジャンはわかるようだ。
人間とは全然違う匂いがするそうだ。
独特な獣臭というか、はっきりと違いがわかるとか。
そうなんだ……。
『変身するのを見るまではわかりません』
ルイもベルナールもわからないという。
だよね。
人間側は全く見分けがつかないため。
戦争中も間違ってただの動物を殺してしまったり、疑心暗鬼に陥っての同族殺しもあったとか。
悲惨だ。
「戦争が終わって良かったね……」
戦争反対。
平和が一番だ。
僕の呟きに、みんな頷いた。
それを力技で終わらせたルロイ王って、本当に凄いんだなあ。
†‡†‡†
ドニの様子を見に行った。
ぐっすり眠っている。
解析の魔法をかけてみると。
体内のウイルスは、順調に減少していっているようだ。
これなら、今週中には良くなるだろう。
ドニの寝ているベッドの脇に控えているデュランの魔導人形は、人間そっくりに見えた。
白衣の天使って感じだ。
ただし男だけど。
人形でも、女性形にすると問題があるのかな?
『せ、んせ……?』
「ああ、ごめん。起こしちゃった? 寝てて」
ドニが起き上がろうとしたので、制した。
『この人に、聞きました。僕の村、助けてくださって、ありがとうございます』
魔導人形を示した。
人ではないけど。
しゃべるんだ。凄いな。……じゃなくて。
「君が頑張って報せようとしたから、みんなが助かったんだよ」
ドニの手を握って。
ありがとう、と言った。
もし、ドニじゃなく。
ウイルスを持った動物が逃げ出して来ていたら。
もっと被害が拡大していたかもしれない。
『子供の様子は?』
消毒を済まして隔離病棟から出てきたら、ジャンが待っていた。
「大丈夫。順調に快方へ向かってるよ」
『それは良かった。ところで、あいつらの寝床だが。どうする? 病室のどこかでいいか?』
あいつらって。
ルイとベルナールだよ?
しばらく預かるんだし、名前くらい覚えてあげなよ。
13
あなたにおすすめの小説
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
異世界のオークションで落札された俺は男娼となる
mamaマリナ
BL
親の借金により俺は、ヤクザから異世界へ売られた。異世界ブルーム王国のオークションにかけられ、男娼婦館の獣人クレイに買われた。
異世界ブルーム王国では、人間は、人気で貴重らしい。そして、特に日本人は人気があり、俺は、日本円にして500億で買われたみたいだった。
俺の異世界での男娼としてのお話。
※Rは18です
竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
【完結】俺の身体の半分は糖分で出来ている!? スイーツ男子の異世界紀行
海野ことり
BL
異世界に転移しちゃってこっちの世界は甘いものなんて全然ないしもう絶望的だ……と嘆いていた甘党男子大学生の柚木一哉(ゆのきいちや)は、自分の身体から甘い匂いがすることに気付いた。
(あれ? これは俺が大好きなみよしの豆大福の匂いでは!?)
なんと一哉は気分次第で食べたことのあるスイーツの味がする身体になっていた。
甘いものなんてろくにない世界で狙われる一哉と、甘いものが嫌いなのに一哉の護衛をする黒豹獣人のロク。
二人は一哉が狙われる理由を無くす為に甘味を探す旅に出るが……。
《人物紹介》
柚木一哉(愛称チヤ、大学生19才)甘党だけど肉も好き。一人暮らしをしていたので簡単な料理は出来る。自分で作れるお菓子はクレープだけ。
女性に「ツルツルなのはちょっと引くわね。男はやっぱりモサモサしてないと」と言われてこちらの女性が苦手になった。
ベルモント・ロクサーン侯爵(通称ロク)黒豹の獣人。甘いものが嫌い。なので一哉の護衛に抜擢される。真っ黒い毛並みに見事なプルシアン・ブルーの瞳。
顔は黒豹そのものだが身体は二足歩行で、全身が天鵞絨のような毛に覆われている。爪と牙が鋭い。
※)こちらはムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
※)Rが含まれる話はタイトルに記載されています。
転生した新人獣医師オメガは獣人国王に愛される
こたま
BL
北の大地で牧場主の次男として産まれた陽翔。生き物がいる日常が当たり前の環境で育ち動物好きだ。兄が牧場を継ぐため自分は獣医師になろう。学業が実り獣医になったばかりのある日、厩舎に突然光が差し嵐が訪れた。気付くとそこは獣人王国。普段美形人型で獣型に変身出来るライオン獣人王アルファ×異世界転移してオメガになった美人日本人獣医師のハッピーエンドオメガバースです。
魔王に転生したら、イケメンたちから溺愛されてます
トモモト ヨシユキ
BL
気がつくと、なぜか、魔王になっていた俺。
魔王の手下たちと、俺の本体に入っている魔王を取り戻すべく旅立つが・・
なんで、俺の体に入った魔王様が、俺の幼馴染みの勇者とできちゃってるの⁉️
エブリスタにも、掲載しています。
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
異世界に転生したら竜騎士たちに愛されました
あいえだ
BL
俺は病気で逝ってから生まれ変わったらしい。ど田舎に生まれ、みんな俺のことを伝説の竜騎士って呼ぶんだけど…なんだそれ?俺は生まれたときから何故か一緒にいるドラゴンと、この大自然でゆるゆる暮らしたいのにみんな王宮に行けって言う…。王宮では竜騎士イケメン二人に愛されて…。
完結済みです。
7回BL大賞エントリーします。
表紙、本文中のイラストは自作。キャライラストなどはTwitterに順次上げてます(@aieda_kei)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる