巨人の国に勇者として召喚されたけどメチャクチャ弱いのでキノコ狩りからはじめました。

篠崎笙

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キノコマスター、修行する。

初めてのウサギ狩り

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「おーい」
声を掛けたら。

ウサギの耳がぴんと立ち。
血のように真っ赤な目が、俺を捕らえた。

うわ、こわい。

ヒゲを逆立て、カミソリみたいな歯を剥いて威嚇して。
こっちへ真っ直ぐに突進してくる。


お化けウサギは、俺に飛び掛る手前で草をアーチ状に縛って作った罠に足を引っ掛け、見事にすっ転んだ。
そこを剣で一突きだ。

以前”走るキノココレールオンゴ”の捕獲にも使ったことのある、草の罠だ。
いっぱい仕掛けたので、罠は後で解除しておかないと。


うう。
断末魔の悲鳴が心苦しい。

だけど。とどめにもう一回、頚動脈を切り裂く。

獲物が絶命するまでは、絶対に気を抜くなって教わった。
最後のひと暴れで反撃されて、大怪我をすることがあるから。


血を噴き出しながらびくびくと痙攣しているお化けウサギを見て、胸が痛む。

キノコはかなり狩ったけど。生き物っぽくなかったから、まだ大丈夫だった。
でも、これは。

見た目はウサギだし。
あったかいし。
目を閉じていると、ふわふわで可愛いのに。


つい、可哀想に思ってしまう。
こんなことを思うのは、身勝手だってわかってる。けど。

……ごめんな。
お前の肉は、みんなで美味しく食べさせてもらうよ。


今日は乳キノコも採れたし、シチューかな。


*****


『驚いたな。リンドガティートが少し目を離した隙にモンストルオリエブレを狩れるほど成長しているとは……』

「うひゃあ!?」
後ろから急に声を掛けられて。
びっくりして。手に持っていた乳キノコを握りつぶしてしまった。

ああ、もったいない……。
舐めちゃえ。


聞いた事のある声だと思って、振り返ると。
黒装束のイケメンが、苦笑いしていて。

顔に飛んでた乳キノコの汁を、ハンカチで拭いてくれた。

歩きキノコにも苦戦してたような俺が、お化けウサギを狩れるようになっていたのにも驚いてたけど。俺が、少し言葉がわかるようになっているのにも驚かれた。
でも、言葉を話せることをとても喜んでくれた。


『ユーキ=タカナシか……珍しい響きの名前だね。異国から来たのかな?』
黒衣のイケメンは、話し方も優雅で優しかった。

顔も声もいいなんてずるい。と妬む俺だった。

こうして、改めて見てると。物腰とか、貴族っぽいと思った。
どう言ったらいいかわからないけど。村の人達とは、全然違うんだ。キラキラして見えるっていうか。


名前の由来、天敵である鷹がいないので小鳥が遊ぶ=鷹なし=小鳥遊を頑張って伝えた。
ユウキは優しく輝く、だ。

いい名前だね、って褒められた。
何だか恥ずかしい。


『私は……そうだな、バル、と呼んで欲しい』
敬称はいらない、という。

”バルさん”だと隅々まで効く殺虫剤を想像してしまうので、個人的にありがたい。


*****


しばらく姿を見せないと思ったら。

バルは大事な用があって、ちょっとだけ、ここを離れていたそうだ。
どうやらこの近辺に住んでいるようだけど。

それ以上は話したくなさそうなので、聞かなかった。
詮索したら、もう現れないような気がしたから。


二人で倒木に腰掛けて。

これを受け取って欲しい、って言われて。
前にもくれた、稀少キノコのチャンピニョンを渡された。

『ありがとう』
『喜んでくれれば、私も嬉しいよ』

こんな珍しいの、どこで見つけて獲ってくるんだろうか?
なかなかエンカウントしないのは、俺の幸運値ラックが足らないのか。


『私が留守の間、君が大物に手を出したりして怪我をしてないか、大丈夫かな、ってずっと気になっていたんだ』
大きな手で、頭を撫でられる。

俺ってそんなに頼りなく見えるのかね?
まあ最初のアレを見たらそう思うか。我ながら、あまりに酷すぎた。


剣士なのか、騎士なのか聞いてみたけど。バルは『どっちも違うよ』と笑った。

いや、だから答えは何だよ!?
……言いたくないなら、いいけど。


『ところで、それは何?』
バルは、俺がさっきうっかり握り潰してしまった乳キノコを指差した。

チャンピニョンなんて極レアキノコは知ってるのに。これは知らないのか。
まあこれもわりとレアだけど。

魔物化したキノコとかと違って、ある特定の木の下だけに、ひっそりと生えるものだからなあ。


『レーチェオンゴ。知らない? 絞る、すると、甘い汁、出る。美味しい』
まだ汁が絞れそうなので、モニモニと揉んで汁を出す。

こんなんじゃ、チャンピニョンのお礼にもならないけど。


*****


『どれ?』
バルは、何故かキノコじゃなく俺の手を取って。

「ひゃ、」
絞るときに指についたのを、ぺろりと舐めてしまった。


『成程。これがレーチェオンゴの味か。美味だ』

『違う、こっち!』
絞ったキノコを差し出したけど。

それは君が味わいなさい、と言われたので、汁を吸った。

変な風に遠慮しなくていいのに。
っていうか、いきなり指を舐めるとか。びっくりした。

畜生、イケメンめ。
舐められて、気持ち悪いと思うより、むしろドキドキしちゃっただろ!


きらきらした金色の髪。吸い込まれそうな蒼い目。
肌の色は白いけど、病弱っぽい白さじゃなくて。彫像というか、陶器でできた高級な人形みたいだ。

汗臭くないし、いい匂いがする。

手は冷たかった。
でも、舌は熱かったから。その差に驚いたんだ。


きっとそうだ。
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